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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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55”私の出来る最大限の嫌がらせ。


 色々とあり、時間を食ってしまった。翔君は元々スイレ王国に出向き、目的の手がかりとなるモノを探す。それだけだった。‥‥そうだったけ?違ったけな?‥‥久々にペンを動かすと、上手くいかないなぁ。‥‥


 ‥‥色々と話を聞いた上で、彼はルドルスからアスター”アニスの母親の事を聞くことになる。少しでもアニスの手掛かりになる様に。


 フレスト”メティス。初代、王国騎士団『平和の一舎』空席の団長として名を轟かせる。その筈だった。だが、今になれば彼女の事を知ろうとも『大罪人』、『死刑囚』その酷い肩書きしか出てこない。


 そもそも、フレスト”メティスの名前をスイレの民は知らない。罪人だからなのか。


 だが、そんな汚名を付けられるような人間では断じてないと、幼き頃から側で見て来たルドルスが語っていた。


 では、何故彼女が大罪人として吊し上げられ殺されるまでに至ったのか。それは、魔族と結ばれたから‥‥。とゆう物がこれまでの聞いたはな——‥、??。



 ‥‥‥?。


 ‥私にその筆を貸してくれませんか?


 ‥‥‥‥‥。貴方か‥‥、‥意外と難しいよ。


 ‥‥‥‥‥。


 ‥はいはい、程々にね。



 私はスイレ王国を託された。自然が生い茂るこの場所を、偏りなく全ての生き物が長閑に生きれる様にと、私よりも先に死んでいった物の魂を保管した歴史を守る為に、約束を守り平和を守り続けた。


 私は孤独に、誰も見えぬ陰で戦い続けた。


 悪となる芽だけを撃ち抜く。それが私の戦い方。


 護り続けるには犠牲を伴う物。それは此方側も彼方側にも値する言葉。だけど私は、誰にも傷ついて欲しくなかった。だから私は誰からも見えぬ所で、誰からも関与されずにこの自慢の矢を放って来た。


 悪たる根源だけ、それならば悪に呑まれてしまった若しくは染まってしまった者すら傷つけなく済む。


 そんな陰でコソコソ生きる私は、生まれてからずっと友人も家族もいなかった。飢えて死にかけた私を拾ってくれたあの人の約束だけを守り続け、このまま陰で認知される事もなくのたれ死んで行くのだろうと、だが私自身それでも良かった。


 スイレ王国が大好きだから。自然がいっぱい、目を瞑れば動物達の合唱。落ち着く長閑な場所を守れるなら‥‥と。


 でも、たった一人、親友が出来た。


 一人で歩いて来た私に、何一つ似合わぬ堅物の親友が出来た。後にも先にも、私の友人を超えれる様な正義感を持つ人間は出てこない。断定しても良い。


 名をアルフォン。戦場の剣鬼と謳われ今となっては、すっかり偉人として称されている。


 国を救った『英雄』なのだから、もっと誇らしげに生きて欲しかったわ。


 スイレ王国の陰でコソコソ戦い続ける私の元に、帝国から帰って来たアルフォンが態々私の元にやって来た。最初に出会った頃私は彼に何を言われたと思う?


 城の大庭園、桜の下で私に声をかけて来た。


 「桜の葉を頭に乗せて、そこで呑気に何をしている?」

 「あら?誰かしら?」


 桜の下で休憩していれば、頭に葉が一枚二枚乗ってあっても可笑しいことではない筈。そんな私の頭に乗る桜の葉を取り上げ声をかけて来た。


 「‥お前の戦い方は姑息で、周りくどい。」

 「態々、私を探してそれを言いに来たの?貴方変わってるね。」

 「‥‥貴様の考えは一生理解できない。正直に言うとお前が嫌いだ。」

 「‥‥。私は‥正直者‥嫌いじゃないわよ。」

 「‥、ふん。お前と楽しく会話をしに来たわけではない。貴様に提案がある。」


 アルフォンの提案。それは私と共にこの国を護る事。普通ならそんな考えにはならない。だって嫌いな人間と同じ立ち位置で共には戦いたくない。何故嫌いな私と一緒に戦いたいのか聞いてみたの。


 「‥。貴様は嫌いだ。見ていて腹が立つ。だが、そんな事が霞む程にこの国が大好きだからだ。これ以上の理由はないだろう。」

 「‥貴方は私の事知ってる?。姑息でも周りくどくても、誰も傷つけたくない。」

 「ふん。甘い考えだ。守る事が目的だ。国も約束も。そうだろ?貴様が犠牲を払い死ねば誰が護る?誰が守る?、この国を。任されたのだろう?」

 「‥‥私は死なないわよ。」

 「目が良い貴様、普通の人間であれば確かに悪と染まった大地に、根原を探すのは極めて困難。側から見れば全て憎悪の色だ。大きければ大きい程、根は距離を齎す。私たちでは、埋まったその根を探し種を見つける事も出来ず、殺し合いの中で死んでいくのだろう。だが貴様は違う。見つけ器用にもその芯を滅ぼす事が出来る。」

 「‥‥ふふ、嫌いな私の事随分と調べてくれたのね。‥なら‥」

 

 堅物の彼が器用に喋っていた事を覚えている。そんな彼は先程私の頭から取り上げた桜の葉を一枚、この場所で吹く風と共にその葉を飛ばす。


 すると、私の頭にはまたその葉が帰って来た。


 「‥濃い物でも広がれば薄くなり軽くなってゆく。どれだけ良い目を持っても、近づいた人間が、広がった悪意の源の薄さが、気付かぬ内にいつか貴様の喉物に届きうる。根から、元から離れた軽く自由な葉は予期せぬ行動を取る。遠くを見据える者は、足元を掬われる。」

 「‥だからどうしたの?貴方が守ってくれるの?」

 「護る?貴様を?一人が好きなのだろう?一人で動けば良い、私も一人で動く。」

 

 強引な彼だった。変わった性格を持っていた。


 「貴様に最後の選択を設ける。此処で私と手を組むか。それとも‥私をこの場所で殺すか。選べ。」


 「えぇ‥‥一択じゃないの。そんな事言われたら‥‥」


 「ふん。‥選択肢とはそう言う物だ。」


 答えは一つしかなかったのだけど、応えるのが嫌でリゲイトを使って逃げてやった。私が消えたその場所で頭に血が登り探し回る彼の顔は今でも笑えてしまう。


 そんなある日の事、スイレ王国に眠る『歴史の宝館(クロノス)』を狙う輩が突如現れたと、国王より知らされる。場所も突き止めているらしく、私の部屋からではなく、国王自室のバルコニーでならその輩を除く事が出来ると聞き、疑いもせずに私は国王の寝室に入った。


 「‥大きなバルコニーですね。」

 「そうであろう?‥‥、それでだ、‥‥」

 「!?。」


 両手を押し付けられ、壁に叩きつけられる。非力な女、矢だけを放って来た者には、男性の力に勝る者などなく懐から出したナイフで私の命を刺しに来た。その時‥


 「ぐはぁぁ!!」

 「え!?」

 

 国王は目の前で血飛沫を上げて倒れてしまった。そして、血がついた大剣を振るい収めるアルフォンの姿が倒れてゆく国王の背後から出てくる。


 「‥‥、だから言っただろう?。」

 「え?」

 

 国王だと思っていた人物は、いつしか顔が変わっていた。


 「歴史の宝館(クロノス)が狙いではなく。個人として動き貴様の命を狙う目的で動いた。いわゆる殺し屋だ。‥‥、殺す事を軽んじている。分かるか?顔を変えて変装するのが上手いタチの悪い輩だ。」

 「‥‥え‥死んじゃったの?この人‥‥」

 「あぁ、此処で終わりだ此奴は。」

 「なんで‥なんで!!殺す必要なんて!」

 「煩い黙れ。貴様が私の選択を無視して走り去るから、この結果を招いた。遠い距離ばかり見る貴様は足元を掬われると‥‥、意味を理解しろ。私が居ればこの場で誰も死なずに済んだ。」

 

 よく考えろ。と、言い残し血が溢れ出す殺し屋を抱き抱えてこの部屋から出て行ってしまった。少し頭を冷やせば分かる筈だった。人の殺意は直ぐに分かる。人を殺す時はいつだって緊張で熱気があるれるのだ。人の命を奪う、その重さがあるから、私は察知できる。


 だが今回の様に、命を軽んじて、殺す事さえ軽い考えを持った人間が私に近づけばこうなると。あの状況、あの殺し屋を殺す他、私の生きる選択肢は無かった。


 夜を通し考えた。


 国の宝ではなく、それを護る私を殺しにくる人間もいる。この国を護っていけば護って行くほど、名はバレてゆく。そうなれば邪魔な私を狙い傷つけたくない者を狙わなくてはいけなくなる。


 だから陰で隠れていたのに、名誉は時に私の戦い方を邪魔してくる。


 私は気付けば陰に居なかった。だから陰に戻る為に‥‥


 「たのもぉーー!!」

 「ぬわぁ!!ビックリした。なんだ貴様か。」

 「何してるの?それ?」

 「んん?、均等になった天秤を眺めていただけだ。心が落ち着く。均衡とは素晴らしき物だ。」

 

 変わった人間、アルフォンに私よりも光って貰おうと思った。だから私達は手を組んだ。


 そこからは長く平和が続いたわ。


 私は戦場に座らず、矢を一本放つだけ。

 彼は戦場に立ち塞がり、刃の付いていない大剣を振り回すだけ。


 『歴史の宝館』(クロノス)を狙う王勢の悪党を、致命傷を抑えて傷つく事なく薙ぎ払ってゆくアルフォンは忽ち有名になった。そしていつしか私の名前すら消えて、また私は陰に潜む事が出来た。


 そんな事をしていたら、アルフォンを慕う者が沢山出来てしまったの。私もアルフォンも反対派だった。なのに言う事も聞かずアルフォンの戦場には沢山の味方が出来てしまった。収集のつかない数に私達は諦めて渋々、騎士団を設立。アルフォンが団長になれば良いモノを「私が始まりではない」

と言いはり名を伏せて人前に立つ事をしないそれが約束で私は空席の団長となった。


 でも、戦場に立つと嫌でも私の存在は少なからずその矢でバレてしまう。最悪な事にスイレ王国の騎士団の看板はネーミングセンス皆無な名前になってしまった。


 時は立ち、私の矢の精度も目の良さも増すばかり。アルフォンが戦場で暴れ始める頃には根本を撃つ事が増えてゆくと、暇になった騎士団の皆んなはスイレ王国に豊かさを与える日々が続いた。


 弟子も出来た。強く才能がある子達。


 幸せな事に、アルフォンにも子供が出来て、祝福の宴に初めて人前に出た事も覚えている。


 家族。少しだけ羨ましく思っちゃった。そんな私も家族が出来た。可愛い可愛い我が子が出来た。だから私は席を上げて孤独とはおさらばした。アルフォンも心良く手を振ってくれた。


 永きに渡り、森の奥地で平和に過ごせた。自分の見える範囲で平和を謳歌していた時、アルフォンから知らせが入った。


 スイレ王国騎士団の解散。それに伴い新たな騎士団を設立。国王は王冠を渡し、次世代にスイレ王国を任せたと。だがそれがスイレ王国の衰退の始まりだった。


 自然は消えて、動物達は散らばり、建物が五万と立ち並び城を守る為小さな壁まで出来た。歩くのは人間のみ、多種族の差別、金の亡者となった騎士団。


 目の前の幸せに現を抜かし、目を逸らしている間にスイレ王国は変わり果ててしまった。


 私が抜けた後も、アルフォンが外部からの刺客を全て打ち滅ぼしていた。しかし、内部から腐って行った。それだけは屈強なアルフォンでも止める事が出来ず猛反発した結果、解雇。


 アルフォンに話を聞き言葉を失ってしまう。


 私とあの人との繋がりを応援し見送ってくれた仲間達はアルフォンを除き、騎士団解散後、反逆者と見做され一人残らず殺されてしまった。

 

 それも全て、魔族と結ばれた私が始まり。その緩さ故に国を滅びると良い、人間以外の種族は排除、並びに私たちの関係を応援した物は切り捨てられた。偏った思想を持つ現国王が集めた騎士団は心が荒んで、哀れだった。それに勘付いた悪党はスイレを攻める様になった。


 私だけ何をしているのかと。


 反逆者である私の所まで来る様になった新生騎士団。いつしかは我が子は私を狙う人間を軽蔑する様になってしまった。何もかもが歪んで行ってしまった。私の身勝手な行動により。


 だから、もう一度、アルフォンと共に歪んでしまったスイレ王国を均等に戻そうと動いた。


 もう一度彼と手を組み、アルフォンが私を捕まえて来たと声を上げると、彼は騎士団に戻れる事になった。残念ながら私は地下牢獄に放り投げられ、毎晩毎晩、気持ちの悪いセドウスの玩具にされた。その結果、悲しくも不幸な種を産み落としてしまった。


 そんなある日、アルフォンと話す時間が出来た。

 そこで全ての計画を話し、彼に最後の選択を投げかける。


 「ねぇ、アルフォン。」

 「なんだ。身体は大丈夫なのか?、」

 「えぇ、平気よ。母親舐めないでもらえるかしら。」

 「すまんすまん。それで、どうした?」

 「今から、私はこの国で暴れ回るわ。」


 大好きだったこの国で、矢を放ち続け半滅亡させる作戦。


 私が見えた最後の的。私が放つ最後の矢。


 「はぁ!?馬鹿な事を言うな。あの反吐が出る人間の相手をして頭がおかしくなったか?‥待ってろ今すぐ殺して来てやる。」

 「ダメよ!」

 「‥‥何がしたいのだ。」

 

 このスイレ王国には上級階級の貴族が存在しない。偉い人間は国のトップ、セドウスのみ。他の人間は皆平等に低俗扱い。だが騎士団長だけは違う。国に忠義を誓う者であればある程、セドウスは気にいる習性がある。


 「‥‥ねぇ。」

 「‥‥‥?」

 「貴方に最後の選択肢を与えます。‥この国が滅んでいく姿を見届けるか、それとも此処(スイレ)で私を殺すか。選んで下さい。」

 「雑な天秤の乗せ方だ。気に食わん。」



 「ふふ、簡単じゃないの。‥‥、嫌いな私か、大好きなこの国か。‥‥一択でしょ?」



 私は身勝手にも、アルフォンに託してしまった。


 私の矢は、音速を超えて破壊を齎す。

 私の矢は、新しく作られた建物全てを喰らった。 

 

 人の叫び声、瓦礫と化す建物。それも全て私が勝手にやった事。矢を放ち続ける私を見て、セドウスは怒り指示の元騎士団が動くが私に手も足も出ない状況にこの国は壊れてゆく。


 私を誰だと思っているのか。セドウスが書き換えた貧弱な騎士団では遊びにすらならない。センテインピードに住むあの人と喧嘩した事があるのよ?


 「うぁぁぁぁ!!誰かぁぁ!!」

 「後方!!奴に魔法を放てぇ!!何をしている!!放てぇ!」

 「放つ相手が‥‥消えました‥」

 「何を言っているのだ。‥目の前に‥あれ?‥‥ウグゥ!?足がァァ」

 「隊長ォォ!!」


 止まる事なく、矢を放ち続ける。魔法や剣撃など私には当たらない。目が悪い貴方達では、私の顔すら拝めない。


 私を止めないのなら、戦鋼番糸を呼ぶか‥‥‥。


 「ふぅ。‥‥貴方の子どもはあの子よりも少し年上か‥‥いつかどこかで会えるといいなぁ。ねぇ?私達には似ず、仲良くなってくれたらいいなぁ。」

 「‥‥見届けると言う選択肢はなかったのか?」


 そんな時、アルフォンが私を止めた。


 「えぇ、大丈夫。きっと大丈夫。全て授けたから。さて、気になってたのよ。私と貴方どっちの方が強いのか。最後に力比べでもしましょうか。」

 「答えは既に決まっているのだかな。矢は残り一本。‥私の心臓に打ち込めばお前は唯一止めれる私を殺し、生き抜く事が出来る。‥‥私からも最後の選択肢だ。‥‥よく考えて選べ。」

 「選ぶのは貴方でしょうに。」


 反逆者となり、滞在人となった私を止めた。


 アルフォンと私の戦いは一晩中続き、この国が半壊した。


 最後はアルフォンの勝利。そして私は殺される事が決定した。


 後悔があるとするならば、我が子(でし)の前で死に晒す不幸な(おや)を許してほしい。だけど、これで私を止めたアルフォンが騎士団長に返り咲き、国が元に戻ってゆくだろう。


 そう信じている。


 親友に、国を任せた。

 弟子(こども)に、未来を託した。


 どうしようもない時に使う‥とっておきの魔法を教えた。

 

 だから大丈夫。きっと大丈夫。


 

 ‥‥‥‥。


 ‥‥‥‥用は済みましたか?


 ‥‥、えぇ、此処から先はお爺ちゃんになった彼にでも聞きます。


 ‥‥、そうですか。それはよかった。


 ‥‥、これに書いて、貴方は誰かに見せるんですか?


 いや、誰も見ないよ。切り離されている我が身では彼方の世界には届かない。 


 ‥‥‥気晴らし的な?


 ‥、いや、何処かで誰かが拾ってくれる筈、そう信じている。私は何せ此処から動けないからね、‥、此処で小さな悪戯しか出来ないんですよ。


 ‥??。


 ‥‥ただ、一つ届いた。私の書いた落書きが一つ‥‥哀れな生き物に届きましたよ。


 ‥、?‥‥あら、何やら私の家が騒がしいわね。不器用な人がこっちに来たから世話がやけるの。


 ‥‥そうですか。では行ってあげて下さい。


 私はそう言い、彼女に手を振るった。‥‥誰が此方にやってくるか。それがこれから先、物語を動かすに置いて重要になってくる。‥‥導きよ。‥君の好きにはさせない。



 ——————————————————



 「もう、日が暮れちまった。」


 早朝に出かけた筈が村に帰ってくる頃には、月が登り夜になってしまった。それでも変わらぬ風の温度に、明るさがない夜空に、眠くなってしまう。村へと一歩踏み出すと、広場に大きな自分と姉の銅像。この夜には悪目立ちする程の明かりが灯されている。


 そして、やけにこの村が騒がしくなっている事に気がつく。すると、


 「‥おーーい!!翔!!どこ行ってたんだ!!大変な事になってんぞ!!」

 「え、どしたの?」

 「‥シキミちゃんの姿が何処にもいねぇんだ!!」


 先ほどまで酒場にいたのに、ちょうど夜になった頃に突如として姿を消した。シオン村に住む人々全員が探し探索すると何処にも見当たらない。それを聞いた翔は急いで酒場に向かう。


 「おぉぉい!!シキミ!!(パシィン!」

 「うるさい!!何処行ってたの!」

 「あぁ、後で話すよ。それよりシキミは!?」

 「いや、此処にも帰って来てないわ。」


 襲人が活発に動くこの時間帯に、子ども一人が出歩くのは危険すぎる。最悪の状況もあり得てしまう。焦る翔は取り乱し、厨房に行っては全ての棚を開け出しシキミを探す。いないとなれば2階に上がりシフォンの部屋へ、自分の部屋へ、隅から隅まで探し始める。


 「‥こら!翔!!落ち着きなさい!!」

 「はぁ、はぁ、でもシキミが。」

 「‥‥大丈夫。少し、落ち着きましょう。ほら、珈琲入れたから。あったまるわよ。」


 焦り挙動がおかしくなる翔の背中を摩りながら、珈琲を入れて上げるシフォン。そんな中、扉の開く音が一つ。


 「!?、‥カミラかよ。」

 「‥‥‥。」

 「どうだったカミラ君。」

 「‥‥村長様が‥惑わしの森に入っていくシキミ様を目撃したと‥‥。」

 「え!?」

 「はぁ!?」


 惑わしの森と言えば、翔が度々立ち入る場所。翔にとっては害など微塵も感じないがシキミは違う。少し昔、シキミはその惑わしの森で迷子になったのだ。俯く暇は無い。淹れて貰った珈琲を一滴も飲まずして、この酒場から飛び出してゆく翔。


 「‥‥。ふぅ。‥‥」


 なみなみ入った珈琲を眺めて手に取ろうとする。すると、それよりも先にカミラが珈琲に手を触れた。


 「あら、飲むの?」

 「いえ、少し冷めてしまいましたから‥‥暖かいのを入れ直しますよ‥‥‥。」

 「気が効くのね。ありがと。」

 「‥‥‥。」

 


  ——————————————————



 「夜になると、やっぱり肌寒いねぇ。」


 リズルゴールド王国はすっかり人気が無くなってしまった。襲人に恐れて、扉をしめて何一つ屋台もない。人々が大勢すむこの国に、珍しくも夜になると風が吹く音しか聞こえない。


 「‥、結局、大異本棚では収穫なし。進歩は、無しと。‥‥でも、‥」


 こんな夜に、誰もいない街道を歩き彼はこの国の外を目指す。大異本棚に行けても花言葉の書を触れても何も分からなかった。だが一つだけ、アイネとの散歩の中で一つ試してみたい事があった。日中では目立つ。その為にこの夜を彼は選んだ。


 今から行う事、この世界にはない類いの物。失敗も有り得る。天傘 敦紫は、人に失敗を見せたくない。それが彼の性格。その為に、この真っ暗で誰も見えぬ夜を選んだ。


 失敗は陰でコソコソと行う。出来るまで丸一日が掛かっても成功まで収める。人には一部の成功だけを切り取り見せる。人はその一部を見て‥彼にその肩書きをつける。それが嫌いな彼。


 しかしながら、常人では辿り着かない思考。常人では達成する事の出来ない日数でこなしてしまう為、そう言われても仕方がない事なのだが。


 敦紫はそれを嫌う。『近道』を見つけるのが得意なだけと豪語するが、それが普通の人間にとって難しいのだ。


 「‥‥、それにしても寒い、コートを羽織ってくるべきだったよ。‥いや、それも意味ないか。‥‥。‥??。」


 音は風だけ、人が生きる音一つしなくなったリズルの夜。そんな夜に自然以外の音が、彼の耳に入り込む。そして、その音を頼りに足を運んでしまうと、出口とは反対の向きになってしまう。ふと、通りかかった道端には光る物が転がっていた。


 「ん?人形?‥‥」


 手作りなのがよくわかる。それなのに上手に作られている。そんな人形を拾い上げてそのまま音の鳴る方へ。


 聞いた事がある音、詳しく言えば敦紫もこの音を出せる。


 「此処‥で、マリーが弾いているのかな。‥‥」


 この国を描き巡り流れる音はこの教会から鳴り響いた物、中は真っ暗で人の気配を感じ取れない。それなのに、ピアノの音が敦紫を手招く。


 中に入ると、閉じられた窓により音が充満していた。

 灯りの付かないこの場所は色鮮やかであった。

 壮大で、情熱的。優しさも有り何処か儚さも感じる。


 一言で表すならば‥「愛」。


 弾き者にとっての愛を音で表現した。記憶の音色。


 一人の人間が、一つの楽器がこんなにも色んな音を出していいのかと、敦紫の耳は虜になった。


 邪魔をする訳にはいかない。音を鳴らす演奏者もまた此方に気づかない。自分の奏でる音だけを聴くために目を閉じているから。


 その演奏が終わるまで、敦紫は冷たい教会の椅子に座り彼の『音色(じんせい)』を聴く事にした。

 


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