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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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52”遠く遠く空の彼方から届いた下書き


 

 逞しく無い角、それが良いんだ。目元はフサフサとした毛が微かに掛かりしっかりと前を向けず、鼻頭を上げて前方をみる仕草。かかった毛の奥にはキョロッとした大きな瞳があり虜になってしまう。マルクワ君の肩に覆い被さる様に乗る後ろ姿は、実にたまらない。


 この生き物を見ているだけで、今まで起きた悪い事がどうでも良くなってしまう。他人の事も自分の事も知ろうとしなかった自分。まさか、転移した国で自分の好きな物が見つかるとは思わなかった。


 毎度毎度、彼に言われていたなぁ。


 「‥‥敦紫は好きなもんねぇのか?」

 「んん?君や結朱華と過ごせるこの時間かな。」

 「くせぇ台詞言ってんじゃねえよ。」

 「え?」


 好きな物聞かれたから、当然の事を言ったまでなのだけど。彼はそう言う事じゃ無いって必死になってた。一度では無く、ふとした会話で毎回同じ様な茶番劇を繰り広げていた。


 「俺みたいに、この‥なんだ、花が好きとか。分かるか?好きな物だ。趣味とかあるだろ?」

 「‥‥‥?。」

 「何でねぇんだよ!有るだろ?人間だろ?」


 教室の隅で僕たちが会話をしていると、購買部で買ってきたパンやおにぎりを大量に持ち帰ってくる結朱華と馬宅。すると、息を上げた二人が会話に入ってくる。


 「私はありますよ。」

 「私も!!」

 「おぉ!ほれ見てみろ。あんだよ人それぞれ。」

 「私は、お兄様から貰ったこの知識を使い!(パシィン!)」

 「‥もう。いいよ貴方は。」

 「私はね、傷ついた人を、モグモグ‥」

 「最後まで喋れよ!!傷ついた人が何だよ?‥‥なんでお前が頭傾げてんだよ!まともな奴いねぇのかよ」


 そんな根も葉もなく、時間を気にすることなく、意味も求めず会話する三人を眺めるのが大好きだって何度言っても分かってくれなかった。


 でも、今なら彼と同じ土壌で話が出来そうだね。


 「‥‥ふふふ。」


 「ビクゥ!やめて下さいって!敦紫様!」

 「あぁ、ごめんね。」


 マルクワと肩に乗る小動物が振り向くと笑顔で手を振るう敦紫。残念ながら、またそっぽむかれてしまい、落ち込んでしまう敦紫。


 「こらこら、今からこの国の宝とも言える場所に行くのだから、気を引き締めてくれ!全く。」

 「あぁ、ごめんね。それではこの子の名前は?」

 「人の話きいてたかな?」


 マルクワの方でまた眠る生き物。飼い主かはたまた育て親が見つかるまでは、懐いているマルクワ君が引き取る事になった。真っ先に僕が手を挙げて育てる!そう言ったのだが、ブーイングの嵐、何かといえばマルクワ君のそばに居るので、渋々僕も承諾した。


 「‥‥、マルから離れないもんねその子。マルがつけたら?」

 「えぇ、僕が?」


 頭を摩り悩むマルクワ、その後ろからついてくるリリーは肩で鼻提灯を作る子鹿を優しく撫でながら側に寄ってくる。


 「僕じゃなくて、リリーがつけてよ。僕の時の様に‥‥ね。」

 「んんー。ずっと一緒にいるし‥昨日も一緒に寝てたし‥‥」


 僕が決めるよ!と、手を挙げる敦紫を後ろから拘束するドクレス。残念ながら救世主様の出番は二人の会話にはない様だ。


 「‥ずっと寝てるし‥‥寝てる。‥マルと一緒に‥」

 「じゃあさ!」

 「だから敦紫殿は静かにしててくれ。」

 「‥‥合寝‥‥よし!じゃあ、その子はアイネ!」


 アイネ?何を言ってるのか。もっとセンスのいい名前は他にも沢山有る。僕なら‥‥もっといい名前をつける事が出来る。‥‥あれ?


 肩で眠っていた子鹿はおまけ程度に付けられた様な小さな耳がピクっと跳ね上がり目を覚ます。


 「ほら!アイネー!貴方は今日から一時的にアイネちゃんねぇ!」


 その名前が気に入ったのか、頬を近づけるリリーに綺麗な毛並みで出来た顔を押し当てて満遍な笑みを浮かべると、ドクレスの腕の中で暴れていた敦紫が二人の光景を見て、妬いてしまう。そして、拘束された状態で尚、名前が決まった子鹿に向けて名を叫びながら手を振るうが


 「‥‥‥。」

 「がはぁ!!」


 無視をされてしまう。


 「急に馬鹿になるのは辞めてくれ!」

 「どうすれば‥どうすれば良いんだ。どうすれば僕も頬に‥」

 「敦紫様!私なら何時でも頬を差し出しま(パシィン!)」

 「何言ってんだ!この人の茶番に付き合わなくていいよ!」


 そんな事をしていると、先頭に立つ二人の足が止まる。城から出て少しだけ歩いた所、此処はこの国の建国者の銅像が立つ噴水広場。辺りは人々が行き交い、国王であるオーランに頭を下げてゆく。


 「さぁ、着いたぞ。」

 「え?此処が?」


 いや、と言いながらオーランは堂々と建てられた銅像に指を刺す。顔は至って普通の男性、少しだけ暗い表情にも取れるが気になる所はない。左手には紙切れをそしてもう片方には指に火の彫刻が施されている。


 そして、その銅像を眺めているとこの噴水広場の近くにある何の変哲もない一軒の戸建てからマリーさんが無言で手招きをしてくる物なので、ぞろぞろとその家に入ってゆく。


 「此処は?‥」

 「此処は私の家です。」

 「家?城に住んでないのかい?」


 このリズル王国には、入り口を抜けて真っ直ぐに歩くとこの噴水広場が顔を出してくる。此処がこの国の中心点、周りには形大きさ全てがバラバラな建物が多数存在し十字で描かれたような大きな道。


 中心、建国者の銅像の背には城が、そして右手側にはマリーが利用する教会が建てられている。彼女は言わば修道者である。毎日の祈りや歓想の生活を送る彼女は城よりも教会にいる事の方が多い。


 その為に、近くにあるこの小さな家で衣食住をしているのだが、


 「‥‥‥、僕が人の家に上がり込んで言う台詞なのか怪しんだけどね。‥‥結構散らかっているね。」

 「マリー!あれ程言っただろ!部屋は片付けときなさいって!」


 小さな家に、五人の大人が居ると言う事もあり部屋は窮屈感を増す。無造作に歩けば何かを蹴り飛ばしてしまう程に床に散りばめられた服やらゴミ。机には食べ掛けの食べ物もあり少々キツイ映像が飛び込んでくる。


 食べ掛けの食べ物の下には、何やら楽譜の様な物やメモ書きされた物で机の色が元々何だったのかすら分からない。何処を見渡しても綺麗と言う言葉は上げられない程に、泥棒が入った後の懺悔とも言える状況。


 「‥はぁぁ。ヘレンお嬢様がいたら発狂していましたよ。」

  

 正気に戻ったドクレスが徐にも鎧を脱げ身軽な格好に変わる。すると、マリーにゴミ袋の位置を聞き、手袋を付けてこの部屋を掃除し始める。食い掛けの食べ物を一度お辞儀してからゴミ箱に捨ててキッチンに向かうと‥


 「あれ?何だこれ?」

 「きゃぁぁぁ!!返てして下さいぁぁい!」

 「むむ。これは‥殿方様の◯◯◯大全集?」

 「きゃぁぁ!!読み上げないでくださァァい!」


 背の小さなマリーでは巨大なドクレスには届かず、怪しげな本を読まれてしまった。因みに内容は‥言わなくても上がるだろう諸君。あれだよ、あれ。


 「ふむ。何でこの様な物が?」

 「はぁはぁ、返して下さいよ。」

 「マリーは生粋の変態だからね。(バチィィン!)」

 「お兄様は黙ってて!」


 ようやく返してもらえたのか、息を荒げながら誰にも見られぬ様に背で隠しながら、顔を赤くしてチラッと僕の顔を見てくる。どんな事が好きで、どんな物が好きでも、人に危害が及ばないのなら何でもいいと僕は思っている。だから‥


 「‥えー。え、と。まぁ、ね。人それぞれだね。」

 「がはぁ!」


 ダメージを受けた妹を細めで見ながらため息を漏らすオーラン。そして、「遊びはそこまでだよ」そう言いながら二階へ繋がる階段の手すりを触り、一箇所だけ付け足された場所を掴むと階段の正面には穴が浮かび上がってくる。しかし、潜り込まないと入れない小さな穴。


 「‥何しているんだい?」

 「ん?これが『大異本棚』への行き方だよ。ほら、あそこに穴があるでしょう?」


 隠した筈の書物で、赤らめた顔を隠しながらマリーが階段に登ると、オーランが触っていた切れ目の入った箇所を優しく引っ張った。すると、


 「え!?」

 「はい、いってらしゃい!」


 階段の段が無くなり滑り台へと様がり、ツルツルになった表紙に乗っていたマリーは滑り落ちて穴に入ってしまった。


 「面白そうだね!これ。」

 「怖がるのが普通でしょう。まぁいいや。あ、後」


 また一度元通りになった階段に笑顔で敦紫は登るとオーランに合図を取る。


 「マルクワ君とマリー君は此処で待機ね。ドクレス君はどうする?」

 「ふむ。私はこの部屋を片す仕事があるからなぁ。‥行っても読めぬ書物ばかり‥感想だけ聞かしてくれ敦紫殿。」

 「じゃあ、三人待機ね。そのアイネちゃんだっけ?その子が近くにいると敦紫君が馬鹿になるからね。君もお留守番だよ!」


 「え!?」


 敦紫の目が見開いた瞬間、そして何か言いたげそうな敦紫を構う事なく、手摺を引っ張りこの場所から敦紫の姿を消したのだった。続けて、オーランも後を追い滑っていく。残った物は三人と小さな生き物。


 敦紫達が帰ってくるまで手持ち無沙汰、ならドクレスと一緒にこの部屋を片付けようと皆が動き出す中、声が聞こえてくる。この国に住む数人の慌てた声、その声を聞き早急にマルクワは外へ出ていくと慌てた表情で直ぐに帰ってきた。


 「ドクレス様!!」

 「どうしたのだ?外で喧嘩か?」

 「いえ、噴水で女性の肩が溺れています!」

 「なぁ!?何故助けもしないで帰ってきたのだ!」

 「すいません、背も低くあの水の深さですし‥金槌なんです僕。」

 「はぁぁ。」


 急いでドクレスは溺れた女性を助けるべく、外に飛び出してゆく。何も出来ずに帰ってきたと言うのに心配になりマルクワとリリーまでこの家を後にした。残されたアイネだけが頭を傾げて、クシャクシャの布団に乗りまるくなり目を瞑った。


 ‥‥‥‥。



 冷たい大理石、灯りもなく目を凝らさないと行き道すら分からない。天井から滴り落ちる水の音は、この空間が小さいのだと証明してくれる。足元は少しだけ水が張られて、この場所で迷子になれば、誰かの足跡を辿る事も出来ない。


 マリーさんの次に落ちてきた僕、思っていた以上の楽しさがあった。また機会が有ればやってみたいそう思えた。だが、此処から先はアイネちゃんがいない。お目や手のモノを拝見できれば直ぐに地上に戻ろう。何せ、アイネちゃんが待っているのだから。


 ありもしない、起こりもしない夢を募らせながらも僕は、先に滑って行ったマリーさんを探してみるが何処にいるか検討も付かない。何せ真っ暗なのだから。そんな中、声が聞こえてくると水飛沫をあげて、背後からオーランが降ってきた。


 この場所の管理者なら、この暗い部屋でも難なく歩けるのかと思ったが彼もまた、手を動かして壁に触れて此方に近づいてくる。話を聞くといつもこんな感じ、普段からマリーさんが持っている懐中電灯を使い、花言葉の書が保管されている大異本棚に向かっている。


 でも、灯りを持つマリーさんが居ないときた。でも、


 「‥‥灯りぐらいつけたら?」


 暗く、足元が見えないのなら、灯りを灯せばいい。元の世界みたいに懐中電灯や携帯が無いと詰みと言う世界では無い。此処には魔法がある。


 「‥‥火属性系統魔法‥‥あれ?‥魔胞子が」

 「此処では魔法が使えないんだよ。」

 

 地上にはあれだけ魔胞子が自由に浮いていたと言うのに、この地下には一粒も見かけられない。魔胞子が無ければ、魔法を使う事は当然出来ず、火をつける事が出来ない。


 「何処にでもあるのだけど‥此処だけ、魔胞子がないんだ。すまないねぇ。」

 「此処には魔胞子が無い。それは誰が決めたんだろ?‥オーランとマリー‥‥君達がそう思っているのかな?」

 「うん?あぁ、そうだとも。」

 「じゃあ‥‥上書きしようか‥。‥‥‥あれ?」


 何かをしようとした敦紫。しかし能力は発動出来ず、この地下は皇種の力すらも不可の領域なのだど、諦めがつき辛うじて分かる冷たい壁を触りながら前へと進む。君や君達が考える甘い定義でこの場所は存在しない。残念だが、観念の話、授かった言葉が巡りオーランとマリーに植え付けられたまで、彼の能力は‥‥この地下には届かない。


 無策に進むこの肌寒い地下廊下。呼吸をするだけで、音が響きこだまする。どれだけ歩いても図書館らしき物が見えてこない。敦紫はともかく、オーランは不安が大きくなっている。すると、


 「お兄様ぁ!!」


 二人の前方には、大きな光と声。バシャバシャと音を立ててその光が大きくなってゆくと、目を隠してしまうオーラン。光を此方に向けたまま息を切らし二人の元にやってきたのは、先に向かっていたマリー。


 「マリー、光を下げてくれ、目が取れてしまう。」

 「はぁ、はぁ。ごめんなさい。それよりも‥‥一大事です!」

 「あぁ。声量も少し下げてくれないか。耳も取れてしまう。」

 「そんな事より!!」

 「あぁ!耳がァァ」

 

 項垂れるオーランの手を引っ張り足速に先に進んでしまう。只事では無いことは顔を見れば分かった。二人を追いかけながら僕もまた追いかけてゆくが、然程距離は無かった。


 古臭く、木でできた扉と、壊れた南京錠。僕たちしか知らないこの場所で、何とこの扉を固く閉ざすため南京錠で掛けられていた物が何者かに壊されていたのだ。殴って壊せる様な物でも無さそうだ。刃で断ち切った後でも無い、強く何かが当たり弾け飛んだ痕跡。魔法が使えないこの場所で、どうやってこの南京錠を破壊したのか。


 マリーさんがこの場所に訪れた時には、既に壊されていた。僕たちしか知らない、僕たちしか入った記録がないこの場所。


 「‥、ずっと昔にある物なら、経年劣化?」

 「‥‥そう考えたい。しかし、一度泥棒が入ってね。改めて鍵を作ったんだ。」


 劣化では無い、そしてこの鍵は先日作られた物。特別な力が宿った南京錠。何せ、あの戦鋼番糸の統であるケイジュが作った物だ。自然に壊れる事もなく、彼以外の人物が壊せる事など皆無に等しい。開けるのなら、この世にたった一つしかないオーランが持っている鍵を差し込むしかない。


 「‥あり得ない事ばかり‥‥あの一変の業火から説明の付かない現象ばかり‥‥くそぉ、一体何処の輩なのだ。」

 「‥‥ケイジュが壊したとか?」

 「馬鹿を言っちゃいけないよ。ケイジュ様ですらこの場所を知らないと言うのに。」


 また、新たな問題ができてしまったが、ようやく大異本棚に辿り着く事ができた。扉を開けて入った先には、予測とは違った物が広がっていた。僕はてっきり大きな図書館でもあるのかと思っていたが、蓋を開けてみれば小さな書斎。腐りかけた椅子と机、その横手には錆びた本棚。


 何の変哲もなくボロボロになった本棚だが、並べられた本達は一つ一つ、風化も無く新品の様な輝きを放つ。数えてみれば八個、最初に聞いていた数と合わないが自由な触ってもいいと言う事なので、右から順番に手に取り表紙を捲る。


 「‥‥‥。」

 「何か‥‥分かりますか?私達は‥恥ずかしながら何も読めなくて‥‥」

 「‥‥‥。」


 1ページ、また1ページと巡っていく。至る所に目を動かし細部まで読み漁る。最後のページを終えるとまた違う書物を手に取り読み上げてゆく。敦紫の止まらぬ速読に神妙な面持ちで眺めるマリー。そして、腐りかけた椅子に座るオーランは敦紫の姿では無く、妹に視線を向けていた。


 「‥はぁぁ。」

 「‥‥‥‥。」


 ため息を吐いてしまう。妹の行動に。本を真剣に読む敦紫の姿ばかりを目で追い、仕舞いには敦紫の顔をじっと見つめて見惚れている姿に、お兄ちゃんは呆れてため息が出てしまう。


 そんな事もつゆ知らず、最後の書物を読み終えると本を閉じて近くによるマリーの方向へ顔を向けると、近距離がゆへお互いの鼻が当たってしまう。


 「‥‥マリーさん。少し近いかな?」

 「‥‥‥綺麗な‥‥目‥‥。」


 敦紫はキョトンとしたまま、ボーッとしたマリーを見つめる時間。目の前にいるマリーは徐々に徐々に顔が近くなってゆくと敦紫の頬に柔らかな手が重なる。すると、


 「はいはい!!この場所でやる事ではないでしょうが!目の前にお兄様がいるのだから!」

 「あ!?申し訳ないありませぇん!!ついつい綺麗で‥」

 「‥ん?褒めてくれたのかな?、ありがとう。マリーさん。」

 「‥さん付けではなく‥マリーとお呼びいただきたい‥‥です。‥」

 「?。マリー。で良いのかな?」

 「‥ふふふ。はい!」

 

 「だぁかぁらぁ!!此処でする様な事じゃないでしょうが!!」

 

 茶番は此処まで。僕が黙って目を通し続けたこの花言葉の書。ページを捲れば縦書き横書き、所々にはメモ書きもされ、乱雑に書かれたノートの様な物。法則性何てものは無いく残念ながら僕には1文字も理解出来なかった。


 もしかしたらどの本に、どの箇所に、読める場所があるのではないかと読み続けてみたがさっぱり。


 そもそも、僕の事が書かれているであろう第三項は、此処には無く何者かに盗まれてしまっているのだから。そして、古びた書斎で座り込むオーランは少し気が荒くなっていた。


 「‥悪戯にも限度がある‥‥、これがどう言った物なのか知ってやっているのか?」

 「少し、落ち着きましょう。お兄様。」

 「‥落ち着いてられるか。守れと、隠せと、約束したのだ。蓋を開けてみればこの様。救世主などと噂が出回り、国の宝である花言葉の書は盗まれて、‥‥、」

 「‥‥‥。」


 僕が何かを言って鎮火させれる様な状況でもない。今はそっとしてあげるのが一番。僕は、この時間にこの書斎を見渡してみる。至る所に埃が乗り、鼻が痒くなってくる。歩くたびに足元は悲鳴を上げる木床に捨てられた焦げた紙切れ。   


 此処にきて、僕の知れる物なのど無かった。この世界の人間が読めぬ文字なら、違う世界で生きてきた僕の目で解読出来るかもと踏んでいたが、予想は外れた。


 結局、僕は時間を潰しただけ。


 転移に関わる様な代物も無かった。なら、この場所にいても時間が勿体無い。僕達はなにも収穫を得られずこの部屋を後にする。



 —————————————————————



 「‥‥魔胞子が浮いていない。‥‥不思議な場所ですねぇ。ようやくあの口煩い小娘が居なくなり静かになりました。まぁ、結朱が居なければ此処に侵入出来ていませんから‥それは感謝ですが‥‥それにしても暗い。」


 敦紫達の足音が掻き消えた後、また違った足音を鳴らす者がこの地下深くに。辺りには魔胞子が浮いていないことから、火が生成出来ず前が見えない。彼らと同じく壁を伝い歩く‥‥とはならない。


 「‥ふむ。‥‥小細工が好きな男だ。」


 目を凝らせば見えてくる物。それは両端にある壁の上部に設置された蝋燭。しかしながら、灯す道具もない持ち合わせがあったとしても届きようのない高さ。その高さがゆへ暗闇に包まれた天井を凝視しなければ形を確認できない。


 「‥‥。ないなら‥創るまで‥‥‥。」


  [魔法]:芽吹(ガイア)火の原種(フレイトス)


 手の上には黒く核の部分は真っ赤に染まった大きな球体が出現すると、その球体に向けて肺に空気を溜めて強く吹いた。それは、爆発。視界いっぱいに黒い魔胞子がこの廊下全体に散りばめられてゆく。


 「‥さぁ。お仕事ですよ。」


 風を送り込み、弾けた黒赤の球体は忽ち壁の上部にある蝋燭に集まってゆくと火が灯る。この廊下は青色の配色なんだと、誰もが前を向いて歩ける程の光を手にした。


 「‥‥、水が染みて鬱陶しい。」


 視覚的な問題は解決できたが、この廊下の床に流れる浅い川はどうする事も出来ず履いていた靴がびしょ濡れである。愚痴を言いながらもようやく扉の前まやってくるとある物が落ちていた。


 「鍵?‥‥何処の?。」


 綺麗な鍵、しかしこの扉には差し込む様な鍵穴はなく何か仕掛けがあるのかと、隠させた鍵穴があるのかと、先ずはドアノブに触れて鍵が掛かっているのか確認する。しかし、扉は軽く難なく入る事が出来た。


 「‥馬鹿なのか?‥‥鍵だけ作って。‥‥?魔胞子のチリ‥‥器用な事をする人間も存在するのか‥‥よく出来ている。‥此処まで魔胞子が手を繋ぎ形を保てているものは。だが‥‥脆いな。」


 鍵に向けて息を吹きかけると、砂の様にチリとかしこの空気中に溶け込んでゆく。そして、書斎の上に置いてある蝋燭にも火を灯しこの部屋全体を明るく照らしてゆく。


 書斎の隣、それは埃まみれの本棚に綺麗に置かれた分厚い書物。一列に綺麗に並べれたものではあるが一つだけ隙間がある。


 「‥これが花言葉の書。‥‥あの男と同じ形をした本‥‥本なのか?、これは。」


 一度手に取りページを巡ってみるが知らぬ文字で乱雑に書かれたノートの様。読書はあまり好きじゃないと言い直ぐに閉じてしまった。手に取った書物を元に戻して、蝋燭が煌々と燃えて照らすこの部屋を満遍なく見漁って行く。


 「‥‥ゴミばかり。本当にあるのか?此処に私が必要としている知識が‥‥‥ん?」


 床には散らかった焦げた紙切れ、部屋が暗ければ触る気も起きない様なゴミ屑。人生で一度も己の信念を捨てずに生きてきた者には到底不可能な行動。だからこそ、地に落とした。小細工まで施した。綺麗な物は皆拾ってくれる、だからこそ一度汚した。


 この部屋に捨てた紙切れ達を拾い上げるものの選別。

 それは下向きに生きる者か、気づき捨てた者か。


 約二名の該当者が見つけ、確認することにより意思が宿る。


   ‥‥さぁ、おいで。



 「‥‥、。?。蝋燭を持て?」


 拾い上げた焦げた紙には、薄らと文字が浮かび上がり「蝋燭を持て」そう書かれていた。


 「‥私に指示?‥‥ふふふ。そうですか?‥‥ふぅ!」


 書かれた指示を無視して、火が灯る蝋燭を生きで掻き消す。当然ながらこの部屋は真っ暗になり何も見えなくなってしまった。加えて先程まで持っていた紙切れすら無くなってしまった。暗闇になにも見ているのかすら分からない、手を挙げているが確認すら出来ない。


 暗闇には慣れている。だから立ち止まる事はせず足を動かしてみる。すると、ガタンと何かに膝をぶつけてしまう。


 「‥‥‥。?。」


 暗闇で何も見えない。それなのに見えぬ己の手の中にはヒラリと一枚、少し硬めの紙が降り落ちてくる。それだけがこの確かな暗闇でも視認できた。そしてそこにはまた綴り字がニ列。


    今を生き、消火(とだ)えるか。

    (もや)し、過去を見るか。

   

 「‥‥‥。」

 


  [魔法]——(やなぎ)——


 不思議な紙に火がついた。この部屋を明るく照らした。しかし、先ほどいた場所ではない所。部屋とゆう証拠が見当たらない空間。この一点だけが目で確認でき、周囲一帯真っ暗で先があるのかそれとも行き止まりなのかも分からない。


 火がついた綴り紙は手元から自然に離れて行くと、足をぶつけた物体の上にヒラリと落ちる。しかし写り火はしない。


 揺らめく火と小さな黄色い手帳と花が一輪。それらをおんぶするテーブルが一つと椅子。この空間にはその物しか存在しないが故に、読書が嫌いな君が嫌でもその手帳を手に取る事になる。


 「‥第十項‥‥日陰の下で笑う‥‥‥。」


 手に持った手帳の表紙を口に出し読み上げる中、チラリとテーブルに乗る一輪の花に目を配る。


 「‥‥、」


 火をつけた紙切れは着々と蝕み、小さくなって行くと光の範囲が縮小して行く。そんな中、君は机に置かれた手帳を手に取り開け目を通す。先ほど見ていた花言葉の書とは違い、綺麗な並びで書かれた言語。


 【‥漸く会えた。今は、何方が見ているのか。黒か青か。租か空か。‥‥大きくなっただろうか?】


 1ページ1ページ書いてある事が少ないからこそ、ページを巡ってしまう。


 【‥全てを話す。いや、書き記す。未来は知らぬ方が良い。だが、過去は知る義務がある。そう私は思うのだ。】


 「‥‥。」


 火は小さく、もう机の半分は暗闇に侵食されて行く。


 「花に色を付けし者よ。花に惚れた者よ。花に水を与えた者よ。花に踊らされた者よ。君は、どれだ?。」


 無言のまま、ページをめくってゆくが残念ながら机の上にのってある一輪の花も闇に呑まれてしまった。そして火がついた紙も白い部分は残っていない。丁度最後の一文を読み終えた後、火は消えてこの空間は真っ暗になってしまう。

 

 「‥‥。」

 

 全てを知れた。この大陸の全てを知り得た。

 未来を見ると、命として面白さに欠ける。

 だが、

 同じく過去を知ると、静寂と落胆が襲う。  


 貴方は、膨大な知識を入れ、一粒の滴を流す。頬を伝い雫が落ちた先には暗闇に呑まれた花が受け取ると、


 この空間が弾け飛ぶ程の光を放ち。


 この空間にいる全ての物体を喰らった。


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