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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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7±2“光陰矢で彼女達だけの時間。


 

 今日は、遠方に住む彼がこの島に帰って来てくれる。

 馴染である男の子に久々に逢えるので、ウキウキしていた。


 高校時代まで都会に育った私はこの島にやって来た。あの人を追いかけて、この島にやって来た。


 この島にやって来た時は驚きの連続。コンビニも無いし、自動販売機も無い、道路には動物達が自由に横断し、虫だって物凄い量。夜になれば、街灯なんて物は無く、辺りは真っ暗。本当に何も見えやしない。


 自然が溢れる場所だけど、私にはあまり居心地が良くなかった。でも、あの人が教えてくれた。


 「‥、何も見えないよ。」

 「‥‥もうちょいだ。静かにしてろよ?‥先生にバレたら怒られる。」


 私の手を引っ張ってくれた。綺麗で暖かい淀みなしの一色を纏って。今は夜、辺りは真っ暗で目を凝らし地面を見ないと、畑に落っこちてしまう。


 借りている一軒家で、夜は出歩く事は無かった。だって怖いんだもの。そんな時、あの人が私の家までやって来てくれた。何も言わずに、私の手を引っ張ってくれた。


 暗い暗いこの世界へと、連れ出してくれた。1ミリも怖く無かったの。だって手を握っててくれたから。


 「‥‥、怒られないの?こんな事して。」

 「‥しぃ!待てよ。ん?ん?クソ、鍵閉めてやがる。」


 あの人に委ねるまま、気づけば知らない建物の中へ。暗い廊下を走り、階段を登り、屋上へと辿り着くが残念ながら、外へと繋がる扉は鍵が閉まっており開けれなかった。


 「‥‥、しょうがないよ。帰ろ?ね?」

 「‥‥うるせぇ。ちょっと離れてろよ。」

 「‥‥‥え?」


  でれゃあ!!!(ガシャャーンン!!)


 指示の元、扉から離れた瞬間あの人は、盛大な音を鳴らして扉をぶち破った。あれだけ私に静かにしていろと言っていたあの人が、結局一番大きな音を出していて笑ってしまった。


 吹き飛び、へし曲がった扉。上がる砂埃、外へと繋がるその入り口は扉も無く光も無くただ真っ暗。


 「‥よいしょーー!!鍵なんか掛ける奴が悪い!!頑固な扉は自分の大きな気持ちで押しきれ!って事だ!よし!行くぞ!!結朱。‥‥結朱??」

 「‥‥、」

 「どうしたんだよ?ほら、いくぞ。」

 「‥‥‥、」


 怖かった。扉の先は何も見えなくて、一緒に入っても逸れてしまうじゃないかって。‥‥。


 「‥‥、怖いのか?」

 「‥怖い。色々と思い出して‥‥きゃあ!?」

 「じゃあ!!無理やりだぁぁ!!理屈並べる奴は、気持ちで押し切る!!相手が折れるまで押し切る!!これに限る!!ハッハッハ!!」


 ‥‥‥‥‥‥。



 ‥‥、「そうやって私をお姫様抱っこしてくれたの。」

 

 ‥‥‥。


 「それでね。‥」


 ため息を何度吐いただろうか。彼此数時間は話している。相槌するのも疲れてしまい、彼女の声も自然に吹く風と同じく溶け込み聞いていない。大地に生える不思議な樹木の下、ただ欠伸を描き話を聞く『死』から最も遠い状況。こんななんとも言えない時間を人は平和と呼ぶのだろうかと。

 

 赤羽 結朱華。私の目的において何の害も齎さない人間。手当てし、巻いてくれた包帯は熱くいつしか、痛みすら取れていた。傷を癒す術を熟知した此方の人間ではない異世界人。


 私が呼び寄せたあのクソガキとは似ても似つかない。


 話を聞くと、元いた世界では病院と言う病と戦う施設で働いてるとの事。だが医者ではないただの助手だと語る。私をあの可笑しな世界に連れ込んだあの男の元で働く者。


 「‥‥聞いてる?」

 「‥‥‥‥‥。」


 もう、お昼頃だ。あの男が言った。『早朝にリズルの国へと』約束は守れなかった。彼女のお陰で狂ってしまった。今からでも間に合うのかは分からないが、一度リズルに行ってみよう。そう腰を上げる。


 「‥ねぇ!何処行くの?」

 「昨日、貴方の先生が言っていたでしょ?リズルと言う国に行くのですよ。」

 「‥国に?‥‥大丈夫なの?貴方は嫌われているんでしょ?」

 「ふふ、それで結構。楯突く様な輩は‥邪魔をしてくる輩は‥‥」

 「(ジィーーー)」

 「‥こ‥‥こ‥‥‥小石を投げますよ。」


 ったく、自由に喋る事も出来ない。結朱華は怒ったら怖いのだ。


 「ねぇ、貴方の事色々と聞いたけど‥‥なんで大罪人なんて呼ばれてるの?貴方から聞いた話で、罪になる様な事なんてないと思うけど‥‥。」

 「‥‥色々とあるのですよ。貴方が知る様な‥‥」

 「(ジィ‥‥‥)」

 「‥‥‥。‥はぁぁ、わかりました。」


 全て彼女ペースに踊らされた。言わなくてもいい様な事を全て話してしまった。拒否権がない様に、この『支配』と言う肩書きが付いた私にこの女性の前では自由など無かった。


 「‥貴方の様な異世界人を、私は呼び寄せました。」

 「‥どうしてそれが悪なの?」

 「そこからですよ‥‥お話は」


 ある日、ある男から、ある物を渡された。『これを使えば、君の思い描く世界に一歩近づく』と、


 「‥‥‥。これを使って、異世界人を呼びました。そして『勇者』と称して、スイレ王国を()()()()無茶苦茶にしてやろうと。」


 渡された物は、只の破片。粉々に砕かれたであろう片割れ。この破片を使えば、この世界に強大な生き物を召喚できる。私に選択の余地など無かった。目的の為なら、嘘か真かハッキリしない物でも試してみようと。


 そんな私は、名前を変えてスイレ王国で召喚を試みたのだ。身分を偽り、偽名を使い、セドウスに近づいた。スイレの名を冠する者達にどれ程の嘘が通用するのかビクビクしていたが、何も問題はなく嘘で包み込めた。


 そして、あの男が言った通り、召喚は出来た。しかし何も出来ない、非力な子供。弱いくせして喧嘩すら吹っ掛ける始末。私が描いた計画がそこで台無しになった。


 「‥‥‥。その子は‥?」

 「‥‥‥生きていますよ。呑気に。」


 何かに頼るのは間違っていた。だから私は私自身の手で、スイレ王国を壊してやろうと。わたしの目的は二つ、母の人生を歪ませたセドウスと、母を殺したアルフォンを殺す事。


 厄介なリゲイトを持つセドウスは、正に難攻不落。近づこうにも近づけない。しかし‥長い時間が掛かったがようやく母をその手で殺したアルフォンの居場所を突き止めた。


 殺そうした。長い長い時間を掛けて辿り着いた。アルフォンの寝床。‥‥、笑みが溢れて興奮した。


 それなのに‥‥それなのに‥‥‥。


 「奴は‥‥死に方を選んだ‥‥‥母を殺して‥‥母が愛した国を汚して‥‥自分だけ‥‥小さな家で平和に死んでいった。‥‥」


 「‥‥‥‥。」


 「鬱陶しくってね。あの国を焼け野原にしてあげましたよ。‥‥、」


 「‥‥‥。」


 英雄だと言われたアルフォン。目の前の地位に踊らされ、暴走した母を殺し騎士団長に登り詰めた男。‥‥お母様を止める事は出来たはず、それなのにあの男は友ではなく名誉を取った。私の目の前で母の首を落とした者。


 「‥‥ハッハッハ!!実に滑稽だろぉ!!」

 「‥‥‥‥。」


 奴が団長につき、再開発が進んだあの国。母が愛した物を全て書き換えた。親友を殺し、登り詰めて作り上げた国に騎士団を燃やし支配してやった。


 頑張ったのに、私に壊されて‥‥実に滑稽だ。腹を抑えるほど滑稽だ。笑えて仕方がない。


 「ハッハッハ!!地位に目が眩み、創り上げたスイレ王国をあんな簡単にも壊されては天にも行けないだろう?ハッハッハ!!壊れてゆく様を見せてあげたかった!ハッハッハ!!どんな顔をするのだろうか‥想像するだけで笑えてしまう!!」

 「‥‥‥‥。」


 実に!実に!!嗤える!!そうだ、まだ私は目的を果たせてない。もう一度、もう一度あの国を‥‥


 「‥‥は‥‥はっは‥‥‥?」

 「‥‥‥。」


 笑い声で揺れるであろう手に暖かな手が無口のまま触れる。


 「‥‥笑えていませんよ。」

 「‥‥‥何を言ってる‥笑っているではないか。」

 「‥‥‥、そうですか‥‥なら否定はしません。でも‥」


   

   笑顔は身体にとって毒ですよ。



 彼女の瞳、大きな瞳へ自分の顔が鮮明に映し出される。紅い瞳、その向こうへ自分の笑顔が鮮明に確認できた。笑顔ではあった、口を開けて目尻は下がり口角はその目尻に繋がり。笑っている。嘘ではない。それなのに‥‥


 「‥‥人は一つの事しか出来ません。器用な方ですね。」

 「‥‥‥、」


 頬を伝い、何かが自分の顔で動く朧げな存在。


 「‥‥貴方がそこまで無理をする理由は分かりませんし、分かりたくもありません。‥‥ですが作り笑いは程々に‥‥。」

 「‥‥‥‥。」

 

 顔色に道を作った物を優しくその手で掬い上げる結朱華。


 「‥、確かに、笑顔は不治の病をも直す薬。ですが使い過ぎは何事も毒になります。生きていれば無理をしなければ行けない‥そんな日もあるかもしれません。」


 「‥では、どうすれば良かった。‥‥‥、母も私の知る弟も2度と帰ってこない。‥‥こうするしかなかった。‥‥他に選択肢などなかった‥‥。」


 「そうですねぇ。私も同じです!」


 「??。」


 私には好きな人がいる。とてもとても大好きな人。これ以上の人など見つけれない。そう思えます。‥‥そんな人がある日突然死にました。助ける事は愚か、知らぬところで消えて行ってしまった。彼の方の抜け殻もなく、残るのは『死んだ』と言う事実だけ。


 散々泣きました。私がドジで怪我をして、急いで病院へ向かう最中不慮の事故に遭いました。血を流し傷ついたのなら全力を尽くして治療できた。でも、彼の方は海へと落ちて言った。それだけ伝えられました。


 もう、帰ってくる事はない。私のほんの些細な怪我が引き金となって、私の見えぬ所で消えて行ってしまった。


 何かあれば彼の方の肩を借りていた。それなのに


 ふとした時、凭れていた存在は枯れる事なく消えて行ってしまった。一瞬なんて物じゃありません。例えることなんて出来ない。私の知らぬ所で死んだ。


 私は私を責め続けました。


 そんなある日、あの人を想いながら歩いていると気付けば彼の方が大好きだった花畑。その中央には車椅子に乗った綺麗な女性が一人。


 話を聞くと親も来れず、ただ一人で病室に篭り戦っていた彼女。それなのに強く生きていました。縋る物がないこの世界に絶望して後は死を待つのみ、そんな悲しい考えは捨てていました。‥‥


 ‥‥貴方はすんごく強いですね。


 ‥‥貴方は強くないのかな?


 ‥‥弱いです。大切な方が一人消えてしまった。それで私はもうお先真っ暗です。ドジな自分を呪います。


 ‥‥、そう。勿体無いわね。貴方は生きてるのに。


 ‥‥、


 ‥‥知ってるかしら。人生、失う事の方が多いの。気付かない内に色んな物を失って歩いてる。‥‥‥、



 ある一人の患者さん。余命宣告までされ、現代の医療では何解決できない難病を患った人。病にかかってからは、友達も出来ず、家族とも会えず、最終この島に辿り着いた。技術なんてものは揃っていない島の病院。


 もうそこまで見えた自分の死。それなのに強く逞しく生きていた。私にはさっぱり分からなかった。私なら、毎晩毎晩蹲りなく日々を送るだろう。と、


 ‥‥死ぬのが怖くない。そんな嘘は付かない当然怖いよ。でもねぇ、そんな暇ないのよ。大切な人たちから沢山貰った物があるの。


 ‥‥。


 ‥‥、一つお姉さんからのありがたいお言葉だよ。


 人生、逆も然り。だからこそ、経験した物を恐れて歩幅を変えて行く。振り返ってしまう思い出だけれど鮮明には思い出させない。もうそこには何も無いもの。想像の範疇。それに縛られては駄目。カッコ悪くても探しなさい。確かな物を見つけなさい。目の前にある物だけを信じて望みなさい。


 今は今。貴方は今を生きる。


 貴方の想い人がくれた物すら『思い出』にしないで。


 私はそんな彼女の言葉に、思い出す事が出来た。私は何故今生きる事が出来ているのか。全てとは言わない。それでも、あの人が魅せてくれた物、教えてくれた物は手の中から消えない。彼の人に会えなくなっても、存在を忘れた訳じゃない。


 「‥‥‥、あの島に引っ越してから、色々と気付けました。」

 「‥‥‥‥」

 「世界は‥‥こんなにも暖かい人達だらけなのだから‥‥」

 「‥何を‥‥馬鹿な事を‥‥。」


 「?。だってそうでしょ?。」


   死んでしまったお母様の為にこんなにも頑張れるのだから。


 「‥‥頑張る?」


 その言葉で。冷たい手で胸を押さえてしまう。


 「此処まで、一人で良く頑張りました。偉い偉い。」


 手を当てて押さえた。続けて彼女の暖かい手が自分の頭の上に。『やめろ』、そう言っているつもりだった。


 「‥‥、一人は気楽でしたか?‥‥でも残念、もう一人では生きて行けない。」

 「‥‥‥‥。」


 無理やりだった。


 「、気楽でしょうね。自分だけの『命』。でも、残念、私が重しとなりました。重いですよ‥‥私‥‥‥。」

 「‥‥何が重たいだ。‥‥所詮、皆他人。‥どう足掻こうが‥」



  パチィン!!!!!



 「うるさぁぉぁぁぁーーーい!!」

 「‥え、?。痛い‥‥、」

 

 また頬に両の手が、


 「‥‥、天邪鬼かぁ!!いいですかぁ!!嬉しい時は嬉しい!!痛い時は痛い!!そう言って下さい!!貴方の命は等しく私の命。‥‥それが『命は平等』の意味!!」


 「‥‥‥。平等、平等、うるさ——-



   一人で生きてく事は絶対に!!私が許しませぇぇぇん!!


 アスターの頬へと、手を合わせて叫ぶ。それは相手の言葉を遮る様に、自分の気持ちだけを押し切る様に。


 実に、実に、無理やりだった。


 「‥‥、‥とんだ、答え合わせだ。」


 綺麗事ばかり並べる彼女。‥耳を閉じる私の手を解き、もう一度私の手を胸に移動させる。『やめろ』と言いたかった。しかしながら、口を開けられない。開けては行けない。緩んでしまうから。何故か胸が熱かった。身体が熱かった。‥駄目なのに。開けては駄目なのに。


 私は口を開けてしまった。嬉しかった事、楽しかった事、運が良かった事、愛していた人の事、大好きだった人の事、感謝していた事、幸せである事。


 関係の無い話を彼女に話してしまった。

 可笑しな事を言っても、全て受け止めてくれるのではないのかと、聞いて聞いてと話す子供の様に。


 疲れてしまった私は子供の様に彼女の中で眠ってしまった。

 


 


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