5”見えていた最初から、ただ動けないだけで。
「今、この場で、意を唱える。意を先決に唱える。我が声に応えてくれ。来い、
——代百具よ。」
「!?」
ラーガ”が手を空に差し伸べた瞬間、空から爆発音がした。その音の正体は、昨日、身体を休めていた聳え立つ塔の一部が何かによって破壊される音。瓦礫が吹き飛び散り散りになる。モクモクと煙が上がりやがて消えると、そこには小さな穴が空いていた。その光景に目を向けてしまった敦紫であったが、
「‥‥‥ん?」
あの塔から何かがやってきた。壁をぶち破りこの場所に降ってきた。丁度、仁王立ちするラーガ”の前に降ってきた。何が降ってきたのか。それは‥‥
「‥‥靴?‥‥‥。なんで?」
それは、靴。足首が隠れるほどの長さをしたブーツの様な物。黄と赤色が螺旋状になった長い靴紐に、全体は小麦色。そう、何もおかしくはないブーツである。
「少し待っていろよ。」
「え‥‥。うん。」
空から降ってきた靴を手に取り、紐を緩めてゆくと大きな足を入れる。だが、うまく履けずに転んでしまうと、横にいるフーガ”に剣を借り、靴べらがわりにそのブーツを履こうとする。
「‥サイズ合うか?どうだ?‥‥な、入らん。もう少し紐を緩めるか‥‥よいしょ。」
「‥‥‥‥。」
ブーツを履く為に試行錯誤する中、履けずに体勢をまたまた、崩し大きな巨体は転んでしまう。「いてて。」と言いながらも、膝をつき、しゃがみ込む。
「‥‥なんだ?、好きだらけの私達に攻撃してこないのか?良いのだぞ?」
「‥‥いいよ。待つよ。良い物見せてくれるんでしょ。」
「ふん。甘いな。死と隣り合わせの戦いに、休息など存在せぬぞ。隙があるならば撃て、それがこの世界の基本だ。」
「いいから!早く履いてよラーガ”!。私の武器も君が今使ってるんだよ。仕掛けてきたら、終わりだ!」
「それもまた一興。己が選んだ選択だ。文句はない。」
「はぁぁぁ、君って奴は。」
5分ほど時間が掛かった。この間、敦紫はじっとラーガ”を見つめている。そして、ようやく靴が履けたのか、紐を整え、閉める。今一度、借りた剣をフーガ”に返すと‥
「貴様がこの間に攻撃していれば、試合は終わっていたのだがな、待つとゆう選択を選んだ。その先が、喜びか後悔か、その身で感じろ。」
立ち上がり、息を満遍なく吸い込む。そして、片足を空に上げる。実に見事な物、180度上がったその長い足を固定したまま、目を瞑り、よろけることもなく微動だにしない。その光景に、何故だか敦紫は武者震いをしてしまう。彼には分かった。
「因みにそれはなんだい?ただの靴ではなさそうだけど‥‥。」
不思議な体勢。そんな事よりも、高々と足を上げた先にある靴。その靴からは、危険を感じるほどの圧が滲み出ている。その靴の周りだけが、歪んだ見えるほど。
「そのコートが似合う漢に成れば教えてやろう。‥‥名を敦紫よ。貴様は何も知らない。知らぬままでは、歩く筈ではあった道を見失う。一度でも、一度でも味わっておけ、届きようのない壁の高さを‥さすれば、見える景色が鮮明に見えるであろう。己の曲がった道を今此処で、正してやろう。」
———襲星
ラーガ”が、その言葉を唱えた後、残像が見えるほどの速さで足を強く、地に向けて振るった。半円を描いた残像の後からは、目が取れるほどの光を放ち、線香花火の様に火花をあげる。そして、踏み込んだ瞬間、その衝撃と共に、途轍もないほどの、風圧が巻き起こると残った火花は瞬時に空へと舞い上がった。
「!?。‥‥?。‥」
焦るほどの威力。周りで生きる木がしなるほどの風。だが、それだけ。また波を起こすわけでもなければ、攻撃とゆう概念ですらなかった。数秒の時、この場では沈黙が場を制す。
(?。‥‥終わり?なのかな。何がしたかったんだろ?‥‥ん??。)
敦紫は、異変を感じある方角へ目を向ける。それは、爆発音がした方角。何もない空。上を見上げても、何もない、それなのに、違和感を感じる。すると、青い空から一つ小さな光が顔を出した。
「‥‥。なに、あれ?」
「光に照らされ、己の道を再確認しろ。」
小さな光は、瞬く間に大きくなってゆく。変わらず空を凝視していると、その光は明らかに可笑しかった。この世界に来て、視力が大幅に上がった敦紫だから、あの彼方にある物質を確認できた。その正体、光、などではなかった。光っている様に見えるだけ、信じられない程の速度をつけて、火を纏い、真っ赤に燃えているだけ。そんな悍ましい物が、この場所目掛け降ってくる。
星が、降ってくる。
「‥‥やばい‥‥‥天‥」
敦紫の咄嗟な判断、だが、言葉が掻き消えた。自然の声が溢れるこの場所に、特大の破壊の音が場を包み込んだ。柱を覆う城壁は吹き飛び、木々がへし折れ、背を伸ばす塔は歪む。敦紫個人に向けられて今、まさに隕石が降ってきた。
爆発とも取れる衝撃で、この辺りは煙に包まれる。そんな煙の中から二つの人影が、
「‥‥。いつみても、この兵器は馬鹿げているな。」
「‥知らないよ。‥‥。」
「ん?あぁ、あとでこっ酷く叱られるだろうな。塔が歪んでしまった。」
「違うよ。そんな事じゃない。あの子は、殺したら駄目なんじゃないの?‥一国の王様が絡んでるし、ケイジュ様も肩を持っていたし‥。ほんと、知らないよ。」
「ふん!今まで何を見ていのだ?フーガよ。」
「‥‥え?」
時間が経てば、上がった煙は晴れていく事。周りには木が無くなった事により、風が強く立った。そして、鮮明になるこの場所には、白いコートを羽織うラーガ”とフーガ”そして、空からやってきた星。それと、
「‥ほら、見てみろ。」
「‥‥嘘‥でしょ。‥あり得ない。‥‥」
「選択した応えは、やはり、喜び‥だったわけだ。」
煙が溶け、二人の目の前には、大きな星。それと、血に染まった赤いシャツを着用し、長く白いコートを靡かせる男が、声も出さず肩を振るわせている。だが、その震えは恐怖などではなかった。彼の顔を見ればわかる事。口元の口角が上がりに上がりきっていた。
「‥。星。‥星なんて降らせれるんだ。この世界は‥‥」
「どうだ?これがこの世界のごく僅かな知識。少しは知れたか?」
隕石がぶつかる最中、人よりは冷静に物事を判断し、動作へと転じる事ができた敦紫であった為、助かっている。上がった身体能力を活かし、先ほど覚えた『天歩』を扱い。隕石とぶつかる。とゆう最悪な状況は免れたものの、身体へのダメージは重く。
「可笑しいよ!!可笑しいって!!隕石だよ。隕石!!なんで生きてるのさ!!」
「‥意味を通せなかった私の力量か、それとも単純に奴が頑丈すぎるか、‥‥分からん。難しい事は‥」
今までの蓄積もあり、視界もぼやけてしまう。血を流し過ぎた。星の衝撃で塔に身体が一度めり込み、身体の骨とゆう骨が折れている。もう、立つ事すらままならない。それでも尚、敦紫は、中断とゆう半端な物は選ばなかった。
「ふふ、いいね。奥の手は最後まで隠すタイプ?。‥僕と同じだよ、一本取られそうだった。」
「ふん。口数は死んでも減る事はなさそうだな。そうだとも。奥の手は、隠すタイプだ。」
「‥‥いいね。悪くない。じゃあ、僕も‥‥」
「ん?だから言っているだろ?奥の手は、最後まで隠すタイプだって、」
「え?」
「敦紫よ。お前は私の攻撃を避けたな?‥‥う、もう私は保たん。」
戦いが始まって、今の今まで、皆は誰を意識しただろう。一発でこの世界の技術を真似た敦紫、それとも足踏みで星を降らしたラーガ”?この戦いには、もう一人参戦者がいた。
巨漢なラーガ”は、力が底を尽きたのか、目を瞑りゆっくりと後ろへと倒れていくそんな最中、人差し指を敦紫に向けて一度だけ彼はリゲイトを発動させた。そして、倒れる大きな身体の背後からは、片手に鞘を、片手に剣を持った男が顔を出す。
「‥‥?」
「‥‥此処までは、したくなかった。でも、僕たちにもプライドがある。君程じゃないけど、変態は一杯見てきた。そして、滅ぼしてきた。」
敦紫は、この戦いで知らず知らずのうちにフーガ”の攻撃を全て避けていた。ラーガ”のリゲイトは何も自由を奪うわけではない。天秤が課せられた直後は、避けるも受けるも自由である。だとすれば、フーガ”の攻撃が当たっていても可笑しくはない。だが、一度も当たらなかった。
避けやすいた太刀筋、利き手が折れ、思う様に剣が触れない中での戦いだったから全てを避けれたのか。違う。身体が避けてしまっていた。彼の攻撃を。
「星の光で何か道は見えたかな?笑ってるし変態だね。ラーガ”の言葉通り、歩く準備は出来たかな?じゃあ、動き出さないとね。‥」
全てが策略。この世界に来た初日、敦紫は怪我をした。それは何でか。そう、このフーガ”が降った剣で。身体は理解する物、一度味わった痛みは、繰り返さぬ為に本能的に避けてしまう。当たればどうなるのかを知っているから。
「今まで、僕の攻撃を避けてくれてありがとう。では、彼の方にすら、隙を作った僕の技を説くと御笑覧あれ。」
リゲイト:「動的待機」
戦いの最中、それなのにフーガ”は、ゆっくりと鞘に剣を納めてゆく。すると、敦紫のありとあらゆる周りからは、動きの止まった斬撃が姿を表してゆく。
「まぁ、知りたがる君だから生きていたら、このリゲイトの事おしえてあげるよ。大きな壁は、知れたかな。味わえたかな?‥‥リゲイト解除。」
チン。と、剣が鞘に収まりきった音がした。そして、フーガ”は、納めた己の武器を今、手放す。
戦鋼番糸:戦闘剣術奥義—『五月雨』
フーガ”は、この戦いの間、敦紫に当てる事なく斬撃を飛ばし続けた。自身のリゲイトを使い、飛ばす事なくその場に固定させていた。ラーガ”のリゲイトにより、今の敦紫には避ける事が不可能。それは、今の為に、強大な敵を穿つ為には集中砲火が一番の得策である。
動的待機。自身が放つ飛び攻撃そのものを一時停止させる事ができる。それは、己が力を振るうものであれば、全てが対象になる。発動中は、それに痛みや感触すらなく、視認すらできない。ではどうやって解除するのか。自身が使って攻撃を仕掛けた手に持つ武器を離し、その武器の動きが止まった瞬間が引き金となる。
絶望的状況。絶対に一度は当たってしまう斬撃。それは、どれかも検討が付かない。何処に当たったとしても、切断される未来。人は、身体の一部を失うと重心を保つのが困難になるが故、その先に来る無数の斬撃を避ける事も困難になる。絶対的絶望。その局面である。それなのに、彼はまだ
「ふふふ、ふふ。‥残念ながら、どうしよも出来ない、届きようのない壁は、何度も味わってきたとも。なんて表現すればいいんだろうね。でも、ラーガ”のお陰で一つ思い出せたよ。」
———『お前何度目だよ。これに懲りて、もう諦めたら?』
———『どうすればいいんだろ?‥君には手も足も出ないね。高すぎる‥とゆうより何も見えない。』
———『何言ってんだよ。頭打って可笑しくなったか?』
「知らされたから、見せられたから、こんな事では、折れない。そして、死なない。さぁ、何処からでも!!」
今、フーガ”の手離した剣が地へと落ちてゆく。無数にばら撒かれた斬撃は、カタカタと動き出してゆく。
そんな最終局面の最中、ある言葉で中断されてしまう。
「‥一体これは、どうゆう事ですか?」
長く細いレイピアで、落ちてゆく剣を受け止め瞬時に上へと跳ね返す。そして、顔を出していた斬撃たちを最も簡単にバラバラにすると、ガラスが割れた様な破片を飛ばし消えてゆく。
「‥痴話喧嘩も大概にして下さい。害虫でもなければ、全てが無駄な殺生になります。禁止された兵器を使い、この場を無茶苦茶にして、貴方達が羽織るコートの意味を知りなさい。」
「‥これは、申し訳ございません。」
「え?」
その言葉に、僕は我に帰る事ができた。周りを見渡せば地獄絵図になっていた事。顔に手を当てれば、一瞬で手が赤く染まるほどの血を流している事。身体中が痛く、立っていれる事がおかしい事。壁はなくなり、生い茂っていた木々は吹き飛び、僕が身体を休めていた塔は歪んでいた事。
「はぁ、もう駄目だ。」
改めて、その場で僕は深呼吸すると、身体の力とゆう力が抜けて、その場で仰向けになって倒れてしまった。丸一日は、立てそうもない。とゆうよりも全身の骨折れていると思う。オーランさんになんて説明しようかな。
僕たちの戦いに歯止めをかけてくれたのは、女性?だと思う。フードを被っていてよく分からない。一瞬だけ見えた、綺麗な黄色の髪の毛に綺麗な瞳だった。この女性が割って入ってくれなかったら、死んでいたかも‥‥
「なんじゃあこれは!!!。おい!何がどうなっとるのじゃあ!!珈琲を注いでいたら途轍もない音がしたから見にきたら‥‥ってえええ!?、わしの塔歪んでない?とゆうよりも壁は何処言ったんじゃ!!あ、お帰り、ユキノ。」
「はい。‥‥それでは、失礼致します。」
怒鳴りながら、足音を立てて出てきたケイジュは、僕たちを止めてくれた女性に、挨拶を交わすと、その女性はお辞儀をして塔の中に入ってしまった。それよりもユキノ”元々いた世界にありそうな名前だ‥。今度、機会があったら話しかけてみよう。
そんな事よりも‥だよね。
「コッラァァァァ!!何寝てんだ!!ラーガ”!!どうすんじゃ!おい、起きろ!!」
小さな身体で杖を投げるケイジュは、バタバタと音を出しながら、気絶するラーガ”を蹴り続けるも起きない。起きるはずなかった。申し訳なさそうに、ひたすらにお辞儀をするフーガ”がいて、僕は気にする事なく、寝そべり空を拝む。
コートを羽織るか羽織らないか、その選択を用いられ始まったこの戦いは、勝者が決まらず急遽として終わってしまった。不完全燃焼では、あるモノの敦紫は満足そうな顔を浮かべていた。
「ねぇ、君は見ているのかな‥‥直ぐにでも君のいる場所に行く筈だったんだけど‥‥少しだけ‥止まる事にするよ。君の知らない事が山程、この世界にはあるんだ。君に少しでも追いつける様に、沢山手札を増やしておくよ。‥‥それと、少しだけ、少しだけ楽しいから。だから、少しだけ待っていて欲しい。」
この空、誰のものでもない大空に手を伸ばす。そして、届くはずのない距離で何かに、誰かに、手を振った。
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「おいおい!!聞いたか?隕石降ってきたらしいぜ。」
「また、襲撃か?最近は物騒だな。」
「どうでもいいじゃねえか!!それよりも呑もうぜ!!」
太陽が丁度、真上に登った時の頃。昼間だとゆうのに、顔を真っ赤にしては、笑い声をあげて3人の男達がテーブルを囲んでいる。
ここは、とある小さな村。高い建物など風車だけ、ちんけな家が、まばらに建てられ、舗装された道もなく、歩けば足跡がよく目立つ。そんな村に一つ、酒場があった。
「さぁ、今日も飲み潰れるぜぇ!!」
「フゥゥゥ!!」
「あれゃ?なくなっちまってる。おーい!!酒追加だい!!」
——「あいよ!!」
この酒場に、一人でせっせと料理を作り、酒を注ぎ切り盛りする黒髪の青年の姿がそこにはあった。