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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
46/53

45”結朱華


 

 「‥‥、」

 「‥ふふ。」

 「なんですか?何か私の顔についていますか?」


 月は焦がれ、陽が足枷を外し登ってくる。その明かりは人々に刺激を与えて活力をもたらす。肌色の土、緑色の草木、その全てが太陽の輝きで鮮明に確認出来るようになる。


 ヒヨドリの森を抜けて、下手な舗装がされた道を歩き見慣れた風景を横切るが、何かと後ろが騒がしい。


 「‥すごい。空気も気持ちいい。‥‥凄いですねぇ!此処は!」

 「‥そうですかね。貴方の世界の方が百倍美しかったですがね。」

 「ふふ、無い物ねだりですね。」


 差し込みし日の出と同じ髪色を持つ女性、名を赤羽(あかばね) 結朱華(ゆずは)。道理は分からないが、私と一緒にこの世界にやってきてしまった。朝目を覚めて隣にいる寝顔の可愛いこの女を見ると、先日の事が嘘ではないと、希望が立たれてしまった。


 今から私が行う事に、仲間は必要としない。邪魔になるだけ、だからこそ、私の事を知る者は全て空に行った。この世界に残った家族であるカミラもようやく翼を生やす事が出来た。何せ、私には鎖がついている。


 カミラの声がよく聞こえるのだ。誰かと話している声が。親しげな物だけに振る舞う温かい声が。


 私ではなく、しっかりと見つける事が出来た。兄として私は嬉しく思う。ようやく一人なれたと、ようやく計画を果たす事ができると。だからこそ、足手纏いになるこんな餓鬼は即刻に道端に捨てたい気分だ。


 仮にも今からリズルゴールド王国へ向かうと言うのに、人数が増えれば人目も気になり、自由に動く事も出来ない。


 「ふふ、意外と綺麗な顔してますね。傷を手当てしてよかったです。」

 「‥‥‥。」


 しかし中々、気分が乗らない。ラーガに叩き込まれた傷がすんなりと治ったのも残念ながらこの女のお陰。役目を果たさず、死ぬところであった私を助けたのだ。与えられた恩を捨てる様な外道な真似は出来ない。


 「??。」


 ならば、支配でもしてやるか?‥


 「‥キャア!(バタァ!)」

 「何処に躓く物があったんですか?」


 それも中々、気が進まない。


 「貴方は一体、何度転ければ気が済むんですか?そんな事ではこの世界で命が何十と有っても足りませんよ。」

 「へへへ、ごめんなさい。」


 鈍臭い女だ。朝起きて、ヒヨドリの森を抜けてリズルに続くこの道を歩く短期間で何十回と、躓き転けている。傷を癒す術を持っている人間が、己の体に傷を付けて何をやっているのか。聞いて呆れてしまう。だが、そんな彼女は‥


 「‥、先ほどの擦り傷は?」

 「え?。転けはしましたが、怪我はしていないかもです。」


 ハッキリとしない発言、物事を円滑に進める為にはしっかりとした情報提供が大事のはずだが、自分が転けて怪我をしていたかすら、あやふやな回答。だがしかし、私はみていた転けた時に擦り傷を負っている事を。それも何十回と、なのに何故


 「‥‥(何処にも怪我が無いのだ。‥私の見間違い?‥)」

 「‥‥??。」

 「まぁいい。貴方もしかして魔族ですか?」

 「魔族??悪魔みたいな?ハロウィンみたいですね。」

 「‥‥‥」


 この女と会話をしていると、あのデブと同じく調子が崩れて敵わない。


 「‥違いますよ。小馬鹿にしているので‥‥」


  「おい!!そこのわけぇ二人!」


 「?。」


 最後の平和を嗜むこの時間に、横入りする鬱陶しい存在。腹は出て、錆びた刃物を舐めて、肩には何やら棘の鎧をつけて下品な笑い声を挙げると共に、指笛を鳴らし周りからうじゃうじゃと湧き出てくる。


 「‥え?。頭モヒカン‥‥肩パッド?‥‥北◯の」

 「しぃ!!」

 「んんん!ぷはぁ!いきなり何するんですか。」

 「それはコチラのセリフですよ!そんな発言、この物語が終わってしまいますよ。考えて喋ってください!」

 「何がダメなんですか!!北◯の◯って言っただけじゃ無いですか!」

 「それが!ダメなんです!頭おかしいですか!?貴方は!もう喋らないで下さい!」


 その会話の最中、重心がブレた立ち振る舞いと、動作を知らず手順を吹っ飛ばした弓の弾く音が聞こえた。そんな鈍ら同然な矢を、当たる事の方が難しい私は、飛んできた矢を見ずに指で鋏止める。

 

 「なぁ!?おい!俺ら忘れてイチャついてんじゃねぇぞ!えっーと。包帯ぐるぐる巻き男でも無い。草履を履いた寝癖男でも無い。‥‥」

 「?」

 「よし!!そこのカップル!!そのお嬢さんをこっちに寄越せ!そうすれば、その綺麗な服を着たお前さんの命は見逃してやる。」


 見る目もない、馬鹿な面をして発現内容も馬鹿と来た。素性も力もその目で確認出来ないお前らには、呆れて物も言えない。


 「カップル!?何処をどう見たらカップルになるですか!!そもそも私はそう言う趣味を持ってないですし!好きな人がいるんですぅ!!」

 「もう!!黙ってて下さい貴方は!!」

 

 隙ありだ。と声が聞こえて来ると周りにいた男達は、私達に向けて矢の標準を合わせに一気に打ち込んでくる。

 馬鹿丸出し。


 人数が多ければ、矢が多ければ、良い訳ではないと言うのに。


 「天然さん。此処に立ってて下さい。」

 「え?。きゃああああ!!」


 私はうるさい天然娘をある場所に行けと命じ、私はこの場所から姿を消す。矢の弾道は彼女の立つ位置へ一斉に向かい矢元がキラリとひかる。放物線を描いた無数の矢は、今彼女の身体に降り注ぐ。しかし


 「‥‥あれ?‥‥刺さってない。」

 「ほんと‥‥うるさい人ですねぇ。」


 降り注いだ無数の矢は、蹲る結朱華の周りに突き刺さり、事なきを終えると、結朱華の頭上から声が聞こえる。頭は地に向けて、空を歩いてるかの様に綺麗な宙返りを見せる。


 「なぁ!?避けられた。」


 舐めてもらっては困る。矢の速度と弾道を見れば、最終何処に落ち刺さるのか、風を読み的確に答えを出す事が出来る。だから言ったのだ、数ではないと。矢は一本で十分。的確に、根源となる者を見つけ出し、寸分の狂いもなく放ち滅ぼす。これが私とお母様が持つ『正確さ』。


 「貴方達の存在を否定しませんが、易々と弓矢を使われては、癪に触ります。多くは傷つけません。なので‥‥あなた死んで下さい。」

 「うがぁぁ!?」


 この集団の中で一番肥えた男の腹には血が滲み出る。胸元には、今にも燃え消えそうな漆黒の矢が刺さっている。抜こうにも、触れやしない。激痛と共に膝から崩れ落ちると、襲人の後頭部狙って魔法を放とうとする。


 それを見て、仲間の襲人達は懐から剣を抜き「野郎ォォ!」と振りかぶりアニスの元へと全身全力で牙を剥く。


 「‥はぁぁ、牙を向けていいのか、駄目なのか、選眼を鍛えるべきだ。‥でないと、直ぐに死にますよ?」


 頭上にまた矢を出現させると、走り迫る男の心の臓を目視し、狙いを定めて下ろしてあるその手の指を動かそうとする。


 「駄目!!」

 「‥‥、なにをする!?」


 矢を放とうとした直後、アニスの背後に回った結朱華がその攻撃を止めるべく、なんとアニスの動きを拘束する様に抱きついたのだ。貧弱な力では拘束とまでは行かなく振り解き、至近距離まで近づかれた男にブレた矢を放つ。運がいい事に丁度剣を握る手に刺さり、危機一髪であった。


 「ぐぁぁ!!手がァァ!、」


 手を抑えて倒れ込む一人の襲人、周囲では静止したアニスを確認した他の襲人がその目を盗み、大量に出血したリーダー格の男を引っ張り、一箇所に固まる。


 「‥‥。貴方、今何をしたのか。わかっていますか?」

 「‥。ええ、理解しています。」

 「‥、返答によっては貴方を此処で殺しますよ?」


 パチィン!!


 頬を叩く音共に、それを目の当たりにする柄の悪い襲人達は奥歯をガタガタと鳴らす。どの世界でも、どんな生物でも、怒りを表した女性は男にとって物凄く怖いのだ。男と違って、力を振るったり大声を荒げたり、大きさを表現しない。態々そんな事しない。


 「‥‥‥。」

 「人は‥いずれ死にます。貴方は知りませんが、命は一つ。生きる上で大切な物は沢山出来るでしょう。ですが命は一つ。‥‥命程に大切な物はこの世にありません。」

 「‥ふん。だから私は命を守る為に刈り取られる前に、先手を打っただけ、至極普通。殺される前に殺す。それがこの世界の常し—-


  パチィン!!


 「ヒィ!!」


 もう一度、高い音がこの場所で鳴り響き、襲人達は弱い声を上げて身を寄せ合う。今、相手は隙だらけそれなのに動く事は許されていない。遠く彼方で起こる現象に男とゆう種族が立ち入る隙など無い。黒く礼装に包まれた者に二回も平手打ちを繰り出す女性が、怖くて怖くてたまらない。真っ赤な目は、その怒りに満ち溢れ瞳孔が開いている。


 「‥、」

 「普通?この世界に普通?。笑わせるのも大概にして下さい。奇跡ばかり、命がある時点で奇跡に等しい。‥‥、軽はずみでその言葉を吐いては行けない。」

 「えぇ、軽い気持ちなど持っていませんよ。軽んじているのは、あなた方でしょう。‥‥死んでしまうから、尊い?‥笑わせるな。どれだけ平和な国で生きてきたんですか?‥目の前で母親を‥弟の死体を‥‥見たことも無いくせに。」


 あの‥‥‥。


 この状況、襲人達は目的を忘れて血を流す者の手当てをする中、殺伐とした空気に見舞われ帰りたくて仕方がなかった。他をあたろうと‥、そのまま立ち去れば良いものの、両者の湧き出る絶え間ない怒りの覇気に、許しを乞う。だが、


 「黙れ!!」

 「黙ってて!!」


 ‥‥‥。


 その願いは惜しくも敵わず。縮こまる襲人達、その肩を叩き、指示を出す瀕死状態のリーダー格。その最果では、大きな大きな火花が上がりぶつかっている。


 「だからこそです!!その人たちが紡いだ命が貴方なの!!命は背負うもの、背負い纏めて大きな一つになり、貴方にとって大きな価値となるの!!」

 「価値価値うるさい!!貴様らが指標だろ!!そんな言葉!!‥‥貴様らが作ったのだろうが!!価値や平等など反吐の出る言葉を!!」

 「えぇ、そうですね!!反吐が出ますよね!!反吐が出る様な事を貴方はしてるんですよ!!気付いたらどうですか!!」

 「はぁはぁ。‥‥上から物を‥‥。」

 「はぁ、はぁ、ああ言えばこう言って‥‥。」


 互いに同じ土壌。歳を忘れ、地位を忘れ、性別すら忘れて、想いのままぶつかる。アスター”アニス。皇の名を冠する力を手に入れ八器統殲とゆう玉座に座る男。魔法を巧みに扱うその姿と決して揺るがぬ正確さを誇る弓矢は、狙われれば死あるのみとされる。


 アスター”アニスと言う言葉すら口に出しては行けない。そう知るものは語る。


 アスターの人生、言い合った相手は数知れず、言葉の誤やを取り、絶対的力の前に服従させてきた。それが彼の役目だと、時には言葉でも力でも解決できない相手の存在を知り乖離内に合った。


 何度も、立ち会ってきた。自分の考えを否定する者と、苛立ちと冷静さを兼ね備えて言葉を発してきた。


 しかし、アニスの人生、一度も味わった事のない感覚に襲われる。怒りと悔しさと悩みと辛さと、その全てを冷静さを捨てて吐き出す。何も変わらないのは百も承知なのだが、止められないでいる。この感覚が分からなかった。


 「‥甘い考えは、身を滅ぼす。‥‥」

 「そうですね。そっくりそのままお返ししますよ。」

 「黙れぇ!!お前の心の奥底を覗くと反吐が出る!1ミリとりとも苦労のない人生、風景を見てきたから。他人に説教出来るのだ!!味わえるのか!!味わえると言うのか!!目の前で命が掻き消える瞬間を!!」


 全てを吐き出す。溜めていた感情。表には出さないと決めた感情を曝け出す。自分に勝る不幸はないと、是が非でも目の前に立つ女性に示しをつけたかった。命、命と、誑かし戯言を吐くこの女に知らしめたかった。如何に恵まれて育ったか。如何に平和で戦いのない世界で育ったか。


 でも。

 

 「‥‥味わえない。もう、味わいたくない。私は、その瞬間すらその場に居なかった。‥。私の居ないところで私に会う為に‥私には見せずに‥死んでしまった。‥‥、目の前で、助かる助けないではなく。急に居なくなったんです。私の目の前から。」

 「‥‥‥。殺された訳ではない。‥それで、私と同じ土俵に立ったつもりか?」

 「‥誰かに、何かに、殺されてはいません。私が、殺したんです。私がドジだから。‥それを心配して駆けつけようとして‥‥、私の想いも言えず消えてしまいました。」


 あれだけ強張った表情も、沸々と湧き上がる魔胞子も、その言葉を聞き冷めてゆく。それは、自分よりも悲しい過去があったから、アニスの表情が冷めた訳ではない。実に滑稽だったから、如何に浅はかだったから。目の前で覇気を解いた女性の弱った口振りに、歪んだ表情を見ると、憐れみすら感じた。


 少しだけ、‥‥自分を見ている様な‥気がして


 「実に、哀れだ。‥‥、そんな事では、!?!?」


 気が付いたら時には遅かった。口喧嘩とも取れるこの状況下で、周りの事などそっちのけで行っていた為、警戒が薄くなってしまった。晴れて広くなった視界には、刃を光らせて、その剣を天に掲げる襲人がアニス目の前に一人。


 それの何が驚く事なのか。焦る様な行動でも相手でもない、魔法に矢に皇種の力を使うまで。そもそも簡単に避けれる。命を守る為に。色んな物がこの体に備わっている。問題はない。


 「ひゃはぁ!隙ありだぁ!!」

 「え?」


 そう、アニスであればの話。しかし、今剣を天に掲げる男の向きは、アニスの目の前。ともなれば、この攻撃が向かう的はただ一つ。萎れた花の様に哀しげな顔を作る一輪の赤い女性。


 口喧嘩のせいで気が動転してしまい、全ての動作が遅れてしまう。間に合わぬ時間、力を使い始める初動頃にはその刃は彼女の肩に接触。彼女が邪魔で最速を誇る矢すら出せない。もう、手を打つ事は出来ない。


 また、目の前で殺される。‥初めて喧嘩とゆう者を知り、した仲である彼女を。傷を癒してくれた暖かなる彼女を。鏡に映る自分を。


 「‥‥‥。ふん。」


 「‥‥‥‥‥れ?‥」

 

 振りかざし、下ろす動作を急遽止める男。剣を持つその手首には、冷たく硬い感触。男が武器として扱う貧相な武器よりも遥かに立派な物だと伺える。長くその色づいた髪の毛はこの大地には少し似合わず、刹那の瞬間に現れた存在感が際立つ。


 「‥‥‥この手をどうするつもりですか?。私はそこにいる腹黒執事さんとは違い、チャンスを与えます。よく考えて次の瞬間を生きてください。」


 向けられた長い光沢のある剣、銀色の鎧に身に纏われ胸元には白銀の鷲が刻印されている。優しく慈悲のある声色ではあるが、その者の眼光は研ぎ澄まされた威嚇の眼差し。


 その目と実力に怯え、刃こぼれした剣を手放すと両手を上げる。向こうの方で胸元を押さえては瀕死状態のリーダー格から「チィ。」と舌打ちの音が聞こえた。


 白旗を上げた襲人を見て剣をしまうと、それを確認した襲人の男は一目散に、群れて座り込む男達の元へと帰ってゆく。鎧を纏った者は、アニスと結朱華を素通りすると大半が戦意損失している襲人達の元へ歩いてゆく。


 どうも違和感、放たれる気迫は王国騎士団その物、腰に使わせる武器も命を喰ら実物。それなのにどうも違和感を感じる襲人達。


 「‥‥‥、クワ。‥」

 「!?。」

 「いや、その呼び方は駄目でしたっけ?‥聞きましたよ。‥‥先日、私の大切な師を襲ったみたいですね。」


 美しく、凛とした佇まい、細い腕に綺麗な髪を纏めた髪留め。


 「‥‥、復讐とか嫌いなんです。だから、此処から立ち去ってください。さもなくば‥‥。」

 

 か弱い乙女、襲人の年齢からすれば娘の様な差、怖いはずもない、何度も王国騎士団ですら襲ってきた。中には、戦鋼番糸に属する者を襲う仲間もいる。やってきた事は外道ではあるがある程度の場数と経験を踏んだ集団。それが襲人である。


 手も足も出なかったアニスは当然の事だ。誰もが恐れる八器統殲の玉座に座る者。だが、彼女は王国騎士団、狩られる存在でもある。それなのに、近づいてくるその彼女とゆう存在が弱肉強食の世界を連想させられる。


 群れても勝てるのか?。と。


 「‥あ、でもこんな事言ったらビンタされますね。‥」

 「‥‥‥ヒィ!分かったわかった!野郎!ずらかるぞぉ!」


 彼女のその目に怯えて、立つ事は叶わぬ肥えた男をみんなで担ぎ足早にこの場所から出て行ってしまう。この場所に残るのは三人の花。


 「‥‥、。久しぶりですねぇ。しかし、やはり似合わない。ドレスを着てシャンデリアの下で踊っている方が、お似合いですよ。ヘレン”クロリス。」

 「‥ご指摘ありがとうございます。ですが、私には踊る相手など居ませんから。お召し物は必要ありません。戦場に立つ方が有意義です。」


 理解が追いつかない赤い花を置いていき、他ニ名は目の色を変えて、平静さを装い見つめ合う。


 「ふん。ご冗談も嗜む様になりましたか?。いるではありませんか?魔胞子も、剣技もゴミ同然。猿芸しか出来ず、目の前で恩人を見殺しにして悠々と生きる‥‥あの寝癖が特徴の体たらくな男が。」

 「‥‥‥‥。?。誰の事やら?。」


 笑顔で言葉を返すヘレン。笑顔、それは誰もが見惚れるであろう美女の笑顔。男ならイチコロだろう。だが不適で挑発じみた笑みを浮かべアニスの後ろ、結朱華だけは感じとる。女だからわかる。


 「‥あら、これは可哀想に。まぁ、存在感すら薄い男だったので、忘れるのも当然か。」

 「‥‥‥。忘れるのが、最近の悩みでしてね。」


 結朱華は分かる。心拍数を抑える声、ハッキリと分かる。鎧を纏い太陽の光によって金色に輝く艶のある髪を持った女性は、ブチギレていると。


 「‥‥、あのクソガキはお元気ですか?‥‥中途半端な人間、歩き方もままならない。どうせ、呑気に—-」


 押さえれぬ噴火の落とし蓋。アニスの会話の最中には、しまっていた剣を抜き、風の如くアニスの元へ接近。狼狽える事なくアニスはまだ行動に移さず手を後ろに組んだまま仁王立ち。その足元、フワリと上がる金色の髪を泳がせて、剣を一度引きしゃがんだ体制。ヘレンの的はアニスの喉仏へと殺意を帯びた剣先が向かう。


 「ダメェェ!!」

 「!?。」

 「‥‥‥‥ふん。また、貴方ですか。」


 声で動きを止めた。男では出来ぬ所業。女性だからこそ、こうなった時の止め方もよく分かっている。


 「‥‥、命拾いしましたね?。ヘレン”クロリス。」

 「それは、此方のセリフですよ?。腹黒さん。彼の方の歩き方に首を突っ込めるのは私だけ。でしゃばらないで下さい。」


 ヘレンの剣先は、アニスの喉元へ数センチの距離。対抗、アニスの矢は、ヘレンの背後に無数出現している状態であった。お互いに止まったものの、一人は掠れた笑い声を漏らし、もう一人は止まらない様子の様だ。


 「‥、貴方、分かっていますか?‥、その行為はアスター”アニスの肩を持つと言う事になるのですよ?。‥知らずに、その行動を取っているのなら、教えてあげますよ。この男の罪状を‥‥。」

 「ふふ、そう言っていますが。結朱華さん。この女に付くならどうぞお好きに。」


 頭を傾げている様子、困惑しているのでしょう。私といれば、命は無い。私が歩く道は千の棘。此処で、私の元から離れてくれれば好都合だ。一人の方が何十倍も動きやすい。


 「‥、この男が犯した‥‥」

 「はい。じゃあこの人の肩を持ちますね。はい。(ポォン)」


 「へぇ?」

 「ん?」


 凶器が今も尚、命を喰らおうとするこの現場で、周囲にはアニスが出現させた無数の矢があるこの現場で、結朱華はアニスの肩に手を乗せる。言葉の意を真っ直ぐに解釈した行動に歴戦を喰い括ってきた両者の脳内は、一瞬止まってしまう。

 結朱華は、少しだけ少しだけ彼に似ている。幼馴染にいる天才くんにはいつもよく言われていた事があった。「君は本当に天然だね」と。


 「‥、はぁぁ。あなたねぇ。」

 「え?え?」


 「と言う事で!この話はこれで終わり!!それでは!」

 「勝手な事を‥はぁぁ。」

 「はいはい、いきますよぉ。」


 「え、あ、えぇ?」


 カタンとヘレンが持つ剣先が地面に当たる音と、周りに配置された矢達が一瞬にして散りとなり消えていく。肩を持った結朱華はアニスを回転させて明日の方向へ身体を向かせると、力一杯にその背中を押して、大きなハテナを浮かべるヘレンを置いてけぼりにし、そそくさと退場してゆく。


 ヘレンはと言うと、


 「‥え?肩?‥‥肩を持つのは、その物理的な話じゃなくて‥‥え?、‥‥あ、ちょっと。」


 驚異的な攻撃により、成す術もなく動けずに砂埃をあげて移動するアニス達の姿を眺める事しかできなかった。

 


  —————————————————————



 「はぁ、はぁ、はぁ。最近、国の外に出歩く奴らは、全員やべぇ奴しかいないじゃないですか。頭!」

 「包帯に、草履に、アイツら三人もだ。ったく運が悪りぃ。とりあえず、俺らの拠点は距離がある。センテインピードの近くで拠点張ってるアイツらの所に行って先ずは手当だ!!」

 「へい!!」


 惜しくも成果を挙げる処か、猛獣に見つかった為に逃げている襲人一向。この襲人達は各地に拠点があり、その場所で衣食住をこなしている。アニス達と立ち会ったこの連中は最近、獲物を取れていないでいるこの区間の応援といった所で、遠い地域からやってきた身。羽休みにと、少し前天傘敦紫が乖離打ちにした襲人達の元へ足を運んでいる。


 「‥まだか、いてぇ。」

 「もう少しですから!耐えて下さい頭。って、あれ?」


 アニスに刺された箇所は胸の場所、運が良かったのか心臓の真逆の向きに刺されており絶命は逃れられて入る。ただ、しっかりとした手当てをしなければ塞がらない傷に、一向は急いで、同胞の拠点に向かう。そんな道半ば


 「‥‥、あんな所に‥‥子供?」

 「へへ、運が悪りぃ子供だ。」


 リーダーである男を担ぐ数人の男達、そして先人を切って走る男2名は、前方に人影を見つける。それは、身長が膝下程度だろうか、何かをして遊んでいるのか。長い長い棒の様な物を持ち歩いていた。しかも、一人で。


 「おーい!頭!」

 「う、なんだ、ついたのか!」

 「いえ!同胞の拠点はあそこを走ればありますんで、」

 「??。」

 「俺たちは、あの餓鬼、とっ捕まえて人質にでも。と、」

 「馬鹿か!見た目に判断されるなぁ!いてて、うぅ、」


 激痛は更にひどく、耐えれなくなり担がれる状態で気を失ってしまった。焦った物達は早急にとセンテインピードへ向かおうとする中、

 

 「‥おい!いくぞ!」

 「いいよ。先言っとけ!」

 「はぁぁ、精々、死ぬなよ。」

 「分かってるわ!」


 群れた襲人達はそそくさと拠点に向かってしまう。先陣を切っていた筈の二人組だけが、懐に手を潜り込ませて、テクテクと歩く少年に近づく。

 

 「おい。そこの坊ちゃん。何したんだ?そんな所で。」

 

 大声で、声をかけてみる。逃げられた所で大人の足には敵わない。だからこそ近づく前に声を変えて選別する。逃げるのなら、何かいい物を持っているかもしれないから。ただ、前を向いて歩いていた為、一人の男が何かに足を引っ掛けて転けてしまった。


 「何してんだよ。」

 「イテテ。って、あれ?何これ。」


 何に躓いたのか。それは、向こうにいる少年が持つ長い長い棒の様なものに。


 「‥‥よく、こんな長い物をもてんな。どれぐらいあんだよ長さ。」

 「分かんない。」


 それは不自然な長さ、木でもなければ、棒でもなかった。その異様な長さをした物体の正体がわかった頃に、声が聞こえてきた。


 「おーい!!どうしたのぉ!!」


 「え、あぁ。こんな所でなにしてんだぁ!子供が一人で出歩いたら危ないってママに教わらなかったか!!」


 「あぁ!!そうだねぇ!だから、そう教えてるさ!!でも、用事があって此処まできたからねぇ!!仕方ないんだぁ!!古い古い友人の‥相棒の‥‥最後の顔をね!見にきたんだ!!」


 その会話が最後。


 後に、同胞の拠点であるセンテインピードの麓で手当てをしてもらい無事に一命を取り留めた他地域の襲人達は、最後に別れた二人の帰りを待っていたが、いつになっても帰って来ることは、‥無かった。

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