42”私の説明は全て嘘である。
「それがお兄様。それが貴方にも巡り迷惑をかけた、本当に申し訳ありませんでした。」
惑わしの森奥深く、空には星と誰かに呼ばれ運ばれた雲が一つ。光は微量な程度、樹冠が犇めき合うこの場所には全くと言って輝きはない。真っ暗その物。その一部で寝癖をつけて胡座を描く男の前で綺麗な土下座を見せるカミラ。
綺麗な土下座、それを受けて眺めて黙ったまま胡座を描く翔の姿。シフォンから新しく貰らった甚兵衛が揺れると、胸な元に手を入れて何かを探す仕草。お目当てのものが無かったのか、ポケットに手を突っ込むがそこにもなかった。
「‥‥。はぁぁぁ。そうだ禁煙中なんだった。で、もう良いよ。見せられても気分は良くない。」
「‥‥‥、許しを請おなどは思っておりません。私で良ければ煮るなり焼くなり‥。」
「良いって、お前関係ねぇだから。お前は今まで通りにしとけよ。んで、兄貴は許す事はない。」
カミラが水を汲みに行った午前の時、シフォンと出会し翔の過去を知った。
カミラの兄であるアニスが翔を呼び寄せ、翔に無理難題を押し付けた事、アニスがスイレ王国に火の雨を降られせたその罪を翔に被せ、追われながらもこの村にやってきた事。翔本人の目の前で恩人である者を目の前でアニスが殺した事。
何方も家族の様な存在、どちらかに肩を持ちたくはなかった。持つ気は微塵もなかった。
「‥、カミラは正直者だな。間違ってもアニスはお前の家族。守ってあげたいと思うのが普通じゃねえか?。」
「はい。シフォン様からお聞きし、隠し通そうか一瞬ではありますが思いました。でも、私の大切な大切な家族の言葉のお陰で嘘を吐く選択はなかったみたいです。」
「‥‥?。」
「‥聞いてくれますか?私達の過去。私の思い出を。そして、お兄様がどうしてこうなってしまった事を。お時間が許す限り、宜しいですか?。」
「あぁ、‥‥‥良いぜ。」
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「‥‥‥。」
「‥、夜になるのも早くなってきたね。」
「そうだね。」
此処はリズルゴールド王国。ある者達がいる場所とは違い、風を通す事もなく光を自由に調整できる。フカフカの椅子があり、古びた机の上には湯気が立つ珈琲とお茶がある。血がこびり付いた地面では無く、荒んだ赤い色をした絨毯が引かれている。
「‥と、まぁこれが君の飲んだ『皇種』だ。リゲイトの上位互換など言葉の誤り。指定も範囲も自由、種を持つ者は勝手気ままに能力を使える。」
「‥‥‥‥。」
「リゲイトの関与も出来ない。純粋な剣技や拳術などでは太刀打ち出来ない。」
人には『欲』があり、『感情』がある。人間としてはごく当たり前の事。何かが欲しい、何かをしたい、あるいは誰かに何かをしてあげたいと、その全てをコントロールして生きている。
生きる為に必要な欲は、時にこんな事が起きてしまう。例えば、眠たい、そして腹が減った、が同時に襲って来るとしよう。何方も卒無く同時進行は出来るかと言えば、私たちの体は一つ、単純な考え出来ないのだ。
でも、どちらもしたい。しなければ死んでしまうかもしれない、我慢で来ない、それが俗に言う欲である。
今話したのが定義、これに関しては他人にあまり危害を加えない為、勝手にしていろと大口を叩ける。
しかし厄介なのが、一人一人発散方法も違い、出現方法も変わって来る感情。これが実に恐ろしい。
感情は自由気ままにされては危害を被る。喜怒哀楽、これらのどれかを目に入れただけでも影響を及ぼす。況してや、行動に移されてしまった日には尚更である。楽しい事も辛い事も、己の勝手で芽生えた感情は、良くも悪くも大きな影響を及ぼす。
人に危害を加えてしまう様な『感情』には細心の注意を払わなければいけない。
そんな危険な物が、形となり力となった産物を『皇種』と言う。
欲から少し離れ、大いに距離が近く、感情が入り混じった物を『皇種』と言った。
叶わぬ願いや野望を『欲』っするあまりに、溢れた『感情』は辺りの景色を見えなくさせる。
それが『皇種』。盲目の力と言われる所以である。
「‥恋は盲目、みたいな所だね。」
「?。恋は、盲目なのか?」
「ふふ、表現だよ。あっちの世界で使う言葉さ。‥でもなんでそんなややこしい種を僕は渡されたんだろう。」
「‥知る由もないさ、これが本心。種を飲んだ奴は片っ端から頭の捻子が外れている。‥‥馬鹿で無頓着な人間の集まりだ。」
「‥?」
「とりあえずだ。君のその力は伏せておく事、ドクレス君にも釘を刺しておいたから」
「分かったよ。‥‥所で‥」
「‥あぁ、明日の朝、建国者の銅像が立った中央広場に来てくれ、私達は読めぬが、此方の世界ではない君の目で有れば何かわかるかもしらん。案内するよ『大異本棚』に。」
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「‥、私たちには当然、育てていただいた家族がございます。名をフレスト・メティス。偉大なお母様が居ました。」
「フレスト・メティス。‥‥、」
孤独に戦った平和の見守り陰と、知る者は語る。そんな彼女には、魔族との子、フレスト”カミラと、アスター・アニス。孤独に戦っていた人生とは不釣り合いな程、ずっとずっと側にいてくれた彼女。小さな羽が生えて、片方にしか角がない私達の頭を優しく撫でてくれた人。
平和の一矢と言われていた頃の彼女は、ある女性に会う為、いつもの様に一人でこの惑わしの森を横切り目的地に向かう。そんな時、声が聞こえた。泣き声が聞こえた。子供の泣き声が。フレストも人の子、黙って見過ごす訳には行かない。危険だと言われたこの森に足を踏み入れて描き回った。
すると、小さな小さな女の子が頭から血を流し泣いていたのだ。すかさず彼女は、その少女を優しく抱きしめて傷を手当てしてあげると、いつの間にその少女は眠ってしまい、安心したのだと安堵のため息を吐く。
だがしかし、忘れていた。此処は惑わしの森、人が入り込んで仕舞えばこの樹海に溺れ一生を終える。案の定、来た道が分からなくなり出る事が不可能になってしまった彼女。しかし、死ぬ訳には行かない。腕の中でくるまる女の子を無事、外の世界に連れ出さなければ行けない。まだまだスイレ王国を見届けなければ行けない。それが使命であり約束だから。
彼女は走りに走った。躊躇いもなく生える樹木を避けながら、しかし一向に外へと繋がる光が見えてこない。それに加えて、時間が経ち夜になってしまった。
持ってきたのも自分が飲めるほどの水、食料など持ってきていない。根っこに足をかけ何度も転び膝や手からは血が滲み出るも、背で眠る子供の手当をした時に緊急用の包帯諸々を使ってしまった為、手当て出来ない。
「助けて」と、生まれて初めてこの口から出た。一度たりとも、この人生で言ったことがなかった言葉を、この森で放った。しかし、惑わしの森、外にいる者たちに声など届くわけがない。そして、彼女もまた気を失ってしまう。
「‥‥そんなお母様を助けたのが、私のお父様です。お父様だけが、この森を自由に行き来できた。お母様とお父様は恋に落ちてやがて私が生まれました。」
「‥‥‥。」
「お兄様も私も、幼い頃はお母様にピッタリとくっ付き離れなかったんですよ。ふふ。」
やがて、私たちも言葉を理解し、器用に身体を動かす年齢。お母様は、私達に己を守るための術を教えて頂きました。
武術でも、魔法でもない、弓矢の扱い方を。——
———
「いい?。先ずは、足踏み、何処で射るか。それが重要になる。そう、良いわね上出来よ。射法には一連の動作がある。しっかりとその動作に則り、この矢を何処に飛ばすか、貴方の目で決めるの。すると、」
私の横で矢が真っ直ぐ飛んでいった。惑わしの森に生える樹木に簡易的に描いた的の真ん中に綺麗に刺さる。私が生まれる前から、お兄様はお母様に教えられたその卓越された矢の扱い、姿勢は整い、的に目を離さない。動かす手はどれも正確で、唯一無二。
私も射る事は出来るが、兄様の様にお母様の様に正確ではない。
「‥‥‥。」
覚えが悪い私、不器用な私には到底不可能だと、落ち込んだ幼き頃、木陰で拗ねては矢を飛ばすお兄様の事を見つめていた。すると、
「‥どうしたの?、」
「‥‥‥。」
無口な私、意思疎通も計れない。そんな私の顔色を見て、
「‥大丈夫だよ。カミラも出来る様になる。きっと。ママみたいに、」
「そうよ。やりたい。そう思えるなら必ず出来る!。但し!他にやりたい事があるならそちらを優先する事!ブレるから、きっと。」
お父様はあまり帰ってこないけれど、優しいお兄様とお母様、私はこれ以外に必要な物などこの世界にはないと、生まれて間もない餓鬼が想いました。
順風満帆な人生、帰ってきたお父様には魔法の稽古つけてもらい、お母様とお兄様はこの森に住む動物達の命を感謝を持って、持ち帰る。家族団欒で母の手料を食べる私達は、大変笑顔だったのでしょう。
しかし、突然お母様は何処かへ行ってしまった。『帰って来るから。』と、言い残し私たちを残し何処かへ行ってしまった。帰るからと、言われた物のそれは嘘だと餓鬼であった私ですら分かってしまう様な弱ったお母様の声色に顔色。
最初は良かった。お母様が何処かへ行ってしまった後、お兄様もこの森から外へと出でいく様になり、度々帰ってきては、お母様とお話しが出来たと喜んでいました。
その話を聞き、生きていると嬉しい気持ち。
ならば、私の様な者が出来るのはただ一つ、また家族が食事を囲んで楽しく寛げる我が家で、待っていようと。帰れる居場所を守っていこうと。
長い月日が経ちました。まだまだ大人から見れば餓鬼ではある私も、何がダメで何が正しいかを自分の芯を持って選び抜ける様になりました。そんなある日、
「‥‥、カミラ、私は少し外の世界を歩き回りたいと思います。寂しくなりますが、少しだけ待っていて下さい。きっと、お母様と帰ってきますから。」
と、私も連れて行けと、懇願しましたが危険だと言い、連れては言ってくれませんでした。貴方には貴方のやるべき事がある。貴方は私ではないと。
——————-“
「そして、今はぐちゃぐちゃになってしまったあの家で、待ち続けました。別れ際、お兄様から貰った問題を紐解くため、色々な事を考えました。」
「‥‥‥。」
「考えながらも、お兄様やお母様の様に弓を担ぎ、今晩の食事をと、家から出て行き、無事目的は達成。我が家に帰ろうと足を運ぶと、声が聞こえたんです。人の声が」
嬉しくなり、飛び出し家に向かいましたが、招かれざる客人。
その者達に私は一度、殺されてしまいました。
ただ、待ち続けた私が呆気なく死んでしまいました。
「‥‥‥、。」
「何故だか生きていましたが‥‥ふふ。あの時‥死んで、いや死にかけて悔いは無かった。そう思えるんです。」
「‥‥。」
「初めて、友達が出来たんです。家族と同じぐらい大切な人。‥‥大変、可笑しな方ですがね。」
「それゃあ、会ってみたい。」
「‥‥‥、もう会えませんよ。死んでしまったらしいので‥‥知人に聞いた話ですが。」
「‥‥‥。そうか。」
何故だか生きていた私、目を開ければ親しみのある我が家、見慣れた風景が広がっていました。長い長い夢を見ていた私、身体は大きくなっており、時間も大分進んでおりました。夢の中で心残りは沢山ある物の、私の使命を真っ当しなければいけません。相も変わらず私は夢の中で習得した料理をこの世界で作り、食べて過ごしていました。
何故だか、魔胞子を見る事ができなくなり、空いた時間はただ、あの人達を待ち続けるのみ。しかし、一向に帰ってきません。欠伸をしながら、外に出て行きうたた寝を覚えた私は、ある人物に勝つ為試行錯誤しながら、空に浮かぶ雲を眺めていた所に、彼の方が帰ってきました。
「‥‥見られるのであれば‥‥目を潰す?。そんな事無理な話ですね。‥‥彼の方は何が見えているのか‥‥。いつか‥空の向こうで逢えた時‥‥」
「‥‥‥カミラ?‥‥カミラなのか?‥‥。何故‥‥」
「おぉ!!お帰りなさいませ!」
柄にも無く、喜びが込み上げ帰ってきたお兄様に抱きつこうと走って行きました。しかし、
「‥止まれ。何故?。生きている?。」
私も分からない。そう言いましたが、疑っているご様子。それも可笑しくはありません。何せ、お兄様の目の前で殺されたのですから。しかし、私は生きている。弁明をと、私達しか知り得ない、約束の言葉を放ちます。この間もずっと、此方を睨み続けていました。
私の必死の弁明により、なんとかお兄様は信じて下さいました。ですが、
「‥‥どうですか?お母様とは‥‥と言うよりも少し変わりました?、‥‥‥お」
私が名前を申し上げようとした所、私の胸にはお兄様の指が一本。何かを唱えた後、
「その呼び方はよせ、私はお前の兄だ。その呼び方は許さんぞ。そして、もう私から離れるな、」
とは、言われても、私はこの家で皆様を待たなければいけない使命がございます。お兄様はまた何処かに出掛けられますし、無理な話でないかと
「‥‥、お前に鎖をつけた。何があれば引き寄せる。分かったな?。どんな場所にいても声を出せ、分かったな?。」
名前も、風合いも、声色も、顔色も、髪型もすっかり変わり、体型もガラリと変わられたお兄様の言葉はそれでした。その後からは、お兄様の声が聞こえる様になりました。時間が経てば人も変わっていくのだと実感し、それは悪くない事だとも思います。しかし、
お兄様の手には、何も無く。いつも背負っておられた弓もありませんでした。
「そこからは度々、この森に帰ってきては、傷だらけ。手当てをしようとも触るなと、激怒。すっかりと私の知るお兄様では無くなってしまったのです。」
何度か聞く事はありました。外で何が起きているのか?と、しかし答えは有耶無耶に、お母様の様にとだけ告げて外にまたその足を動かします。
「‥‥。最後に白服の男達に襲われた意味も、何故お兄様が傷だらけなのかも、シフォン様の言葉を聞き、理解してしまいました。」
「‥‥、」
「残念ながら悲しい気分ではありますが、怒りも込み上げてきます。今のお兄様は、迷惑をかけている。お母様がこの事を知れば激怒する筈です。‥‥私も、翔様に酷い仕打ちをした事を許しはしません。」
長々とありがとうございます。
いや、良いんだ。少しはスッキリしたか?
ええ、とっても。最後になんですが、一つおききしても
?。
貴方様は、この世界に、いや全ての世界に『平等』はあると思いますか?
‥知らん。俺は馬鹿だからよ。難しい事わかんねぇよ。
ふふ、なんとも古典的なセリフですね。私はその答えがようやく出ましてね。それと、お時間の様です。お付き合いありがとうございました。因みに私のリゲイトご存知ですか?
なんだよ急に。
ふと、立ち上がり腰を捻るカミラ。その行動に頭を傾ける翔であったが、次の瞬間、一直線に音が鳴った。なった場所は、翔が住むシオン村。日中から日没に掛けて、過っていた不安と、今目が合う。可笑しな音、それは大きな音ではない。個人に向けられた合図の様な物。そしてそれは、翔自身では無く、立ち上がった男に向けられた合図の音。
「ふふ、私。一瞬で移動できるんです。時間を稼ぐにはこの方法しかありませんでしたからねぇ。」
「‥何言ってんだ。」
「馬鹿でも、勘は鋭いですから貴方。中々の大役でしたよ。さて、話す事はもう有りません。」
「村の連中が一人も居なかったのはお前の仕業か?」
「如何ですかね?それは貴方の目で確認してみて下さい。待っていますよ‥‥」
何かの動作をしようと右手が動くカミラ、顔では無くその手を逸早く勘付いた翔は、直ぐに飛び上がりカミラの腕を掴もうとする。しかし、触れる間際、その挙げるはずである腕をピタッと留めて、
「私達の計画は、完了です。ドキドキしました。人を騙すのは人生で初でしたから。では、お待ちしていますよ?
小さな蝋燭の火が消える前に‥」
指を弾いた後、カミラの姿はこの場所から忽然と姿を消した。




