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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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41”晴天の霹靂


 

 懐かしい匂い、潮に満ちた風に少し肌寒い。背中にはツタの感触がある。しかしその張り巡らせるツタの中には、固く冷たい素材だと分かってしまう。身体は動かない、節々に激痛が走る中、桜吹雪を横目に半死したアニスの姿。


 「‥‥。(此処は‥‥、何故、この木が‥‥。)」


 ラーガとの死闘の末、この身体ではあるが勝利を掴む事が出来たアニス。しかし、絶体絶命的な状況下に一か八か賭、今に至るのだが、知らない光景、トロイアス大陸を満遍なく歩いたアニスでさえ、今いるこの場所は何処なのか見当もつかない。


 「‥、(カミラは?‥‥、移動は出来たが‥‥‥‥橋?)」


 顎を上げて、たっぷりと咲きほこる桜を見つめては、動かせる範囲で首を横に向ける。地名はわからなくとも、此処は海を跨ぐ大きな橋だとゆう事が分かった。真下には海、夕陽が反射し、背の桜も映り込む程に汚れ一つない海。


 「‥‥‥、(桜‥‥、待ち合わせの場所。‥‥。)」


 凭れる木を感じると、幼き日の頃を思い出してしまう。


 「‥‥、もしかして、死んでしまいました?。託されたと言うのに。」


 目を瞑り、笑みを溢すアニス。そんなアニスの横には気配が


 「‥。どうかしましたか?‥‥‥。お母様にお会いさせてくれるのですか?天使さん。」

 「‥‥‥。お母様?‥」


 海を跨ぐ大橋、そんな中心には珍しくも不思議な木が一本。動物は皆眠りにつき、暖炉をとる様な気温。それなのに、満開に咲き誇る桜の下に、約2名。目を覚まして、直ぐに気配を感知していたアニス。無言のまま隣に立つ女性を確認していたのだが、一向に話しかけてこない為、痺れを切らした。


 あの落ちて行く夕陽と大差ない髪色を彩り、首元には光り輝く蒼き欠片がついたネックレスをつける。


 「‥、私は天使じゃないですよ。」

 「そうですか‥‥では、此処は何処でしょう?」

 「此処は、徳皇ノ島(とくこうのしま)順天ノ島(じゅんてんのしま)を繋ぐ都橋(みやこきょう)です。」

 「‥‥(知らない単語。)‥私はアスター”アニスと申します。差し支えなければ貴方のお名前をお聞きしても‥‥」

 「変わった名前‥、外国人の方ですか?‥言葉が上手でお上品ですね。私は‥‥」

 


   赤羽(あかばね) 結朱華(ゆずは)と申します。



 

  —————————————————————




 「くっしゅん!!」

 「珍しい。風邪ですか?昨日は野宿でしたからね。」

 「いや、風邪なんて引いた事ねえよ。」


 「そうでしたね‥。」


 シオン村を出て、どれぐらい時間が経っただろうか。お昼頃にあの村を出た筈なのだが、今はもう夜へと移り変わる時間帯。


 「‥‥‥‥。」

 「‥‥‥‥。」


 どれほど歩けば気が済むのか、目的であるカミラの我が家は等についてもおかしくない歩数。翔自身、この惑わしの森をその目で隅々まで確認が可能。中心にある半壊したであろう家には、カミラの歩先は向かず、その周りをぐるぐると歩くだけの時間となった。


 「‥‥‥。」

 「‥‥おい、」

 「‥‥‥。」

 「‥おい、カミラ。」


 可笑しいと最初から思っていたが、何も言わずに着いてきた翔は痺れを切らし、声をかける。しかし、先頭に立ち鼻唄を歌いながら、後ろに手を組むカミラは無視を決め込む。


 「‥、おい、聞いてんのか?」

 「‥‥なんでしょうか?」

 「用がねぇなら俺は帰るぞ?」


 翔も暇では無い。やりたい事はまだ残っている。酒場の皿の代替えでカミラの家に行く目的だが、カミラ自身も一向に目的を果たさない。ただ、話す事も無ければ数時間とこの惑わしの森を歩き回っている。この行動に意味がある無いなどはどうでもいい翔ではあるが、帰って種を植える作業が途中で終わっているのだ。それでも、後回しにして付いてきてあげたのだが、蓋を開けてみればこのザマ。


 正直に言って、今の翔は虫の居どころが悪い。


 「‥‥怒っていますか?」

 「あぁ?当たり前だろう。何が目的だ、」

 「すいませんね。方向音痴でして、我が家が何処にあるのかわかなくなって‥‥」

 「嘘つけ、鬱陶しい。嘘虫は嫌われるぜ、」

 「ふふ、固い固い仮面を付けている貴方には言われたくないセリフだ。」

 「あぁ?、もういい。帰るぞ俺は。」


 少し離れた距離、高々と生える老樹が身を寄せ合うこの樹海。普通であれば、何処からやってきたのか、前か後ろかすらわからない。出口なんて見当たらないそんな場所で、翔は振り返り一点を見つめ歩いて行く。宛ら、その先には帰る場所が見えているかの様に。


 「?。」


 数歩歩いた所だろうか、翔の背中には人の手がゆっくりと触れられる。


 「何処へ、行くつもりで。まだ、わたしの用事は終わっていませんが?」


 立ち止まる翔の背に手を当てて腰を落とすカミラ、後は捻った腰を元の位置に戻せば攻撃が完了。


 「少しぐらい、付き合って下さいよ。急いでいい事など‥‥」


 忘れていた。実に忘れていた。翔と言う生き物がどう言った物なのか。背中に手を当てる男がどう言った性格なのか。大抵の事は水に流してくれる、それを自負し踏み込んだカミラ。しかし、踏み込み過ぎてしまった。我に帰り、当てた手をすかざす離す。


 「。‥。邪魔すんのか?」


 彼が好きだと思う行動に置いて邪魔だけはしてはいけない。カミラは知っている。知り尽くしている。振り返る翔の顔を見れば死を連想させる程、怒りが滲み出ている。昨日の様には、行かない。前日の様には、戯れてはくれない。


 こうなれば、カミラ側は折れるしか選択肢は無い。それ以外に見当たらない。死ぬ事が嫌なら必然だと。しかし、


 「‥‥。残念ながら、村へは返す訳には行きませんよ。」

 

 引き下がる訳には行かない理由がある。死んだとしても、この男をこの惑わしの森で留めて置かなけれいけない約束がある。カミラは全てを知っているから。


 「‥そうか。聞き分けが悪りぃ。」

 「我儘な貴方より幾分かマシでしょう。」


 今から殺気立った生き物が、何かを仕掛けてくる事を確認したカミラは、この地を踏み締めて深呼吸する。重心を抑えて、構えをとる。しかし、


 「‥何してんだ。止めるなら全力でやれよ。」

 「!?!?!??」


 言葉は遅れて聞こえ、構えを取り片腕を水平な上げた直後には、手首を掴まれてしまった。力も出ず、廻されてしまう。昨日の様に、


 「!?。」


 力は出ない。膝から崩れて行く。一瞬にして間合いに入られた。全て昨日と同じ事。合気道。もう見飽きた、それに聞き飽きた。しかし、それがたった一つ翔が使える技だからだ。


 だが、今夜だけは一つだけ違う事があった。それは、何もできないカミラの額に向けて拳が飛んでくる。特殊な能力でも、武術でも、何でも無い。それは人が放つには合理的な攻撃。殺意を込めた


  唯の暴力。


 こうなる事も、カミラは全てを知っていた。迫り行く暴力の対抗手段はあるのだろうかと、怒りが力となってしまった力に対処などあるのかと、昨夜の様な優しさなど微塵たりとも感じなかった。


 「‥。」

 「‥‥‥。私の大切なお話し、聴いてくれますか?。」

 「‥‥‥‥。」


 拳が飛んでくる刹那、両手を上げて降参の構えをとると、怒りに満ちた翔に声をかけてみる。そんな事で止まるのか?。相手は怒りだ。感情の中でももっと原動力がある怒り。そんな物を纏った相手に言葉は通じるのか。答えは通じない。全てが終わった後に、徐々に鎮火して行くのが怒り。


 言葉をかけた所で火に油を注ぐ行為だったのだが、ピタリと翔の攻撃はカミラの鼻と目の先で止まる。目で見えてしまう様な沸々とした怒りも消えて、顔色を取り戻す。


 翔と言う人間はそう言う生き物。友人の言葉に耳を傾けてくれる。どんな怒りや悲しみであろうと手を止めて腰を下ろし話を聞いてくれる。易々と勝てる相手では無い、しかし止めて置かなければ行けない状況、静かな怒りを向けてこのカミラとゆう人間に攻撃する事、そしてそんな怒りが詰まった拳がたった一つの言葉で止まってくれる事も、


 カミラは全てを知っていた。


 「‥‥。それが此処に俺を来させた理由か?」

 「はい。伝えなければなりません。」

 「‥‥はぁぁ、最初から言えよ。それを。」


 椅子もない、座れる様な石もない、何もないこの大地にどかッと胡座を描き座り込む翔。緩まってしまったネクタイを締めてカミラは空を見上げると、今日水を汲みに行った際にシフォンに聞いた翔の過去を聴くことになる。


 惑わしの森から出た事がなかったカミラは、外の情勢を知らない、当然の事だ。カミラの目的はただ家族の帰りを待つことだけ。我が家を守り続けるそれだけだった。


 「シフォン様と色々と話し込みましてね。聞きましたよ、翔様が何故この世界にいるのか、色々と苦労があったのですね。」

 「‥、聞いたのか。まぁ、苦労なんて皆あるんだから珍しくもねぇだろ。」

 「そうですねぇ。貴方様もシキミ様も私も‥‥そしてお兄様も。」

 「‥‥、そう言えば、兄貴がいたな。昨日カミラが目を覚ました時。お兄様!!って焦ってたしな。」

 「えぇ、焦りますとも。家族ですから。」


 何故、外にも出た事が無かったカミラが、敷地内である惑わしの森で倒れていたのか。噂通り、この樹海で迷ってしまい倒れてしまったのか。それならば、傷だらけになって倒れているのは可笑しい。そして大切な我が家が見事にも半壊している事も可笑しい。


 「何があったんだ?。此処で。」

 「‥‥‥、何が起きたか?。‥‥何が起きたんでしょうね。」

 「??。」

 「顔も名前も知らないお爺様が私の家にやってきて、その後、お兄様が帰ってきて‥‥、最後に空から人が降ってきました。正に隕石でした。私の我が家は目の前で吹き飛ばされました。」

 「‥‥とんでもない奴らだな。」


 名前も最後まで分からなかった。歳を取った老人と眼鏡をかけた肥えた男二人が、カミラの我が家へ襲撃を行った。ともなれば、噂に聴く襲人なのかと尋ねるが、カミラはハテナを浮かべる。それもそのはずこの森から出た事がないのだから。


 「一つ、私の隠し事。‥‥。私は魔族です。詳しく言えば、人間と魔族の間に生まれた半魔(ハーフ)です。」

 「隠してどうなるんだよそんな事。」

 「隠す事がお‥お兄様との約束ですから。」


 魔族。このトロイアス大陸には人間と他に違った特徴を持った種族達が多数存在する。変わった能力を持った種族は沢山いるがその中でも、戦闘面ではこの種のピラミッドの頂点に立つ存在。人並外れた頭脳に、魔法は人間とは比べ物にならない程の実力を有する。その代わりに人間の様なリゲイトを持たない。それが魔族の特徴。


 「私は極めて稀な種族なんです。」

 「‥ずりぃ。魔法も、リゲイトも使えんだろ?」

 「良いでしょう?貴方様に唯一自慢出来る事だったのですが‥残念ながら、魔法は使えなくなりました。」

 「‥え?。」


 純粋な魔族では無いから魔法が使えない。ではなく幼少期は大人よりも上手く魔胞子を扱い、膨大な量を視認できた。しかし、ある事を起点に見る事が出来なくなってしまう。


 「小さい頃、一度殺されましてね。」

 「?。じゃあ何で生きてんだよ。」

 「分かりません。殺されて、気が付けば魔法‥とゆうよりも魔胞子すら拝めなくなりました。びっくりです。この世の生き物は平等に見る事が出来る魔胞子が、見えなくなったんです。」

 「‥‥、そうか、。」


 一度殺された。その後のことはカミラ自身語らなかった。気になる事ではあるが、こちら側からは聞くような真似はしない。人が歩く道を急かしたりなんかしない。言いたくなるまで待てば良い。自由にさせてあげたら良い。言いたくなれば勝手に言ってくれる。お節介は嫌いだ。だからこそ自分も人にはしない。


 それが、凛道 翔。


 ‥‥‥。誰だって嫌だろ?自分が決めた事に『口出し』してくる様な真似は。自分が決めたんだ。他人の俺にとやかく言う筋合いは無い。何処まで言っても他人である以上、俺は見届けるだけだ。


 「‥‥。私は魔族の血が入っていますから翼があり空も飛べたんですよ。」

 「まじか。じゃあ、帰りは‥‥」

 「それも、失いました。」

 「‥、そうかすまねぇ。‥それもあれか?一度殺されたから的な?、」

 「いえ、そんな美しい物ではありませんでした。」


 人が墜ちて来て、先ほどまで安らかなひと時を過ごしていた家は木っ端微塵。カミラの兄が応戦するも歯が立たず、兄弟揃って逃げる事にするが、襲撃を仕掛けて来た者達の追撃により、翼をもがれて転落。これが、あの日起きた事の全てである。


 「‥、何したんだよ。そんな恨みを買う様な事したのか?」

 「ふふ、私は何も。ただ、家族の帰りを待ち続けた人生。ふと、現れた得体の知れない人間に家をめちゃくちゃにされ、兄を弄ばれ、翼を奪われ、私は何もしていないのに。」

 「‥ちぃ、腹が立つな。目的もねぇのに襲う輩は‥‥」

 「目的はありましたよ。私ではなく、私のお兄様に。」


 「‥お前の兄貴に?何で?」


 「そうですよね。私も訳が分かりませんでしたよ。シフォン様から聞くまでは。聞いて驚きました。お兄様が外の世界で何をしていたのか。名前、聞いてみます?」


 「‥何だよ勿体ぶって、聞いた所でどうせわかんねぇよ。」


 「ふふ、そうですか。なら、いいのですが‥私のお兄様のお名前は



     アスター”アニスと申します。



  —————————————————————



 

 「‥、(此処は、何処だ。)」


 目を開けた先には、白一択の天井が広がる。見覚えのある様な建物の天井の高さはなく、塗られた跡もない。元々白い何かを羽目て貼り合わせた古臭い建物。一度身体を起こせば、何故か自分の身体がぎごちなく圧迫感に襲われる。来ていたシャツを少しだけ上げてお腹を確認すると、包帯が巻いており、顔を触れば色々と何かを貼られているのが分かった。


 身体を起こすと、隣には大きな窓、今は夜だと言う事は理解出来るが、その先に広がる光景も全て見覚えない物。真っ白部屋、しかし夜になればこの場所も真っ暗になる。いつも通りに指を天井に向けて、火を灯す為の蝋燭を探すが存在すらしない。


 「‥‥‥。」


 何もかもが違う。この現象を言葉に表したいが、どう言えば良いかすら分からない。極め付けは、自分が眠っていたであろうこのベットに、腕を枕代わりにして眠っている女性が一人。


 「‥、貴方がしてくれたのですか?。お優しいお方。」


 綺麗な赤髪に優しく触れて、起こさぬ様に乱れた髪の毛を梳かして行く。窓辺から微かに差し込む月の光が眠る彼女の髪に色を移し、輝きを見せる。そんな彼女の髪を梳かし終えると、掛けられた布団をゆっくりと上げて、微妙に空いた扉の方へ向かう。


 「‥‥‥。外に出たら、少しは分かると思いましたが、何も分かりませんね。」


 目覚めた部屋と変わらぬ暗さ、先の見えない長い長い廊下に少しだけ緊張が走る。少しだけ戻った力を確認し、指を動かせながら歩いて行く。コツン、コツン、と音が鳴り響くこの廊下。何十個にもなる部屋を通り過ぎて出口を探すが見つからない。そのかわりに、


 「ん?。灯り?」


 一つの部屋、微かに空いた扉から光が差し込んでいる。あの場所を目指して歩いて行くと、段々と声が聞こえてくる。


 「‥‥‥。(誰か、いるのか?)」

 

 「‥‥何度読んでも、素晴らしい。歴史を知っていて、信憑性もある。今、何処にいるのか?声だけではなく、会って話してみたいのだが‥‥。」


 灯りがついた部屋には、一人の男が手に本を持ちブツブツと独り言を大声で話している。


 「‥‥、盗み聞きは、上品さに欠けると思うのだが‥」

 

 気配を消して、扉に耳を当てて聴いていたのだがバレていたみたいだった。隠れる事も逃げる事も出来るが、先ずは情報収集だと、警戒をさらに強めてこの部屋の扉を大きく開いた。


 「やぁ、君か。おはよう、ぐっすり眠れたかな?」

 「‥‥えぇ、死にかけた身体が多少なりとも。」

 「それは良かった。血だらけだったみたいだよ。まぁ、僕が触るのもあれかなぁと思って助手の子に頼んだのだけど、」

 

 この出口のない暗い建物の中で、ようやく会話が出来る相手が見つかった。


 「‥‥此処は?‥‥私は知らぬ国の為のですが。」

 

 聞きたい事が山程あるが、先ずは情報を取り入れて行かなければならない。眠りから覚めたこの場所が何処なのか、普通に疑問を投げかけているのに、掠れた笑い声を挙げてはまた本を読み出す男、仕舞いには、

 

 「‥‥あ、そうだそうだ。君を!勇者に任命する!!」

 「はぁ?何を言ってるんだ?」

 「此処から橋を渡ったもう一つの島が此方に攻撃をしてくるのだ!それを君が守ってくれたまえ!」

 「‥はぁ。」


 此処が何処なのかも教えぬまま、名前すら名乗らないまま、挙げ句の果てには『勇者』になれと、訳の分からなぬ言葉責めに、立ちくらみすら引き起こす。親しみのある国でも無ければ、母国でもないこの場所で、何故私が守らなければいけないのか?無礼にも程があった。何度も、口を開けようとするが、聞く耳を持たずあれよこれよと能力の提示をする。


 「‥学歴は?、なにか資格は?、」

 「さっきから何を‥‥。」

 「何もないのかい?ガッカリだよ。」

 「‥当たり前だ。頼み事をしているの貴様だ。それなのに此方に主導権を握らさず、御託ばかり並べて、何故落胆されなければ行けない。」


 頭が可笑しい。この人間と話していても何も進まない。私は言葉を吐き捨ててこの部屋から出て行こうとする。


 「‥‥何処に行くんだい?この部屋から出ても解決しないよ。君は、単に生かされている。と言う事実を受け止めるべきだ。」

 「‥‥貴様はさっきから何を‥‥」

 「見た事もない、名前も知らないそんな場所。知る人間もいなければ、助けもない。空気の味すら違うそんな場所で、訳も分からぬ言葉を並べられて、納得されずに失望される。」

 「‥‥‥‥。何が言いたい?」

 

  「はは、あの子と同じ境遇に立って見てどうだったかな?アスター”アニス君。そして、ようこそ君の生きる星とは違った別次元の世界へ。」


 「!?。何故私の名を、それに別次元?」


 開けていた本をパタっと締めて机に置くと、移動式の椅子を足で動かし此方に近づいてくる。急な距離の積め方、今起きている事がこの男だと身体が訴えかけてくる。咄嗟に、指を動かし、目には見えぬ矢を出現させて、放とうとする。


 武器を此方が出した、その禍々しく漆黒の矢が自分の図上にある事を、椅子に乗る男はしっかりと目で確認しているが、避ける素ぶりも、防御をする様な構えもしない。矢を出す私の前で、ドシっと座り込み眺めて口角を上げるのみ。


 「‥その矢どうするつもりかな?」

 「野暮な事を聞きますね。矢は飛んでゆく物。この矢先が向く先に飛んで行く物。お分かりでしょうに。」

 「‥‥はは、それにしては球を飛ばす為の道具は見当たらないけど」

 「黙れぇ!!これ以上、調子に乗ると‥‥、」

 「‥はぁぁ、そんな物この世界で撃つ真似をしたら、君の半身だけ‥‥『追い返す』、仕舞いなよ。」

 

 悪寒が走る。それは、二度敗北したロータリーエピスとは違った感触。あの男の力も計り知れない物ではあるが、この男は深く深く遠く遠く何も見えない。歩き色々な者を見てきた私でも見た事がない。存在すら掴めない、生き物ですら無い、何か。正体不明の異物。


 すかさず、声色が変わった男の声を聞き、出現させた矢を消そうとするが、私の頭上には何もなく。


 「まぁ、とっくにあっちへ追い出しているからね。君に自由はないよ。生捕状態だね。これも全部同じだ。呼び寄せろとは言った物の方法があると思うんだ。」

 「‥‥‥。何が目的だ。貴様は一体‥‥」

 「目的?僕が‥‥まぁ、無いよ。特に。今僕がした事は、君が彼の子にやった事を全て真似して君にプレゼントしたんだ。正に、因果応報だね。」


 そう言い捨てると、椅子をまた動かして元の位置には戻る。机に置いていた赤く分厚い本を手に取ると眼鏡をかけて、一つまた一つとページをめくって行く。その動作を眺めながら、ふと思い当たる節があった。自分が得た経験談で無い。しかし、この男が言い放った言葉や雰囲気は何処か見覚えがあった。


 「‥とんでもない事してくれるね。どう言う風の吹き回しだい?ラーガ君を殺すなんて‥‥まぁ良いけど。でも理解しているかい?天秤は無くなったんだ。もう、種同士が仲良しこよしでは居られなくなる。」

 「‥‥‥‥。」


 此方に言葉を向けているのだが、顔は向けない。何を書いているのかさっぱりな書物を目を動かし読みながら此方と会話をする人間。そして、ふとこの部屋の外から気配が感じる。


 「無茶苦茶になるよ~。とは言った物の、これも全てこの本に繋がると言う事なのかも‥‥。彼の子を呼ぶ為に選んだ場所がスイレ王国、私ですら狙ってスイレに打ち落としたのに、跳ね返され隣国へ。そんな君には知っても良いと思うんだ。」


 ベラベラと独り言を話しながら、席を立ち重く分厚い本を私に手渡してきた。カバーは真っ赤な塗られ、読めぬ文字で金色に刻印された書物。一度、ページを巡ってみるが、やはり何も読めない。


 「読めるかい?それ?」

 「‥‥‥。何も。」

 

 読めないの?と、鼻で笑われてしまう。鬱陶しいこの上なしだ。私が今渡された書物の名は『花言葉(セラム)の書』、各国を周り知識が深い私ですら、名前も存在も知らない物。この書物の存在を知る物は数が少なく、これを綴った者と保管と守護する者の三人。『花言葉の書』はこの先のトロイアス大陸の未来を描いた、先見の書。


 「‥未来?、冗談を。所詮、予想の範疇でしょうに。」

 「はは、私もそう思っていたさ。でも、読めれば、著者が誰か知れば、その考えも変わってしまう筈。」


 ある一人の男が描いた詩に近い書物。ある国の地下深くに眠る『大異本棚(だいほんだな)』と言える場所に仕舞われている。大陸の行末が記されたそんな御伽話の様な話が本当にあるのかと、疑問を浮かべてはいたが、心境の変化が芽生えた。

 

 変わらず、この不思議な本を読み解く事は不可能。しかし、この書物を手掛けた人物の名前を聞き、確信に近い物を感じてしまった。私の知る男だった。


 その作者は、ひどい癖を持っていた。詩を書く事が本能と豪語する彼、思い浮かび詩を綴り完成させると、燃やし自分の作品を壊す。変わった男だった。昔、音のうるさい国で聞いた事があった。


 「何故貴方は、自分の作品を捨てるのですか?。大切な物でしょうに。」

 「そうだ。大切だ。捨てる事などはしていない。消しているのだ跡形もなく。聞くが‥捨てて、誰かが拾い上げたらどうなる?。私が私の思考で作り、私の筆で作り上げた物。偏りしかない。それを信じ生きる者が生まれてしまっては、大変な事になる。」

 「‥それが、詩の奥ゆかしさでしょう?。」

 「‥それはお互いがその目的で始まった事。私は私が書いた物を一目見れば十分。他所の物に目を通す権利すら与えない。私は何も私の好きな物で足跡は残さない。」


 「貴方の事を追いかけ回す変態が訪れたらどうしますか?微かな痕跡を頼りに‥‥やって来ますよ。」


 「‥‥、だから私は、夢中になる人間としか関わらない。‥何かの手違いで、そんな変態が現れるのなら、作品共々、削除する。それだけだ。」


 そんな男だった。完成した物を自分自身が見ればそれで終わり。他人には見せないそう言う人間だった。それなのに、作品が残っている。残す事を嫌う人間が保管していた。何故、残したのか?。そもそもハッタリの可能性もある。


 一から十、これが大異本棚に眠る花言葉の書の数である。しかしながら、この書物を認知し守る者たちは一括りにしてそう呼ぶまで。


 目の前で座る男は、大異本棚に並べられた書物を読み漁り解釈した物ではあるが、一つだけ未来の話ではない書物が含まれていた。


 「それが、第十項『日陰の下で笑うへレニウム』確かに先を見通した物語も書いてあるが、それは後書きの様な物。本題は、過去が書いてある。今生きる人間達が誰も知らない様な過去。知り得の無い過去。」

 「‥それを何故私に?。」

 「はは、君だからだよ。邪魔な存在を消したいんでしょ。君の目的には、あの人が邪魔になる。だから、センテインピードに行ったんでしょ?。」

 「‥‥、何処まで知っている。それにそろそろ名乗ったらどうだ。」

 「名前を言ってもピンとこないよ。」


 そんな会話をする中、扉を勢いよく開ける音が聞こえた。それと同時に私の姿勢は斜めに傾く。此方の部屋に誰かが近づいてくる事は既に察知していたが、殺意はまるでなく敵意も感じない為、脇に置いていた。無害だとそう思っていた。


 「駄目じゃないですか!!そんな身体で!」

 「‥‥‥。はぁぁ。」

 「傷口が開くでしょ!あそこのベットに座って下さい!」

 「‥‥、」


 治癒力が人間よりも長けている私ですら、ラーガの攻撃をまともに何十発も受ければ治りも遅い。案の定、椅子にふんぞり帰る男と会話をしたせいで、顔についた傷口がしっかりと開いてしまっている。私は逆らうこともせず隣にあるベットに座ると、易々と私の顔を触ってくる。余り人に触れるのは嫌いだが、何故か、少しだけ少しだけこの女の手は暖かった。その手を見れば、雰囲気を見れば、害は微塵たりとも感じなかった。


 人間としてはどうも不釣り合いな程に。


 指図されるのはいつぶりだろうか。それを呑み込み受けいれたのはいつぶりだろうか。大人と言う形になってからは記憶になかった。久しぶりだった、自分が今置かれていふ状況が実に懐かしかった。


 傷口を、消毒液が染み込んだ綿で叩き、微量な痛みが顔を伝う。が、何故だか笑みが溢れてしまう。ようやく溢す事ができた。


 「だからと言って、包帯をこんなにぐるぐる巻きにします?普通。」

 「これぐらいが良いんです!!」

 「そんな物なのですか?」

 「はい!そんな物です!」


 私が生きたこの人生に悔いは無い。

 私が生きたトロイアス大陸に私を知る人間はもういない。


 もう、生きとし生けるこの星に私の味方は存在しない。

 お母様との約束も守る事ができる。


 ‥‥‥。


 「‥花言葉の書は何処に。」

 「‥‥‥リズルだよ。」

 「そうですか。代百具(フェンネル)は後回し。先ずは‥全てを()()事からですね。さて、どうせ貴方がこの可笑しな世界に私を連れてきたのでしょう。良い加減返してくれませんか?。」

 「さっきから何を言っているんですか!傷が癒えるまでは安静にです!!先生も!読書する暇があるなら手伝って下さいよ!」

 「ハハ!、これゃあ手厳しい。そうだね。()()()()あげるよ。」

 

 私だけの考え、私の手足となれば苦しみはなくなる。失い、涙を流す様な事もない。私が中心となる。全ての動きが私となれば、私だけがあの国を潰す事が出来る。


 約束を守り、果たす。トロイアス全土を私が『支配』する。


 「‥‥、手伝う。だけれども、枷がなく歩いて行くのは面白味に欠けると思うんだ。あの子にプレゼントもしたいしね。だから‥‥。」

 

 椅子から立ち、私が持っていた書物を奪うと、これ程までにない笑みを浮かべた。その瞬間、私の額には真っ白色の服を見に纏った男の指が触れ、


 「明日の早朝、リズルに行ってあの救世主の跡を付けてみるといい。じゃあね。」


 あぁ。と返事をした後に私の視界は真っ暗になった。

 その後の事は何も覚えていない。目を開ければラーガと先程戦っていた元の場所に、木に凭れて座っていた。知っている風景、空を見上げれば星が散りばめられ月は雲に隠れて確認が出来ない。


 今は夜、明日に備えて花言葉の書が眠るリズルの近くで世を明かそうと、腰を上げ様とするが違和感を感じ立ち上がる事を止める。


 「‥?。な!?。」

 「‥‥すー、すー。」


 私に指示を仰いだ女、この世には珍しい赤髪を拵えて、私の肩に持たれ赤いまつ毛が光り目を瞑っていた。


 


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