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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
39/49

38”‥‥‥‥。


 

 「‥‥‥。‥‥‥。コク、‥‥、コク。」

 「なんだ?眠いか?」

 「そんな‥‥事ない‥‥‥もん。」

 「そうか、それゃあ悪い。でも、目開いてないぜ?」

 「‥‥‥‥。」


 木陰の下、大きな鹿の背を借りて等々夢の中へと落ちていってしまったシキミ。動物のこんな柔らかい毛を感じながら、風を浴びながら、自然の匂いを味わいながらだとどんな生き物でも、こうやってスヤスヤ眠ってしまう。


 「‥‥静かだ。いいねぇ。」


 聞こえるのは風に踊らされる原っぱのみ。花を植えて、うたた寝出来る。そんな呑気な生活は久方ぶり。昼は定食屋を営み、夜は酒場として切り盛りする。それが翔の仕事。中々の多忙を要する物だった。


 「てか、カミラ遅くねぇか?」

 「‥ん、ん?ん!?」

 「お。すまんすまん。起こしちまったか。」

 「あ、あ!?。寝てた!?僕寝てた!?」


 昼の客足がピタリと止まる事が増えた。最後には誰も翔が営むこの店に来なくなってしまった。


 シフォンも昼頃は空ける日が多く、何処に行っていたのかすら言わない。昼が暇なら好きな事をしていても良いと言われてはいたが、先日のスイレ王国の事もありバタバタとしていた。だからか、改めて実感する。


 「ん?寝てたよ。」

 「動いてない?ねぇ!動いてない?」

 「なんだよ。動いてねえよ。」

 

 休憩を入れてから結構な時間が過ぎたが、水を汲みに行ったカミラはまだ帰ってこない。水を汲む所もこの酒場に入れば直ぐに済む話。


 翔は起き上がれカミラは行った道をキョロキョロと見渡すが人影がない。そもそも、


 「今日、静かじゃね。」

 「そうなの、初めてだから分かんないや。」


 静かな事はいい事だ。しかし、日中であるのにも関わらずこのシオン村で人気を全く感じない。人が鳴らす物音が一切しない。この村はどちらかと言えば活気はあった。なのに、何も感じない。だからこそ、今日はやけにこの村が広く感じてしまった。


 「‥あれからシフォンも見ねぇし。みんなどこ言ったんだよ?。」

 「お昼寝じゃないの?それよりも‥‥‥、」


 酒場の裏手から出るため、その足を動かして草履を鳴らす翔の服を引っ張るシキミ。「なんだよ」と振り返ると、シキミは焦りながらも、花壇に指を刺す。


 種を植えている最中、気になることが一つあったのだ。今は、畑よりも大きくなってしまった花壇。柵も柔らかい土を囲う為のレンガも不器用ながら、全てを翔がやってのけた。お世辞にも綺麗とは言えないこの花壇ではあるが、一切手を抜いていないのが分かる。


 今まで植えてきた種は芽を咲かせ、広くした部分には、カミラが掘った穴と今シキミ達が植えた種の箇所。但し、この大きな花壇の隣に、何故か孤立した植木鉢が存在した。綺麗な植木鉢、土もしっかりと入っている。


 「あの‥‥植木鉢には種を入れないの?」


 一度目、カミラが手渡したジョウロで翔は元々植えていた箇所に水を満遍なく撒いていた。でも、植木鉢にはその水を掛けることなく素通り、そもそも眼中にない様な素ぶり。


 「あぁ、あれか。植えてあるよ種。俺の友達と植えたよ。」

 「そうなんだ。じゃあなんで、」

 「いや、少し特別な花らしいんだ。この世界の花は太陽の光が養分だろ?受け取る為、土から這い上がり花弁を広げる。‥‥でも、あの花はちょっとだけ違うんだ。」


 翔は、あの種が植えてあるであろう植木鉢に、水を掛けようとしない。


 あの植木鉢は、この場所の花壇を拡大する前からあった。シフォンの酒場にあった大きな植木鉢を引っ張り出して、土を徐に入れ出し、ポケットからある花の種を出した。それもこれも全て、翔ではなくこの村に度々訪れては翔と稽古をするヘレン。


 そもそも貴重な花だと、金貨では買えなく、手に入れたとしても開花させる事は至難の業。そんな花の種をヘレンは国から持ち出し、あろうことかこんな辺鄙なシオン村に植えると言い出した。


 そんな説明を受けた翔は、一度冷静になれと止めに入るも、頑固で自由なヘレンは聞かず、勝手に酒場から植木鉢を持ち出し植えようとした‥‥‥‥


 「‥私1人で埋めても意味が無いんです。この花は‥‥孤独では拗ねてしまいます。だから翔さん手伝っていただけますか?。」


 開花させる為には、1人で埋めてはいけない事。2人で、拳一つ分の穴を掘り、翔が種を植える。そして、ヘレンは土を被せる。此処で、かぶせた土を力強く押してしまうと、芽が出てこれなくなる。通常の花であれば此処はかぶせて優しく叩いてあげる程度。それなのに彼女は、強く強く被せた土が硬くなるほど叩いた。


 「おいおい!そんなことしたら‥‥」

 「いいんですよ。これで、この花はこれが条件です。」

 「??。」


 花の育て方は熟知している翔ではあるが、この様な植え方は生まれて初めて、困惑している中で彼女はこの花の咲かせ方を語る。


 一つ、水を与えない事。

 二つ、この花には関与しない事。

 三つ、但し存在は忘れない事。


 こんな事をして、花は咲くのかと不満を募らせる翔。現に今も、芽すら出てきていない。


 

 「じゃあ、どうすれば良いの。そのお友達さんに聞かなかったの?」

 「あぁ、聞いたけど、聞いたけんだけどなぁ」


 

 ヘレンと翔が植えた種。それを開花させる方法は上記に挙げた三つの約束を守りつつ。ある言葉を掛けると言う物。


 たった一つの花を咲かす事が出来る。『魔法の言葉』


 そんな事で、花は咲く。とっても可笑しな花。なのだが‥


 

 「魔法の言葉って、魔法使えないのに?。」

 「グフ。痛い所ついてくれるな。それに魔法に良い思い出が一つもない。魔法が使えなくて殺されそうになってんだから。」

 「そもそも花に近づいちゃいけないのら、誰に言うのさ。意味不明だね。」

 「そうなんだ。それすら教えてくんねぇ。少し変わった奴なんだ俺の友達は。」

 「友達多いねお兄ちゃんは。」

 「ん?今度紹介してやろうか?良い奴ではあるし。」

 「ほんと!!」 


 目を光らせるシキミ、色々と大人顔負けの口振りをする少年である。最初から親がいてご飯があって帰る場所があって、そんな同世代と比べると苦労を強いられた。そうなれば物事を俯瞰して見てしまう様な可愛げのない子供になってしまう。


 仕舞いには全てを見落として『復讐心』と言う無像に支配され掛けた。


 しかし、今は翔自身がいる。大丈夫。大丈夫。


 嘘でも、そう言って隣にいてくれる人がいる。不器用で理不尽な恩人。孤独に比べれば百倍も良い。しかし、生まれてこの方、彼が想い描く『夢』とは違ってもう一つ憧れがあった。それは友達が欲しい。


 そんな彼の思いを知っていた。聞いていた。だからこそ翔はそんな言葉を投げかけた。見事、シキミの顔は弾ける様な笑顔でそして嬉しそうに飛び跳ねている。


 「ねぇ、ねぇ、どんな人なの?、」

 「まぁ、まぁ、落ち着けって。」

 「へへへ、友達や仲間がいれば何をしても楽しいってお爺ちゃんが言ってたからね。で!どんな人なの?」

 「だ、か、ら、落ち着けって!」



    翔様!!お待たせいたしました!



 息を乱し、帰ってきたカミラ。彼の着ている黒い服は至る所が真っ白になり、それを叩きながら2人がはしゃぐ木陰の元までやってくる。ただ、水を汲みに行った筈のカミラの手にはジョウロは無く、手ぶらである。


 「何してんだよ。水は?」

 「あ、申し訳ございません。私とした事が‥‥、」

 「はぁぁ、お茶目さんじゃん。良いよ俺とってくるから休憩しといてくれ。」


 「あぁ!!翔様!」


 と、歩く翔の肩をまた掴んで止める。何やら、先日暴れん坊な客人が来てしまい、酒場で使う食器の半数が粉々になってしまったらしい。これでは、食事処でもあるシフォンの酒場が機能しない。酒を注ぐ為の樽はある物の、料理を盛り付ける皿が少な過ぎる。


 と言う事で、買いに行くことになったのだが


 「スイレ王国に‥‥」

 「無理。カミラは知らねぇと思うがな——」

 「と、言うと思いましてね。」


 予想はしていたカミラ。スイレ王国にイヤイヤ行った人間にまたあの国に行けと言っても、行く筈が無い。シフォンもこの村の人も手を離す事が出来ないと来た。だからと言って、スイレ王国へシキミを送り出し買い出しを頼む様な馬鹿な真似は出来ない。万事休す、と思われたがカミラには名案があった。


 「私が住んでいた家があるでしょう。そこに生き残りの食器もあった筈です。なので取りに行きます!」

 「そうか。なら、任した!!」

 「いや。翔様も来てください。」

 「何故そうなるんだよ!!1人で行けば良いだろ!俺は今花壇の手入れをしている最中なんだ!!」

 「量が沢山あれば私1人では持てませんよ。でも仕方ないですね。行きたくないのなら無理強いは出来ないですね。はぁぁ、シフォン様も大変でしょうね。食器が無いって困ってたのに」

 「‥‥‥‥。」


 カミラは、翔の扱い方を熟知している。まるで、以前から共に過ごしていたかの様に。戦いにおいて軍配は上がらなくとも、口先なら話は違う。


 「翔様が無理なら、か弱いシキミ様とご一緒に行かなければなりません。はぁぁ、心配ですね。この村を出れば治安は悪いですし‥‥」

 「‥‥‥‥。」


 大きなため息を吐いて、じっとする翔をチラッと目を通して頭を抱える。


 「はぁぁ、力のない私やシキミ様が無事帰ってこれるでしょうか。心配ですね。」

 「‥‥‥。もう!」

 「最悪は帰って来れない事も‥‥でも仕方ないですねぇ。翔様は行けないのだから‥」

 「あぁー!!分かったよ!行くよ行くから!!」

 

 と。まぁ、カミラはこの様な状況で負けた事がない。口も達者だが、翔とは違って『あれ』も上手。そして、見事翔が同行する事になり、あまり時間にも余裕がないので直様向かう事に。ため息を吐きながら草履の音を大きく鳴らす翔の横手では、雲の様な軽さでステップをするカミラが惑わしの森に向かう。


 「なんでスキップしてんだよ。」

 「良いじゃないですか。2人っきりなんて久しぶりなんですから。ふふふ。」

 「さっきから何言ってんだよ!!行くならさっさと行くぞ!」

 「はーい!あ、そうだそうだ。シキミ様にこれ渡してきますからここで待ってて下さいね。」

 

 数歩歩いた所で、カミラのポケットには先ほど植えていた花の種の余りが入っていた為、花壇に居座るシキミに渡しておく事に。はぁぁ、とため息を吐き空を見上げてボオーとする翔を確認しながら、シキミに近づくと翔の耳に届くように大きな声で


 「はい、これ花の種なので無くさずに持ってて下さいね。」

 「うん!任せて!」


 そして、小さな声で翔の耳には届かない事でシキミに呟く。声色は先ほどの様な高い声では無く真剣な低音で、信憑な面持ちで。


 

   「それと‥‥あとは任せましたよ。私が時間を稼いできます。全ては計画のために。」


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