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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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37”青色の薔薇


 

 「種をこうやって埋めるだろ?」


 「うん。」


 「そして土を被せる。此処が重要なんだ。堀った土は空気と混ざり柔らかくなる。この土を上から優しくかけて行くんだ。」


 「うん。」

 「‥‥‥‥(チャポン)」


 風車が音を立てて回る。太陽が丁度、真上を向く時間の事、腫れが引いた顔の上からは泥がこびり付き、足元も服もドロドロになっている。黒くボサボサな髪をかき分けながら一汗を描き、何かを教えている姿。


 「土の高さが周りの土よりも少しだけ盛り上がった所で優しく、優しくだぞ。心を込めて固めて行く。んで、水。」

 「え?。水?」

 「はぁぁ、魔法で出せよ。それぐらい。」  

 「出せないって言ったでしょ!!そもそも事前に用意しておくでしょ!」

 「うるせぇな!!持ってこいよ!!」

 「イテェ!」


 「‥‥ふふ、どうぞ。」


 泥々の手で理不尽なデコピンを放つ男の名は凛道 翔。そして、デコを抑えて尻餅をつく少年がシキミ。平和が漂うこの場所はシオン村。この大陸で存在する唯一の村である。そんな所で大きな酒場の裏手には、作物を育てる畑と花を育てる花壇が存在した。


 二度目の来訪でシキミと和解した翔は、この村に連れてきてやってみたい事があった。それが今この2人が取り組んでいる事。花を育てる、である。


 翔がこの村に初めて訪れた日、この酒場の裏手には畑しかなく花壇の様な物はなかった。しかし、ある日小さな花壇ができていたのだ。日数をかけてゆく事に、広く広くなってゆく。気付けば、元々存在していた梨の畑よりも大きくなってしまった。


 花が芽吹くまでには時間が必要なのに、これでもかと広くし過ぎたせいで、今でも大半が土のみとなっている。翔はと言う男も中々の多忙である為にこうなってしまっている。畑の手入れもあれば、昼と夜にはシフォンが切り盛りする酒場を手伝わなければ行けない。暇が出来たがと思えばヘレンがやって来て、稽古の時間。


 翔の好きな花との時間が中々作れないでいたのだ。


 久々の大好きな時間に興奮してしまったのだろう。花を育てるにおいて必要不可欠な水を持ってくるのを忘れた為に今はこうなっている。


 「おぉ!!ナイス!!分かってるなぁカミラは。」


 「いえいえ、お安い御用です。」


 ジョウロに水を組み、2人の様子を後ろから眺めていた男が翔に水を手渡すと、笑顔で返す。先日、急遽として戦いを繰り広げた惑わしの森の住人であるカミラもまた翔に着いてきたのだ。


 この男もまた、花の育て方を熟知している。それもまた、口うるさく指導を受けた身のこなしで、あれよこれよと準備をしていた。気づけば、この花壇すべての箇所に種が丁度入るかスペースの穴までも掘られていた。


 カミラもまた、同じく泥々になってしまっている。抵抗感すらないのか、この花壇の上では靴を脱ぎ裸足である。


 「ほら、カミラを見習えよ。」

 「いやいや、初心者、初心者!!」

 「はぁぁ、、あのな俺は初心者だろうが、プロだろうが、平等に接するんだよ!」

 「えぇぇ、無茶苦茶だぁ。」


 ふぅー。と綺麗な汗を流しポケットからハンカチを出すと汗を拭う。翔とシキミが会話をしている間に、カミラは一人でせっせと種を撒いて、気づけば後は上から土をかけるだけまでに進んでいた。


 「ふふふ、それにしても今回はまた一段と大きいですね。懲りないお方ですね。」

 「ん?、なんか言ったか?」

 「いえいえ、お気になさらず。私は水を汲みに行きますので後の作業はお願いしますね。」

 「おう!ありがとな!迷子になんなよ!」

 「ふふ、今回も貴方を目的地とすれば、迷子になる方が可笑しいですよ。では、」


 「???。」


 ジョウロを持ち、外へと足を運ぶ。泥々だからこそなのかそのまま裸足で水を汲みに行ってしまった。残された二人、汗をかき来ていた服までびしょびしょに濡れてしまっている。この場所には会話はなく、サラサラと土を掛ける音だけが広がる。


 風が吹くと、熱がこもった身体に癒しを与えて呼吸が軽くなる。それでも中々の苦である体制で花を植えていた為、どれだけ若い身体であっても疲労は蓄積される。止まる事のない汗は、下を向いている為、額から眉に歩き突き抜けると、目に入り痛くなってしまう。


 「お兄ちゃん。少し休憩しようよ、この体制中々きつくて頭に血が昇ってクラクラするよ。‥‥え?。うわぁ!」

 

 丁度半分ぐらいは進んだ所だろうか、休息も大事、急に立ち上がった事で立ちくらみを引き起こすが、ぼやけていた視界がゆっくりと治ってゆくと、翔ではない生き物と目があった。


 「え?、びっくりした。牛‥‥なんで?」


 誰かが余所見をして入ってしまわぬ様にこの大きな花壇には不格好な柵が設けられている。釘は曲がり、平行さすらないガタガタの柵。誰が作ったのかは一目瞭然だった。


 そんな柵の大きな隙間から顔を出して、器用にこの花壇に生えてしまった雑草をむしり頬張る牛と目があった。続いてその柵の上には、青い小鳥が列を作りじっとしている。その真ん中には鋭い眼光をした鷹が、空を見上げて羽休みをしている。その黄色く鋭い口端に突かれれば一溜りもない立派な物。


 「え?、え?、」


 まだまだ、困惑は続く。この村の外にある惑わしの森から一人の客人がやってくると、この畑と花壇の前にある樹木の木陰で身を寄せて目を瞑る。


 「し、し、鹿!?」

 

 側から見れば騒がしい風景。しかし耳を澄ませど、花を植えるたった一人の男の邪魔をせぬ様静かに、彼の姿をながめている動物たち。そして、邪魔が入らぬ様空に目を光らせて、地に目を光らせる。


 「お兄ちゃん!!お兄ちゃんってば!!」

 「なんだよ。疲れたか??。休憩するか?」

 「いやいや、周り見て見てよ。」

 「??。え?。なんだよ」

 「はぁ?動物!動物!!すごい数だよ!!」

 「なんだよ。それゃあ、動物もいるだろうが。何も、この場所は人間様だけのものじゃねえよ。」


 首にかけていたタオルで汗を拭い泥を拭い、この花壇から出ると、泥々であろうが草履を履き鹿が包まり眠る木陰の元へと歩いてゆく。シキミも追って花壇から出ようとするが泥々になった足を見て靴が履けない事を気づく。


 「ふぅぅ。裸足で出てこいよ。男なら足裏鍛えとかねぇとな。」


 「ええ、」


 

 流れる風が頬にあたり、陽が刺さる場所と影を作るこの場所の温度が混じり、欠伸が出てしまうシキミ。横を見れば目を瞑り鹿の背を枕側にして、薄い呼吸を出しながら眠る翔の姿を見て羨ましく思ってしまう。


 自分よりも遥かに大きな体格をした鹿、立派な角はこの木の樹冠に届いてしまう程の高さ、優しげな顔つきで温厚な動物ではあるが、子供から見れば怪獣と言われても示しが着いてしまう。


 怖い。しかし、モフモフとした毛並みに自分の頭を寄せて見たいそう思っていたのだが、怖くて胡座をかいたまま翔の顔をじっと見つめるばかりであった。


 「‥‥‥。俺の顔に何か付いてんのか?」

 「起きてたの?」

 「それゃあな。此処で寝たら風邪をひくってどやされるし、」

 「へへ、怖そうな人だったもんね。」

 「そうか。そうだな。この世で一番怖いお姉ちゃんだ。それでいてこの世界でたった一人の家族だ。まさか、子供にも容赦がないのは驚いたけどな。」


 「‥‥半年前、お兄ちゃんは此処に来たの?」


 「んん?いや、連れてこられた。かな?」


 あまり意味を求めない会話。それは即ち、平和である時間の証明である。風が吹くたびに視界には木の葉が舞い、何処かへ飛んでいってしまう。

 

 スイレ王国で生きてきたシキミにとって、何もかもが違う世界。同じ大陸でもこれ程までに長閑な場所があったんだと、笑みが溢れてしまう。壁もなく、鎧を纏った兵士が歩いてる訳でもなく。歩いても何処にもぶつからない。外に行きたけば、気まぐれに歩くだけで外に出ている。


 人辺りも良く、こうして動物達と共存している。スイレ王国とは似ても似つかない場所。『夢』が無ければこの場所で一生を終えてもいい。そうシキミは思えた。


 裸足で歩いても、あの国の様に硬いレンガは無い。

 足跡がクッキリと残る様な柔らかい道。

 禁忌の森が近くにあると言うのに、安全が保証された今のスイレ王国よりも安心感を得る。


 それ程までに『自然』の力は包容力があった。


 今、祖父が生きていたら、あの国ではなくこの村で長閑に過ごして見たかった。


 有るべき筈の無い、訪れる事のない未来を描き、胸がズキッと痛む。


 「‥‥‥、お兄ちゃんは今、幸せ?」

 

 「‥‥、ん?そうだなぁ。今朝、殴られてなかったら直ぐに幸せだって答えてたよ。カッカっ、こんな愚痴しか思い浮かばねぇからな。幸せ、なんだろうな。」


 「僕さ、迷ってたんだ。」


 「??。」


 半年前、シキミの祖父は死んだ。事実とは異なり、噂に惑わされて、殺したであろう消えた翔を血眼になって探した。


 事件が起きる前には、人々に分け隔てなく助けれる様なお医者様になる為、勉学まで励んでいた。しかし、一変の豪華が降りかかった日から夢は見えなくなり、己の心には『復讐心』だけが芽生えた。


 体格差に相手は翔。勝てる筈の無い相手、しかし失う物も無ければ、迷いもなかった。少しでも力をつけて、この手で翔を殺してやると、その思いは日々日々募る一方。


 一度もその手で拳すら作った事のない子供が、無策に木のカカシを作り、殴る日々。スイレ王国で食料を盗んで、夜は目を光らせる襲人に怯えながら眠り、空いた時間はカカシを殴る。繰り返せば身体は適応する物。最初は殴るだけで悲鳴を上げる痛みだったのに、我慢ができる様になり骨が硬くなった感触すらあった。


 太陽が降りて、夜になった頃、一度だけ徘徊をしていた襲人に見つかってしまうが相手は瀕死の状態。こちら側に声をかけながら歩いてくる物なので、死ぬ事を覚悟して足目掛けて殴りかかると、その衝撃か倒れ込んでしまう。


 チャンスは見逃せない。胸の上に乗り顔を目掛けて、一回、更にもう一回と殴りつける。すると、


 「あ、あ、助けてくれ‥‥‥包帯で裸の男が‥‥‥化け物が‥‥(ガクゥ)」


 声が聞こえた為中断したが何を言っているかはさっぱりだった。そして油断は禁物。もう一度攻撃を始めようとするが、1人の襲人は気絶してしまう。


 死んでしまったのかと、脈を確認して血が出る箇所を見つけると、辺りを見渡し包帯を探す。しかし、そんな物はない。ただし初めて人を倒せた。少しだけでも力がついたのだ。そう笑みをこぼすシキミではあったが、ふと自分の手を見る。


 人々を助けると言う『夢』で使う筈の手は、人の血で真っ赤になり、豆だらけ。


 これでいいのだと、込み上げる何かを押さえ込む。


 翔を殺す為、夢は捨てた筈。

 他人を助ける程、今の自分には余裕がない。

 無いのに、自分で殴った相手の傷を見て癒やそうとしてしまった。

 元々あった我が家には包帯や治療する道具は沢山あった。でも捨てた。あの日燃えて全て失った。復讐の為、捨てた。知識も、技術も、夢も。

 

 「‥‥、あの時、お兄ちゃんと再開して、お兄ちゃんしか見えなかった。他の物は何も分からなかった。だからあんな事になっちゃった。」

 「‥‥。許してくれた器の広いピーちゃんに感謝だな。」 

 「結局、復讐なんて出来なくて、でも本当のことを知れて、勝手に僕を連れ回して、こうして生きてる。」


 「‥‥。」


 「お父さんお母さんが死んで、お爺ちゃんが死んで、家もなくて、出来た夢も捨てた自分だけど。こうやってお兄ちゃんと再開して、もう一度だけ夢を追いかけようと思った。」


 「カッカッカ!!そうか。それはよかった。」


 「こんなどうしよも無い僕に、全部捨てる様な真似をしたこんな僕の『夢』を拾ってくれて〝ありがと”。」


 鹿の背を枕側に居眠りをする翔、シキミの真っ直ぐな言葉に何処かむず痒くなってしまう。片目をだけを開けてシキミの顔を確認するが、泥々になった頬が上がり笑顔で感謝してくる。


 いつだって、子供は笑顔が似合う。そう思い翔自身もクスッと笑ってしまう。不意に出てしまった音に、聞こえたシキミは眠る翔の顔を覗き込もうとする。


 そんな彼の行動を察知して空いてある片手を使い、またデコに指を当てて叩く。不器用である。


 「いてて、急に何するのさ!感謝してるだけだよ、」


 「何言ってんだ。自分が捨てた、それでも立ち止まってもう一度拾った。これもそれも全部お前がやった事だ。感謝するなら、爺さんか自分にしやがれ。」

 「もー。冷たいな!!」

 「ふん。それで結構。それぐらいが‥‥丁度いいんだ。お前には『理由』があるんだから。尚更だよ。」


 流れる暖かな風に身を任せて眠る翔。その横では、デコを抑えたシキミが口を開け、


 「??。お兄ちゃんってさ、いつ笑うの?」


 時が止まる。


 「‥いつも笑ってるじゃねえか。目ついてねえのか?」

 「んー。なんだか愛想笑いにしか見えないんだよね。」

 「‥‥‥、。そうか?」

 「かっかっか!って変な笑い声しか聞いた事がないよ。本当に僕の事友達だと思ってる?。」


 友達だとは思っている。それについては嘘偽り無い。だがある一定の距離を空けている。ただそれだけ。


 「お兄ちゃんにとって普通の状態を見てみたいんだ。だってそうでしょ?友達なんだから。」

 「‥‥‥これが普通だ。」

 「‥そうなの?」


 正直、笑顔を作り過ぎてしまった自分の元の姿など、思い出せない。どう言った人間なのかも良く分からなくなってしまった。それを感じて不安にさせてしまう事もこれまでの人生、確かにあった。だがそれで良いと。このままでいいと歩き続けた。


 「感情を露わにして、誰かが移ったらどうする。臆病者な俺だ。涙なんて流した日にはどうなると思う。‥‥、」

 「‥‥‥。可哀想とか?」

 「だな。それで終われば結構。だが中にはその気持ちを糧に動こうなんて考えをする馬鹿がいるんだ。」

 「でも、人のことばっかり考えるのは生きていて楽しいの?」

 「う。本当に子供か?お前。‥まぁ良く言われるが‥俺は今の方がずっと楽だ。楽に生きれて越した事はない!」


 「変なの。」

 「‥‥それで結構。それで。」


 自分が決めた生き方。これに対してとやかく言われる筋合いは無い。感情のままに生きていれば、また繰り返してしまう。俺は‥そう言う人間なんだ。


 泣いたあの日、泣いてしまったあの日。ふと、彼奴(あいつ)が俺を見ていた。無視すれば良かった物を‥拾いぶつけやがった。勝てる筈の無い相手に、人の涙を掬い上げてぶつかりに行った。単純な話、行ったらなら帰ってこないと行けない。


 でも、彼奴は帰ってこなかった。見つけたのは彼奴の抜け殻だけ。


 人前で‥流していい『涙』など無い。だからこそ、笑って過ごすのだ。そうすれば誰も動かない。


 「‥‥、お前も色々と学べよ。」

 「ふん。臆病者にゆわれたく無いね。」

 「かっかっか!!それもそうだな。」

 「ほら、またそうやって笑って。」


 今まで洗礼されたその笑顔を見せて大いに笑った。


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