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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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34”氷に歩み


 陽は落ち、僕らの目には真っ赤な光が差し込む。障害になる程の光を浴びながら、颯爽(さっそう)と馬に乗りこの大地に音を立てながら駆け上がる集団。馬の(ひづめ)が擦れる音と、重い重い鎧の擦れる音が響き渡る。


 「本当に驚いたぞ敦紫殿。」

 「僕が言いたいよ。なんで生きてるのさ、あれで。」


 細く、無造作にも手入れされた土の道には、所々に雑草が生え小石が転がり、枯れた花がへばりつく。集団も集団、大量の足跡は、この道の全てを消し去ってゆく程。そして、先頭に立ち、列となる兵達のペースを維持し走るのは、


 「オッラァァァァ!!ついてこいよ!!野郎ども!!」


 人間ではなく、言葉を話す可笑しな武器。来た道をしっかりと覚えていた為、フリーシア、リズル共々の騎士達を纏めて先頭に抜擢(ばってき)された。


 何も、人間だけが先頭に立ち風向きを示す訳ではない。この世界だからこそ、人が振るう武器が先頭にたっても可笑しくはない。そしてこの集団の一番後ろでは、


 「救世主とも呼ばれる人間の治癒力は、桁違いであるな。」

 「治癒力で片付ける様な事じゃないよ。本当に何も知らないの?」


 集団から少し距離を置き、遅いペースで馬を走らせながら会話をする二人と、背に一人。


 「何を言うか。気が付けば敦紫殿が血塗れで倒れていたのだ。私は、その血を止めるべくあの国の者から布を借りに走り回っていたのだ。」

 「‥‥。ペンも同じ事言ってたし。」

 「有りったけの布を担ぎ敦紫殿が倒れていた場所まで戻ったが、血が止まり、傷が塞がって起きていたではないか。私の方こそ何が起きたのか聞きたいぐらいだ。」

 「‥知らないよ僕も、気がついたら座っていたんだから。近くにいたのはアビケ君だけ‥‥。」

 「ふむ。アビケ君はともかく。リリー君が妙だ。」


 ドクレスが走り回り手に入れた布切れ達を結び、太い紐状にした物を、自分の身体に括り付けて気を失ったリリーを背に固定させている。


 「‥そもそも、何故リリーさんが?って話だ。僕に何が隠し事かい?」

 「隠し事と言う訳ではないが、彼女の力が必要だったのだ。」


 スイレ王国へ足を運ぶ前、ドクレスはある作戦に出る。半年前から尻尾を掴めない異世界人を、彼も彼なりに探していたのだ。探して、見つけて、捕まえて、処刑。なんて、この男がする訳がない。ドクレス本人もその異世界人の事を知りたい、真実は決して違うと。


 異世界人が降り立ったタイミング、そしてスイレ王国で降り注いだ業火の雨を境にこの世界には大きな異変が所々に起きていた。スイレ王国だけではない。あの国の外もそして他の国も不可解な現象が頻繁に起きている。


 「‥‥、半年前の出来事。あの雨が降り注いだ日からこの世は一変したのだ。偶然では済ます事が出来ぬ程に大陸に歪みを生じさしてのだ。」

 「歪みねぇ。」

 「我々は、あの雨を歪みを作ったあの雨を『一変の業火(スロブレトス)』と呼び月初めに行われる各国が集まる議会に情報提供をしているのだが‥‥ラーガ様の教えでな。」


 僕が思った半年前の事件と暴走した異世界人の矛盾は、ドクレスも少なからず感じていた。『先ずは知る事から』そして、『歪みは二種類、始まりと元に戻す時に生じる」と、師匠であるラーガから貰った言葉を胸に、異世界人を探し独自でスイレの勇者を追った。


 しかしながら、混在する偽りの可能性が高い噂ばかり、記事を見れど、月に一度開かれる国を(まと)める各地の王が集う『ハリスの審界』が行われ、挙げられる『一変の業火(スロブレトス)』の議題も飛び交う言葉は、『魔獣』『魔法』『暴走』ばかり。


 半年前降り立った勇者(かれ)の素性を記された書物もない。接点があったとされる人間達に聞こうとも話を逸らされる。


 人から物事を聞く。それには限度があり制限がある。


 嘘か真実かを見極めなければ、罪のない死人が出てしまう。


 「‥、あのスイレ王国には、半年前と同じ魔胞子(バーベ)は検知できなかった。」

 「魔法ねぇ。それで、いつからこの子が?行きはこの子の姿なんて見てなかったけど。途中で合流したのかな?」


 「いや、最初から付いてきていたさ。バレずに人を追いかけるのが上手いとの事だ。」


 「‥へぇ‥。」


 悩みに悩んだドクレスは、己自身で現地に足を運び自分の目で確認する事。一つ一つ、引っかかる点を削除してゆく。僕の世界で言うと灯台下暮らし、此処まで広い大陸で、半年もの間目撃情報は一つも上がらなかった。で、あれば事件が起きたその場に身を潜めるている可能性もある。


 先ずは『魔法』、噂通りであればこの国の空を覆う程の業火の雨を降らした魔法を扱う。あれだけの数の魔胞子(バーベ)を見て、操作できる僕ですら、出来ないかもしれない。但し此処でで回る噂が僕の邪魔をした。


 「‥噂では、勇者(かれ)魔胞子(バーベ)が見えないんじゃなかったけ?」

 「うむ。そうだな。だが私は私の目で見たものしか信じぬのだ。」

 「‥男前だね。」

 「そうだろぉ?ひたすらに真っ直ぐ逸れる事なく歩けば‥真実にいつか出会える。私は‥そう信じている。」


 勇者(かれ)がスイレ王国に身を潜めるのであれば他とは違い、異様なまでに、そして隠し切る事ができぬ程にその魔胞子(バーベ)を、スイレ王国に集めている可能性が高い。


 『一変の業火(スロブレトス)』を創り出した張本人が居れば、スイレ王国を覆う程の魔胞子(バーベ)が集約しているのではないかと。


 但し、魔胞子(バーベ)の見え方も個体差がある。そしてドクレス本人も自分が見える魔胞子しか見えない。当然の事。己が扱える魔胞子の量しか視認できない。他人の魔胞子など確認できやしない。


 では、どうするか?。ここでリリーさんの力が必要になってくる。彼女のリゲイトは『共感者(けいがん)』。魔胞子(バーベ)だけではなく人が出す力を可視化できる。


 リリーさんは、人の力を測ることが出来る。感覚、直感ではない。確かな物を彼女だけが確認できる。そして、この力を記憶する事も出来る。


 「『共感者(けいがん)』。これ程のリゲイトを持って何故、彼女はリズル王国で燻っているのか。‥‥、力が広まれば直ぐにでも帝国へ行けると言うのに。」

 「‥‥そんなの簡単だよ。‥それに君たちの様にのし上がりたい。そんな向上心を持つ人間ばかりじゃない。その言葉はリリーさんを苦しめる事になるかもよ?」

 「うぅ‥‥すまない。失言であった。後でリリー殿には誤りを入れよう。」

 「‥いや、そんな事までしなくてもいいよ。」


 ドレクスの背で眠るリリーさんには後で、色々と話を聞かなければならない。


 この世界で僕の身体能力は強化されている。それに付随し怪我をした箇所は直ぐに治る様な治癒力まで手に入れたのか。それならラーガやフーガと喧嘩をしたあの時の傷も直ぐに治る筈。


 回復魔法がないこの世界で、大きな怪我をした時に頼れるのは医者だけ。


 僕の為に動いてくれていたペンやドクレスに聞いても分からないと、鍵を握るアビケ君は何処にもいなかったし、側にいたのは彼女だけ‥‥何か知らないかな。‥この事で‥


 「‥‥‥。」

 「どうしたのだ?。」


 斬られた箇所を触ってみる。残念ながら目で見なくとも感触で想像できてしまう。斜めに斬られた傷跡、触れれば縫われた後の様にも伝わる感触。肩から骨盤へ掛けてへこみを確認できる。


 スイレ王国に出向き、想像を遥かに超える破壊を目の当たりにし、怪しげな人物を目撃し、自然の脅威に見舞われ、世界が歪み人々が眠りについて、勇者(かれ)の鍵とも言える人間と出会って。


 一から的確に思い出そうとすれば、頭痛を酷く引き起こす程に、衝撃的な出来事が混在している。深掘りせず、端的な思考で考えるべきだと思う。しかし、忘れてはいけない。いや、忘れる事なんて出来ない様な生き物と接触した。


 僕の腹を裂いたあの人間に似た化け物だけは、気をつけないと行けない。誰なのかは知らないし、名前も聞きそびれた。ただ、知れた事が一つだけある。あの男が僕の目の前で刀を振り下ろす直後に、脳裏に浮かんだ言葉。それは、


  『理不尽』だった。


 ただ、それだけその言葉が思い浮かんだ瞬間、僕の目の前には自分の血が飛び上がり、力が出なくなってしまった。アビケ君の口から『異世界人』と言うワードがでた瞬間、殺気がダダ漏れになっていた。あまり僕の素性をペラペラと話すのも良くないね。気をつけよう。


 口は災いの元だ。


 ラーガと同じコートを羽織っていた。ならば、あの戦鋼番糸(せんこうばんし)とも関係があるかも知れない。


 それにしても‥‥‥


 「ふふふふふふふふふ。」

 「おいおい、それをやめてくれ敦紫殿!腹を触り、急に笑い出すな。気味が悪くてしょうがない。」

 「ふふふふ。ふぅぅ。ごめんね。」


 「よぉぉぉしぃ!!!皆の者!!今日は災難であったが無事、死者が出る事なく切り抜ける事が出来た事を感謝する!!真っ直ぐリズルに帰り疲弊した身体を癒してくれ!!私はあの我儘な姫君を拾い帰る事にする!!」


 「ハァ!!!」


 ある程度馬を走られせた所、今朝ヘレンさんと別れた道にまでやってくる。馬の蹄の音にも負けず大声でドクレスが声を張ると、聞き返すことも無く着いてきた兵士の皆さんはそそくさと帰って行った。


 「ペンはどうする?」

 「着いて行くに決まってるだろう?。また、お前が人に危害を加えるかわかんねぇんだから。側で見とかねえとな。」

 「そうだね。さっきはごめんね。仮一だ。僕の事殴っとくかい?」

 「何言ってんだ、俺は剣だから手なんてねぇんだぞ。それに、もういいよ。俺の代わりに一発行かれてるじゃねえか。」


 「そう。ペンはあの人と知り合いなのかな?。」


 「まぁ、な。」


 スイレ王国に止まり、聞き込みをしたかったが早い時間に切り上げる事になった。当初の計画ではスイレ王国に一泊し復旧作業を手伝いそして、異世界人の聞き込み調査をする筈だったのだが、『嵐』が起きた事により随分と計画が変わった様だった。


 あの国でしか起きなかった『嵐』について、誰が流したか知らないが噂は周り、各国中で話題になっているらしい。そして、この大陸で最も大きい帝国で『嵐』について議会が行われる。自由参加ではあるが、ドクレスは足を運ぶらしい。


 帰る事になった僕達だけど、一人忘れては行けない人。今朝別れたヘレンさんを拾わなければならない。その為、ドクレスはこの分かれ道で仲間の兵士たちを先に帰らせた。僕も疲れたし帰ろうかな、そう思っていたのだけど


 ヘレンさんが顔を出す村に興味があった。


 なにせ、その村にはヘレンさんのお師匠様がいるのだから、一度は会ってみたい。


 「‥‥敦紫殿‥、本当についてくるのだな?。はぁぁぁ。」

 「ん?、そうだよ。見られたら不味いものでもあるのかな?」

 「‥そういう訳ではないが‥‥いや、ある。」

 「え??。あるの?」


 夕日が下場に沈みて、その赤い光は煌々しさを増す。視線を前に向ければ目が焼けてしまうが、空を見上げれば切なさも相まった退紅色の空を作り出す。今から、夜に変わるそう知らせる様な肌寒い風が強く吹き、敦紫の前髪と大地に生える草木が揺れ動く。


 「‥‥‥、今日で色々と固まったよ。こっちの世界も素晴らしいけど、元の世界が恋しくなってきたよ。」


 何はともあれ、色々と不思議な事があったがヒントを掴む事が出来た。それに生きている実感があるし心臓が動いている。それならば僕もまだ止まっては行けないみたいだ。帰る為、祖園を突き止めなければ行けない。元の世界に戻り、親友のお墓に花を添えて上げないと。そして、彼の想いを形にしたいし、結朱華(ゆずは)も向こうで心配している筈。


 これが、僕の目的。『帰る』この為に今から休み無しで歩いて行こうと思う。その道中で『勇者(かれ)』に逢えたら良いな、戦う事なんてしない。ただ、会って話してみたい。ゆっくりでいい、目的を見失わない様に、勇者(かれ)を探してみる事にする。


 同じ境遇の人間。どんな気持ちでこの世界で生きているのか。逢えたらなら何を話さそうかな。僕と同じ、この世界に迷い込んでしまった子、一緒に帰り方でも探せたら良いな。


 「さぁ、行こうよドクレス。道草食ってる暇は無いよ。僕は明日も予定が山積みなんだ。」


 「はぁぁ、救世主様も多忙であるな。全く。今から見た事は、他人に口出ししない事。それを守ってくれ。はぁぁぁ。」

 

 「ふふ。なにが待っているだろ。ますます楽しみに———」



 「あ‥‥、あぁ‥‥、あぁ‥‥‥」



 「む?。起きたかリリー殿。」


 「どうしたんだい?リリーさん?」



 気がつけばリリーさんは目を覚ましていた。しかし悪夢でも見ていたのか汗を流し、耳を塞ぎ、項垂れている。そして、最後には‥‥‥


  「きゃぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!」


 「どうした!!リリー殿!!」


 「一旦落ち着いて、ドクレス下ろしてあげよう。混乱しているみたいだ‥‥」


 

     !?



 「!?」

 「うぅ!?」



    今、世界は、何かに、誰かに威嚇された。



 言葉を止めてしまった。風景は至って普通、変わらずこの場所にいるのは、ペンドラゴラム含め四人。それなのに、誰かから睨まれた感覚に陥る。殺気ではない、ただ睨みの様なものが、まるで雨の様にこの大陸に降り注いだ。


 腹を切った男と同じ感覚が身体全体に伝わる。それは、決して僕だけでは無く、先程まで面倒くさそうな顔つきであったドクレスが胸に手を当て、汗を流している。


 「なんだ今のは!!‥‥全身の筋肉が固まってしまった‥‥はぁ、はぁ、はぁ、」

 「落ち着いてドクレス。僕も同じだから‥‥慌てないでなにも起きていないから。‥‥。リリーさんも‥」


 ドレクスの背で悲鳴を上げたリリーは、また目を瞑り返答がない様だった。この状況、誰もが焦りを見せるも‥‥


 「ふぃぃ、痺れるねぇ。」


 「‥何を言っているんだい??。ドクレスもほら、立って深呼吸しよう。」

 「はぁ、はぁ、そうだなすまない。見苦しい所を見せてしまった。‥だが今起きた事は決して良い事ではないであろう。先を急ぐぞ。敦紫殿。」


 「あぁ。そうだね。」


 確かに今起きた事は異常な物だった。だけど、


 だけど、僕には、悪い予感はしない。多分。いや、絶対。



 そんな異常事態が起きて僕たちは先ほどよりも速く馬を走らせた。道中で惑わしの森を横切らなければ行けないが難なく通り過ぎる事が出来た。恐ろしい恐ろしいと言われるが僕にとっては少し大きな森だとしか思わなかった。


 「‥ペンには色々と聞きたい事があるからね。僕に、沢山隠し事をしているみたいだしね。」


 「‥‥‥。‥なんだよ。怒られんのか?俺様。」


 「どうだろう。ね。」



 ——————‥‥‥‥



 馬を早く走らせても少し時間が掛かってしまった。僕とドクレスがシオン村に着く頃には日はすっかり沈み静かな夜になってしまう。スイレ王国とは違いここはただの村、柵はあれど誰でも侵入が可能な物。とゆうよりも入り口とゆう入り口がない何処からでも入れるそんな村。


 見て感じてはっきりと分かる。長閑な村なのだろう。草木は生い茂りあるのは所々に煙突がついた木製の家。スイレ王国とは違い自然の匂いが漂い落ち着く。そんなシオン村に入りドクレスと僕はゆっくり馬に乗ったまま進むと広場のような所に数人の人影を見つける。遠い距離ではあるが、向こうも僕らに勘付いたのか小声で何かを話している様子だった。


 「おい!!帰ってきたぞ!」

 「やばいやばい!!布を!急げ!!」

 「もう帰って酒屋にいるんじゃねえのかよ。」


 数人の男達はなにやら慌ただしく手に持っていた道具をしまい、蝋燭の火を息で吹きかけ消し、柵にかけていた大きな布を引き摺り、とある大きな石のような物に被せると何も無かったかの様に口笛を吹く。


 「帰ってくるなら行ってくださいよ。全く姉弟揃って自由なんだから‥‥」


 息を荒げ顔色を元に戻しこちらに歩いてくる一人の眼鏡をかけた男。


 もう日も落ち、夜になっている。辺りは真っ暗だ、少し離れた距離からは何をしているのかすらわからない。しかし、僕は目がいいんだ。


 それにしても怪しい。泥棒か?


 「‥‥って、ドクレス君か、ご苦労様。」

 「ふむ。夜分遅くに失礼するぞ。いつも通り我儘な私達のお姫様を攫いにきたのだ。」

 「いつもいつも忙しい人だ。同情するよ。」

 「はぁぁぁぁー。全くだ。して、ヘレン様は何処に?」


 怪しげなことをしていた男達はドクレスと顔見知りらしい。ドクレスから話を聞くとこの村の人たちだった。


 これまで、この世界に来て僕はドクレスを見続けてきた。このため息を吐く人は色々な国で顔が立つ、お偉いさんだ。リズルでそしてスイレ王国でその立ち振る舞いが証明している。誰もがドクレスに敬語で話し、顔色を伺う者ばかり、単純な話、一つの国の騎士団長であるドクレス、見た目もかなりの強面、それに含め僕よりもはるかに大きい体。大抵の人間が下手に出る。


 一つの軍団をまとめる長としては、ドクレスの仮面は正解だと思う。


 それなのに‥‥


 「またおっきくなりました?」

 「がははは!!そうだろそうだろ!!筋トレだけは毎日欠かさずやっておるのだ。ただ一つひたすらに鍛えれば答えは形と成すのだ!!」

 「よぉ!!かっこいいこと言うねぇ。団長さん!!」

 「やめろやめろこの村で身分で名前を呼ぶな。」

 「僕も筋トレやろうかな。」

 「む!!。そうかそうか。私も思っていたんだ。ノゲシ殿はガリガリすぎる。もう、骨だ。君は。」

 「言い過ぎでしょ。」


 フリーシア王国、この大陸の中でも強者揃いの国だと聞いている。それらをまとめあげる銀翼の賜り、騎士団長のドクレスに臆さず、楽しげに会話している。ドクレスもそれらを気にすることなく只々談笑をしている。やっぱり変わった村だ。


 僕達はその村人にヘレン様が居る場所に案内されている最中、ある物に目が入り僕は立ち止まってしまった。この道と言っていいのかわからないそんな道に、所々綺麗な花が休息をしている。リズルもスイレにも無かった風景。飾り物の花なんかではない。しっかりと手入れされている。毎日毎日絶え間ない愛によって育ったのが目に見えて分かる程茎がしっかりと伸びている。


 でも、


 「ねぇ。ドクレス。何故ここに咲く花はみんな蕾を閉じているんだい?枯れてはいないよね?」

 「うん?それは日が出ていないからだろ。花達は皆太陽から降り注ぐ養分によってその芽を咲かす。夜であれば閉まってしまうのも当然であろう。受け取る為の養分が無いのだから。」

 「変わった世界だね。」

 「??。敦紫殿の世界は違うのか?、」

 「うん。愛する人が居れば、何処にでも咲かすよ。」

 「何とも、魔訶不思議な世界だな。」


 ドクレスから聞くとそうゆう訳らしい。この大陸の花達は全て太陽から出ている養分を受け取るためその花びらを広げるらしい。夜になれば休憩といった所だ。


 この世の花は、陽の光を受け取る為、陰では咲けない。


 ヘレン様が居座る場所に向かう途中、ドクレスと並んで歩くこの村の人間が此方に振り向く。


 「‥そう言えば。ドクレス君の後ろにいるお方は?見る事すら金貨が必要な男前な面してるが。もしかして弟子でもとりました?」


 「んなぁけあるか。私如きが教える?鼻で笑われてしまう。そう言えば言っていなかったな。このお方は‥‥」


   先日!!、リズルゴールド王国にやってきた!!


   半年前の厄災!!あの火の雨を降らした異端児を弔う為!参上された!!


    

       救世主様である!!



 「!?。」


 急にその村人は立ち止まってしまった。


 「と言うのが表向きの彼の素性。しかし、細かく話すと長くなる。‥‥敦紫殿も敦紫殿なりに‥考えが——」


 「‥‥‥。」


 「どうしたのだ?ノゲシ殿。」


 歓喜に満ち溢れた雄叫びを予想した。それはドクレスもそして僕も。そうなって欲しい訳ではないが、暴走した勇者(かれ)が『悪』だと認知されてしまっている以上、それを倒す為にやってきた僕と言う存在がいれば、浮かれた予想もしてしまう。


 でも僕の予想とはかけ離れた物だった。


 「‥‥‥‥‥そう。」


 その村人の目は凍えるほど冷たい眼差しを僕に向けてきた。怒りにも似て軽蔑にも似て、間違いなく歓迎される様な雰囲気などは微塵たりとも感じなかった。


 「‥‥‥。そんな偉大な救世主様はこの品素な村に何用でしょうか?」

 「‥ただ私について来ただけだ。他意はない。」

 「‥そうですか。」


 先ほどまで弱々しい一人の人間だった。ドクレスに酷い事を言われていた人間だった。しかし、今はそんな雰囲気など後かけらもない。


 「‥‥。私はこのシオン村に着く村長の補佐を務めております。村役人のノゲシと申します。ごゆっくりと疲れた体を癒してくださいませ。歓迎致しますよ。救世主様。」

 「‥‥ありがとう、ございます。」


 嘘をつけ、そう思ってしまった。笑顔で僕に会釈をしながら話して来たが、その声色は何故か威嚇も入り混じった低い声。ドクレスと話していた陽気な声ではなかった。別人だとでもゆうのかと。


 「‥‥さて、今日はヘレン様のお迎えですね。さてさてどうぞどうぞ。もう少しで着きますから」


 「なんだ?急にそんな口調になって。」


 「‥‥‥。それは‥‥、そうですね。この村の‥‥客人様ですからね。」


 少し歩いていると夜だからこそよく目立つ。明かりが漏れたこの村でも大きい分類に当たる家を見つける。ノゲシさんはこの場所にヘレンさんが居る、そう吐き捨てると来た道を戻り何処かへ行ってしまった。道案内をしてくれたのだからお礼をしたのだけど無視をされてしまった。


 「あのノゲシって奴、返事も出来ねぇのか?」  

 「いいよペン。何か事情でもあるんじゃないかな。」

 「はぁぁぁ。まぁ、お前が良いなら良いけど。でもよ、気をつけろよ。俺はしらねぇが敦紫は‥‥」

 「あぁ、わかっているよ。」


 この明かりがついた宿はこの村の唯一の食事処でもあり、酒屋でもある所。ここにヘレンさんが居る。僕はドクレスの背中を追いながら扉を開けて入ってゆく。

 

 ドクレスのため息の理由はこの遠さによる物なんだと、最初は思っていた。ヘレンさんの自由気ままな行動による物だと思っていた。‥でも違った。



 「おいおい!!いい飲みっぷりじゃねえか!!」


 「アタたりマエじゃないですかぁぁ!!!!」



 朝型別れる前とは別人の様な。あの白い肌もお淑やかな雰囲気も凛とした佇まいも。



 「おぉ!!もう一杯行くか!!」

 「わたしは!!あのかたのトナリにたつためぇ!!おサケもつよくなるんでーーす!!」

 「そうかそうか!!あの姉弟(きょうだい)に並ぶつもりか!!いいこったぁぁ!」



 死ぬほど酔っていた。隣の男もそれはもう。

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