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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
33/38

32”天才も歩けば壁に衝突る


 ‥‥‥‥‥。



 「よしよし、大きく育てよぉ~。」



 ただ一人、大きな花壇に水をやる黒髪の青年。先程まで寝そべっていたのかと、あっちへこっちへと髪先が跳ね寝癖がついている。


 此処は学校。白一色に染められたコの字に身構える建物。そしてその真ん中には、名の通り中庭が存在し、花壇がある。とは、言ったものの土は亀裂が走り、雑草は生え、花であった植物は枯れ果てた姿。


 そんな場所で、土を一から耕し水を汲み種を埋める。道具が見当たらなく、素手でその全てをやっていた為、手は泥だらけ。汗を拭い顔も泥まみれである。服は、もう。それはもう。


 今はお昼時、ご飯を食べる時間。それなのにこの青年は汗を掻き、喉に何も通さず花を育てる。この校舎からは何処からでもその窓辺から中庭の模様を確認できた。だからこそ、ドロドロになる青年を上から見て笑う大勢の生徒達。


 しかし、耳にも暮れず青年は花と話している。


 此処には、中庭に一人の青年と、それを笑う大勢の人間。


 コの字の中心だからこそ、人の笑い声が反響して敵わない。雑音が行ったり来たり、この中心を、中庭で眺める空をも覆う。


 そんな中、雑音に入り混じる足音。軽やかな足音ではなく。ドタドタと走り靴が擦れる音。


 「はぁ、はぁ、此処に、可笑しな子はいないかい?」


 「敦紫君だ!!‥‥可笑しな子??。誰かな。それ。」


 「そう。ありがと、」


 「え?」



 名前も知らぬ顔も知らぬ生徒に目を合わせ、教室に入っては何かを探して、出ていく。訳も話さず、走り去り煙の如く消えてゆく。この学校は、他と比べて生徒の数が多くそれに伴い教室の数も馬鹿にはならない。


 息を切らしながらも廊下を走る。ふと、通りがかる教員に、廊下を走るなと叱られるが、それすら無視をして走る。行くこの道で溜むる生徒達を押し除け走る。曲がり角でぶつかり相手が転けようと気にしない。


 謙虚さの欠片もない。躊躇せず、手段すら選ばない。その行為に誰も言及しないし咎めない。彼は、少しだけこの学校で有名人。名を知る物が多く、肩書きすら付けられる程。


 「なんだよ。アイツ?。」


 「やめとけ、ふっかけるだけ時間の無駄だよ。」


 「あ、天才君か?」


 「そう。冷酷なね。」


 人を人と見ないその目、冷めきった口調に一切の感情を表に出さない。全てに対し冷たい態度、そして顔立ちが整ってるが故、男であると言うのに『雪女』と言うあだ名が付いた。が、それも一昔前の話。ある日全生徒対抗で球技大会が行われた。当然、この雪女も参加である。そして、そのイベントが終わった頃には、あだ名が変わり『冷愉(れいゆう)』と呼ばれてしまった。


 人を人と見ないその眼、冷め切った口調に啖呵を切った物には優しさ一つもない程に膝から崩れ落とす才能。己の愉しさを優勢し、走り去る。ふと、勝負事になれば気味の悪い笑顔を作り恐怖を与える。人は彼を「冷愉」と呼んだ。


 そんな人間が、人を探している。無策に足跡を掴めぬ者を、ひたすらに探している。


 「はぁ、はぁ、何故どこにいない‥‥、夢じゃ無いはず‥‥結朱華が綺麗と言った男の子。‥‥、しっかりと名前を聞いておくべきだった。‥‥ん?」


 足を止め汗を流し拭う。時計の針はもう少しで天上に向きチャイムが鳴ってしまう。そんな中、窓辺から中庭の風景に目が入る。


 「‥‥あ、‥‥あの子達‥‥。」


 冷愉が見つめる先では、


 「‥‥此処にいましたか。好きな物を愛でるのは良いですが、ご飯ぐらい食べて下さい。」


 「うん?、おぉ!!馬!、今日も弁当作ってくれたのか?サンキューな!」


 「はぁ、馬ではありません。馬宅と言う名前がありますから、」


 中庭ではドロドロになる寝癖のついた男と、制服のボタンがはち切れそうな肥えた男。肥えた男は布で包んだ弁当を手渡しながらも、ベラベラと何かを話している。が、慣れたように聞き流しながら、弁当の蓋を開ける。


 「‥、これなんだ?」


 「‥‥、それは卵焼きですが?」


 添えられた箸を使わず手掴みで取り出した物は黒い物体。卵焼きのような形、それに色すら該当しない得体の知らぬ食べ物。しかし構わず口に放り込む。


 「‥‥ん?おぉ!うまい!!」


 「少々、見た目がアレですね。次回は、気をつけましょう。」


 「気にすんな。上手いんだから、」



 会話は聞こえない。何をしているかすらさっぱり。しかし、探していた人物をようやく見つける事が出来た冷愉は、窓辺から身を乗り出し、大声を声をかける。普通ならば聞こえる距離ではあるが、邪魔な笑い声が通り過ぎ彼に届かない。


 「おぉーーい!!おぉーーい!!」


 窓辺から手を振るう彼。そんな彼を邪魔する様に背後から肩を叩く者。しかし気にかける事もなく声を掛けて、手を振るう。


 「おぉーい!!」


 次第に自身の肩を叩く者の力が強くなり、苛立ちを覚えてしまうが、変わらず。だが、更に強く強く、叩く力が増してゆくと、次は体全体が揺れてゆく。



 ——————————————————



 「救世主様‥‥救世主様‥‥‥」


 「触るなぁ!!鬱陶しい!!‥‥‥あれ?‥」


 その揺れに目を開けて、空が広がる。ゴツゴツとした感触が身体全体に伝わり寝そべっていた。此処はスイレ王国。また、眠ってしまっていた様だ。懐かしい記憶。ひたすら彼を探していたあの日の頃。ようやく彼を見つける事が出来たけど、笑い声が邪魔で声が届かなかった。


 最初は、中庭で見つけたっけ‥‥。


 「‥‥、大丈夫ですか?‥‥寝ているのに、息を切らしていましたが‥‥、」


 「‥‥、もう少しだったよ。‥」


 「え??。」


 「いや、ごめんね。こっちこそ。汚い言葉を使ってしまって。」


 「いえいえ、よくある事ですから大丈夫ですよ。」


 こんな道のど真ん中で僕は眠ってしまった。僕の身体を揺すり、起こしてくれたのはこの国の騎士団アビケ君。アビケ君が居なければずっと寝ていたかもしれない。それぐらい心地が良かった。それに、僕だけが眠っていた訳じゃ無い。今も、隣では安らかな顔付きでドクレスが包まり猫の様に寝ている。嘸かし、素敵で幻想的な夢を見ているのだろう。


 周囲一体。全ての人間がドクレスの様に眠っている。起きているのは、僕とアビケ君だけ。


 「‥みんな‥‥寝てるね。気持ちよさそうに。」


 「‥そうですね。ですが、此処で寝ていては風邪を引いてしまいます。」


 「そうだね。手伝うよ。」


 僕たちは手分けをして眠りに着く皆を起こしてゆく。誰も死んではいなかった。体を揺すればゆっくりと起きて僕に、「此処は?」と聞いてくる。異世界人の僕がこの世界である事を説明する絵は、何度見ても鼻で笑ってしまう。


 ドクレスに至っては仰向けになりながら、両手を空に伸ばして、大きな手で何も無いその空間を優しく握っている。なんとも寝相の悪い、と言いたいが僕は起こす事を忘れてドレクスの夢心地を眺めている。


 「‥‥その手には‥‥誰がいるんだい?」


 僕も同じだけど、懐かしい夢。トラウマとなる事も、輝かしい思い出も、半透明になり儚く魅せてくれる。それが夢。今、空に両手を伸ばすドクレスもそのどちらかだけど、間違いなく良い夢。覚ます事すら拒んでしまう程の夢。だって彼の顔は‥僕や彼なんかより‥‥


 「‥‥君にも色々とあるんだね。ドク。」


 「‥ドク?コラァァァ!!姫様!!」


 耳だけが夢と現実の架け橋。僕の声が聞こえていたのか、眠る彼の耳元に囁く程度の名前を呼んだ瞬間、飛び跳ねては僕の肩を持ち優しく揺らし怒ってきた。


 「‥私の名前はゴール”ドクレスですぞ!!貴方様が私の事をドク、ドク、と言いますから‥‥‥。‥‥あ、‥敦紫殿?」


 「おはよう。ぐっすり眠れたかい?」


 「‥‥、此処は?。私は‥‥ん?何故、皆寝ているのだ。」


 王国騎士団、国に忠義を尽くし、盾となり矛となる。この大地には、十の国が存在しその中でもエリート揃いのフリーシア王国騎士団。そんな腕っぷしをまとめ上げるのはこの男、ゴール”ドクレス。この世界では、中々の有名人。洗礼された戦闘技術に、風に流される事のない精神力。状況判断能力に、間違いのない指示。情に厚く、リーダーとしての器であるこの男。


 加えて、歴史の見聞を紐解き答えを探すまでに至る勉強家。軍事国家である帝国には子供達を育てる為、学び所が存在し、その教科書にこのドクレスが乗る程。


 そんな男が、理解が追いつかず困惑した表情を浮かべている。


 「‥‥、一体‥‥、何が起きているのだ。敦紫殿?」


 「‥この世界の先輩が分からないなら、僕なんかチンプンカンプンだよ。」


 「すまない。混乱して‥‥」


 これだけの人間がこの状態である。但し、困惑する顔付きはある感情が入り混じり萎れた花の様な顔つきをも浮かべる。不可解な現象と、夢が切れた瀬戸際の虚しさが心の中で混在し、辺りの状況よりも己の大きな手を眺めている。


 「‥‥‥。もう少しだったのかい?」


 「‥‥。そうだな。‥‥‥いや、‥、届きようがないよ。」


 「‥‥、まぁ、先ずは起こそう?。ねぇ?」


 あぁ、と返事はしてくれた。それでも身体は動かずいつでも陽気なドクレスは黙ったまま自分の手を眺めたまんま、僕も無理に彼を動かそうとはしない。起きてはいるのだから。後は動き出すまで僕は待つだけ、その待ち時間に気付けば此処に眠る兵士達を皆起こす事が出来た。


 「ふぅ。これで最後かな?あ、此処スイレ王国ね。夢じゃないよ。」


 「救世主様ぁぁ。此方も完了しましたよ。」


 丁度、最後の一人を起こし終えた後アビケ君が名を呼び此方に近づいてきた。此処一体、街並みに転がる眠った人々は皆、キョトンとしたまま持ち場に戻ろうと足を動かす中、ある事に気がつく。皆が動き出す中に、アイツがいない事に。


 名前は忘れたよ。覚える気にもならない。最後の記憶、嵐が終わり、一息吐きたい所にこの国の王が水を刺してきた。僕だけじゃなく、彼を否定する様な発言を吐いた人間。もう少しで手を掛ける所だった、そんな時空間が捻じ曲がり、女性の声が聞こえて‥そこから記憶がない。


 目を覚まし、色々と考えたさ。この状態を作り出した張本人は虫唾が走るこの国の王の仕業ではないのかと、しかし、面識があるドクレスが頭を傾げているのだからこの推理は的外れ。では、何処に消えたのか?。知らない。そんな事どうでも良い。影でのたれ死んでいるのであればそれでもいい。僕には関係のない事だ。


 最後に聞こえた声は女性の声。であれば、この街に住む女性の中にいるのか?。無数にいるこの国の人間を片っ端から探し犯人を探す事なんて不可能に近い。


 痕跡も手がかりもない。僕がいた世界と違い、特別な力が沢山あるこの世界。ならば、人々が眠ってしまう様なリゲイトや魔法が存在してもおかしくはない。次はこんな事が起きない様な対策を練りこの一件はお終い。と、言いたいが‥‥言えない。


 「‥‥、とりあえずこの場所は大丈夫そうだね。それにしても範囲が分からない。‥‥後どれだけの人が眠っているのか‥‥僕は噴水広場を見てくるよ。君もこの国の一大事だ。お偉いさんに報告してきたら?」


 骨が折れる作業だ。犯人追求よりも、起こす事が先決、此処にいる住人に声でもかけて眠っている人がいれば起こしてもらおう。それで、ある程度の範囲と自ずと不審な者も出てくる筈、指示を出す人間はまだもぬけの殻出し、動けるのは僕とアビケ君だけ‥‥


 「うーん。大丈夫そうですよ。此処にいる住民の皆様と、フリーシア”リズル共々の皆様も起きている事ですし、一件落着です。後でルドルス団長には報告しますが‥‥、」


 ‥‥‥。


 「‥‥。それならよかった。君が起こしてくれなかったら僕は一生寝たっきりだったかもね。それに目を覚まして皆んなが倒れてるから死んでるのかと思って‥‥焦りに焦ったよ。」


 「はは、何を言いますか。只、《《一時的なモノ》》に過ぎませんよ。死ぬ事は有りません。安心してください。」


 「そうなんだね。でも!僕はこの国の人が心配だから国中を見て、確認してくるよ!!」


 「あ!!。救世主様!大丈夫ですよ!!《《この場所だけ》》ですから。」


 ‥‥へぇー。博識だ。ドクレスですら理解できない事が、分かるんだ。‥今、何が起きていたのか。分かるんだ?。これは、一時的な物でそしてこの場所だけで起きた事なんだ。それに、僕を起こしてくれたのはこの子。


 「君は、物知りだね。」


 「え?。」


 「この国では日常茶飯事なのかな?人々が急に眠りについてしまうのが?」


 「え?。」


 この話になってから何故かアビケ君との目が合わなくなった。此方を見つめているつもりだけど、僕の顔を通り越して先を見ている。見た感じ、黒に近い。但し決めつけは良くない。


 「僕の周りの人間はみんな眠っていたんだ。僕も驚いたよ。ドクレスもそしてこの国の人も‥‥、君は驚かないのかい?。と言うよりも誰に起こしてもらったんだい?」


 「‥な、私は!パトロール中に皆が寝ている所を発見したのです!」


 それならそれでも良い。でも、驚く程冷静だね。どちらかと言うと僕を起こした時の君の顔は呆れた表情を浮かべていた。


 色々と考えてしまう。先ほどの話に戻るが、この世界には不思議な能力が数多の数存在する。ラーガやフーガの様な人を殺す事ができる力を持った物まで存在する。それがこのトロイアス大陸。そんな世界で、皆が急に眠ってしまった。ならば対策を練るまで。なのだが、そうは行かない。


 何故かって?。起きた場所がこのスイレ王国だからだ。


 半年前、『転移』の法則など知らないこの世界で、このスイレ王国は成功させたが、呼ばれた異世界人は暴走しこの国は焼け野原。それに伴い、1日で制作された高き城壁。見なくとも分かるが、何十人何百人が束になろうと完成は難しい壁。そして今日、御伽話の中でしか見た事がない『嵐』が現実になった。最後には、皆が眠りについてしまう超常現象。


 全てがこのスイレ王国で起きている。


 最後には、僕がこの国にきた初っ端。フードを被った不審な男とすれ違った。耳が聞こえない、手話を巧みに扱う人間。此方の世界であれば、何も可笑しな事はない。耳が聞こえないのだから別の手段を取ったまで。だがこの世界は違う。薄々気付いていたが、此方にはことわざが存在しない。そして、手話も存在しない。


 ドクレスが引き攣れる仲間達が皆頭を傾げていた。大人が揃いも揃って手話を知らない。出来ないではない。そもそも『手話』の存在を知らないのだ。


 ならば、フードを被った男は何故手話が出来たのか?


 答えは簡単だ。そして、そんな男と共に行動をし、男が作り出す手話を確認したのちに、耳が聞こえない事をドクレスに知らせた。手話が存在をしないこの世界、それなのに手話を見て『耳が聞こえない』と理解した。


 「ねぇ、アビケ君だっけ?。これ、分かるかな?」


 「‥‥、はて、申し訳ございません。何を伝えたいのかさっぱりで。」


 「そう。」


 僕が指を動かす。意味は軽い自己紹介。でも、他の人間はこれを見て手遊びと言ったんだ。‥‥君は、何故、何かを伝えようとしたのか分かるのかな?。この世界には存在しない物なのに。

 

 「今起きた事も、嵐が起きた事も、準備をするのが大切だね。‥備えあれば憂いなし、だ。」


 「はい、段取りは積めば積む程真価を発揮しますからね。しかし、避けれない事もありますから——」


 異世界人の僕と、この世界で生きてきた人間の形は然程変わらない。少々、言葉遣いが違うだけ。パッと見では違いは分からない。暴走した異世界人を似た者同士の中で見つけ出すのは困難だ。しかし、此処で特定できる事を知った。


 この世界には無い様な行動や言葉。それに着手する。


 僕が怪しいと思った人間にこの二策は有効になる。だから、アビケ君に手話を見せた。思ったら通りボロが出てしまった。手話を読み解く事は出来なくとも知識としては備わっおり、この世には無い筈のことわざまで理解できる。


 「君は‥‥、半年前、この国で何をしていたのかな?」


 「え‥‥当時は雑用でありました。地下にある大罪人を収容する監獄にて見張の交代をしようと足を出向いた先、地が揺れたのです。‥‥、揺れがおさまり地上へ戻れば、ありとあらゆる場所が燃え盛り、溢れかえる無数の魔獣が暴れておりました。」


 「大体の話は一致する。よく生きていたね。」


 「はい‥‥運が良く。助けが来てくれまして‥‥、」

 

 「ヘレンさんね。」


 話に偽りはなさそうだ。雑用だった人間がたった半年で王国騎士団のNo.2にまで上り詰めた。真面目に研鑽を積んで来たのだろう。努力の塊、称賛の言葉に値する。それに、副師団長に任命されるだけあって技量は確かに感じられる。何故かって?。彼の間合いに入れないのだ。殴る蹴る、掴む。その動作が丁度出来ないように不自然さも無く距離を置いている。


 「‥‥、」


 「‥‥どうされましたか?。」


 「君は、世界の味方かな‥‥」


 「味方?」


 この世界に来て一番引っ掛かる人間が今目の前にいる。ヘレンさんやドクレス、リズルの国で出会った人間とは全く違う人種。僕らがいた世界の物を知り、此方の世界の知識もある。黒か白か、しかしこの子が異世界人では無い事も事実。


 「‥‥‥、」


 ‥僕には帰る目的がある。帰る為には、皇種が生まれた祖園を見つけなければならない。アビケとゆう人間はいろいろと不思議な物を感じる。『帰る』それが僕の本当の目的。しかし、当初の目的を忘れてはいない。


 「‥君は、この国の人間。なら、暴走した‥‥、」


 いや、野暮だね。


 「オホン、ごめんね。この国にやって来た異世界人の子はどんな子だったのかな?」


 「‥‥、そうですね。お優しいお方でした。」


 「‥‥それだけかな?」


 「どうでしょうか。全てを話すと日が暮れてしまいます。お暇があれば‥‥お話でもしましょう。」


 僕に話す気はないと‥‥、そう受け取ったよ。出回る噂に、全ての人々が認知する火の雨は、暴走した筈の異世界人の素性と重ねると辻褄が合わなくなる。ドレクスの発言に、全てがおかしくなる。矛盾が生じればスタート地点に戻させる。


 今まで何度も何度も、勇者を探せど足跡が掴めなかった。  


 しかし目の前にいる。勇者と会えるかもしれない鍵を握る者が今、僕の目の前に。


 殺しはしない。戦いもしない。この世界でそんな暇を弄ぶような事は出来ない。ただ、会って話したい。ただ、どんなの子なのか見てみたい。


 「勇者の名前、聞いてもいいかな。」


 「‥‥‥、それは出来ぬご相談です。」


 「そう。」


 半年前降り立った勇者を繋ぎ止める足跡が今此処にいる。

 

 此方の世界を知り、この世界を知り、たった今僕の目の前に不成立した存在がいる。


 君が、彼の鍵を握っている。


 そうと決まれば、聞き出すまで。知っているかい?


 「‥決めた事はやり通す。‥手段は選ばない‥‥」


 アビケの耳から小さな声でそう聞こえた。そんなコンマ0.1秒の世界。


 敦紫から黒く輝かしい魔胞子が沸々と湧き上がる。と、同時にフーガの使っていた術『天歩』を使い入る事が出来なかったアビケの間合いに、存在をその場に止め侵入する。進行するこの刹那の時間、下ろしていた腕を残像を描きながら、あろうことかアビケの額に向けて標準を向ける。


 手を向ける敦紫の前髪は風が吹いても居ないのにフワリと魔胞子を帯びて浮き上がる。綺麗な紫色をした瞳は更に輝く。


 目の前にいる存在がどう言った者なのかを確かめる為、敦紫は今アビケに向けて至近距離の魔法を放つ。


 それは正真正銘、全力の魔法。


 手段を選ばない。頑固にも一つの事に気にかけて仕舞えば、突き進むのみ。何かを探る為敦紫の取った行動。たかが一般人にこの様な事はしない。しかし、今回は違う。


 暴走した勇者を知り接点があり、観測できない此方側の世界を知る不成立した存在。嵐が起きたと言うのに急もしなければ、皆が眠ってしまう様な説明ができぬ現象にも理解がある。


 そして、半年間で雑用から副師団長までに上り詰めた。努力に伴う力。


 だからこそ、己の力を全て打ち込み答えを探る事にした。


 アビケの視界、一つ、瞬きをすれば距離を縮められ目の前の男の手が視界全体に広がる。二つ、瞬きをすれば先程の手は無くなり、溶けてしまう危険な熱さをした太陽が目の前に。瞬き二つで死に直面。目で確認できても身体は動かぬ。瞬きが三回目になった所で漸く、自身の身体が命を守る為動き出す。


 但し、間に合う事など無い。


 対処できぬ距離に、絶大な魔胞子を纏った火の魔法はアビケの四回目の瞬きで命を喰らう。


 「!?。」


 「!?。」


 両者の間には小さな太陽。その太陽が敦紫の元から離れようとした瞬間。輝く太陽は真っ二つに割れ爆発も起こさず、音も立たず忽然と消えてしまう。


 困惑する。それは両者同じ事。消えた太陽、二人の間からは、人が通り過ぎる。


 片耳のピアスと眼鏡が光り、長身の坊主の男が今、音も立てず静かに通りずぎる。微かに見覚えがあるコートを羽織った者が、アビケと天傘敦紫の間をすり抜ける。


 誰だか知らない。会った事も、見たこともない。しかし、敦紫は感じた事がある。太陽が消えた直後、突如として現れ通りずぎる人間に、味わい続けた感覚が蘇る。


 無気力な顔つきの男が通り過ぎ、目では確認出来ないがその男の背を追って、悍ましい何かが再び通り過ぎると、肌が危険信号を出す。そして、声が聞こえた。


 「凄まじい数の魔胞子が一カ所に集まり出した。‥‥奴かと思ったが、誰だ?。お前は。」


 「‥‥‥。」

 

 名前を述べたかった。が、声は出ない。


 「‥‥、言葉が話せないのか??。」


 突如として現れた人間を見て、声が出なくなる敦紫。暑くもないのに額から流れる汗。乱れる動悸に唇が渇き、鳥肌が立つ。尋常ではない、冗談ではない、と頭の中で過ぎる言葉は我が身へと、身体が凍ってしまう。言葉が出ない、代わりに身体中に異変を表す。


 人は、これを恐怖と呼ぶ。


 「貴方様は‥‥‥!!」


 敦紫の正面では長身の男を眺めるアビケも戸惑った表情。しかし、アビケは悪寒に襲われる。それは突如現れたこの男ではなく、自分に向けて魔法を放とうとした者に。


 身体は震えていた。恐怖を浴びて尚、敦紫の顔色は尋常ではなかった。異常な程までに笑顔だった。人に恐怖を与える程の笑顔を作っていた。それをアビケが確認出来た時には、その場に敦紫の存在はもういない。私達が感じる一分一秒と言う時間。その時間の概念が、敦紫だけが違う物に感じてしまう様な次元の速さで、坊主の男に接近する。


 魔法ではなく物理。敦紫の行動全てが現実世界に実態が残り続け、目の前の男に対し拳を振り被る笑顔の敦紫。光る紫色の瞳は、敦紫の速度に追いつけず瞳の残光が放物線を描き、今、暴力を纏わす拳を坊主の男に放つ。


 寸時の世界、滑らかに動ける者がこの国に3名。敦紫の対抗、坊主の男はその攻撃を目で追い、迫り来る攻撃に合わせ掌を向ける。まだ、アビケや周りにいる人間は動けていない。時間が止まったわけではないが、動く事ができる時間の隙間など、今は無い。


 敦紫と坊主の男だけが概念を通り越して0.01秒で初動から衝突(あた)るまでを完結させ‥‥。


 「おぉーーい!!やめろぉぉ!!!」


 聞き覚えのある大きな声と共に、敦紫の拳は男ではなく錆びた剣の剣背に打つかる。敦紫の攻撃を受けた物は、ペンドラゴラム。スイレ王国に来てから言葉を発するなと敦紫に言われ黙り続けた物が、この戦いに歯止めをかけた。


 しかし、力は強大な物。受け止め互いの衝突は防げたが‥‥


 (バキッ!!!)


 力に耐える事が出来ず、ペンドラゴラムの刀身は音を立てて折れてしまう。折れ、刃が吹き飛び回り地に刺さる。握り部分だけが敦紫の目の前で、銀属の高い音を上げて落ちる。


 「ペン!!!」


 我に帰るも、届かぬ声に帰らぬ返答。声をかけ続けても聞こえて来ない。魂が抜けた様に。出会った頃斬撃を振るった時の重さはない。


 下を向き声をかけていた敦紫の視界には、足が一つ見え、上を向くと坊主の男が手を差し伸べてくる。


 「‥‥。違う。貴様ではない。そいつを私によこせ‥」


 「え、あ。」


 言われるがまま、折れたペンドラゴラムを手渡すと、握り部分を掴み眺めながら、飛んでいってしまった刀身部分の元へ歩いてゆく。


 「‥、変わり者が作った物は、変わり物で、そしてまた変わり者に支えるのか。‥‥、」


 「‥‥‥、なぜ貴方様がこの様な所へ‥‥エピス様。」


 時間の合致。今起きたことを把握した上で、折れてしまったペンドラゴラムを眺める男に話しかけるアビケ。エピスは手を止めることなく折れた刃を地から抜き取り、亀裂が綺麗に重なる様に合わせる。


 「‥‥‥、言った筈だが‥‥、。お前が何故選んだのか。‥‥どう言った軌跡がお前には見えた。」


 重ねた亀裂の上から人差し指でなぞると、手品の様に亀裂が無くなってゆく。すると、


 「ふぃぃーーー、!!!死ぬかと思ったぜ!!おいコラ!敦紫!!何をしてんだ!!相手を考えろ!!相手を!!そのまま行けば死んでたぞ!!」


 「え?。」


 完全復活と言った所だろうか。唖然とする敦紫の元へと宙を浮きながら近づき、コンコンと説教をするペンドラゴラム。


 「良かった。無事だったんだねペン。」


 「うるせぇ!!アイツがいなかったら死んでたぞ!!」


 指を刺す。いや、剣であるからして、刃先を坊主の男に向けると、敦紫は漸く坊主の男の目をしっかりと見る事が出来た。そして、目が合うと動き出す。


 「‥、アビケ君あの人は?、」


 「え、あ。そうですね異世界人ですから知りませんね。彼の方はセンテインピードの——


 言葉が止まり、この世の空気が澱んだ。


 「‥異世界人??。では何故その様な愚物を宿している。盲目で憐れな者よ。」


 敦紫の元へゆっくりと近づきながら男は唯ならぬ圧力を出す。一瞬だけ見えた不思議な世界や嵐などの比でない。力の根源とも言える中心点が、今近づくこの男から感じる。


 「先程放とうとした魔法で、この国は終わっていた。‥罪もない人間に向けて暴力を振り翳すと共に、盲目な力の残り滓すら感じた。‥‥たかが第三者如きがこの国に首を突っ込むな。‥‥輩が。」

 

 「まぁまぁ、落ち着いてくれ兄弟。なぁ、コイツはそう言う奴——


 それは一瞬だった。儚く一瞬だった。


 ‥‥一度は、一度は知って欲しい。そう思うだ。私はね。


 敦紫とエピスの距離が縮まる中、また仲を割って声をかけたのはペンドラゴラム。刀身を振り回しながら光る眼鏡をちらつかせるエピスの進行を止めようとする。しかし、


 エピスの姿は、ペンドラゴラムの前で姿を消した。


 それと同時に、敦紫の顔の前には鞘から刀を抜き振り被るエピスの姿。敦紫、ペンドラゴラム共に認知できぬ速度で接近し、攻撃に至るまでの動作を終えていた。


 敦紫の反応を凌駕する速度で、今その綺麗な一本の太刀筋が入り込む。此処で、また誰かが歯止めをかけてくれる。そんな『偶然』は何度も続かない。そして、


 命とは乏しい物だと実感する。


 エピスが振り下ろす禍々しい刀の刃先からは、墨汁の様な湯気が流れ、この空間を縦になぞると、



  敦紫の胴体を一刀両断する。



 配管が破裂した様に、切られた胴体からは大量の血飛沫をあげ敦紫の目の色から光は失ってゆくと、魂が抜けたようにバタリと少しの砂埃をあげその場所で倒れてしまう。


 「‥‥敦紫ィィ!!!!」


 「え‥‥‥。」


 半目を開き黒くなった瞳の敦紫に、声をかけるペンドラゴラム。しかし、届かぬ声に、帰らぬ返答。息があるかどうかなど確認しなくとも、倒れた敦紫の所に出来る真っ赤な池により一目瞭然。そして、敦紫を切り捨てたエピスは血のついた長い長い刀を見つめ、


 「‥‥、器用な事をする。ただの輩では無いが、」


 「敦紫ィィィ!!!オイィ!!ドクレス!!」


 その大声にも返答がないドクレス。変わらず、正気が微塵とも感じれない状態。そして、エピスは生気が無くなった敦紫を見る事もせず、刀を鞘に収めると、スタスタと音を立て白いコートを靡かせ何処かへ行ってしまう。


 「おい!!兄弟!!何してくれんだよ!!」


 「‥‥、?。今、そこにいる者に向けてやった事をそのまま体現したまでだ。この国で、勝手な事をすればこうなると、焼きを入れただけ、他意はない。」


 「何言ってんだ!!死んだら終わりだろうがぁ!!」


 「死んだら??。そうだ死んだら終わりだ。だが、誰に向けての言葉だ。仮初よ。鈍ったか?」


 「え?。」


 「感じぬのならそれでも良い。それで終わりだ。そして、あの変態も見捨てれば、それも終わりだ。‥‥それにしても、あの男はいい意味でも悪い意味でも邪魔しかしない。」


 腰に刀を納め、出口を目指すエピスに跡を追うペンドラゴラムを。


 「どこ行くんだ!!話は終わってねぇぞ!!」


 「‥‥、急用があるのだ。話したければいつでも、我が家に来るといい。仮初よ。今は、待ち合わせの時間まであまり猶予はない。」


 そう言いエピスが踏み込み、暴風が立つ。そして、力を込めた脚で地を蹴ると、この近辺にある廃材全てが吹き飛びエピスは遥か空へと駆け上がる。空彼方に消えゆく眩い星が、瞬く前にこの蒼い空に呑まれ見えなくなった。


 エピスが踏み荒らした暴風により、ようやくドクレスは我に帰る。目の色は戻り、今まで起きた事が一気に頭に入り込み、思考停止を余儀なくする。しかし、


 「‥‥!?。何が‥‥何が起きたと言うのだ!!!敦紫殿!!」


 我に帰り、己の視界が知らせた物。それは、先程よりもぐちゃぐちゃになった残骸や、座り込み呆然とする兵士たちよりも、



 血の池に溺れ、半目になった敦紫が死んでいた事だった。


 

 


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