表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
32/38

31”聞きそびれた貴方の名前


 

 「それもまた、懐かしき記憶だ。」



 

 その声に振り向く2人。一度魂が抜けてしまったシキミは戻ってくる。転がっていた翔も目を擦りながら「ひーひー」と、奇声を漏らしながらそちらに目を向ける。その声の正体は先ほどシキミが手当てをした男。その男が頭を手でお供えながら起き上がっている。無事に一命を取り留めたのだ。シキミは安堵のため息を漏らす。そして、その隣。


 翔は、それらを確認したのちに、その男の元へと足を進める。


 「‥‥‥‥‥‥‥。」


 どこかに起き忘れたのか、草履すら履いていない裸足で音を立ててゆっくりとその男に近づく。と、ようやく気がついたのか男はこちらに目を向ける


 「‥!?貴様らも奴の仲間か!!許さんぞ!!」


 近づこうとする翔に警戒しているのか。急に立ち上がり戦闘態勢に入ろうとするも、先ほどまで死にかけていた人間に何が出来るとゆうのか。また、頭を抑えて膝をついてしまう。その男は目もまともに開けることも叶わぬまま、近づく裸族と化した翔を眺める。そして


 「おいおい、急に驚かせんなよ。」


 「!?」


 先ずは、声。


 敵意をむき出しに牙を見せていた男は、急に黙りその警戒を解いたのだ。


 「体‥大丈夫か?血だらけだったんだぜ?お礼をゆうならあそこのおチビに言ってくれ。」


 喋る翔の後ろでは、手当てをした本人が自分の今は亡き襟足を無惨にも探そうと必死に手を動かしている。


 「なんだ?急に立ち上がって‥そうか!!さてはお前、寝起きが悪いタチだな?あぁ、良いんだ分かるぜ。俺もそうだからよ。んー。じゃあまず掛ける言葉は‥‥」


 起き上がり、目を開けても真っ暗なこの場所。惑わしの森の中心部には空を拝む事ができるスペース。しかし、この世を照らす月が大きな雲一つに飲み込まれ、灯りが此方に届かず、語りかける翔の顔を確認しようとも、出来ない。


 垂れ下がる前髪で、此方に近づく男のシルエットすら、霞んで見える。重症に伴い、底切れの体力。ゆう事を聞かない前髪を掻きあげようとするも、腕すら上がらず。


 顔が見えぬこの場所で、警戒心を解いた男に、翔は手を伸ばし、


 「おはよう。ぐっすり眠れたか?」


 と、語りかけた。


 その瞬間。雲が動いた。消えるのではなく。この瞬間、席を譲る様に、隣にその身をゆっくりと移す。再び顔を出した月の光は、一直線に差し掛かり、ようやく翔の顔が現れる。光の柱がこの場所に立つと、続いては風が抉るような風向で吹き、萎れた前髪が瞬く間に上がると、無気力な男の目は、輝きを取り戻した。


 そして、小さな声で、それはとても人が聞き取れる様な声量ではなく。何かを口ずさむも、目の前にいる翔すら聞き取れなかった。後で何を話していたのか聞こうと思う。


 無理にでも力を入れていた腕の力すら解き地面にヘタリ着く。体全体の力が全て抜けて、翔から差し伸べられる手と言葉に、その男は翔の想像とは裏腹な行動に移した。


 「お‥‥お!」


 今宵‥‥この禁忌の森で始まってしまう。

 

 手を伸ばした翔にその男は力を抜いた手が重なる。起こして欲しいのだろうと、翔は足に力を込めて引っ張り起こそうとする。


 「ふふふふ。」


 しかし、翔の身体は起こそうと引っ張った筈、それなのに翔の身体と言う身体の全ての力が一気に抜けてしまうと、体勢を崩れてしまう。崩れ、転けそうになる翔を確認した男は、不気味な笑い声と共に己の手を広げて握っていた翔の手を離す。


 「!?」


 笑みを浮かべる男は、翔の手を離す。転けてゆく刹那の時間、翔も負けじともう一度男の手首を手摺り代わりに掴み、次の瞬間その男の手首を強く鞭を振るう様に縦に振った。男の身体はうねりるその反動を伝い、倒れかける翔の身体は、バネの様に起き上がる。同時に座り込んでいた男も同じく身体が弾み直立する。


 「‥‥ふふ。」


 「急に何すんだよ。びっくりすんじゃねえか?寝起きが悪くても限度があるだろ限度が‥‥」


 「‥限度。‥‥限度‥‥貴方には死んでも言われたくないセリフですね。ふふふ。」


 「あぁ?」


 男は膝を曲げ姿勢を下す。この時翔自身は警戒心など皆無。いつもの事ながら垂れ流す色で目の前に立つ男の挙動を読み取っていた。普通であれば誰しもが流れ出すその色と思わしきもの今から攻撃がくるのだとしたら手や足体の部位ごとにその色が濃くなる。だがらこそそれが裏目に出る。敵意などゼロ、目の前に立つ男は何処からも色など出てこず。


 翔の警戒心は無くなっていた。


 読め取れぬ男の行動に一度焦りを見せる翔。ただしゃがんだだけではあるが翔が見える世界には一瞬だけその姿が消える。


 「噴!!!」


 男は片端を引き腰を少し捻り生まれた力を伝い手に流す。振りかぶる事もせずに駄々ゆっくり流れ行き時間の中で男の手は目の前で呆気に取られてしまった翔の腹に届く。


 「ぐぅ!!!」


 音など一切立たず彼の手からは強力な力が腹に加わり簡単に翔の体は宙を待ってしまった。


 「‥え!?、」


 空を高く飛ばされた翔、それらを下から口をぽっかりと開けて眺めるケニー。着地をする事など出来ず木が生い茂る場所まで飛ばされると木々たちに背中を強く打った。その衝撃の揺れ羽休めをしていた小鳥たちはバサバサと飛び散っていく。


 「ふふふふふ。」


 翔を見事に飛ばした張本人は不気味な笑いをこぼしながらゆっくりと飛ばされた翔の元へと足を動かす。


 「止まれ!!」


 その男の足を止め刺したのは幼きケニー、彼もまた服が燃え上半身が裸の状態なのか。体を小刻みに揺らしそこら中に転がり落ちる枝を持ち男を通せんぼする。


 「僕も‥‥あの人も敵じゃない!!」


 幼いながらも頭の回転は早かった。男の身にどんな災いが降りかかったのかなど知らないが目を開けて知らぬ者たちが近くにいては混乱を招いてしまうと。まずは口頭で男の状況下を語る。彼が起き上がり翔に言い放った言葉の通りが正しければ先ずは自分達が危険では無い事を証明しなければいけない。


 「‥‥‥、?敵?‥‥あぁ、知ってますよ。貴方なんかよりも‥ずっと‥‥。」


 「え?何を‥‥」


 腕を後ろ組みニコッと笑いながらケニーに答える男。その男は笑顔そのものではあるが不気味さも入り混じった恐怖すら取れる笑顔に震える体に加速をかける。

 

 男は笑顔で答えたのち、手を動かす。その行動に「ヒィ」と弱々しい声を上げながら頭を手で隠し踞ろうとするも


 「?、なぜ怖がるのです?私は貴方に感謝の意を示したい。そして」


 上げた手は指を立てて翔が吹き飛んだ方角へと向けると。


 「あのお方が私如きの八卦で死ぬわけがない‥‥。ほら‥見てみてください。恩人様よ。」


 「え‥‥。」


 指さす方向へと目を向けると頭を刺さりながら立ちあがろうとする翔の姿。そんな翔は


 「これゃあ油断した。‥‥ヘレンを見習わなくちゃな。」


 吹き飛ばされた翔は、宙を舞う刹那ある言葉を吐いていた。元々いた世界では味わうことがなかった事、だがこの世界にやってきて何度も気づき強き姉に見せられた者。仰向けの中飛ばされる刹那彼は


   『やっぱ。空はおっきいなぁ』


 この世界に来て、シフォンに一度見させられたその空。翔はその空の広さを知った。それは現に今も、シフォンに続き初対面の男にもこの空を見させられたのだ。


 「‥‥‥ふふ。ふふふふ。」


 止まらぬ不気味な笑いを止める事なく優しく指を刺していた手でケニーの頭を撫でると場所を移して欲しいそう言わんばかりの表情と丁寧な手払いをされる。言われるがままケニーは今いた場所から離れ倒れている丸谷に綺麗に座ると頭をさする翔の方へ視線を向ける。


 「‥‥悪い癖‥‥‥色ばかりに頼りすぎてしまう。だからと言って私の様な三流には完全攻略など不可能ですが‥‥。」


 立ちあがろうとする翔にまた詰め寄ろうとする男ではあったが。足を止めてまた


 「ふふふふ。ふふふふふふふふ」


 口角を上げ口を閉め握り拳を押し当て不気味な声色を漏らす。この状況で理解の出来ぬまま取り残されてしまったケニーはその笑いに体全体が悪寒に襲われる。


 「‥‥。ふぅー。一本取られたよ。やるなお前。」


 首を鳴らしながらゆっくりと立つ翔。そして足を動かす


 「そうでしょそうでしょ。永き時間が私にはありましたから何百と言う鍛錬に励みました。強き我が師の面影を追い至った極地。」


 「そうか‥‥。師ってシフォンだったり?」


 「‥シフォン?はて、聞き覚えのない名前ですね、何せ私はここから出た事などないので」


 そんな会話をしながらも立ち止まった不気味な男に肩を回しながら首を捻りながらゆっくりと翔は近づいてゆく。生唾をゴクっと鳴らし合い対する二人の近づく風景を眺めるケニー。


 「なに?出た事がないだってこの森から?まぁ分かるけども‥‥。、!?」


 語りかける翔の横には知らぬ足が間近に急接近していた。


 油断は恐れるなかれ。


 目を見開き気づく頃には数センチほどの距離、目の前の男はまた不意を突いた蹴りの攻撃を仕掛けてきたのだ。翔はその蹴りを全神経に集中させ間一髪避ける事ができるも後ろへと頭を動かし体を後退させた体制、またもや重心が傾く。


 「ふふふ。ふふふふふ。」


 「(色が見えねぇ。‥‥どうなってんだ‥‥)」


 それは見事に、まさに華麗な技。技術。男はその蹴りを避けられる事が分かっていたのか、空振りする力の籠った足を止める事なく空を切り続けて、重心を崩さずそのまま半回転する。回る刹那、丁度蹴りを仕掛けた片足が地につくと同時に、この遠心力を使いもう一つの片足を少し上げ、崩れかける翔の足元に踵からけたぐりを入れた。


 見事にけたぐりが翔の足元に直撃。すると、また簡単にフワッと翔の身体は中に上がり体の軸が斜めになる。男の遠心力を使った攻撃は終わりではなかった。またその力を伝い手に流しながら、先ほどよりも強い力で、またもや翔の腹部に目掛けて同じ技を繰り出す。


 が、翔もまた甘く生きてきたわけではない。一度食らった技を二度受けるほど腑抜けではなかった。予めその八卦の攻撃が来ることを予想していた。男の手が腹に届きる最中、男のその手首を掴むことに成功するも、手を掴んだ直後男は驚くこともせず


 「貴方の前で同じ処方が効くわけもなく‥‥。ですね。」


 「!?、」


 仁王立ちする男の姿と、その男の腕を掴んだまま足が浮く翔の姿。その状態で翔は何をする事なくブレた重心のまま、落ちてゆく。


 一つここでお浚いをしよう。翔と言う男は、『合気道』を携えており、相手の力を利用し相手の行動を崩す事が出来る。敵対する相手がムキになればなるほど、大いにその力を発揮できる。そして、それらを知っていたとして、敵対する相手が対処方法を知らなければ一切の行動すら縛られる。


 翔が幼き頃、この『合気道』を半年間叩き込まれた。教授したのは、彼の祖父。そんな祖父は、翔にこんな言葉を残した。


 『我、宙と成りて』


 動かずして、標的を鎮圧可能。

 

 標的となった者たちは皆、


 動いても返され崩される。


 動かなくとも縛られ崩される。


 気づけば、翔と対峙する人間は皆同じ答えに辿り着くのだ。側から見れば最強にも近い合気道とゆう防御の型。だがしかし、そんな翔の神技とも取れる武術の欠陥を知っている者もいた。


 最強に近いだけ。翔には、合気道の他に人とはちがう特異体質を持っている。それがこの翔とゆう生き物を攻略するにあたり大きな鍵となる。


 相手が繰り出してきたその攻撃を予測し手首を掴むことに成功した翔は、その相手の攻撃として使う筈であった力を使い利用し廻す。彼が今の今までやってきた基礎の技だ。


 相手の力を持って相手を制す。


 村で暴れ回る熊と対峙した時も、襲人に襲われた時も、ヘレンと手合わせをした時も、全てこの技で仕留めてきた。


 「!?」


 「ふふふふ。びっくりしました?」


 男の手首を掴んだまま、ただ翔は地へと落ちてゆく。廻そうとしたものの、男の体はビクとも動かなかったのだ。技をかけるのに失敗してしまったのか?違う。答えは‥‥


 力を抜いたのだ。


 「うぐぅ!!!」


 動揺する翔は、掴んでいた手首への力が緩まってしまうと簡単に振り解かれてしまう。後は先ほどと同じ。また男の手の平は翔の腹部に触れると、音も立てず同じ場所まで吹き飛ばされてしまう。


 先ほどよりも高く。吹き飛ばされた翔の体は丁度シキミの座る丸太の位置から月の明かりを隠す。爆発音とも取れる音を出しながら、木々が生える場所に盛大にダイブすると砂埃を上げる。


 「‥なんと!初の2連勝ですねぇ。これは嬉しい。‥‥‥‥が。これでは意味がない‥」


 翔はこの世界で同じ相手に二度の敗北を許した。


 「‥‥‥‥‥‥。」


 「‥どうでしょうか?‥‥私は‥‥貴方にとって。」


 二度の衝撃、背中から勢いよくぶつかれば肺が破裂しお終い。‥‥なのだが然程翔にとってはダメージはなく。またもやムクっと起き上がると、砂を払い髪に絡まった原っぱをつまみ目をしっかりと開く。


 「あぁ、そうだな。お前は誰だか知らねぇが‥‥」


 (‥まさかなぁ。‥‥手も足も出なかった。‥‥、)


 彼は油断をした。人とはちがう物を見ていたからこそ、油断を作った。合気道を使う前提、相手の行動を読むのが基本。しかしながら、常人では予想の範疇。ジャンケンの様なモノ。相手がこの行動に移すかもしれない。では、私は。‥‥と。だが、翔は違う。常人では見えぬ力の波動を視認できる。それが色のついた煙。だからこそ、『読む』この言葉通りに相手の行動を先取り出来た。


 色の仕組みは、二つ。


 色とは、力の初動。相手が動く前に色が動く。その色が見える本人は、油断と言う言葉すら知らない。


 何せ、未来が見えるのだから。


 だが、今回は如何だろうか?


 翔と対峙するこの口角を上げる男からは、全くと言って色が見えない。見えなければ、何もしてこない。そう、自分の目を信じ切った。


 ある花の好きな女の子とは違い、疑う事をしなかった。


 それが、この結果を呼んだ。


 「‥‥。強いな。俺の完全敗北かもな‥‥。」


 「‥あら。完全?。それは残念。‥残念で仕方ありません。私が知らぬとでも??。」


 「‥‥。」


 (俺は、負けた。無駄口を叩かず白旗を振ればいい。それで全て終わり。)


 彼は争い事を嫌う。その理由は面倒くさいとその一言に尽きるらしい。今まで生きてきた人生で、その選択が上手くいった事の方が多いのだろう。であれば、今回も同じ、如何言った訳で此方に攻撃をしてくるのかは分からない翔ではあるが、「参りました」と、腰を落とし軽い頭を地に擦り付ければいい。


 やっけになり、喰い掛かれば、気付かぬうちに武道を捨てて、『暴力』となり得る。暴力では何も解決しない。それを知っているからこそ、シフォンと言い合いになった時も、ヘレンも初めて出会った時も、折れた。そっちの方がずっと楽。ずっと。


 だから、今回も。

 

 「‥よいしょ!、ふぅーーー。」


 立ち上がり何かを抑え込もうとする。沸々と湧き上がるその感情に蓋を押し付け、見せぬよう溢れぬよう空に浮かぶ星々たちを眺めながら、荒波を整えてゆく。


 今回が初めて負けた訳ではない。祖父にもシフォンにも完敗してきた。ならば、負けを認めるのも慣れている。


 「‥‥‥‥‥。ふぅ。‥」


 今まで生きてきて無かった感情。味わったことが無かった感情。見よ覚えの無い感情の止め方など知らぬ。


 「‥‥ぐぅ。‥‥ふう。‥落ち着け。‥‥じいちゃんに怒られちまう。」


 今回が初めて負けた訳ではない。何度も、師やシフォンに敗れた。況してや、あの忌々しいアスター”アニスにすら敗れた。ならば、今回も負けを認めようと。‥‥しかし、今を見て、結果の背後を除いて、感じる事がある。


 「‥‥‥‥だ‥‥だぁぁぁぁぁぁ!、駄目だ!!」


 

  負け方にも、程があるだろうと。



 先ほどまで無言で目を瞑り深呼吸していた翔は突如として大声を荒げ頭をガシガシと掻く。黒色の艶のある髪の毛の方向は散り散りになり、ぐちゃぐちゃになってしまう。丸太の上でお利口に座って観察していたシキミは、彼の癇癪とも取れる行動に少し引いてしまった。


 「ぐぁぁぁぁ!!!‥‥」


 「え?‥え?え??」


 叫び散らかす彼に戸惑ってしまうシキミ。その光景は痛みに踠き苦しんでいるのかと、心配になってくる。気になりシキミはチラッと翔の事を二度飛ばした男の顔色を確認するが、変わらずニタァっと笑い続けている。


 この光景、どちらも可笑しかった。心配になる程に。


 「‥はぁ、はぁ、はぁ、マジかよ!!マジかーー!!」


 ずっとわからないシキミ。ここは間違っても人々から恐れられる惑わしの森。だからこそ、翔は可笑しくなってしまっているのだと、この状況を飲み込む他なかった。


 「おに——」


 「ぐわぁぁ!!駄目だぁぁ!!。」


 心配になり声をかけるも翔の大きな声で掻き消える。そして、残念ながらシキミの考えは的外れ。翔が叫ぶことも然程間違いでは無い。今まで体験した事のない感情だったからこそ。そしてそれでも争いや暴力が嫌いだったからこそ。入り混じる。


 仕方がない事。生き物として人間として‥‥そして男として‥‥


 身体とゆう身体の空気を溜め込んで、喉を開き、今の感情を表現する。


 「‥‥‥‥悔しい!!!!!」


 彼は悔しかった。ただそれだけ。一度ならず二度までも手も足も出ぬまま飛ばされてしまった事に。


 実力不足ではない。自分の特異体質に頼りすぎていた事により、起きたこの結果。人と同じく色が見えなければ、詮索し、立ち回ることすらできた。でも、そんな行動が出来なかった。まずは様子を伺う。すら、知らなかった。目が、色が教えてくれていたから。


 未来を呼べぬ一般の人間は如何だろうか?。


 ヘレンや出会ってきた者たちは、無策には挑まない。しかし、彼は彼の目を信じ、驕った。


 元いた世界では、瞑想を摘まなければ絶対に見えなかった色のついた煙。しかし、この世界にやってきてから、瞑想を摘まずして、微かにその煙を確認できる様になった。


 この世界では手順踏まなくとも、と油断した。相手が敵意があるか、殺意が無いか、それらを確かめる事ぐらいであれば、瞑想を摘まなくとも『色が教えてくれる』と。


 油断一つせず。警戒せずに、手を差し伸べてしまった。


 これが、彼の最大の敗因。だからこそ。


 「俺が!!油断したからぁぁ!!くそぉぉ!!」


 その敗因こそが、彼の感情の引き金となってしまった。


 悔しい。彼も命を燃やす1つの生物。勝敗を好む生き物。


 生き物の名を冠する者として立派な通り。勝ちにこだわったからこそ今の時代がある。本質はその一興。


 「悔しい!!ぐぁぁぁ!!」


 「紛らわしいんだよ!!」


 人間として当たり前の事を溜めて溜めて述べた為、紛らわしい事をするなと、その思いを込めて足元に落ちていた小枝を投げつけるシキミ。そんな小枝が掠ったことも気づかず魘される翔は、不敵な笑みを浮かべる男を警戒する子犬のように睨み続ける。睨まれる当の本人は


 「おぉ!!!!まさかそんな言葉を!!!私のような者に!!歓喜感激でございます!!」


 目をキラキラさせては嬉しそうに語る。そして言葉を吐き終えた後、楽しげにその場で軽く飛び跳ねる。手首足首を回し温め首を鳴らす。準備運動を終えたのかまた口角を上げ息を荒げ、興奮気味にそして無防備に棒立ちのまま両手を広げる。


 構えとは、程遠い構え。無気力。両腕を下ろし、両の手を広げる。


 その構えは、数日前ある女の子がやっていた同じ構え。約半年前、素手で魔獣と渡り合おうとした男と同じ構えにも似ていた。


 「私は一度言ってみたかったのです。やはり、待ち続けた甲斐はあった‥‥動く事よりも、待つ事を選択した私自身に賞賛の言葉を!!あぁ!あぁ!‥‥ふふふ、生意気な口を叩く事を今日だけはお許し下さいませ。‥‥さて‥‥」



   『何処からでもどうぞ』



 「‥‥。」


 翔は目を瞑った。立ち上がった状態で目の前に立つ男と同じ様に手を少し上げ広げる。


 「貴方は、私に二度の敗北を許した。しかし、意味がない。謙虚な貴方では意味がない。自然で勝手な貴方に私は、勝利を。‥‥。」


 「‥‥‥。うるせぇ。黙ってろ。」


 「ふふふふふ。」


 翔と言う人物は合気道と言う武術に長けていた。


 合気道とは相手の力を利用する。


 今まで翔が幾つもの戦いに置いて使用した型。


 だが一つ不可解な点がある。


 相手の力を利用したからと言って同じ体格の人間を軽々と宙に上げ、回す事が可能なのかと


 群れとなって襲いかかってきた襲人を、姉や弟子を、況してや自身よりも遥かに大きい熊を、


 合気道だからと言って、これまでに片付ける事ができぬ業を見せつけてきた。


 命を擦り減る程の努力の賜物なのか、類稀なる才能なのか。


 「ふぅ‥‥‥。」


 二度の敗北。しかし、終わってはいない。どちらも続行の意思があり、もう一度2人の定位置に立つ。そして、翔は、一切の油断をせず、盤石に立ち回る。

 

 呼吸を整える翔。元いた世界では、彼はいつも手合わせをする際この儀式を行う。目を瞑り落ち着かせる。自分の心臓の鼓動が聞こえるほどに集中する。周りの音が一切耳にはいらない程にただ無になる。


 例えるならば、この自然と一体になる。と言う事。


 翔が目を瞑り深呼吸した直後、この森に強く風が吹いた。一瞬だけ、強く痛みすら感じるほどの風が一気に押し寄せてきた。燃える焚き火はその風によりバタバタと音を鳴らす。丸谷に座るシキミは急に押し寄せてくる風の荒波に転げ落ちてしまう。その状態では空を見る事ができた。何かがやってきたのかと、その一瞬の強き風。それらが通り過ぎたのち不可解な現象が押し寄せてくる。シキミに押し寄せてくる。


 「‥‥‥‥びっくりした‥‥‥あれ?‥‥何これ‥」


 転げ落ちた後、不意にその言葉を吐くシキミは戸惑ってしまう。それは、自分の声が聞こえない。例えるならば耳栓をしているのかと。誰かに何かに耳を抑えられているのかと。


 声を出している事自体はわかるのだが、聞こえない。


 まさに海に飛び込んでしまった感覚。何かの間違いだとそう思い立ちシキミは、空を見上げた状態のまま手を叩く。何度も何度も手のひらが赤くジンジンと痛みすら走る程に。だが、


   聴こえない。


 何も音はしないが、世界が止まった訳ではない。 


 星は浮き。


 雲は泳ぎ。


 木は揺れ。


 葉は踊り。


 全てが動いている。でも、音がしない。


 「‥‥‥‥?。え‥‥」


 ただし、微かに聞こえる音。自分が発する声‥‥ではなく。己の身体で打ち鳴らす音。胸に手を当てずとも聞こえてくる心拍音。


 命が燃える音しかしないこの時間。そんな世界で、1人声を発する者。


 「火の音がうるせぇな。」


 翔がその言葉を吐いた後、スッと音も立たず焚き火の炎も消えてしまい、辺りが真っ暗になる。光がなくなり、目移りするものすら見えなくなる。もう真っ暗で何も見えないシキミ。周りの声が消え、光を失い辺りの視界は悪く。


 シキミに残されたものは、心臓の脈打つ鼓動だけ。


 その音を聞き、グッと身体が暖かくなる。


 目は都合の良いように出来ている。生きていれば幸もあり悪ともなり得る。耳は勝手な事ばかり取り入れてくる。聞かなくても良い事に傾けて考えてしまう。


 目や耳、いろんな体験に感動、その感情になる為には必須品になる部分。だからこそ捨てれない。だからこそ、要らぬものばかりに気を取られ、軽はずみしてしまう。


 「‥‥‥。」


 辺りは暗く、何も見えなくなった。手を叩けど、音はしない。焚き火の音も消え、自然の音色も消え、残るは己の命の音だけ。


 翔が目を瞑り起きた神秘的な時間は、シキミにとって怖いものではなくなった。辛い事が沢山ありすぎた過去。噂に振り回され盗みを働き、大切な祖父が蘇生できると聞き、嘘か真か分からない状況でも顧みず、傷つき走り回った。だがその行動全てが軽はずみであったと。この時間が教えてくれる。


 命には二度はない。そう知らせてくれる。


 シキミはその胸に手を当て、命の重さを再確認する。


 「‥‥。」


 誰がこの状況を作り出したのかは定かではない。しかし、二度はない。そう知らせてくれる生き物がこの世界にはいた。


 無音無視な世界。そんな再確認できる時間も永遠ではない。


 翔が目を開けたと同時に自然と音は、耳から環境音が流れ込む。元通りになったのだ。


 不思議な時間。何故こんな事が起きたのか。それらを探る為シキミは動き出すのかと思えば、胸に手を当てて、生きている事を実感し、目を閉じてる。


 「‥‥‥よし。‥‥おぉ。やっぱりこの森はよく見える。」

 

 先ほどの疑問。翔だけが人の力を利用し自分の数倍も大きい物を持ち上げる事ができる技『合気道』。他の人間ができる事などできぬ神業。この極地に至るまで才能か努力か答えは前者である。


 祖父から教わった『合気道』の基礎など半年間の修練。況してや、基準となる技術を教えられたのはたったの3日だけ。


 合気道を極めた者たちから見れば、鼻で笑われてしまう様な付け焼き刃。そんな未完成な武術では護身にすらならない。


 祖父から教わった『合気道』。それは、『己の影を己で知る』と言う事だけを教えられてきた。では、何故ここまでそんな不格好な武術とも言えぬ物で戦えてきたのか。



 「‥‥ただ漏れだぜ?‥そんなんで良いのか?消さないと痛い目あうぜ?」


 「‥‥ふふふ。その言葉は真かハッタリかは私のこの目で、体で判断致します。お気になさらず。」


 「‥‥そうか。」



 色が見えてしまう特異体質と、『合気道』の併用である。


 相手の色を視認し、行動を読み取る。それだけが翔の特異体質ではない。先程も言った様に、色は今から動くはずの力。それらを視認できる翔は、合気道を基盤とし、見える力を利用し技を放つ。その為、相手の力を持って相手を制す。と言う事になってくる。


 全てが翔の師である祖父の技術と願いの賜物。それが彼の、彼だけの合気道。



 太陽は隠れ月が手招く。そんな夜に、惑わしの森で唯一空を拝む事ができる中心部にて、両者動くこともせずに互いに見つめ合っている。


 「‥‥‥‥‥‥。名前は?。‥‥‥」


 「‥‥。ふふ。後ほど。それよりも今は——」


 その返答が返ってきた為、翔は足を動かす。ただ一歩、男に近づく為その足を動かそうと、足を軽く上げる。


 一度、世界が止まったかの様な時間が過ぎ、大きなものが動き出す。


 此方の世界にはこんな言葉がある。‥‥わかってくれるだろ?


 「さぁ、行くぞ。俺を‥‥見つけてくれ。」


 今から全力を持って、相手を制す。この森では他とは違い、生き物だけではなく、一帯が色のついた煙で充満していた。だからこそ、出来る最高の業。ヘレンと初めて手合わせした時に使った業。あの頃よりも正確に。


 足を軽く上げた事を確認し、ニタニタと笑っていた男の目の色は変わる。



 「(‥‥動くか?。‥‥)」


 

  それは風。


  それは雨。



 どこから吹いたかと尋ねられても答えれぬ分からぬ風。当たった感触はあれど、名前があれど、此方からは形を追って目で追うことなど不可能。ようやく自分の体に風が掛かった後、今日は良く風が吹くなと人は自覚する。


 この大陸よりも遥かに広い空、その空からは雨が降る。雨は風とは違い形が分かる。が、天より降り注ぐ雨一粒一粒を目で追う事ができるだろうか?意識をしていてもあの雨粒一つが落ちた事に気づく事が出来るのか。肩に触れ、濡れて全体を見渡し雨だとようやく気づく事ができる。


 それが自然。そちら側が行動に移してくれなければ近づいただけでは人は気づかない。触れて味わいそして気づく。


 

 丸太から転び落ちたシキミは体制を戻し、座り直す事なくじっと丸太の裏に隠れる様にチラッと翔の方へと目を動かす。対抗にいる男の顔色は、笑顔であった顔色も嘘のように消え、真剣な表情。歩き出そうとする翔にその男は声をかける。


 「ふふ、勿論。貴方は見つけてくれた。ならば、私も同じです。ですが、油断は禁物です。今の私になら貴方の『神術』に届き得る。と、自負しております。今まで色々な方々と手合わせをしてきたと思いますが、私を同じレベルだとは思わないで下さい。舐めては行けませんよ。私だけは一味違います。何故だと思いますか?‥‥それは——“!?、」



   それは雨、それは風、



 「はい。お終い。よく喋る奴だ。」


 喋る男の肩には、翔の手が、今此処に。


 翔は、踏みしめた。一歩。足を。雨や風、それらと同じ様に溶け込む。翔は足を動かし一歩、足を地に向けて前へと突き出した。長々と喋る男は、彼が動き出したのだと身構えるも気づけば自身の肩を触っている翔。目の前に立っていたのだ。


 一瞬の出来事。男が気付かぬうちに、そして容易に敵を自分の間合いに入ることを許してしまう。それは仕方がない。触れられてようやく気づくのだから。


 丸太を縦に隠れて覗いていたシキミは見ていた。翔が足を動かし地に足をつけようとした瞬間。翔の体は忽然とこの世から姿を消した。気づけば長々と喋る男の前まで急接近していたのだ。早すぎて目で追えなかった‥ではない。

本当に見えなかった。


 翔に先手を取られてしまった男は驚きを見せるも体制を整えようとする。


 「、!?。ぐぅ。私だけではなかったと言う事ですか‥‥。ですが私は一筋縄ではいかなと申しました。うぅ!!」


 肩に触れる手は然程力を込められていない。立ち上がる事は安易に可能な筈。だが、立ち上がろうとすると、大岩が降ってきたかの様に身体がズシっと重くなり、悲痛な声を叫ぶ。


 翔を二度と飛ばしたこの男は、何故か翔が扱う武術と特異体質を知っていた。だからこそ男は立ち向かう為の対抗手段を編み出していた。翔の様に色を見る事が叶わぬが見えなくとも翔に、一泡吹かせる事ができる。そんな男が取った行動は至って単純。


 力を抜く事である。


 単純な対抗策ではあるが、二度の勝利を収めた男。翔が見える世界と、色の仕組みを理解し直前に身体全体の力を抜き、今から行う動作に歯止めをかける。


 普段では通用しない。万人受けではない。相手が何も見えない状況で、そんな事をしても動こうとして動く事をやっぱり辞めた、だけになってしまう。途中で中断するのだから、隙が生じて殴られるのが最後。


 しかし、未来に頼る者が相手であれば、この作戦は項を制する。色とは、力の初動。それらを読み取る事ができる相手であれば、頼っていた色が突如として消えれば動揺するのも必死。


 群れを成す群衆に立ち向かう汎用の策よりも、彼は、対一に通ずる頑固な策を練り上げた。


 色とは、力の初動。翔の特異体質を突破できる唯一の策。


 今も、大抵の人間が魔法の様に瞬時に近づかれ肩を持たれたら、焦り振り解くか、力を振り回すかその2択となる。しかしながら、この翔とゆう生き物の前で焦りは死に直結。焦らず、力を出さず脱力する。ならば、説明を踏まえ、何も起きないとそう踏んだ。


 特異体質と、合気道を兼ね備えた体術。


 翔は人が出す色を操作可能。


 ならば、力を出さなければ煙は立たない。操作されない。


 少し前、翔が宙で手首を掴んできた時も、脱力を使い難なく回避できた。



 「‥‥‥。不思議な奴だ。‥‥、なんで知ってる?。お前も見えんのか?知ってんのか?これを?。」


 「‥‥うっ。‥見えない。が、知っている。知り尽くしたつもり。‥‥、ぅ、だからこそ、意味がわからない。‥‥、色は出ていないでしょ?‥‥何故‥‥身体が重い‥‥」


 「‥‥、色‥‥ねぇ。」


 肩を触られ起きた事。上半身、頭から腰にかけてグッと重くなる。大岩が背中に乗り全体重を乗せてくる様な感覚。びくともしない。コントロールはされていない筈。力は抜いた状態。ならば、翔が全力で押さえ込んでいるのか?。そんなわけない。汗を垂らす男の肩に触れる翔は欠伸を欠いている。少しだけ眠たそうだ。


 「う‥‥、ならば。」


 「おぉ!!」


 戦いにおいて、凝り固まった思想は捨て去るべき。柔軟に対応する事が勝利への近道となる。コントロールされるからと言って、攻略の鍵となる脱力ばかりであると、相手も知恵を蓄える。だからこそ、全て捨て去り転ずる時。


 男は力を込めて踏ん張る。重い圧力で降りかかるならば、全力で跳ね返してやろうではないかと。


 「‥そっちの方が男前だぜ?」


 「それは感謝。ですが、」


 「!?。」


 この男も言葉通り一筋縄では行かない。この男の色への理解が正しければ、立ち上がる為の力を上に向ける。ならば翔はその色をコントロールし、その力を下に向けて返してくる。踏ん張れば踏ん張る程、身体が重くなってゆく。


 滴り落ちる男の汗がキラリと光った瞬間。重りとなる己の身体を倒さぬ為踏ん張っていた力を突如として解く。上に向けた力が利用され下に向くその己の力を真っ向から受け止めて、流れるまま勢いをつけて頭から地に落ちる。


 肩に触れていただけの翔の手が自然に離れてゆく。


 男の頭がその地に着きそうになる瞬間。頭を曲げ少しの力で足を弾ませた。上半身にかかる力を利用して、その遠心力でスマートにその場で前宙するとそのままの勢いで、翔の脳天に踵落としをお見舞いする。


 「‥‥‥。訳が‥わからない。」


 だが、掠ることなく実態を捉えることなく男の踵は地に刺さり、亀裂が走った。避けられたかと翔をみようとも目の前にはいない。後ろか、横か、その周囲一帯を瞬時に見渡すも見当たらない。丸谷の後ろで隠れるシキミしか見当たらない。


 「何処に‥‥何処に‥‥‥知らない。この様な事は私は知らない。‥‥一体‥‥」


 何かしらの方法で男は翔の織りなす技を知っていた。だからこそ脱力と言う対抗手段を編み出したのだ。ヘレンですら到達出来ない場所まで登り詰めた。


 だが、翔と言う生き物の全てを見定め知る事は出来なかった。惜しかった。惜しかったのだ。


 「‥‥何だ?仕掛けてこないとこのまま終わるぜ?」


 「なぁ!?うぅ!!」


 翔がいた。しかし、また肩に触れられてようやく存在を認識出来た。そして、また頭から腰にかけて重くなってゆく。


 「‥‥まだ、色を消し切れていないのか‥‥。」


 「色ねぇ。」


 惜しかった。確かに色は力の初動。翔の前で攻撃をするとゆう思考を伝い、流れる色を脱色し遮断すれば、翔も操作出来ない。色が出ていない、即ち力は何処にも使っていないのたがら。


 彼の特異体質。色を確認し、操作する事。‥‥だけではなかった。男の憶測は少なからず正解しかしながら、全てを読み解くにはまだまだ時間が足りない。


 色には、二つの仕組みがある。


 一つ、力。今から攻撃を放つ意図とした色。即ち、力の初動。


 そして二つ、重みである。


 翔は色が見える。それは力。そんな色を操ることが出来てしまう。そんな『術』。相手が何もしてこなければ力は現れない。ならば、この術は成立したいのか?否。



   人には命の重みがある。



 翔が見据える世界。生きる者から湧き出る煙。それが、二つ目の色。翔が見える色は二つ。


 力の初動。そして、命の躍動。


 生き物。なの通り、命が灯る者。動物然り、人間然り。


 生きたいと望む。その想いが強ければ強い程、その色は濃く大きくなる。


 そして、翔の特異体質。力だけではなく。命として捉えた色すら操作可能。


 「ぐぬぬぬ。」


 「本当はダメなんだけどな。重いだろ?。俺の力じゃねぇ。お前の重さだ。にしても、濃い色だ。それだけ生きたいと思える良い事でもあったのか?。大きいからなお前の色。少しだけ借りたよ。」


 「‥‥、良い事‥‥、それもそうですね。この場所で貴方と出会った時点で詰んでいたのですね。その躍動ばかりは、抑えることなど出来ない。」


 男から大量に溢れる色を翔の身体に移し、そのまま返す。肩に触れられる男は、立ち眩みすら引き起こす程、地に手が付かぬよう分張るも、所詮命の元の力では勝るはずも無い。先ほどよりも肩や上半身全てが重く耐える事が出来なくなってゆく。


 ただし、よく喋るこの男。喋るとゆう行動が大好き。その為、口芸は、役者顔負け。


 「一つよろしいですか?。」


 「どうした。終わるか?、」


 「いえ、折れてはいませんよ。‥‥一つだけ、気を付けて下さい。」


 「なんだよ?」


 「‥‥花。踏みそうですよ。」


 「え!?。」


 その言葉を聞き、今日一番の驚きを見せる翔は、手を離し一歩下がる。


 勿論、嘘である。この状況でこんな戯言信じる者はいない。それに加えて、だからどうしたのだ?と、返答が返ってくるのが普通。気を紛らわすなら沢山の策があり効率がいい。しかし、この男はそんな万人に刺さる策など持ち合わせていない。たった一人に対する策を積み上げた者。よって、効果は抜群。


 油断を装えた。ならば、止まっている暇などない。男はまた腰を落とし捻り、遠心力を糧に八卦を繰り出す。


 が、当てる標的は存在しなかった為、手を止めた。


 翔の姿が何処にも無いのだ。


 (何処に?。‥‥、消える術?リゲイトや魔法ではない。‥‥それは知っている。‥‥、何がどうなっている。‥‥ぐぅ!!)


 「‥‥中々。アイツやヘレンよりも中々だ。お前は。本当に驚いちまった。」


 触れられて、また翔がいる事に気づく。


 (何がどうなってるのだ。‥‥どうする。どうする。いや。‥‥そろそろか。‥‥、)


 また触れらた肩から全体に広がり重くなる。考える男が取った行動は、ただ目の前に映った標的である翔に殴りかかる事。


 もう、手札は全て切った。奥の手はない。


 その攻撃に目を向ける翔本人は触れる男の肩をそっと手放す。すると、流れは先ほどと同じく当たる事なくそこにいた翔の姿は何処にもあらず。


 其れを何度も何度も、実態を捉えては殴りかかる。そして消える。其れらを何度も。


 丸太に隠れてみていたシキミは互いの攻防に目を奪われ気付けば足が動き丸太の前に立って眺めていた。二人が行う一線の攻防、それは人中が行える動きを遥かに超えた動き。


 現に二人の動きを目では追うことなど不可能、翔は言わずもがな、翔と今戦いの火花を上げる男の反応速度も遥かに人類を超越した動きをしている。目では何も見えないからこそ、この表現に辿り着いてしまう。


 ただ攻防とは言えない戦い。見えない敵。触れられてようやく形として捉えられる翔。見えたからと言って攻撃しても掠りもしない。


    消えられ


    触れられ


    実感して


    気がつく


  

   それ即ち、風雨の如し。


 翔と言う生き物はそんな術を使える。この世界に色が見える物が存在しないと仮定すれば彼だけが唯一使える術になる。人の力、人の重みを利用する。神にすら近い術。男が言った通り翔だけが使える神業、『神術』その類である。


 合気道と言う基礎を軸として働き


 瞑想を済ませ色を見る事ができて仕舞えば


 この世に住まう人間の中には好敵手など存在し得ない。


 「‥クソ、つぅ。」


 作戦など積まず。無我夢中で男は見えた翔を殴り飛ばそうと全力で拳を突くも、当たる事なく見えなくなる。長きに渡るその戦いにもようやく終止符が、


 同じ様に触れられた肩に、今度は攻撃するのではなく掴む事はできるのかと翔の手に触れてみると何と


 「‥‥え?」


 「あらら、触られちゃった。」


 簡単に触りがっちりと掴む事に成功した。が、直後それすら策略の渦に飲み込まれている事に実感する。触れた手を返されて、手首を掴まれると男の体全体の力は一気に抜けたのだ、まさにもぬけの殻、自由など聞かず。


 「うん、まぁ、受け身取ってくれ。」


 その言葉が聞こえたが最後、彼は宙を舞った。ゆっくりと流れる時間で月に見惚れる時間すらあった。今人一人の体が空中で一回転しているのが分かる。重量に逆らう事なくゆっくりと、その背中が地面に強く当たると音を上げ今この惑わしの森で急遽始まった手合わせの勝敗が決した。


 うまく受け身を取れず咽せる男にため息を吐きながら近づきしゃがむ翔、咽せる男も近づいてくる事に気が付いたのか


 「油断!!!」


 男は懲りずにしゃがむ翔にまたもや八卦を繰り出すも難なく掴まれてしまう。


 「ったく。何が油断!!だ!最後の最後でダダ漏れじゃねえか。ほんと懲りないやつだなお前は、そうだ。」


 男の腕を掴んだままもう片方の手を大きく広げる。


 「‥‥何を‥‥」


 「ふん。有難い事に二度も吹き飛ばしてくれたからな。お返しだ‥お返し。」


 「ふふ、因果応報と言う物ですね。」


 これから何が飛んでくるのかが分かった。それはビンタ。ただのビンタ。だがしかし、男が見えたものはそれらとはかけ離れて違った物に見えてしまった。


 繰り出される手からは尋常ではない力を感じる。人の手ではない事は確か、大きななにか、それが手なのかすら解らない。喰らえば木っ端微塵になるその根拠が彼の手を追って捻じ曲げられる風によって見出される根拠であった。


 近づく大きな絶対的暴力は、男の頭蓋骨に到達する


 「‥‥‥ん?、痛!!」


 自身のデコに小さな痛みが走る。


 「‥‥はは、ビビった?大丈夫だよ。俺がそんな事するわけ無いだろ?だけどこれに懲りて二度と急に人を吹き飛ばす事は辞めるんだな。返り討ちに遭ったらダサいだろ?で?、どうする?まだ‥‥やるか?」


 この勝負の決め手は翔の放つデコピンで一本。詰め寄った空気も緊張の糸を全て解き、中腰の体制からばさっと音を出て寝転がる。


 「‥‥‥打つ手無し。近い遠いなど距離の観測すら不可能。根本的な次元の違いのお話。まさに一人の人間対この空だったと言うこと‥‥。」


 「いやいや。喋りすぎだって、聞いてる人の話?やるのやらないの?」


 「ふふふふ。紛う事なき惨敗。いやはや悔しいと言う感情すら湧かない。なぜだろうか清々しい気分です。‥‥‥参りました。」


 「ったく。聞かれた事はきちんと返してからしゃべってくれ。はぁぁ。まぁでも強かったよお前は俺の知っている中でもトップクラスだ。」


 立ちあがろうとする男に話しながらも翔は手を差し伸べる。


 「‥‥。」


 「今度はきちんと起き上がってくれよ。こっちがいくら引っ張ってもお前が起きる気がなかったら俺も起こせないからよ。」


 「‥‥‥。ふふ。知ってますとも十二分に。」


 待つ事ばかりではよくない。


 手を合わせて、


 差し伸べてくれた者の力を借りて。


 己の足にも力を入れて。


 男はもう一度伸ばされた手に自身の手を重ねると少しの力を膝に伝い腰を上げてゆく。


 同じ力の向きは、色を中和し合い、この惑わしの森の中心で立つ事が出来た。


 「‥‥んで、お前。名前は?」


 「‥‥‥そうですね。‥ふふふふ。」

 

 この惑わしの森。急遽として始まった戦いは終わりを迎えた。


 「私は!!!親愛たる兄様の帰りを待ち続け!師を追いかけ続ける者!!我がリゲイトは兄様の物!!我が矢は母様を守る物!!ただし!!私にとって——」


 「だから!喋りすぎだって聞いてた人の話?もうわざとだよね!?。」


 「ふふふふ。証明完了でございます。私の名は」


  フレスト=カミラと申します。


 「カミラとお呼び下さい。してあなた様のお名前は」


  禁忌と呼ばれた森の中心。そんな場所での手合わせ。幕は閉じ勝者‥‥




 「はぁぁ。名前を聞くのにどれだけ時間使えば気が済むんだよ。俺か?俺はなぁ——。」




 「ぎゃあぁぁぁ!!熱い!!」




 その声に目を向ける二人。声を荒げたのはシキミであった。何故だか消えた焚き火が今一度燃え上がると、丁度そこに立ってしまっていたのだろう。体全体が火の渦にシキミは火だるまとなっている。


 慌てながら翔はまた呪文を唱えようとすると、火だるまになってると言うのにツッコミを入れるシキミ姿。そんな叩かれる翔を見てカミラは笑みを溢す。


 「燃えてる手で触るな!!熱いだろうが!!」

 「二度も同じ事するからでしょ!!助けてよ!!」

 「ったく、待ってろよ。よいしょ。ぎゃああ!!俺のズボンがぁぁ!!くそ!!こうなったら!!」

 「そんな布切れで消える訳ないでしょ!!って、だからってパンツも脱がないでよぉぉ!!‥いや、ちっちゃ。」

 「うるせぇよ!!お前よりは大きいからな!!確実に——」

 「きゃあ!」

 「いや、え?、え。今の声何??。誰の声??——」



 「ふふふふ。愉快。愉快であります。」



 かわらず火だるまのシキミ。全ての服は燃えかすとなり全裸で落胆する翔。その二人を眺め、涙をこぼす程に腹を抱えて笑う男が一人口を開け、二人には届かぬ声量で声を漏らす、


 

 「待ち続けましたよ。‥‥この場所は最も近い場所と謳われた。‥‥、それを知り、外に出る事なく待ち続けました。‥‥ふふふ、外の世界は美しい物ばかりだと兄様から聞きましたが‥‥目移りせず、惑わされず、待ち続けました。」

 

 

 ‥‥‥、待った甲斐が、ございました。


 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ