30”拾い、臆病者な神風に煽られ、今一度。
「あらあら。脆いわね。一丁前に建てといて」
ここはトロイアス大陸の中心の場所。そこでは大惨事とも取れる煙を上げて、肩についたガラを手で払い何処かへ向かう女性。
「‥‥。誰もいないのかい?」
「乱暴な奴だ。入り口があると言うのになぜ使わない?」
「あら?。今日はそっちの格好?。」
上がる煙から出てきた一人の女性。そしてまた煙が上がる同じ場所から一人の男が彼女を止める様に声をかける。
「これで何回目だ。怒られるのは私だ。」
「入り口?私は友人の家に出向く時はこう言う入り方だよ?あんたなら分かるでしょ?」
「‥‥そうか。だが、ラーガとフーガは驚いていたぞ。」
「これが私の意であるからして!‥‥あら、それは悪い事をしたわね。てゆうか可哀想でしょうが!!アンタが門番やりなさいよ!!」
「‥‥騒がしい生き物だ。‥‥‥それで何をしにきたのだ?私の住処に」
青く輝く、川のせせらぎの様な髪を靡かせ、背負っていた鞄に手を入れて何かを取り出す。そんな中、ある事が起きた。
「‥‥。あんたの好きなもん持ってきたのよ。えっーと。‥‥‥‥。うん?。」
「‥‥‥‥お前か?。今の?」
この2人が一瞬、違和感を感じ取った。徐に青髪の女性は、ある場所に目を向けて景色を眺めている。その後ろでは、散り散りになったこの建物の破片をかき集める眼鏡をかけた坊主の男。
「‥‥色が‥‥。今。」
「‥‥その驚きは、お前では無さそうだな。」
瓦礫をかき集める男。その男の片耳についている耳飾りがゆらりと揺れた瞬間。第二波の違和感が押し寄せてくる。瓦礫を集める手を止めて、眼鏡を外し、景色を確認する青髪の女性とは違う方角に目を向ける。
「‥ふむ。また、あの森か。」
「森?そんな事どうでもいいでしょ。見た?今の。」
「あぁ、あれが今、近づいてきたな。」
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夕焼けは手を降り、沈んでいってしまう。太陽に手を引かれ半月が顔を出す。
「‥‥。もう夜になっちゃったね。」
「‥だな。だけどいい眺めだ。」
この森に休息を取る約2名、ここは惑わしの森、木が大名行列の様に並び、辺りは愚か上を見上げても育った原っぱが頭上で埋まる。そんな人から恐れられる森には、何故か不思議と木が生えていない所があり、そこに家を構える場所が存在していた。しかし、今は平地と言った方が良いであろう。
太陽の光がなくなり代わりにと月がこの世を照らす。その光景をこの惑わしの森の中心とも言える場所で見える事ができた。辺りに光など存在しないからこそ、夜空に浮かぶ星々たちがはっきりと分かる。辺りには木しか無いからこそ普段では見ぬ上空の輝かしい光景に目がいく。青空もまた良きものではあるが、この静けさが漂い星屑たちが散りばめられた夜空の絶景も悪くは無いと、そう思えた。
「‥‥。くっしゅん!!」
木が密集し、風が吹かないこの場所でも日が消えたことにより、この大陸の気温は少し下がり肌寒いモノへと変わる。
「寒いか?‥‥んー待ってろよ。」
丸太に座る翔は、その体を起こし辺りにある木ではなく、元々はこの半壊した家を守るためにあった粉々になった柵たちをかき集めてはブルブルと震えるシキミの前に溜めていく。丁度山になった木屑たちに翔達は横並びになると‥‥
翔は黙ってしまう。
「‥‥。‥‥‥。」
「え‥‥‥。」
「ごめんごめん。火を起こしてやろうと思ったんだけど‥火をつける道具なんて持ってねえや俺。魔法も使えねぇし‥‥」
「‥?道具?このご時世に火をつける道具なんて誰が持ってるのさ。」
火属性系統魔法:小灯し
シキミが唱えると、小さな手、その人差し指からは小さな火が灯る。その火は自然に通り過ぎる風に消されてしまう程度の火。火が灯る人差し指を山に引火させる。
「‥‥おー!!シキミは魔法使えんのか。‥にしても名の通りチンケな火だ。」
「魔法を使えねぇあんたよりもマシだよ!!ふぅーふぅー。‥‥どうするの?あの人‥ふぅーふぅー。」
この森に入り出会した怪我人。致命傷ではあったもののシキミの応急処置により、今は気を失っているとゆうより眠っていると、言った方が正しいであろう。この森には人など寄りつかない、助けを呼ぶ声すら届かない。
出来るのは助けを待つだけ、待ち続ける事だけ。
どの様な事が彼の身に降りかかったかは知らないが、待つことしかで来ないこの場所に助けてくれる人間と出会えたのは不幸中の幸いであろう。
「それにしても、此処に僕たちしか居ないってどうゆく事?。‥ふぅー。ふぅー。」
日中、ゼフィーをこの場所で見送った2人。笑顔で手を振り続けたシキミとは違い、ずっとゼフィーの背中を見ながら語った翔のセリフが気になり聞いてみる事に
「言った通りだ。この森にはゼフィーと寝てるアイツ含め、4人しかいない。」
「そうなの?。まぁ、いいや。でも、可笑しな人だったね。ふぅーふぅー。危険だって言われるこの場所に住んでるなんて。」
「‥‥。ここが好きだからだろ‥‥それ以外の理由なんてねぇと思うがな‥‥ん?」
「ふぅー!そうなのかな‥‥ふぅーふぅー!!!‥‥あぁ、ダメだ!!」
火とそして木、焚き火を炊くための配役は揃っている。簡単に火は木に燃え移るが燃え続ける為にはもう一つ必要な物が無ければ完成しない。火があれば、木があれば、どこでも焚き火を楽しめると思ってはいけない。
目で確認できる形のある物だけが、全てではない。
この森は他の場所と違って大きな木が生える、隙間なく生える。隔てる大きな樹壁は風すら通さない。
「‥なんだよ?ふぅふぅ、って自分の魔法で出した火でも消してんのか?俺より馬鹿じゃん。」
「‥うるさいなぁ!!風を送り込まないと火が燃え上がらないの!もう、人がせっかく頑張ってるのに。そもそも!!」
「ふぅ。」
「え!?」
今、風が吹いたのか?と、困惑する。シキミの横に座る1人の男。その男はシキミと同じ要領で肺に空気を溜め吹いた。その瞬間、木の山に埋まる小さな火種は、大きく燃え上がる。パチパチと音を立てて彼の息の影響か燃えちぎれた紅く光る木炭は舞い上がり火花を上げる。爆発とも取れる急な火力上昇。一瞬ではあるがこの夜、この大陸で最も明るい場所となった。
「‥すごい‥‥魔法?‥‥‥。」
「はぁ、魔法魔法うるさいよ。どう見ても息を吹きかけただけだろ。この世の人間達は魔法で会話を片付けたいのか、まったく。」
‥‥‥。シキミは。彼と再会し。こうして、呑気に会話が出来ている。
スイレ王国で駆け回る噂に惑わされ、踊らされ、友人である翔に汚い言葉を投げてしまった。大切な人ともう会えなくなったのだ。見えなくだったのだ。仕方がないのかもしれない。
半年前のあの日、なにが起きたのかは、シキミ本人は見てもいない、翔本人にも聞いていない。
正直な所、シキミはずっと聴きたかった。色々な事を。スイレ王国で盗みを働きながらも、翔の事を合間合間で探していた。でも、見当たらなかった。
消える様に、この地を去った翔を探すのは困難だった。
「‥‥‥。でも‥。やっぱり凄いや翔お兄ちゃんは。勇者なんて呼ばれてこの世界に来て、あれだけ大きい怪物の様な人を一発で吹き飛ばしてしまうし、一吹きで火を起こすし、この森が怖くないし。足早いし。‥‥‥一体‥‥」
色々と聞きたい事があった。あの事件の日、本当は何が起きたのか。どうして、自分が犯人ではないのに嘘をつき罪を被ったのか。半年間も何処に身を隠し消えていたのか。そして、今日再開し、今までの事。その全てを一つ一つ聞いてみたかった。
しかし、幼き子ども。器用に掻い摘んで丁寧に聞く事なんて出来やしない。だから、その全てを含めて‥‥
「お兄ちゃんは、一体何者なの?」
素朴な疑問。人と人同士、踏み込んでは行けないと、一歩下がり、詮索する。それが大人。子供はそんな事お構いなし。‥‥そして、帰ってきた言葉は
「‥‥逆に聞くが、お前は
俺が何に見える?」
「‥‥‥‥‥。」
しっかりと見える。それなのに、返答は出来ずシキミは黙り込んでしまった。この森に来てから目がおかしくなったのか、胡座を掻く翔の周りからは微かに青い煙が纏わりつき、彼の顔、身体を隠してゆく。見えているのに、煙のせいで見えないと、答えはわかっている筈なのに、これまでの事を思い浮かべると、分からなくなってしまう。
「でも‥‥でも‥‥。それだけ力があるなら特別な物持ってるのなら、僕のおじいちゃん助けてくれてもよかったんじゃないかなって‥思っちゃう。」
「‥‥特別。‥‥か。」
小さな体は、大きく揺れる。
「火の雨をお兄ちゃんが吹き飛ばしてくれたら良かったんじゃないかな‥‥そう思っちゃう。ごめんなさい。」
火が力強くその命を見せびらかす。その背中は翔の身長に届きうる程。その場所でシキミは下を向き震える。その手で目を抑える。火が高く背伸びをする為、その顔色は全く確認できない。火から飛び出す燃え滓が目に入ってしまったのかはたまた‥‥
「僕のお爺ちゃんはすごい人だったんだ‥‥スイレ王国のすごい人だったんだ‥‥。強くて‥‥それで‥‥それで‥‥」
「‥‥あぁ、そうか。‥‥そうか。立派な人だったんだな。」
シキミの頭を優しく撫でる。この大陸でそして最も危険だと言わしめる場所で光を囲う2人。音を立てる火を眺めながら撫でる翔の顔も何処か寂しそうな顔をしていた。
先ほど、スイレ王国で嵐が起きた。これは歴史上でもごく稀な現象。そんな嵐が止んだ後、あの名の無い酒場ではルドルスから驚くべき真実を聞いたシキミであった。
テーブルに膝を乗せて空を見上げる翔は、あの事件の日、何もしていない事。魔法が使えないとゆう道理で成り立ってしまう。勇者として呼ばれた理由もセドウスの勝手で傲慢な考えの元行われた事。翔もまた1人の被害者だったとゆう事。幼い彼だがそのルドルスの説明に頑張ってついていこうとした。だが一番大切な所でその足を止めてしまった、進みたく無かったのだ。
大切な、大切なお爺ちゃんは、死んだ。
これは、嘘偽りない真実。
彼の家族だと言っているその祖父は実際には血の繋がりなど全く無い。物心ついた時には親などおらずこのスイレ王国の外で毎日毎日寝床を探していた。彼の本当の両親は病気で絶えてしまった。それもただの風邪の延長線だが、長引けば体には多大なる損害となり得る。この魔法が存在する世界だとゆうのにそれらを治す魔法は存在しない為、自力で治すか、それらを手当てできる人間を探さなければいけない。
この世は、人を癒す様な回復魔法なんて物は存在しない。
そんな、都合の良い物など有ってはいけない。
この世界にも医者とゆう職業を持った者たちは存在するが数が少なかった。スイレ王国にも何人かの医者は存在していたものの、その全てが王であるセドウスのお目付け役。一般家庭ではとてもでは無いが呼べるほどの財源などなく。この国の民達の大半は、自身の生きてきた知恵を使い直す他なかったのだ。
自力で、治すなど限度がある。知識の無い者達が、迷信に惑わされ、病を治そうとするも、無駄な足掻き。それは、シキミの両親も同じく。もがき、苦しむ両親の顔を只、見つめる事しか出来なかったシキミ。気づけば、住む家も、家族も居なくなってしまった。
そんな親を失った彼に1人手を差し伸べてくれる人間がやってきたのだ。それが彼の家族である祖父。弱い六十を過ぎた老人がボロボロになったシキミを自分の家に招き入れたのだ。
コキを使う訳でもなく。ただこの家を寝床として使ってくれと、せめてもの償だと、そう言ってくれたのだ。
そんなある日シキミは祖父の過去を聞く機会があった。
その祖父は昔、この国でも皆が憧れる立場だったと。成る為に、上に行く為に、色々な事をしてきたと。その武勇伝はどれも幼きシキミにとっては胸を踊らされていた。
いつかはそんな祖父の様になりたいと思っていた。恩人であり憧れであり家族であり、祖父がよしよしと頭を撫でてくれた手は、冬空の下焚く暖炉よりも暖かかった。何よりも暖かく優しかった。そんな幸せな時間を一枚さらに一枚とカレンダーをめくって行く。
時間とは進んでゆく物、青く立派な葉はゆっくりと色褪せてゆく。あの日あの時自身を拾ってくれた祖父の体はみるみる内に萎れてゆく。骨が皮膚の上でもその形が分かってしまう程に変わり果て、食べ物をゼリー上にしては飲み込みやすい様に作るもそれすら。彼も彼なりに手を尽くすも時間には抗えなかった。
いつも通りこの街道を歩き今日はもっと食べやすい様にどんな食材を使おうか迷っている最中。この世で最も最悪な事件が起きた。
紙に書き留めた食材に目を通していると、まずは鼓膜が潰れるほどの爆発音。その音を追う様に爆風がこの王国に円を描く様に荒れる。そんな邪悪な風に小さな身体では踏ん張る事は出来ない。況してや気を抜いている状態。簡単に吹き飛ばされてしまう。一体全体何が起きたかと目を擦り見ると煙が上がっている。上がった煙の方角は、彼の寝床、祖父と住むお家
持っていたものを全て投げ捨てて、足早で家に帰ろうとするも、止めどなく逃げる人たちの波に溺れてしまい流されていってしまう。
「逃げたい人達を吹き飛ばすぐらいの力があればお爺ちゃんを助けに行けた‥‥。」
パチパチと音を立てて上がる煙。それを眺めながら目を真っ赤にさせて話すシキミ。
「‥‥それでも助けに行こうと思えばいけたんだ‥‥。でも上を見れば火の雨が降ってきて足なんて動かなかった。死んじゃうって思うと空は光ってるのに行かなくちゃいけない場所が真っ暗になっちゃった。‥‥。自分を助けてくれた人を見殺しにしちゃったんだ。‥‥僕は弱いから‥‥お兄ちゃんやルドルスさんみたいに強くないから‥‥。こんな
臆病者だから。」
「‥‥‥‥。」
変わらず頭を撫でる翔。気づけばシキミの髪は静電気を纏い、くしゃくしゃになっているのにも気づかず。変わらずこの大陸は夜を真っ当する。星粒たちは個々に輝きを放ち、天の川まで作り出す。
「‥。‥‥。良いんじゃないか?臆病者で、臆病だからこそ今お前はこうして息をしている。お前の爺ちゃんもそう言うかもよ。誰が危険な場所に身を乗り出し助けて欲しいなんてゆうか‥況してや愛する子供だぞ?死んじまったらあっちでなんて言うんだ?」
「‥‥‥。」
返答のないシキミに翔は、声をかけ続ける。変わらず。
「‥。まぁ、火の雨が降ってきたら誰だって動けるもんも動けなくなるさ。それで‥‥爺ちゃんが死んじまって‥‥生き返らせる事なんてできなくて‥‥お前はどうする?」
「‥‥‥。」
「どうする?。怖いよなぁ。また同じ様な事になるかもしれない。‥‥動けないよな?。‥‥また、大切な人を目の前で失うのが怖い。‥‥なら、じっと1人で‥‥そっちの方が楽だよな?」
「‥‥‥僕は‥‥‥」
「なぁ?臆病者だよ。お前は。色んなもん見たから、もう見たく無いよな?。‥そうだよな?。なら、臆病者は臆病者なりに、誰にも見つからない様に隠れる練習でも‥‥。」
「僕は!!!」
「‥‥。」
シキミには祖父から拾われてからの少なき時間でたくさんの学びを得た。自分がその位置に立ったからこそ、その場所に足を踏み入れたからこそ、元から見えていた景色がはっきりと鮮明に見渡し考える事ができた。
彼にもしっかりと血のつながった家族がいた。それらは何故彼の手元から失ったのか?とてつもない病がその家族に降りかかったのか?半年前の事件の様に空から火の雨でも降ってきたのか?、どれも違う。誰もが味わい経験するちっぽけな風邪によって命を落としたのだ。知識のある医者が治療を施せば簡単に治せる。薬があれば簡単に治る。簡単なのだでは何故?それは物と者。
そう適切な物と経験者がいなければ成り立たない。
「僕はお爺ちゃんを元気にする為に一杯勉強したんだ‥‥。スイレ王国にはお医者様なんて居ないから‥‥今でもあの国の人たちは自力で病と戦っている人もいる‥‥僕の様にはなってほしくない‥‥だから‥‥‥‥。」
最後に。適材適所、であればこの話は成立するのか?。
否、腕利の医者がいれど、薬が五万とあれど、簡単に病を治せると、思っては行けない。その二つはその先のお話。金に惑わされ、権力に惑わされれば、この二つは効力を発揮しない。酷く、残酷な物。しかし、
「風邪ぐらいは直せるお医者様になりたい。」
シキミはその二つを持たずしても、大事な一歩を踏み出せる事が出来た。動き出すのにそう言った適した素材や能力は必要ない。動き出してもいないのに、その先の話をされても滑稽な物。
「そうか。‥じゃあ、前言撤回だ。」
臆病者は、言い訳が上手なのだ。
撫でる手、その手はシキミの乱れた髪を整え翔は立ち上がる。立ち上がった瞬間、ここには吹く事のない風が湧き上がると、焚き火の火は天に手を伸ばし大きく燃え上がった。立ち上がった翔は、背伸びをしながら1人眠る男に目を向ける。
「そもそも、お前は臆病者じゃねえよ。」
先ほどの大男に襲われそうになった際、翔は遠くから接近する間までずっとシキミの行動を見ていた。
「助けようとしたじゃないか。自分だけなら助かる筈の状況に、ばったり倒れている所に出会しただけなのに、お前は自分よりも遥かに大きくて重いアイツを引っ張って逃げようとしたじゃないか。‥‥1人の家族を生き返らせる為に全てを投げ打ってでも色んな物盗んだんじゃないか‥‥。こんな事が出来でもまだお前は自分が臆病者だと思うか?馬鹿の間違いだよ。」
生い茂るこの大木達を背に明かりを灯す一つの場所。ここは人々に恐れられる禁忌とされる森の奥地。周りを見渡せど木しかあらずそれらの思惑は形となりて人を惑わす。空に落ちる星々の輝きすら凌駕する篝火は太陽の如く、ふと見上げた夜空には星が泳ぎ目的地を探り、その大らかさは自身がちっぽけだと再確認できる賜物。ここはただの森。人から恐れられ禁忌とつけられた場所には男が2人、男だけならばと、この夜に語り明かそうではないかと、翔の口は動く。
——————
「‥‥俺にも‥‥友達がいたんだ。それもとんでもないぐらい変わったやつでよ。俺は名前を聞いただけなのに、他の事ペラペラ話して中々自分の名前を言わない奴でよ。俺の事をずっと師匠師匠、翔様翔様って、同い年なのにだぞ?鬱陶しったらあれゃあしねぇ‥‥でも、いい奴だった。いい奴過ぎたんだ。」
元いた世界、俺がいた世界には変わった友人達がいた。なんでもできてずっとうるさい親友や少しだけ人とは違ったモノを持っている女の子。その変わった2人に引けを取らないぐらいに可笑しな奴が1人いたんだ。名前は馬宅、少し俺らより体格が大きい子。ただ食べる事が大好きだった子。
元々は、小さな島で生まれ育った俺。しかし、恩師に「外の世界も少しだけ見てみるといい」と背中を押されて、大都会に足を踏み出す事にした。住んでいた島には学校なんて存在しなかった。ビルなんて存在しなかった。
大都会に繰り出した俺に待ち受けていたのは、大量の人間達。羽休みできそうな場所もなく、舗装された道ばかり、草履でその道を歩けばアスファルトの歪みで、つま先を引っ掛けてしばらくの間、何度も転けた事を覚えている。人の多さに、呆気に取られながらも、何処に目を向けてもこの街を覆う様に立ち並ぶビルは、俺の逃げ場所を塞いでゆく。息が出来なかった。
帰ろう。そう思った。花なんて、一つも無かった。
何度も、今から向かう学校を無視して引き換えそう、と思った。帰りたいと嘆きながらも、指定されていた学校に辿り着き、一角の教室の扉を叩いた。
気が滅入ってしまって、入る教室を間違えたのは、また今度でも話そうと思う。
来てしまった物は仕方がない。新しい人生だと気持ちを切り替えて、今とは違い嘘偽りのない笑顔で自己紹介するも、何故か皆んなは残念そうな顔を向けてくる。しかし、俺は気にならなかった。
ある者に気を取られて。
皆、同じ色。面白味も微塵もない程に。この学校と言われる場所の壁紙と同じ色が、この教室に充満していた。自己紹介を終えて、自分の席を指定されたため俺はその場所に向かい、残念がる人を横切りながら、俺は目的地である机を見ることもせず1人の人間に目を奪われていた。
この教室に一際目立つ色。見た事もない色。それなのに懐かしい色。
この部屋の一番角、空の眺めを誰にも気にせずじっくりと楽しみる特等席に1人、腕を枕代わりして空を横目に眠っている男。この教室に入ってから今までずっとその男の事ばかりが目に入ってしまう。何故か俺は起こしに行こうとした。待っている様な気がして。どれも形は似た者同士の人間たちの中なのにその眠る男だけが光って見えた。
一歩、また一歩、その光に釣られて足を動かせる俺の体は、急に止まってしまった。誰かに服を引っ張られて、何かを聞かれたのだが、昔の話、覚えちゃいない。
服を引っ張られる様な事もあったが、ようやく光に辿り着き、俺は、眠る男の肩に触れて揺すった。意外にも起き上がり、目を細めてはじっと俺の顔を見つめて
「‥‥。構わなくていい。無理をしなくていい‥‥‥。」
初めは素っ気ない奴だったが、そいつから出る声色に段々とイライラしてしまった。‥‥あの時俺はなんて言ったけな‥‥。
「名前は?」
「‥なんだ?名を聞いてどうするのだ?名を聞いても徳などしない。それかなんだ?名を聞き晒し上げるのが目的か?‥‥急に私を起こして‥‥」
可笑しな喋り方をする奴だった。
「‥‥‥‥。」
顔色に出ていたのだろう。目の前で御託を並べる男はピタッとその並べるべき筈であった言葉を止めてしまった。
「‥‥‥お?終わったか?機嫌悪いのか?それゃあそうなるよな俺もそうだし‥‥。とりあえずおはよう‥‥それで名前は?」
「‥‥本当に私の名前を知りたいだけ‥‥なんなんだ貴様は?‥やはりこの世界の人間は理解できん‥‥。はぁ‥‥まぁ良い。そんなに知りたいのなら教えてやろう。」
「おぉ、なんだよ。」
何故かその男は立ち上がる。勢いよく立ち教室にいる生徒たちの全ての視線が彼に向いた。
「私は!献身たる兄様を全力で支える頭脳派でもあり!!そしてこの手一振りで奴らを木っ端微塵に出来るほどの力を持っている‥しかし、親愛なる母様から貰った言葉があるがゆへ、緻密に、隠密に、行動を起こし知恵を付け、現在に至る。待つ者が、待たせるのは御法度。雲天、空に流れるあの雲の様に‥‥痛い!!」
煩いから、全力でデコピンしてやったよ。おでこがへっこむぐらいにな。
「あー。喋り過ぎ喋り過ぎ。すっごい喋るじゃん。寝起きだからって人の話は聞いてくれないと。」
「何をするんだ!!この私に喧嘩を打った事を後悔させてやってもいいが、まだまだ、私は兄様から貰った証明道中。‥歩き続け、答え合わせをしなければいけない。貴様の様な人間に付き合える時間など微塵もないのですよ!!」
「‥‥‥。うるせぇ。本当に。」
あぁ、そうだった。よく喋る奴だった。
『頭がいい?本当は力がある?兄様が?母様が?知らん!俺は』
名前を聞いたんだ。ただそれだけ。だが何故か今でもその記憶は鮮明に覚えている。——————
「まぁ、よく喋る奴がいてよ。俺は名前を聞いてんだって‥ガツンと言ってやったんだ。じゃあ何故か泣き出してよ。‥‥意味分かんねぇだろ?」
「‥‥そうだね。色々な人がいるね。」
それは真実の思い出。夢などではない彼の中での大事な1ページ。話す彼の顔色も自然に笑顔になり隣で聞くシキミすらも、その男の色々なエピソードで笑ってしまう。すっかりシキミの顔は元通りになり、流していた後も綺麗さっぱり無くなっていた。
静かな森。風も入って来ぬこの場所には、この目の前で燃え上がる焚き火の音だけがこの空間を支配していたが、その音は席を譲り気がつけば2人の男の笑い声でこの森の中心を支配した。
「‥仲のいいお友達がお兄ちゃんにも居たんだね。」
「そうだぜ!他にもいたんだがな。」
その出会いを境に俺はどんどんそいつと仲が良くなった。とゆうよりも、毎日毎日俺の借りてたアパートまで来ては料理を作ってくれていた。食べる事が好きだったアイツは料理も去る事ながら上手だった。
「‥‥良い友達がいたんだ。俺の様な馬鹿をしたってくれるそんな奴が‥‥。」
「‥そうなんだ。でも逢いたくならないの?翔にぃちゃんがいた世界の人なんだよね?」
「‥‥‥。おう。会いてぇな。でも逢えねぇ。必ずまた逢えるとは思ってる。もう会えないなんて、蹲るほど真面目じゃねえ。逢えるのは逢える。それもまぁ大分先の話になるだろうけど土産話いっぱい持って行ってアイツが作った飯食いながら‥‥な。」
この焚き火が指を刺す方角に目を向ける翔。
「この話を含めてお前は臆病者じゃねぇ。辛い事がありながらも、怪我をしながらも、また前を見て次に目指す道筋がはっきりと見えている。進まなくともしっかりと見えている。‥‥ありもしない、起きてもいない事に過去の映像を透過して、起きる事を予想なんかして、恐れ慄きずっとその場所にうずくまってしまう俺みたいのを臆病者って言うのさ。」
「‥‥‥」
「人に迷惑を掛けたら駄目だろ?心配掛けたら駄目だろ?。じゃあ、無理に動いたら、色々と不味いだろ?」
「‥‥‥。」
「かっかっ、これが臆病者だ。‥‥一緒か?お前は。」
何故だか風が吹いた。目にかかるほどの前髪はフワッと上に上がり彼の目がはっきりと確認できた。翔が上を見上げ見る夜空には光を出す星々や月があると言うのに、彼の鏡とも取れる美しい瞳には光など微塵もなく真っ黒のまま。そして彼はまた口元に力を入れて、口角を上げる。それは実に不細工でこの空に浮かぶ月とは違い、憂に満ちた顔色であった。
「‥臆病者の癖して僕を慰めてたの?」
「ハハハ!!俺は良いんだよ俺は!」
「ずるぅ。」
話は戻り、シキミの未来の話をする2人。この一件が片づけば翔自身は親を失った独り身のシキミを村に連れて行き同じ酒場で働かせようと思った。だが
「‥そうなるとよ。スイレ王国に残っておいた方がいいよな。」
彼が住むシオン村には何もない。それがいい所なのだが、勤勉に励もうとする者からすれば困ったものである。勉強をするスペースがあれど教材などシオン村にはない。だとすればいつか彼の成りたい者になれたとしても時間がかかり過ぎしてしまう。
「‥‥んー。どうするか。‥‥‥あ!」
昔の記憶。それは半年前まで遡る。丁度あの忌々しい事件が起きる前、彼はヘレンとスイレ王国を回っていた。ただの散歩ではなく、しっかりとした理由があった。それは、この世界の事を少しでも知るため、ある場所に案内させてもらっていた。ヘレンは歴史を知るのならスイレ王国にある王立図書館に行けばある程度分かると。
「結局あんな事があったから行けなかった‥。なぁ。スイレにおっきな図書館があるよな?あそこは潰れていないのか?
「うん。爆発が起きたのも反対側だったしあそこは無事だよ。」
「おぉ!そうか。じゃあスイレに残って勉強した方が良さそうだな。」
「‥‥そうも行かないんだ。」
そうも行かない。まだ祖父が生きていた頃からその医者になると言う夢を掲げていた。夢を見続けるだけでなくシキミは行動にも移そうとした。スイレ王国の中枢に位置する場所、王立図書館で知識を蓄えようと。この王立図書館はお城の様に豪華に彩られてはいないが、スイレ王国では城を抜けば群を抜いて巨大な建物。この国ができる前、そして城よりも先に作られたとの逸話まである古き建物。
逸話やその大きさゆへこの大陸でも知らぬものの方が少ない。そしてその図書館にはこの大陸の歴史が綴られた書物が五万とあり、こぞって大陸中の学者たちが訪れていた。大陸の歴史だけではなく物理学や天文学、そして医学、その他多種多様な知識がその図書館に眠る。
あの、リズルゴールド王国の建国者である人間も通っていたぐらい。
知識として確かなものがあるそんな場所に、シキミも足を踏み入れようとするも足止めを喰らう。昔は誰でも入れた。スイレ王国を建てたとさせる初代国王そしてある1人の女性がそう決めた事。だがそれも昔のお話、国の集団共創には移り変わりが付きもの、現在の王セドウスになってからは歴史とゆう『時間の財産』が山の様に眠るその場所に目をつけて入場料を用いたのだ。入場料といったものの銅貨3枚程度誰もが持ち合わせがある額だからこそ、皆不満を覚えずそれらを払っていた。
だが半年前、災害とも言えてしまう事件が起きてからその事件に怖がる者も現れ、次第に外からの人間が激減してしまう。あろうことか自身らが壁で隔てるため、それでも図書館に行きたいとゆう者まで入れなくなってしまう。
守る為に建てた壁は、帰って首を絞める行為となってしまった。
経済が回らなくなってしまった事でセドウスは入場料を上げていったのだ。一度ではない。何度も、気づけば丸一日宿に止まってもお釣りが出る程の金貨を払わなければいけない。スイレ王国の中にはその図書館を必要とする人もいたため、渋々それらを払い利用していたのだが、そんな大金1人の幼き少年が払えるわけもなく。
「僕金貨なんて持っていないから図書館には入れないんだよ。」
「‥‥ったくケチな国だ。でもシキミなら潜り込めないのか?スイレ王国にはこそっと侵入して食べ物盗んでたんだから。図書館な入るぐらい、朝飯前なんじゃねえのか?」
「そんなの無理だよ。兵隊さんも、うじゃうじゃいるし。それにそんな技術なんてないよ。僕をなんだと思ってるの?。ただの人間!!あの国の壁から抜け穴を教えてくれたんだ、声をかけてくれた男の人に」
お祖父様を生き返られせる事が出来ると言った男はシキミにこの厳重に包囲されるスイレ王国に一つだけ抜け穴があると伝えた。
「おぉ!そんな所あるのかよ。教えてくれよ!!おれも嫌なんだよ毎回毎回検問検問って」
彼は、スイレ王国があまり好きじゃない。でも、嫌いにはなれなかったのだ。それは、あの国に友人達が居るからとゆう理由もあるが、もっと大きな理由。
あのスイレ王国には、彼の、彼の、大好きな場所があるのだ。
彼は、そんな大好きな場所に、何度も行こうと足を動かしてみるものの、その場所はスイレ王国。偽物の勇者だと言われ飛び出した人間が、堂々と入れる訳もなく困っていた所。シキミが使った抜け穴を使えば、いつでも、人の目を気にせず出入りできるではないか。と、思った翔。しかし、
「それは無理だよ。」
「え?なんで?」
スイレ王国には外を隔てる大きな壁が建てられた。元々から外と中を隔てる壁はあったものの成人男性ほどの背しかなく頑張ればよじ登れるほどの不用心なものであった。半年前の事件が起きた後、壁が低すぎるから魔獣が入ってきたのだと、現国王のセドウスが城壁を作る様に依頼をかけたのだ。
地に足を踏みしめる者たちは、誰も彼も自由に入る事などできぬ高き城壁が一夜にして建てられた。その壁はこの大陸で一番の武力国家-ルガルド帝国-と同じ物。強力な魔法を打ち込んでも傷すらつかない強度。四方八方スキなどなく建てられた壁。先ほど起きた嵐にすらビクともしなかった。スイレ王国に入る為には国の顔である城が真正面から拝める正門しかあらず、検問を通らなければならない。
「城の後ろには元々お城を守る低い壁があったんだけど、そこの一部に穴が空いていているのを教えてもらったんだ。こんな僕がギリギリ入れるぐらいの穴が‥‥だがら翔にいちゃんは入れないよ。」
「まじかよ。じゃあ俺は検問を通らなければいけないのかよあの場所に。はぁぁぁ。」
大きなため息に、なぜか目の前の煌々と光る焚き火は風に押されるように斜めになる。
「‥‥まぁ、いいか。仕方ないな、アビケが門にいる時に顔を出すしかねぇな‥‥‥。‥‥あれ?アビケ‥‥。そうか。」
パチパチと先ほどよりも近い距離で音が耳に入り込む。そして彼はある事を思い出した。それは
「なぁ。シキミ。」
「ん?なんか焦げ臭く無い?」
「それゃあ目の前で焚き火してるからな。それと‥‥次からは図書館に入れるぜ。それも自由に何度も。」
彼はある作戦を思いついた。スイレ王国にある王立図書館、その権限を持っていたのは約2名初代国王ともう1人の人物。だが今は違い現国王のルドルスとそして‥
「自由にって‥‥翔にいちゃんが門番の人たちをボコボコにするの?」
「おいおいなんでそんな物騒な考え方になるんだよ。そんなことしねぇよ。俺にもスイレ王国に友達がいるからな‥‥。まぁ次図書館に行ったらわかるさ。入る時名前言ったら問題解決だ!!カッカッカ!!」
「何それ‥‥変な笑い方‥ははは。」
「変?‥‥シフォンの移っちまったのか?お前が見る夢が実現した時には俺の「心の病」も直してくれ。‥と言うかなんか臭くないか?」
「心の病?そう言うのは自分で打ち勝つものでしょ?‥‥‥だがらさっきから言ってるじゃん。臭いって。‥‥」
楽しげに会話をする2人の間を通り抜けるのは焦げた匂い。目の前で焚き火をしているのだから当たり前のことなのだが、木を燃やして出る匂いではなく。何故か鼻にツンとくる臭い。翔はその異変に焚き火を確認するが相変わらず煌々と燃えたまま、そしてこの暗き森にもう一つ光る物が目に入る。
「って、おい!!服燃えてんぞ!!!」
なんとシキミの背中は酷く燃え上がっていたのだ。焚き火から出る火の粉に服が触れ燃え移ったのか。シキミ自身の肩幅にお染まりけれないほどの炎が彼の背中で燃え上がる。
「‥‥‥ほんとだ。‥‥。‥‥‥。」
「‥‥‥。‥。」
何故だか沈黙が続く。棒立ちのまま翔はシキミの燃えがる背中を眺め、シキミもまた振り向き確認する。何故だか沈黙が続いたのち
「‥‥‥‥。ぎゃあァァァァ!!!熱い!!」
「もうそれ嘘だよね!目で確認しないと信じないタイプ?それとも熱さは後からやってくるタイプか?この世界は?」
「何言ってるのさ!!早く助けてよ!!」
「おぉ!!!待ってろ!!」
翔は目を瞑り深呼吸する。この辺りが静かになるとまた目を開けては盛大に自身の両手を上げて
「はぁぁぁぁ!!!水属性‥‥えっと系統‥‥魔法だっけか?‥‥はぁぁぁぁーー!!!」
「‥‥‥‥‥‥。」
燃える火は変わらず、逆にその火の手は上に上がっていくと髪にまで届きそうになる。目の前で盛大に声を上げて呪文を唱えた翔は翔のまんま、数秒間じっと手を上げたままである。そしてある重大な事を思い出す。
「‥‥‥。あ、俺魔法使えないんだった。」
「‥‥‥‥。」
「‥すまん。」
ニコッと笑い、キラッと星が流れる。
「‥馬鹿!!!!。馬鹿すぎるよね!さっき自分で言ってたよね!!急に何をするかと思えば!!」
「だって仕方ないだろうが!!えぇ!!この辺に水ねぇんだから魔法で出そうってなんのが普通だろうが!!」
あろうことか。
「大体自分の魔法で消せよ!!お前は魔法使えんだからよ!!あぁ?それとも雨降るまで待つか?あぁん?」
「なんで逆ギレしてるの!水の魔法なんて使えないんだって!だがら助けて!!!」
皆から恐れらる森の奥地だと言うのに、この大陸全土を見渡せど一番の賑わいを見せたこの夜であった。お互いに燃え盛る火を消せるような魔法は使えず、翔は自身の服を脱ぐとバタバタと火を自身の着ていた服をぶつけ消そうとする。まさに古典的な処方。魔法とゆう概念が存在しながらも、使えぬ者たちは知恵を振り絞り編み出す。
効率は悪くも長きに渡る翔の消火活動によりシキミから燃え上がる炎は鎮火に成功した。やり方はどうであれ結果は消えたのだから良かったのだが。互いに代償は重く。
「あぁ、俺の服まで廃になっちまった‥‥‥。」
「いいじゃん。僕よりマシだよ。」
シキミの髪の毛の襟足部分が火に食われてしまう。綺麗に焦げ茹でられた蛸の触手のようにクイッとうねり黒く焦げている。悲しそうにその焦げてしまった髪を触ると砂のようにサラサラと無くなってゆく。そんな姿を見た上半身裸の翔は
「ギャハハハハハハハ!!」
「なんで笑うのさ!!」
シキミの髪の毛は襟足がなくなり、後頭部の髪の毛たちは姿を消し刈り上げ状態になってしまう。そんな姿を見て笑い転ぶ。その声は騒がしいもの。片目に光るものをこぼしては指を刺し笑う翔に、魂が抜けてしまいもぬけの殻となってしまうシキミ。そんな中。
それはこのタイミングだったからなのか。
それとも彼の気を使わない大きな笑い声で‥なのか。
それとも決められたかのような必然だったのか。
ある声が2人の耳元に聞こえてくる。
「‥それも‥‥‥また懐かしき記憶だ。」




