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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
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28”変わった世界で、


 

 「‥‥‥‥うん?‥。え‥‥。」



 揺れに目を覚ます。そこに広がる光景は地面であり、歩いている感覚で無いのに物凄いスピードで流れる事が分かる。言わば、浮いているそんな感覚。何故だろうかと、この不思議な現象に、自身の記憶を巻き戻してみる。しかしその記憶は、ある勝手な男に自分の体を担がれて‥。底からは記憶がどこを探しても見当たらない。


 「おぉ!!起きたかシキミ!!」


 「えっ、!!」


 ある男の声、宙を浮いている状態のシキミは、声のした方へと目線を向けると見覚えのある顔。寝癖がつき服は頭綺麗とは呼べない甚兵衛をきた男。この地に前一杯の足跡を残すように、草履の音を掻き鳴らす。


 「‥‥。あ‥‥え?。なんで?これ、何処に向かってるの?」


 「うんあ?そりゃあお前が言ってた森に決まってるだろ?忘れたのか?」



 この男の肩に乗る少年。名をシキミは、切りとらえたかのような記憶が鮮明に蘇る。


 この少年は、スイレ王国で相次いでいた食料盗難事件を引き起こした張本人であった。彼にも事情はあった。半年前、この王都が火の海になってしまった事によりシキミのたった1人の家族を失ったのだ。子供ながら壊れてしまったものは元には戻らないと、哀しみに暮れる日々。そんなある日、不適な笑みを浮かべた男に声をかけられたのだ。


 「‥‥あなたのお祖父様を蘇らせる事が私には出来ますよ。‥‥。」


 人の形をしている者の漂うは不気味さその物。怪しさを詰め込んだ人間の言葉に、誰が信じるのかと。だが今の状況、生活ができるような寝床もなければ毎晩毎晩腹を空かす毎日。幼いながら死を待つだけの時間となってしまっていた彼は、死ぬのなら最後に信じてみようと‥知りもしない戯言に縋ってみようと‥‥。だが怪しげな男は条件を出して来た。


 「‥‥出来るものは出来るのですがね。色々と準備が必要なのです。‥‥ですから‥。貴方には手伝って頂きたい、」


 男が話す蘇りの儀式の準備。その蘇生を行うのは話しかけてくる男ではなく、ある神。その神は蘇生の秘術を使えると、だがその儀式には膨大なエネルギーが必要になってくるのだが、そのエネルギーとやらが枯渇している状態だと男を語る。ではどうするか、そのエネルギーを供給するべく沢山の食料が必要だと。


 そこからの行動に躊躇など無かった。目を盗んではスイレ王国に佇む食料を扱うお店を片っ端から周り盗んだ。盗った食料のかけらを自分の腹の足しにしては、指定の場所まで持って行きお供えする。それを何度も繰り返した。身を粉にして何度も。


 シキミがその男に指定された場所。蘇生の秘術を使えると言う神が住む場所。それが


  惑わしの森。


 シキミにも色々と事情があった物の駄目なものは駄目。と言う事で、今まで盗んだ食料を探す事に、彼らはその惑わしの森に向かう。繰り返し盗ってきた食料は多大なる数、全ては喰らわれていないだろうとの算段。


 「‥‥でも翔兄ちゃん‥。惑わしの森は危険だっておじいちゃんが言ってたよ。」


 「そんなもん知るか!!子供を使うような外道な真似しやがって!ましてやシフォンが愛を注ぎ育んだ梨を頬張り上手いの一言もないとは!神だか知らんが礼儀ってもんがなってねぇ。と言うよりこの世界は神が歩き回ってんのか!笑わせんな!!」


 「えぇ‥‥‥‥‥。」


 摩訶不思議な世界から抜け出せたかと思えば城壁の外に出ていた翔。そして、シキミを担いだまま、止まることなくその惑わしの森に向かう。


 「と言うより俺は馬車が壊れちまったんだ!!帰ったらシフォンに怒られるじゃねえか!怖いんだよあの人怒ったら。いやマジで冗談とかじゃないよ。本当にボコボコにされるんだから‥‥お前も連帯責任だからなぁ、!!」


 「えぇ‥‥‥‥‥。」


 こうして長い道を走り、ものの数十分でシオン村を横切るように惑わしの森が見えてくる。遠くからでもしっかりと確認できる。他とは違う異様な雰囲気。この大陸には何百と言う似たような森はあるもののこれだけの高い樹木が立ち並ぶのはここだけ。その木たちが作り出す木影はまさに別世界と言っても問題がない程。


 トロイアス大陸には、不思議な国や、危険な地帯が数多の数存在する。しかしながら、それら全てを含めても‥‥‥


 

 「おい!!そこの農民と餓鬼!!」



 あぁ、今はもう懐かしさすら感じる声。惑わしの森がちょうど見えてくるこの道中で、声をかけられ振り向き、翔の目で判断すると、「すまん!用事がある。」そう言い素通りする。


 「おっと!、いかさねぇよ。そんな格好で、武器も持たず国を出て散歩かい?」


 翔が進もうとする道をとうせんぼうする。仕方がないので翔は足を止めて、周りを確認すると、周囲には、数十人と言う数の人間たちが、斧を持ち、剣を持ち、口角を上げる姿。翔の肩に乗るシキミは辺りを見渡し驚きを見せる。そして、知らせる。


 「お兄ちゃん!。この人たち‥‥。」


 「濁った色だ。‥‥‥。」


 そう、この大陸の癌、襲人である。


 「‥‥、服も着て、包帯も巻いていない。‥‥アイツらが言っていた変態じゃなさそうだな。」

 

 止めて来たのはそちらなのに、独り言をブツブツと話し、舐め回すように翔の身体を確認する。


 「なぁ、にいちゃん。国の外には危険なものばかりなんだぜ、へっへっへ。」


 「そうか。忠告ありがとよ。」


 翔は礼を述べると、スタスタと草履を鳴らし、自身たちの前に立ち塞がる男の横を素通りすると、背後から、キラリと光るナイフを手に持ち、翔の背にその刃物をピッタリつける。


 「‥何処行くんだ?。言っただろ?危険な物がいっぱいあるって。」


 「ん?だから言っただろ。ありがとって‥‥。聞こえなかったか?」


 翔の背中に押し当てたナイフ、その矛先を躊躇なく近づける一人の襲人。それを合図に周りにいた仲間達も段取り良く、鞘から刃こぼれした剣を出し、矢を固定し標準を合わせる。翔一人に対し、大勢の人間達が子供を担ぐ青年に武器を構える。そのような状況に、肩に乗るシキミは冷静さが消えてしまう。しかし、翔は至って冷静。


 「なんだ?その背中にある物騒な物は、何するつもりだよ?それで。」  


 「さぁな。天国に行ってからでも調べてみたらどうだ、へっへっへっへ。なぁ!!お前ら!!。」


 品のかけらもない笑い声がこの空間を包む。何一つ、耳に不快感を与えてしまうそんな声。ナイフを突きつける男も同じく下品な笑い声を上げると共に、体は揺れかけ、翔ではなく翔が背負うシキミの鼻先に、何度も急接近する。シキミの視界には、何度も何度も、鋭利に尖ったナイフの刃先が近づいてくる。

 

 「‥‥‥‥。なぁ。」


 「へっへっへっへ‥‥‥。なんだよ。命乞いなんて受け付けてねぇぞ」


 「俺にナイフ向けるなら幾らでもしろ。‥‥でも、子供は関係ねぇよな?‥‥だからさ、下ろしてくれねぇか?。」


 ここで、一つ。お浚いをしよう。翔と言う人間の素性を。翔は、あまり怒らない。どんな事があろうと、先ずは、一度だけ、問い掛ける。どう言った事をされても、先ずは冷静に状況を呑み込む。それが、彼の性格。


 「へっへっへ!!無理にきまってんだろ?」


 「‥そうか。」


 一度は、チャンスを与えられた。だが、二度はない。もう、過去の選択肢には戻ってこれない。それを知らせる生き物、それが翔。


 「へっへっへ!!諦める事が上手な人間はあっちでも上手くやれるよ。へっへっ‥‥‥へ‥‥?」


 何故だろうか?。と、翔の背に立つ襲人は思った。何故、ナイフを握る自分の手に、知らぬ男の手があるのか。腕を鷲掴みされる襲人は、力強く引っ張り振り解こうとするも、引く事すら出来ない。意味が分からない。そして、顔を上げると、いつの間に?、と、思ってしまう。先程は背に向けてナイフを突きつけた筈、それなのに、目の前の男は此方を向いている。二人は会話をしていた時は、後ろを向いていた筈、目で確認していたのだから。


 「‥‥え?。何してんだ。はな——」


 翔の目の前でナイフを向けた襲人は、最後にその言葉を残し、忽然とこの場所から姿を消す。周りで見ていた仲間達は、唖然とその光景を眺め、体が固まってしまう。


 今、彼らは、間違えたのだ。もう、帰ってこれない。


 「‥はぁ?何処言ったんだ?」

 「何した!?お前!!」

 「魔法か!?、」


 (‥‥そうだな。今から9秒後。‥)


 大丈夫。消えた男は、地に居ないだけ。時間が経てば答えはわかる。周囲にいる襲人達は、消えた男の行くへを探すべく目を見開きあっちをこっちを、とその目を動かすがいない。そんな時、音が聞こえた。


 ドサ!


 「ん?、はぁ?」

 「おい、何してんだよそこで、」


 音がしたから、音が聞こえた方へ目を向けると、そこに男がいた。先程と変わらぬ立ち位置、しかし倒れ、泡を吹き目を瞑ってしまっている。その男の状態を確認する。


 それが、戦いの合図。


 「ちぃ!聞いてねぇぞー!服着てるなんて!!やれぇ!!」


 矢を引いていた数名が、血管が吹き上がるその腕を引き引く矢を、少年を担ぐ青年に向けて、全ての矢を放った。


 「‥ふぅ。なぁ、シキミ。」


 「やばいやばいやばいよ!!もう!なにぃ!?てゆうか、なんでこの人が倒れてるのさ!!」


 「まぁ、まぁ、落ち着けって、で、子供は危ねぇからな。



   空で待っとけ。」



 「え?なに——、ぎゃああぁぁぁ!!」



 翔は力強く、肩に乗るシキミを空へと投げ飛ばす。それも空高くへ。シキミの身体は、粒になってしまう程の高さまで上げた翔は、その場で両手を下ろし、目を瞑る。今まさに、矢が己の身体に向かって走ってくると言うのに、目を瞑り、深呼吸する。


 前から、後ろから、そして左右横から、四方八方から急接近する矢、ちょうどその矢は4本、目で確認してから避ける様な容易い物ではない。何せ、殺しの道具であるからして。


 それでも、目を瞑り、翔は動かない。


 「‥‥、可笑しな笑い方するのは、ねぇさんだけで懲り懲りだ。物騒なもん持って、笑みを溢して‥‥‥人を殺す道具だぞ?‥‥」


 矢が彼の額に触れるその瀬戸際、彼は首を少しだけ傾けて、そして足を一本前へ動かす。すると、4本の矢は綺麗な軌道を描き、翔の肩をすり抜けてぶつかり、木っ端微塵になる。


 しかし、襲人達の攻撃は終わりではない。この集団の中でも、巨大な身体を持つ二人の男が鼻息を荒げ、翔に向けて、成人男性ほどの大きさをした斧を振り回す。


 しかし、


 「何してんだ!!遊んでる場合じゃねぇんだぞ!!」


 「違うんだ!!当たられねぇ!!いや、当たってんだ!!でも当たらねぇ!!と言うか、何処行ったんだ!!」


 「頭の可笑し事言ってんじゃねぇぞ!!目の前にいるじゃねえか!!2人がかりで何してんだ!!避けられるなら、最も速く斧を触れよ!!」


 振るっている。言われなくとも、全身全霊を持って、自分よりも小さき人間に向けて、重い斧を振るっている。1ミリも手を抜いていない。それなのに、当たらない。擦りすらしない。


 「‥‥、ふぅ。どう来るか分かってて避けれねぇほど馬鹿じゃねえよ。」


 翔は、振り下ろさせる斧を見ているのではなく、視野を広げ、暴れ回る巨漢な男達を見ている。一度も、斧などは見ていない。では、男達を見て何を感じとっているのか?。それは、色。相手の色を読み取り、先取りし、対処する。


 色と何か、それは、命そのもの。


 翔が見える世界は、その命とも言える色が先に動くのだ。そして、色が通り過ぎたのち、相手はその色通りに行動に移す。


 言わば、未来予知に近い代物。


 翔と言う人間は、そんな特異体質があった。それが、彼のほんの一端。


 他の人間とは違う世界を見る事が出来た。それが色。彼から見えた景色、それは目の前で暴れ回る男達から湯気の様に出るそんな色。


 そして。


 「ひゃっひゃっひゃっひゃ!!俺の出番だな!!ゾクゾクするぜ!!」


 武器を出すこの集団の中で1人だけ、草原の中にポツンとある小石に腰を下ろしていた男が立ち上がると、笑い声を上げて、鉤爪を出し、戦況の台風の目となる翔の場所に飛び掛かる。


 それも、まぁ、救いようが無いほどの品の無い笑い声。


 「‥‥‥、なんで笑ってんだよ。頭おかしいのか??」


 飛びかかってくる男に視線を瞬時に向ける翔。


 「おい小僧!!俺はあの戦鋼番糸ともやり合った事があるんだぜぇ!!俺を!!俺を!!楽しませてくれよぉぉ!!」


 「ふん。」


 笑止。その言葉を聞き顔色を変えては、今斧を振り回す男達の斧を人差し指と親指で綺麗に掴むと、フワリと翔の体が浮いた瞬間、またまた、この地から、巨漢な男達の姿が消えた。


 飛び掛かる男は、目の前で仲間達が再び消えた事と、1人、ポツンと立つ男の目を見た事により、悪寒が走る。


 鉤爪を光らせるこの男も強者。ならば、必ずしも理解する。今から自分が飛び込んでいく所には、何があるのか。そして、残念ながら、男の攻撃も同じくひとつまみで止められる。すると、飛び込んだ形で空に一時停止する不思議な状態。今から、何をされるのかと、鼓動が速くなるが、気づいた事は一つ。身体に力が入らなかった。


 そう、翔と言う人間は、ある『武術』を使えた。その武術と寄り添い、ここまで永らく生きて来た。


 「‥‥、それで、何人殺したんだ?考えただけで物騒だ。‥‥知ってるか?お前、強いんだぜ?。分かってんのか?分かってその力を振るって来たのか?」


 一度、止まったその男の身体には、もう何も力など入らなかった。言わば、空っぽの状態。そして、止まっていた風景は、今一度動き出すが、脳では処理出来ぬほどの速さで、身体が翔に動かされる。


 「‥お前は、腹立つからな。お前のお前自身の力の強さを把握しておけ。身をもって、知っておけ。己の影を見てみろ。」


 翔が使うは『合気道』。幼き頃に、祖父から叩き込まれた身を守る為の護身術。そして、彼の使う武術には二つの技法がある。


 一つ目、それは、昔から、ずっと昔から使い続けている。


 そして、二つ目、相手の力に触れ、コントロールする事が可能。


 「‥‥楽しませてくれ!!とか、言うもんじゃねぇぞ。と言うか、言わないでくれ。そんな事言う奴は1人で十分だ。だから、やめてくれ



 

  アイツの格が下がるだろ?。』


 


 全力を注いだ男の渾身の一撃は、音すら立たず、無力化される。ひとつまみで自分の鉤爪を掴まれ、宙で一瞬静止した後、再び身体は、動かされる。男の身体は綺麗な半円を描き、そのまま叩きつけられる。地は揺れ、風が強く立つ。まだ、生き残っている襲人達は、その衝撃により、1人残らず転んでしまう。


 「‥が‥‥‥。は、‥‥いてぇ、いてぇ。」


 「いてぇな。それが、お前の力だ。それが、命の重さだ。‥‥知れたか?、」

 

 「俺は‥‥まだ‥‥‥‥あ、クックック、空が‥‥‥(カクッ)」


 無理に立ちあがろうとするも、身体は強制的にシャットダウン。息はあるが、この場ではもう身体は動かないであろう。


 「‥なんなんだよ。アイツ‥‥。」


 ドォン!!


 「え?。‥‥は、はぁ、はぁ。一体‥‥なんだよアイツ。」


 気絶してしまった。男の頭上には翔が立ち、またその背後では、大きな何かが打ってくると、白目を向いた男が2人、しっかりとその手には斧が握りしめらている。


 「‥‥さぁ。こいつら連れて帰ってくれ。俺にも用事があんだよ。」


 「舐めるなよ!!餓鬼!!」


 帰ってくる返答は良いとは呼べる言葉ではなかった。襲人は、1人では駄目だと、ここに居る全ての人間が一斉に彼に向かって襲い掛かる。翔は、遠く彼方の方角に目を向けてため息を吐き、両手の手を下し構えを取る。


 すると、怒号が響き渡るこの場所に、その声では無い、弱った微かな音が聞こえ、辺りを見渡すと、動く筈のない藁で出来た包袋がモゾモゾと動いているではないか。


 「‥‥性根腐ってんな。ほんと、呆れるよ。」


 ——————



 「ぎゃあぁぁぁ!!」


 「よっと!!」

 

 今一度、空から降って来たシキミは、濡れた身体になりこの地に帰って来た。遠く彼方に飛ばされたシキミは、空に浮かぶ雲と握手出来てしまう程の高さまで上がっていた。


 信じられない程の高さ、上がるところまで上がれば、次は、急落下が待っている。軽い体重であろうと、落ちていく速度は尋常では無い物。空気抵抗に内臓が押し潰されてもおかしくは無い。


 しかし、落ちていく中、パラシュートを付けているのかと、首を上に向けてしまう程、ゆっくりとした落下。空で体制が崩れれば、風が吹き体勢を元に戻してくれる。


 そんな不思議な時間も終わり、ようやくシキミの視界にも翔達の身体がハッキリと見えた時、魔法が解けた様に、全てが元通りになり、一気に速度をつけ、両手を空に広げる翔に目掛けて落ちていく。


 「‥‥死ぬかと思った。」


 「‥死ぬわけねぇだろ。そんな事で、」


 「そんな事じゃないでしょ!!急に何するのさ!!危ないなら、速く走って逃げればいいでしょ!!なんで投げ飛ばす判断になるのさ!考えたら分かるでしょ!!‥‥あ!!襲人は!!」


 説教は、後で良いと話を切り上げ、シキミは辺りを見渡す。しかし、先程の笑い声もなければ、何度も近づいてくる刃物すらない。あるのは、泡を吹いた襲人達が、至る所で空を拝んでいた。


 「‥えぇ?。お兄ちゃんがやったの?」


 「‥‥‥内緒。」


 「意味分かんないよ。そもそも、って、グハァ!!」


 空から降って来て、しっかりと受け止めてくれたのだが、急に手を離し、シキミは、結局落下してしまう。お尻を摩りながら、翔を叱りつけてやろうと、翔を探すと、座り込み藁で出来た袋の前で何かをしている。


 「いてて、何してるのさ」


 「なぁ、シキミ。これ解けるか?」


 袋を縛る紐を解こうとする翔ではあるが、不器用な手つきでやってしまった物なので、永久に解けない玉結びを作り上げてしまい、悪戦苦闘してしまう。


 「‥‥いや、何で何重にも玉結びしてるの?、蝶々結び解くだけだよ?不器用すぎるでしょ。流石に。」


 「うるせぇ。」


 「はぁぁ、もう、退いて。」


 たった1秒で、解錠。固まった結び目が解かれ、袋の上部で締まっていた紐は緩まっていくと、なんと、その袋から人間が2人、飛び出してくる。


 「はぁ!!どこだ?ここ。‥‥、助かったのか?」

 「‥‥‥。」


 「人!?、てか、デカァ!!まさか、襲人達に!!大丈夫です。私達は敵ではありません!」

 

 袋から出て来たのは、人間なのか?。と、翔は首を傾げてしまう。頭には、長い耳が生え、身体が翔達よりもはるかに大きい生き物。1人は、こちらに向かって色々と喋っている男。そして、もう1人、その男よりもはるかに大きな女性。長い耳もそうだが、青くガラスの様な瞳がよく目立つ。そんな目で、言葉も話さず、じっと翔を睨みつける。


 「‥‥、恩人よ。わかっております。善悪の区別はしっかりと出来ます。助けて頂きありがとうございます。ささ、姫様も、お礼を‥‥。」


 「‥‥‥‥。」


 無言のまま、翔の目を見て、眉間に皺を寄せる。


 「‥‥まぁ、いいよ。無事なら。つぎは捕まんじゃねぇぞ。ほら、行くぞ!!シキミ!!」

 

 「いや、ちょっと!!」


 翔は、シキミをまたもや担ぎ、大きく足を踏み込み、走り出す。え?と、捕まっていた男が言葉を漏らした時には、もう翔の姿は、遠く彼方にあり、豆粒でしか捉える事は出来なかった。


 「えぇ、‥‥は!名前を聞くのを忘れていました!!なんたる失態!!姫様!!追いかけますよ!!」


 ぎこちなく大きな藁の袋から脱出すると、耳をピンと伸ばし、翔が走っていた方角に目を向けて走り出そうとするも、長く白い腕で止められる。


 「‥‥ダメ。‥‥‥邪魔は、ダメ。絶対に。」


 「はい?。‥‥。」


 

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