20”片鱗は静けさと共に(上)
「‥まさかな。こんな事になってるなんて誰が思うよ。」
「え?」
今の国の現状では、可笑し過ぎる程綺麗、建物の大きさも去ることながら、豪邸と言っても間違いではない。大通りを抜け、細い路地を伝い顔を出してくる。そんなある酒場の前で、2人の男達が立っている。
「いや、こっちの話だ。ありがとよ。ここまで案内してくれて。」
アビケは、名の無い酒屋へ翔を送りとどけていた。
翔の目的地であるその酒屋の前に着くと馬車を止め、手を振りながら中へ入ってゆく。翔のそんな姿を見ながら、アビケは、忽然と姿を消してしまった、城壁の前で馬車の荷台座っていた老婆を探すことに、しかし。
「さて、わしも案内してくれんかのぉ?」
「えぇ!!?いつの間に!?」
「?何、隠れるのが上手なだけじゃぞ。ほらほら、うちの馬鹿な孫の場所まで案内してくれぬか?年取りはせっかちでのう。」
「会ってどうするのでしょうか?」
「一泡吹かせるのが目的じゃ。」
「え?」
その老婆はじっとアビケの顔を見て「お主は大丈夫そうじゃし」、そう言い捨てるとアビケにその孫とやらがいる場所に案内をさせる。
「まさかあの力を使うのですか?街をめちゃくちゃにしないでくださいよ。」
「ふふふ、それは、お主が決めることじゃない。馬鹿なこの国の王が決めることじゃ。」
「‥‥。」
腰が曲がり、杖をつく老人の横で、同じ身長ぐらいのアビケは、来た道へ戻って行く最中、此方に猛スピードで走ってくる少年の姿。服はボロボロで、靴は履かず、大きな包み袋を担ぎ走ってくる。
「あぶない!!」
「はて?、如何したんじゃ?」
その少年は、大きな包み袋によって前方の視界が悪く、歩く事を苦労する老婆に衝突してしまう。ぶつかった拍子に、その少年は転び、袋を投げ飛ばし、中に入っていた果実や食べ物が吹き飛ぶと、誤りも入れず飛び散った食べ物達を、急いで袋に詰め直すと、また走ってゆく。
「‥。‥‥ほぉほぉ、元気な若者じゃ。」
ぶつかったのに、吹き飛んだのは少年だけ、老婆は転けることもなく、気にすることもなく、歩き続ける。
「‥‥。体感すごいですね。‥‥ん?あの子‥‥‥おーい!!」
走り去ってゆく少年に、気になる事があり呼び戻そうとするが、横で歩こうとする老婆に叩かれる。
「余所見をするじゃない。早く連れてけ!!」
「いや、あの子‥‥」
「よいよい。ほっておけ。」
「しかし‥‥。」
「‥はぁ、お人好しも、程々にしなさいな。あの子は、お前さが気に掛けなくとも。あの子は、お前さんが居なくとも。彼方に目掛けて走って行ったのじゃ、止める理由なぞなかろうて、」
—————————————————————
——カラン、コロン、カラン。
その贅沢に彩られた木の扉を開けて1人その酒屋に入ってくる。ここはある酒場、半年前から急激な成長によりこの国1番の酒場となりこの国に住まう酒好きは知らぬ者はいないと言う。
この一帯にはない漆が塗られ少し赤みがかった大きな館に近いもの、そこには営業準備中とゆう言葉が書かれた看板があり、その中では大きなカウンターの奥に1人男がグラスを吹く姿。そしてもう1人、丸いツルツルとしこの店内の光で光沢を見せるテーブルと並ぶほどの身長の小さな女の子。そんな場所に1人、何も言わず入ってくる1人の寝癖がついたのかぐしゃぐしゃの髪の毛をした青年。
「ん?すまねぇお客さん。今は扉にも掛けてあったと思うが準備中なんだ。それにまだこの店の名物を作る原材料が届いてなくてな。すまねぇまた暇があったら来てくれ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥。」
「あぁ!!」
その男はグラスを拭きながら背中で語るとテーブルを拭く。それとは反対にテーブルを吹く少女は、タオルを投げ捨て、その客に近寄る。それもこぼれ落ちてしまいそうになる程の笑顔で
「‥‥‥。それは残念だったよ。俺ならいけると思ってたが‥‥」
その青年は小さなエプロンをつけた少女の頭を撫でながら喋るが、この酒屋の店主である男は変わらず、掠った笑いを見せながら
「なにいってんだ。この酒屋に特別なお客さんなってたった1人しかいねぇんだよ。どれだけ金を積まれても酒を飲ませるわけには行けねぇんだ。ルールは守ってもらいたい」
パパ!!
と叫ぶ少女に少し体が浮いてしまうと同時にその青年はニタァっと笑顔を作りながら
「そうか、じゃあ梨は外に置いておくよ。」
「梨?、ん?待て!その声は」
その男は振り返ると席に座り落ち着きながら、この店内をぐるっと見回る翔の姿。そしてその翔が座る中に少女もまた座りながら頬が風船のように膨らみこちらを睨んでいる。
「なぁ!?翔!!ったく驚かせやがって」
「久しぶりだな。こっちのセリフだよ。それに、なんだよこの豪華さ。」
「アンタと、うちの愛娘のお陰だよ。」
この場所は半年前一度だけ翔が訪れた酒場、初めて酒を飲んだ事もあり少し翔の中では特別な酒屋である。翔が訪れた時のこの場所は木は腐り、灯りも消えかけ虫が集る。勢いよく息を吹きかけて仕舞えば吹き飛ばされてしまうほどのボロい酒場であった筈。棚に並べられた無数の酒達に、磨けば輝くグラス達、翔の今の服装では似合わぬ程、豪華な場所に。
「俺なんかしたか?」
翔が頭を傾げるのも可笑しくは無い。あの日この場所を訪れてから半年間もの間、顔を出さなかったのだ。とゆうより顔を出せなかった。この酒屋にくるのは今日で二度目。そんな彼は、半年前世話になった2人の力になれるはずもなく、そう、思いながら自身の膝に座る少女の頭を撫でる。
「ったく、覚えてねぇとは言わせねぇよ。あんたが渡したんだろよ?うちの娘に、」
「何を?」
「ははは!本当に覚えてねぇのか。偽物の勇者様は記憶力も悪いらしい。」
「それゃあ、どうも。」
「あの日。娘に元結のお駄賃として渡してくれただろ?、自分自身だけで使えば生涯、寝て暮らせるほどの大量の金貨を」
!?、と彼はあの日のことを思い出す。
半年前の事件の日、心身共にずたぼろであった彼に優しく接してくれたピュシスと、その親であるこの酒場の店主スポーキ。
この国から追われる身になったあの日、隠れる様に立ち寄ったのが、この酒場。昔も今も、名前がない酒場。
その場所では不満を一緒に飲み干すように酒をたらふく飲んだのだ。ならばと翔はお代を出さなければならない、それがルールである。彼は手元にあるすべての金貨を店主に渡そうとした、それは消費者としての対価だけではなく、恩返しも含めて。だがこの世界ではとんでもないほどの価値があるものだと受け取れないそう言い手を出さなかった。
あの時、この店主は自分の為に使えと、そう言った。
彼此受け取れ受け取らないを繰り広げたのちに、結局は翔が折れ、この場所を後にした。この酒場は活気が溢れる大広間にあるお店ではなく、今も昔も人気がない路地。店を出ようとも、土地勘のない翔は1人で大通りにすり行けない。と言うことなので、このお店から路地を抜けて大通りまで行く道のりを教えて欲しいと、今、膝に乗るピュシスにお願いをし二つ返事で、道案内してくれた。大通りが見えてくると、同時にここでお別れ、そんな時翔は、道案内ともう一つ、そのお礼に翔の全財産である金貨を渡したのだ。
翔の中で、ちょこんと座り込むピュシス。半年前、半透明になり隠れながら逃げていた翔を、見つけ名前を呼んだたった1人の少女。
「今も、翔のレディは、使ってくれてるのか?」
「ん?レディ?そんなこと言ったら怒られぜ?、ただの友人さ、、ちなみに髪紐は、千切れるほど毎日使ってるじゃないか?、」
「ふん、鈍感だな。」
「?。」
この2人と出会ったのは、半年前、この世界の知識をある程度入れる為、ヘレンとこの国を回りながらスイレ王国にある王立図書館に向かっていた。その道中に、この店主が開ける屋台に目がいき、屋台を覗けばその台に乗せられたガラクタ盛り、そこに一つ赤く綺麗に編み込まれた元結が目立っていた。
この世界の事、このスイレ王国の事を何も知らない俺を、道案内してくれたヘレンに、そして回っている最中に、小さな事件があり、ヘレンの使っていた髪紐が切れてしまい、買ってあげたんだ。
そして、今ヘレンが使う髪紐は、俺の膝に座る可愛いピュシスが作った物だと言う事を知らされる。
「まさか、娘が作った元結で、この店が大きくなるとは、誰が予想したか。」
「死ぬまで、娘に感謝しろよ?」
「ふん!言われなくともわかってるよ!。」
髪紐は編んだピュシスにお礼として、俺の全財産を渡す。ピュシスは、その金貨の価値を幼いながら十分に理解していた。だからこそ、その金貨の使い道はもらったその時から決まっていた。
それは、自身の大切な親が営む酒場を立て直すと。
「んで、どうよ。俺の作った自家製のタバコは?」
「あぁ、良かったよ。これで一安心だと思っていたんだけどな‥‥‥。」
彼は元の世界で生きていた頃、列記としての喫煙者であった。始める理由には人それぞれ理由がある。中には辛い思いや悲しいことそれを紛らわせる為に咥える。しかし、翔は違った。答えは単純明快、男なら誰しも憧れを持つもので翔もまた同じこと。小さな頃からお世話になっていた人がよく咥えた煙草に、かっこいいと思ってしまったが最後。立派な嫌われ者へと
そんな翔はこの世界に来て煙草がない事を知る。あるのはここにくる時にポケットに入っていた自身の煙草。中は振れば音がなる程の本数しか入っておらず、喫煙者にとっては絶対絶命の状況であったが、翔はなんとその残り少ない煙草をこの世界で世話になった人間に別れ際渡してしまった。
この酒屋に入り気がつくも手元には無い。だが巡り合わせか目の前に立つこの店主が自身の腕で煙草を作ったと渡してくれたのだ。
少しの間、安堵の時間を過ごすも。これもまた巡り合わせ、ある人に見つかってしまう。「それは何?、」と聞かれたものなので翔は正直に語ったその日から
「自分の体を壊す様な楽なことをするな!!」
シフォンとゆう名の、暴力の化身に頬が膨れ上がるほどビンタされてしまった。その日から取り上げられて禁煙生活へと
「これゃあ、参ったもんだなガハハハ!!」
「笑い事じゃねえよ。あれ以来拝めていなんだぜ?酒は商売上許されているから酒で誤魔化すしかねぇ毎日だよ。」
「何、おっさんみたいな事言ってんだ。」
「おっさんにオッサンって言われたくないね。」
ガハハ、と高らかな声をあげてスポーキは2つのグラスに並々の酒を注ぎ込むと、翔に一つ、そしてもう一つは自分の手にグラスを持ち上げると、その笑い声はこの空間に響き渡りながら彼ら2人は小さな音をあげグラスを当てて飲む。
「なんだ?今から仕事なのに酒入れて大丈夫なのか?」
「ん?ふん、商売上必要な事さ、」
「うるせぇ、」
数秒ではあるが先ほどの笑い声などはこの場所から身を隠し、無音の空間へ様変わりする。2人はその酒が入ったグラスに口を当てたまま黙っている。
「うぐ、やっぱりこの酒は美味いがキツイなぁ。来てくれるお客さんも美味い美味いと言ってくれるが皆千鳥足で帰っちまう。お前さも呑む時は気をつけろ‥‥‥よ。‥‥」
「ん?」
翔に注いだ筈の、並々入ったグラスはあっとゆう間に空っぽになっていた。
「おいおい。無理して一気に呑もうなんて事するもんじゃねぇぞ。」
「え?」
「この酒は強いんだ。分かるか?翔は若いから今平気なだけだ、そんな荒っぽい呑み方してたらいつか酒に祟られるぜ。」
「何がだよ。だから嗜む程度のグラスを出してくれたんだろ?」
その場。カウンターを挟みまだその酒は並々入っているグラスを置き頭を傾げるスポーキ、その目の前で不思議そうにその光景を見ている翔。そんな2人をあっちへこっちへ翔の膝に座るピュシスは目を動かす。
「いやいや、お前さんだから並々入れてやったんだぜ?わかる?」
「??それゃあ、こんな小さなグラスに並々入れたら多く見えるもんなのか‥‥‥何が言いたいだ?」
「ん?ちなみに聞くが翔はいつもどれぐらい飲んでんだ?」
「‥まぁ、シフォンと呑む時は樽いっぱいか?2人でそれを分けてるよ。商売品だからな1人一個と行かなくてね~もう一杯いいか?」
店主である男はあたりをキョロキョロする。眉間に皺ん寄せて何かを考える姿にその手で首や顔をかいている。
「‥‥‥‥翔?もう一回聞いてもいいか?シフォンさんと呑む時はどのぐらい?」
「だから。樽一杯だって。ものすごくの意味じゃ無いんだ。あぁ、言葉ってのは難しいな。」
「はぁ?」
店主は口に含んでいた酒を垂れ流してしまう。それもそのはず、原材料を貰い、酒を製造しているのはこのお店、嬉しい事に名も広がり、繁盛に並行して保存する樽の大きさは、他の酒屋に比べて遥かに大きもの、樽一杯に付き36ℓ。況してや、翔が口に運ぶこの酒の度数も30を遥かに超えている辛い物。
唖然とした表情に、口から垂れ流す酒そんな店主の行動にびっくりした翔は「どうした!?」と。また翔の膝に座るピュシスも「パパ!」と、店主は口を開け全ての酒が出きったところで我に帰る。袖で口を拭いそして手を頭に当て
「ガハハハハ!!!なぜそれでピンピンしてるんだよ!この酒は体の毒に近い物なんだぜ!シフォンさんもって言ったか?とんでもねぇ酒豪な兄弟だ!それで翔は酔ったことはないのか?」
?っと頭の上にハテナを出し傾げる。
「やっぱ、おもしれぇなアンタは酔うってなんだぐらいの顔つきだな。いつもシフォンさんが来る時うちの樽を鱈腹持っていくんだが最近その量が増えてたんだ。そうゆうことだったのか!!ガハハハハ!」
「ん?、姉さんは貰ってきた!なんて言ってたけど‥‥はぁ、あの人は‥‥‥。‥‥‥‥‥。」
店主はまたその瓶を開け翔のグラスへ泡を立てる勢いで入れると丁度こぼれない位置を保つ場所で止まる。そんな姿を見ながら
「お客さんに出す時もこのグラスなのか?」
「何言ってんだ。こんな量入れてたらすぐ無くなっちまう。それの半分ぐらいだよ客に出すのは。」
「ケチだな。」
「うるせぇよ。」
「元々はもう少し大きめのグラスだったんだがな。‥‥最近ではこれでギリギリってところだ。」
翔は目を細めながら指を自身に刺して「もしかして原因?」と伝えるも店主が答える言葉は「いや」と笑い、後を振り向くと白い布に被された残りの梨を見ている。
「作った物が無くなるならまだしも。‥‥作る前に無くなられたらねぇ。」
ここ最近では、盗難が多発しているのだ。あの事件以来、このスイレ王国は、この大陸でも一二を争う程の入国審査が厳しい国になった。翔が今持つ身分証だけではなく、この国に来る意味をしっかりと伝えて、門番を納得させなければ行けない。どれだけ長い付き合いであっても、身分や内容が曖昧であれば、門前払い、最悪は地下の牢獄に収監されると言った噂までもが広がる。
怪しい者が入ってこない様に、厳重に警戒する。
同じ過ちを犯さぬ様にと、国が動いた政策が、検問。
確かに、下手な人間は入ってこれない。治安も益々良くなるのではないかと予想されたが、全ては裏目に出る。
この国は、中に入る事が困難な国。だが、それだけ。入って仕舞えば、安全だと認められ、誰も警戒しない。俗に言う平和ボケ。それに加えて、この国を守る王国騎士団は、検問に人手を回し、残りの騎士団は皆王城の見廻組。
だからこそ、中に入って仕舞えば、警備もお粗末なこの国は、小さな盗難事件の犯人すら捕まえれない。王国騎士団は誰も動いてくれない。
そんな事よりも、国を守る為。
そんな事よりも、王様を守る為。
国の市民達がどれだけ話を出そうとも、聞く耳すら持ってくれない。話を聞いてくれても、騎士を統括する上位の役職達の元までその事件の話は届かない。
「国を守る為の騎士なら、俺らの生活も守ってくれって話だ。」
「‥‥‥。」
「だが少しだけ兆しが見えてな。毎日くる過労死目前の騎士様が話を聞いてくれたんだ。その人に全てを話した。」
この場で多発する盗難は全て飲食に関係しているそれも作り上げたものではなく。原材料、料理で有れば肉や魚に野菜、パンで有れば小麦粉、そう言った様に毎日毎日少しずつ少しづつ何者かによって取られているのだ。
そして厄介な事に客人や観光客などは入ってこれず、集客もままならないまま、そして追い討ちを掛ける様に、完成を作り上げる大切な土台を盗まれては皆商売が成り立たなく少しずつその量を減らし値段を上げていく。
あの事件から、元通りになったのは、半壊した城の見た目だけ。
「お互い色々あるんだな。」
「まぁ、そんな人の物を盗む様な奴は死に方も選べねぇよ。だが身内に犯人が居るんじゃないかと疑心暗鬼になってるもんでな、‥‥ったくどうしようもねえ奴らだよ。」
「‥‥‥。」
翔はある程度、この国の現状を理解する。この世界は、元いた世界のように、機械もなければ、重機もない。皆自分の身体のみを使い、復旧作業に試みる。それでも、魔法やリゲイトがあるこの世界では、『半年』と言う時間で然程進んでいない事。力のある騎士団は、手伝うこともせず、外からの客人を遮断してしまったことによる不景気に、食糧すらも行き届かない。
人手も少なく、金もなく、市民達がやる気はあれど、先に進めない。それがこのスイレ王国の今の真実。
「‥‥。ヒュドールがいたら、‥‥違ったか。」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、。」
「‥‥‥。皆困ってんだ、そしてこのご時世にも関わらず俺の店だけが改築工事出来るだけの資金があるのはおかしい、そう言って止まないんだ。梨酒は広まりこっちとは嬉しいんだが、人の幸を良いとは思えねぇ連中も居るんだこれが‥‥」
店主はそう言い放つとグラスに入っていた酒を一気に飲み干しようやく空になる。顔に皺を寄せては喉を抑える
「うちの娘が生まれてくる事と言いこの店が繁盛する事と言い。全て俺には嬉しい事は間違い無いんだが‥‥‥」
全く、タイミングが合わねぇもんだ。
「大変だな。」
「そうだ。翔、突然なんだがこの店の名前考えてくれねぇか?」
何故俺なのかと翔は聞いてみるものの。それはこの酒屋が綺麗になった時から決めていたらしい。この酒場を新しく大きく綺麗に出来たのは、他でもない。スポーキの愛娘であるピュシスのお陰。で、あれば、ピュシスにこの酒場の名前をつける権限がある。そして、店主は聞いたのだ。この酒場の名前は何が良い?と。
「勇者様につけてもらうの!!って聞かないもんでな。なぁ、何がいい?」
「急に言われてもなぁ‥‥‥‥」
そう言いながら翔も空になったグラスを少し宙に上げ、机を叩くと小さな音を上げる。店主はまたカウンターの棚から瓶を開けると「ったく酒豪な勇者様だよ」そう言いながらまた彼のグラスに酒を入れる。
「うっらぁ!!!等々捕まえたぞ!!」
?、なんだ。
扉の向こう側、即ち外では何やら男のがなり声がする。翔はその方向を見るにグラスに入ってあった酒を一気に飲み干す。
「ん?やけに外が騒がしいな。ってだから味わって飲めよ!」
「ちがうよ!!味わってこのスピードなんだ。まず小さいんだよ入れもんが!」
ため息を吐きながら店主は「次来た時は大きいグラスを用意するよ」そう言いながらカウンターから出る。外は段々と騒がしくなる物なので翔も席をたち店主の後を追おとすると、
「何やってんだ。あんたの顔を知ってる奴がいたらどうすんだ。そのまま娘を見ててくれ。」
店主は笑顔でそう答えると手を降り扉を開けて出ていってしまった。膝に乗る少女の顔色の雲行きは怪しくなるも彼はそっと頭を撫でて安心させる。
—————————————————————
「ここがこの国の城‥‥‥。リズルとは比べものにならないね。」
「そうだろう。でも驚いたことにこの場所には王以外はすまないのだ。」
「へぇ~。」
この国に着いて少しばかり馬を走らせた敦紫達は、ドクレスが目的地とする場所までようやく辿り着く。敦紫本人は、ぽかんとしたまま、この国の半分を覆うほどの影を作るこの城を眺めていた。
此処はスイレ王国の心臓、国王が住まう城である。このトロイアス大陸において、戦鋼番糸の塔の次に高い建造物。そして、城と言う種類の区分であれば、一番大きな城。この大陸で最も、技術が進んだ武力国家ですら、このスイレ王国の王城には勝らない。
そして、この城を守る為、鉄でできた背の高い柵が設けられ、門の前では、数十人と並ぶ門番が待ち構えている。
「ふむ、私はゴール•ドクレス。フリーシア王国から来た騎士団の1人である。今日はこの国の騎士団長に挨拶をと、参上つかまつり申した。して‥‥‥‥」
ドクレスが門番と話している間、敦紫はふと思い出すことがあった。それは先ほどすれ違った馬車に乗る1人の行商人の事とこの国の騎士の事。
人は、暇があれば何かを考えてしまう生き物。
そんな、生き物の習性が、彼に明確な答えを与える事になる。
何か引っ掛かる。この城に来る前、怪しげな人間とすれ違った。何故、怪しいと思ったのか。耳が聞こえないのに、アビケと言うこの国の騎士団と会話をしていた。
僕はあの時、列の最後尾にいたけどはっきりと見ていた。フードで顔が隠れた人間が、あのアビケ君に向かって手話をしていたのだ。それに、アビケ君は、そのフードを被った男は耳が聞こえない、とまで言っていた。
なのに、彼らは、小さな小さな声で、僕が通り過ぎる間際に会話をしていたんだ。残念ながら僕は、この世界に来て耳がすごく良くなっているからね。よく聞こえたよ。
(‥何が目的なんだ?。)
そして、また一つ敦紫の奥底に眠る記憶が蘇ると、
「ねぇ、君は僕が何を言いたいかわかる?」
そう言いながら、敦紫は横に引っ付く兵士に声を掛け手話を見せる。その間、指を動かす手をじっと見つめていた兵士であったが‥頭を傾げる。
「はて、感情論でしょうか?」
「??いやいや、君も大人なのならある程度わかるんじゃないの?手話だよ手話。指を動かして相手に気持ちを伝える方法。」
彼は指を動かす。
「?、何を?。ん?口で言葉で伝えれば簡単な事ではないでしょうか?‥‥」
‥‥‥え?
「!?大変無礼を働きました!申し訳ございません!!手遊びですね!手遊び!ドクレス団長は話が長いゆへお暇を潰そうと‥‥」
「え‥‥手話って聞いたことない?」
「申し訳ございません。生きてこの方その様な造語は聞いた事がない物でして、学がなく申し訳ございません!!」
「いや、そんなに謝らなくていいんだ‥‥‥謝らなくて‥‥‥」
(どうゆう事だ?手話を聞いた事がない?子供ならまだしも大人だぞ。)
彼は気になり後ろで待ちぼうけている兵士たちにその有無を聞くも帰ってくる答えは「知らない」一択であった。
この世界には、手話は普及していない。と言うよりも、存在すら皆知らない。では耳が聞こえない人はどうするんだ?確かに手話だった。この世界に来てから目がよく見えるんだ間違えは無い。確かに、適当に指を動かすだけでも多少の意思疎通は計れる。でも、あの男がやっていた指の動かしは適当なんかじゃなかった。手話だった。
僕は、知っているんだ。だって、『親友』が手話をやっている姿を隣で見ていたんだから。出来る人と出来ない人の区別は出来る。
(では、何故手話が出来たんだ?、あの男は‥‥。!?。待てよ、その手話に対して、あの騎士のアビケ君は理解できた。‥何故?、)
敦紫の思考に、更なら高波が襲ってくる。
(じゃあ、何故通り過ぎる間際、あの2人は会話をしていたのだ。耳が聞こえない。なのに会話をした。耳が聞こえるのか?何故、僕達に嘘を着いたんだ?‥‥声が聞かれたら不味いことでも?、‥‥。あ‥‥あぁ、そうか。そう言う事か。)
ようやく。と言い換えた方が良いであろう。
2人の関係なんて今はどうでも良い。目的もどうだって良い。そんな事よりもだ。そもそもこの大陸にそんな手話が存在しない。ならば、答えは一つじゃ無いか。あのフードを被った男は‥‥
僕と同じ、異世界人。じゃないのか。
「なに?、居ないのか?」
「はい、急な用事ごとが入りまして席を空けているのですよ。何やら‥‥‥」
敦紫は、辿り着いた答えを確認すべく、先ほど、フードの男とすれ違ったあの場所まで馬を叩き猛スピードで走り去ってしまった。「何処へ!?、」と、横にいた1人の兵士が敦紫に向けて手を伸ばすも彼は返答をせず気がつくと彼の背中は小さくなっていた。
そんな事も知らないドクレスは話を終えると、少し離れた場所に待ちぼうける兵士たちの元へ近づきながら視線をキョロキョロして今は居ない敦紫の姿を探す。
「ん?敦紫殿はどこへ行った?」
「それが‥‥急に何処かへ行ってしまいまして‥‥」
んな!?と驚いた表情をしたのちに彼のお得意の頭を抱えるポーズへと移行させた。
「何故!止めなかったのだ!!あぁ!もう!お嬢と言い敦紫殿と言い何故私の周りは自由な人間しかいないのだ!!」
「申し訳ございません。止めたのですが聞く耳を持たず、それに勇者様は相当な焦りを見せていました。」
「‥‥‥あの男がか?‥‥ったくはぁ、今日は私のゆう事を聞いてもらうとあれ程行っていたのに‥‥はぁ‥‥。
足並みは揃えて欲しい物だ。」
気を取り直しドクレスは周りにいた兵士たちをいつもの通りこの国の民たちの手伝いをしろと命じた。彼たちは頭を縦に振り早急に取り掛かる、いつものように「きてくれたのか助かるよ」そう言い皆自分の持ち場があるのだろう。なれた手つきで残骸を運ぶ兵士もいればその自身のリゲイトを使い重たい角材を担ぎ家の再建築を図る物、遊ぶ相手がいない子供達の面倒を見るものや多種多様に対応している。
「ふむ、いつ見ても人が一丸となり何かに取り組む光景には不思議な輝きを放つ物がある。やはり見返りでは手に入れられない光景だ。これだから人助けはやめられん。」
さて、とドクレスは馬を手綱にかけ敦紫を探す事に。そして皆持ち場で、各々の仕事をする中、薄っすら存在を現す者がドクレスの隣からやってくる。今の今まで、ずっと気配を消していたたった1人の女性。敦紫ですら、気配を感じ取れなかったそれ程までに気配を消していた女性。
「とんでもない技術ですな。リリー殿。」
ドクレスの隣から皆が視認できるほどの存在感を表したのは、先日敦紫に求婚を投げかけたリリーの姿であった。
「いえ、とんでもないですよ。‥それにしても敦紫様の焦った顔は、一段と輝いて見えました。はぁぁ、一緒に着いていけば良かった‥‥」
「‥‥‥。‥‥‥‥‥して、どうであったかな?。」
「何も。この場所もそしてリズルがいた国の人たちも同じ魔胞子を満ちております。何か吐出した魔胞子などは、旦那様以外には、ありませんでした。」
「そうか‥‥ん?旦那様?。許可を得ていないだろ君は。ゴホン。まぁ良い。して、アビケくんの後ろをついていた行商人らしき男はどうであった?」
彼女は頭を横に振る。
「‥‥‥引っ掛かる物があったのだが勘違いだったのかも知らんな、引き続き探索を頼む。」
「承知いたしました。してドクレス様は?」
「何、陽気なこの国の団長を探しにいくだけだ。ついでにあの自由で、『気まぐれ』な勇者もな。」




