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 追想行進華 —庭園の足跡—  作者: 玉袋 河利守
2章”貴方が選んだ形、拾い上げた物は
17/21

16”鎮座せし王と法律は、宿敵の庭で


 

 小さなノートを手に持ち、机に投げつける。濃く、尖れていない丸くなった鉛筆で殴り書きする。その後ろ姿は大層な物。描くことに集中し、いつしかノートはくしゃくしゃになる。今日あった出来事や思い出を書き記す。これは日記。


 この日記には、しっかりと思い出が描かれている。振り返れば、忘れていた記憶の底から形を取り出してくれる賜物。彼と出会ってからは、字数が増え、時間が増え、気付けば夜が深け、ノートのページ数も残りわずか。


 ここまで長く書いてきた日記。ふと、一から読んでみようと最初のページに(さかのぼ)るが、書いてある思い出は一つも無く、願望だけが描かれていた。読み上げようとも、願いばかり、妄想ばかり、自身しか目の通さないその日記に、何を書いているのかと、呆れた笑い声が漏れ日記を閉じた。


 



 「ハァハァハァ‥‥‥。」


 息を荒げ、腹を抑え、この樹海の中を掻き分けて走る男。その表情は、相当焦っており、自身が着ていたスーツはスダボロになり服とは呼べぬ物へと。焦る男は、前を向きながらも、後ろを振り帰り何かを確認する仕草。


 何かに、誰かに、追われている様な素ぶり。


 この場所に、道はない。あるのは天に突き刺さりし樹木。この場所に出口はない。入れば最後、方角を見失い、永遠にこの場所で彷徨うことになる。そんな危険な場所。

 

 殺意すら感じる程の樹木から生えた枝を、気にすることなく折り、突き進む。茂みから飛び出す小動物を蹴り飛ばし、ある場所に急いで向かう男。


 「はぁ、はぁ。運が良かった。この森は、人間には荷が重い。‥‥歩いては、入ってこれない。‥急いで体制を‥‥。」


 此処には、出口は存在しない。入り口も存在しない。入れば最後、この場所で命を絶やす。此処は、惑わしの森。出口が無いのなら入り口とゆう言葉は必要ない。と、大陸に住まう学者が口を揃えて吐くこの場所は、惑わしの森。この大陸で最も禁忌に近い場所。


 「はぁ、はぁ、カミラを連れてこればよかった。そうすれば‥‥こうはならなかった。‥‥クソ!!奴はいつも私の邪魔を!!」


 誰かにキレる男。名をアスター”アニス。ヒヨドリの森で、敦紫達に向けて矢を放とうとした男。


 この大陸の者が皆怖がるこの森に入ってまで、アニスは、誰かから逃げている。


 随分と走った。随分と距離を離しここまでやってきた。この森までやってきた。此処には一帯に埋め尽くされた樹木だけの筈が、ふとアニスが足を止めた先には、神秘的な光景。


 「‥長く、感じた。‥‥はぁ、はぁ。」


 アニスが逃げ込んだ場所は、まさに我が家。この惑わしの森の中心には、木などは生えず。手入れがきちんとされた庭が存在する。そしてその庭には、一軒の木建の小屋が身を置き、煙突からはモクモクと煙が上がり生活感を漂わせる。横手には、小さな湖が広がり、憚る物がないこの場所で太陽の光が直接的に降り注ぐと、湖は、太陽の光に照らされ輝きすら見せる。


 長閑(のどか)。である。


 「はぁ、はぁ、おい聞こえいるだろ!!。返事をしろ!!」


 怒号。長閑な場所では、存在しては行けない無機物。そして、そのままの勢いで木の扉を蹴破る。


 「(可笑しい。いつもなら、扉から飛び出し抱きついてくる筈だ。)‥‥っち。おい!!返事をしろと言っているだろう!!‥‥な!?。」


 「ホッホッホ。お邪魔していたよ。」


 「お帰りなさい。お兄様、‥‥って、何ですかその傷は!?」


 アニスが怒号と共に、扉を蹴破った先には、いつも通りの風景。この家は、アニスが身を潜める隠れ家。この男の雰囲気とは違い、中は普通の家。台所に、本棚に食器棚。大きな一人用のソファーまでもが完備されている。そして、この家の真ん中には、家族が食卓を囲める様、テーブルがありそこに座るアニスのたった一人の弟、カミラが驚いた表情を見せる。


 テーブルの上には湯気が立つ(よだれ)が流れる程の料理達。だが、一つだけこの我が家には似合わぬ存在。


 「何故!!何故貴様が此処にいる!!『秩序(ちつじょ)』!!」


 「ホッホッホ。」


 カミラが包帯を持ち急いで詰め寄って来るが、それを押し除けて、テーブルに乗る手料理を食べる老人に問いかけるが、返事は籠った笑い声だけ。


 「‥カミラ君や、」


 「はい?。」


 アニスに返答をせず、料理を食う老人は、吹き飛ばされたカミラに声をかける。名を呼び、少しの間、沈黙が続く。訪れるは、緊迫した状況に一滴の言葉。


 「‥‥オブラートに包んでじゃ。オブラートに包んで‥‥この飯は腐っておるのか?」


 「失礼だろうが!!ジジイ!!」


 「だってそうじゃろ!!なんじゃこの飯は!!。美味そうな見た目をしておるのに、味はその反対!!これ罠じゃろ!!罠なんじゃろ!!秩序が乱れた!!逮捕じゃ!グハァ!?」


 はしゃぐ老人の頭をしばきあげるアニス。


 「‥痛い!?ジジイをいじめるなぁ!!」


 「どいつもこいつも鼻につく奴らばかりだな!!貴様らは!!人の家に勝手に上がり込んで、飯を喰らい、挙げ句の果てには味の感想をベラベラと、無礼にも程があるぞ!!クソジジイ!!」


 歳を(のぼ)り切った。(よわい)と言う読み方が似合う老人は、子供の様に涙をこぼし、殴られた頭の箇所を押さえジタバタと暴れ回る。その姿は実に見ていられない。


 「‥‥無礼?。ホッホッホ。人々様が住まう国を滅ぼそうとした君にだけは、言われたくはないのぉ。‥‥のぉ。‥『支配(しはい)』くん。」


 「っち。その名で呼ぶな。クソジジイが。‥‥(どうやってこの場所が分かった。‥私達、魔族の血が流れる者だけが行き来できる場所だぞ?)」


 「ホッホッホ。‥‥ほっ!?。のぉ、カミラ君。君はそうだな‥‥そう!その位置に立っていてくれたまえ。その位置で動かぬまま、自分の両手で首を絞めとくのじゃ。良いか?‥‥手を抜くでないぞ?。‥‥」


 笑っていたその老人は今までで一番と言っていいほどに目を見開ける。そして、立ち尽くすカミラに自身の首を支えておけと指示を出した。首を傾げているカミラだが、ふざけている様に思えない、その老人の瞳に従うしかなかった。


 カミラがその場所で、自分の首をギュッと掴んだ瞬間。音が聞こえた。何処から?。それは空から。


 悪寒が走るカミラに続き、アニスも数秒後同じ感覚に落ちいる事になる。


 何かが来る‥‥何かが‥‥空から。


 (嘘だろ‥‥?奴も人間だぞ。そんなわけがない‥‥あってはいけない‥‥)


 そして老人は上を見上げ‥‥ため息を吐いた後‥指を動かし


 「‥‥はぁぁ、水属性系統‥‥」



    ドァカァァァァァァァァ!!!



 その衝撃コンマ数秒の出来事。遥上空から隕石が降ってきた。そう思うほどの衝撃。屋根を突き破りそしてちょうどアニスやカミラ達が囲むテーブルの上を衝突するとテーブルは粉々に潰れ、その風圧で周囲にいた3人は吹き飛ばされてしまう。


 同時に、ここにある家具や皿も同じように‥‥何かが上空から降ってきた直後ではあるが、しっかりとアニスはその隕石と目が合っていた。


 隕石など生優しい物ではなかった。


 眼鏡を光らせ白髪の男は自身の拳を地に向け降ってきたのだ。ヒヨドリの森で、腹に強烈な拳を捻り込んできた男が、空から降ってきたのだ。


 そして飛ばされる2人を見ることもせず目を光らせ白髪の男が持っていたであろう長身の刀を立てに差し、その上に乗る。短身である白髪の男の身長を底上げする様な形で、つかの上に器用に立つと、アニスの首元に手を伸ばし鷲掴みする。


 「ぐっがぁ!?」

 

 首を掴まれたままアニスは足が浮く。


 「うぐっ‥‥‥。お‥‥ろせ‥‥‥。」


 小さな人間。子供ぐらいの身長の人間に、片手で軽々と持ち上げられるアニス。眼鏡をかけた男は、黙ったまま首を締める腕は血管が浮き上がる。腕はみるみると力が入るがそのままアニスを投げた。


 物凄い勢いで投げられたアニスは、柵すら先ほどの風圧で吹っ飛んでしまいぶつかる場所がないまま一本の樹木へと身をぶつける。


 事態は急変。アニスの視界に入り込むは、死そのもの。


 頭から流れる血を抑えながら、アニスは前を見るとそこには先ほどあった小さな家は半壊しており人など住めない状態へ変わり果て、その周りでは吹き飛ばされた勢いで気絶してしまったカミラが自分の首をホールドし横たわる。


 「‥‥‥やはり人間は勝手だな。どうせ、この大陸で私を邪魔出来る者など貴様ぐらいだろう。‥‥全身全霊を持ってこの場所で貴様を殺す。」


 ——闇属性系統魔法:常闇に潜みし弓矢(まなびえらんだや)

 

 アニスはそのボロボロになった体で立ち上がる。そして、腕を引き、なにもない空間から禍々しい黒い弓矢を出すと同時に力一杯弓を弾く。その瞬間、この森の空に浮く魔胞子達は一斉にアニスの元へと集うと、矢に入ってゆく。


 そして、その引く矢に目を向けては白髪の男は口を開ける。


 「‥‥‥優しくない奴だ。お前たち生き物は、標的の姿形を見て、力を見定め、徐々に己の力を見せていくのではないのか?‥‥。」


 「ふん。笑わせるな、私は人を見た目で判断する様な怠け者ではないわ。特に貴様はそうだ。短身であろうと、身体が肥えていようと、一度この身体に知らしめられたのだからなぁ!!」


 「‥‥そうか。そうだな。『知る』とは、重要な事だ。先ずは知る事からだと、学ばされた。‥だからこそ私も貴様を知ろうとした‥‥一つ‥‥」



 ———貴様が、今まさに、引く矢の行く末はどこに向いている?———



 「!?‥‥‥‥黙れぇぇぇぇぇ!!」


 その強大なエネルギーを垂れ流す一矢をアニスは目の前にいる男に向けて放った。



 「‥‥‥‥救いようのない奴だ。今の貴様の矢は、誰でも見る事が出来るぞ。それ程に、目立っている。」



 禍々しく強大なエネルギーを放つその矢を、眼鏡をかけた男の額に目掛けて光の速さで到達する。だが、彼はその矢を片手で掴むと矢の威力はすぐさま落ちていきやがて黒い粒子となって矢は姿を消す。


 「!?」


 (何故!?素手で私の全力の矢を受け止められるのだ。目でなど追えぬスピードであったはず‥‥どうする?‥‥ならば。)


 アニスは指を弾く。


   —『支配』—:強制絶対服従(わがためのどうぐへ)


 この静かな森の中、聞こえてくるのはゆっくりとした風の流れが、木に生えてある原っぱがかすかに揺れ摩擦音だけが広がる場所。そんな場所ではあるが地響きをあげ、何かがこちらに向かってくる音が聞こえてくる。


 「‥‥‥‥‥‥‥。」


 丁度その地響きで目が覚めるカミラは、事の惨劇を目の当たりにするも理解が追いつかず、そして周りをキョロキョロとし出す。変わらず眼鏡をかけた男はじっとアニスの方へと目を向けたままである。


 「ブァアァァァァァァァァ!!!!!」


 その雄叫びをあげ高くのぼる木々から顔を出してはもう突進してくる。その正体は、目を真っ赤にした熊達である。

 

 (クソっ、これが今の限界かここの森にいるのはただの獣ばかり、私の魔胞子を組み込むには、この森では部が悪過ぎる。)


 アニスが放ったその『支配』の力は、ありとあらゆる命を宿る生き物であれば支配下に置けるとゆうもの。


 『支配』とは相手の心の中にある不安を煽る事により成立するもの相手との信頼、情報、そして、時間、その全てが重なる時、ようやく初めて生き物を支配するに至る。その行為は容易ではない。


 だがアニスは容易く出来てしまう。それが彼の持つ力。


 この世の生物を道具として扱う事が出来る、凶悪な力。


 『皇種』その類の一つである。


 それに加え『強制絶対服従』で支配されたものは自身の力のリミットを強制的に外される、よっていつもなら出せない力が出せるようになる。が、本人達ではコントロールは難しく支配主の声により体が動く道具と化してしまう。


 (この男は熊達に任せ、カミラが目を覚ました今、アイツの力を使いここから逃げなければならない。そして体制をもう一度整えよう。奴の腰にぶら下げている刀は不味い‥‥)


 そう思っていたアニスであったが先程までは雄叫びをあげ口からは唾液を垂らしては、目が赤く光る熊は静かになっている。彼達を囲む熊がビクとも動かない。

 

 「なにをしているんだ!!早く奴を叩き潰せ!!」

 

 アニスの必死の叫びにも耳をくれず熊達は、白髪の男をじっと見つめては小刻みに揺れている。可笑しな光景、短身で小太りな男に群れをなす凶暴な熊たちが、囲む。ただそれだけの姿。熊を見るにその男を見つめ小さく唸りを上げている。これでも威嚇をしているつもりなのかと。


 その大勢の猛獣達に囲まれるも腰に支える刀に触れぬまま


 「自然に生きる物には関係のない事だ。攻撃などせん。安心しろ‥‥それで?貴様が言葉で放った全身全霊は、お終いか?」


 (何故動かない?私の支配の能力は私が解除をしなければ抜け出せないはず自身ではその檻から出る事は愚か、感情の起伏すらコントロールできないはず‥‥‥違う‥‥‥。怯えているだと?‥‥私の支配よりも‥‥上回る‥‥)



     恐怖



 そして、もう一つ異変に気づくアニス。それは自身の足元。見たこともない靴が綺麗に置かれていた。自分では、履かぬような類の靴。その靴の輪郭は、足首全てを隠すほどの長いブーツ。茶色い皮には黄色と赤が螺旋に編まれた靴紐がよく目立つ。そんな、ブーツが、アニスの目の前にポツンと存在感を露わにする。


 「‥?ブーツ?。誰のだ?‥‥そもそも何故こんなところに?」


 疑問を浮かべるアニスに、短身の男は語りかける。


 「‥ふむ。私が呼んでもいないのに、現れたか。そいつは少々、お節介好きでな、みっともない歩き方をしている奴を見つければすぐに現れるのだ。」


 「はぁ??訳のわからぬ事を、みっともない歩き方?抜かせ、何も知らない貴様らが‥‥。」


 「?。貴様ら?私ではない。こいつだけだ。」


 この緊迫する状況に、白髪で短身の男は首を横に振ると、存在感を表すブーツに指を刺す。


 「あぁ!!もうよい!!お前みたいな生き物と話していると此方が馬鹿になる!!あのジジイもだ!!どいつもこいつも!!使えぬ道具風情が!!」


 アニスは、両の手の平を叩く。


  —『支配』—:身命惜無(どうぐはわがかてに)


 手を叩き音が鳴り響いた瞬間、先ほどアニスの支配に囚われていた周囲を埋め尽くす熊達は次々と倒れていく。


 「‥‥‥。ハァァァァァァァ!!!」


 (クソ、熊を1匹、取り逃してしまった‥‥‥全ての養分を取れなかったか。まぁ良い、ほっといても問題はない。何かあれば私の手で殺してやる。それよりも‥‥‥。)


 「ハァハァ‥‥出鱈目のような奴には、出鱈目な力でねじ伏せるのが丁度いい‥‥まずはお前だぁぁ!!!!」


 『支配』。アニスはそんな皇種の力が扱えた。先ほど使った技によりこの森に住み着く熊たちは、一時的な奴隷と化す。


 この技に射程距離など存在せず、アニスの思うがまま、広さに、数に、それらを決める事が出来る。目をつけられた者は、自我を失い彼の手足となってしまう。アスター”アニスと言う男は、そんな力を扱える。まさに絶対的支配者。


 そして、もう一つこの力には、応用技があった。


 それは、支配下に置いたものの命を借りる事が出来る。支配かに置いた周囲に存在する無数の熊たちの命を糧として一時的にアニス自身の身体能力は格段に上がる。


 そして‥‥


 アニスが、叫んだ瞬間。目にも止まらぬスピードで白髪の男へと急接近するとそのまま膝蹴りを入れる。少しではあるがその白髪は、一瞬その地面から足が離れ宙に浮くと自然に顔は下に向いてしまう。


 相手の視界が悪くなったところを畳み掛けるようにアニスは、自身の両手を握り上から無数の命を凝縮させた力を振り下ろし、白髪の後頭部目掛けて‥‥叩き落とした。


 その衝撃は地面にめり込むほどの力。次第にアニスを中心とした場所から一定の距離まで地割れを引き起こすと同時に意識を取り戻したカミラは、その風圧でもう一度飛ばされてしまう。


 たった数秒。されど数秒。彼は出せる最高の速度と最高の力で叩き落としたつもりであった。だが


 「出鱈目は出鱈目でか‥‥勉強になった。感謝するぞ。」


 アニスの振り下ろす攻撃を受けて尚、白髪の男は下を向いたまま地に手すら着いておらず。中腰の体制である、況してや、腹を蹴り上げられて、揚々と目の前に立つ敵に対し感謝の念すら吐く余裕すらも見れる。


 「なぁ!?」


 感謝を述べたのち、白髪の男はその態勢からアニスの顎を目掛けてお返しかと膝蹴りを入れる。それは先ほどの比では無いほどの衝撃を放った力だが、アニスもまた彼と同じくこの場に留まる事に成功するも油断は禁物であった。


 「ぐはぁぁぁぁ、!」


 白髪の男は踏みとどまるアニスに休憩など与えず。お返しと言いたいのか、先ほどの膝蹴りで急所に多大なるダメージが入ってしまい体制を崩すアニスに、そっくりそのままアニスの腹を目掛けてアッパーをお見舞いする。それも周囲の樹木が風圧で歪むほどの力、次は耐えることなどできず遥上空へと飛ばされてしまう。


 「フォフォフォ。」


 吹き飛ばされたカミラは、目の前で繰り広げる高次元の戦いに理解が追いつかず声すら発せない状況。それにも関わらず白髪が繰り出す攻撃による風圧で今度こそ弾き飛ばされてしまうも、冷たい感触と共に遠くまで飛ばされなくて済んだ。


 何が自分を助け出したのかそれは、笑いと共に後ろからやってくる老人が出す水の魔法によりクッションの役割を果たしてくれた。


 「‥ありがとうございます。」


 「‥‥どうって事ないわい‥‥そんな事よりも君の兄は怖いもの知らずかい?内のエピスに肉弾戦を持ち掛けるとは‥‥‥」


 「エピス‥‥。」


 「ホッホッホ!!。この名を聞いて驚かん奴がおったか!!平和に生きてきたのじゃな。それは良い事じゃ、知らなくていい事の方が世の中には沢山あるからのぉ。」


 アニスの猛攻に、仏頂面で対処する白髪の男の名は、ロータリー•エピス。この大陸の秩序を保つ為建てられた戦鋼番糸のお偉さんである。


 腹が出て、丸メガネで、おかっぱで、短身で。人は見た目によらない者である。


 そんな2人の会話など耳には届かぬほどの距離まで高く飛んでしまったアニスは今一度、仏頂面なエピスを睨みつけ


 「力でダメならば!!」


  ———火属性系統魔法———


 彼が念じると次々とその詠唱の円盤が出来上がる。そして、その中から直径10mは超える火の大玉が顔を出し気付けばここ周囲の空を埋め尽くすほどの量へと数を増やす。


  ———豪雨(メテオレイン)


 カミラの目に映る映像には空が赤く染まっていた。それも見渡せど全てが、これだけの暑さに自信は触れていなくともその熱気により汗が止まらなくなる。それをすかさず老人はまた魔法を使い水のドーム場を作り自信らの身を守る。それが第一優先



 「兄様!!それではこの森も全て燃えてしまいます!!」


 「お前は黙ってろ!!」


 「今までに無いほどの最大魔力出力だ!!私はこの色の本質を理解しているからこそ成せる技。そしてこの技は空から降り注ぐ業火の雨‥空をも支配したと言っても過言では無い!!」

 

 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」


 エピスは変わらず一臂離たりとその場所から動かない。


 「これで終わりでは無いわ!!」


 上空を埋め尽くすほどの業火、そしてアニスはもう一度詠唱を唱え出すと、空にあるそのすべての火の大玉達は意識を持つように動き出す。青き空は、無数に出現した炎の大玉により真っ赤になり果て、空を凝視する事すらできない。


 「ん?。なんだ?‥‥」


 そんな業火を操作するアニスは、またまた異変に気がつき、地を這う生き物を目で捉える。真っ赤に染まった空の真下を歩く一人の男。


 「誰だ??。貴様は‥‥」


 真下には、いるはずの人間は居なかった。数を数えれば3人。数は変わっていない。少し離れ場所に目を動かせば、水の魔法の中で囚われたカミラと老人。だが、エピスとゆう男だけが何処を探せど見当たらない。その代わりに、自身の足元には白いコートを身に纏った一人の男。アニスの知らぬ男。


 「‥‥誰か使ったのか?。少し伸びている気がするが‥‥」


 「?。誰だ!!貴様は!!」


 「何を言っている?記憶が飛ぶ歳ではないだろ?。半年前から面識がある筈だ。」


 その男の名は、エピス。だが、見た目がまるっきり違う。艶のある白髪の髪は無くなり、坊主。体型もスリムになり、長身。変わらない物があるとするならば、眼鏡を掛けている所と、純白なコートのみ。


 変わりに変わったエピスの姿を見て驚きが隠せず、操作していた業火達は、その空で浮かび、ただじっと指示を待つ。そして、エピスの足を見ると先ほど、地に置かれていたブーツをいつの間に履き、紐までしっかりと括られている状態。


 履くのに苦戦するブーツをこの短期間でどうやって履いたのかと。解明できぬ疑問の波が押し寄せてくるアニスは、身体が固まってしまっている。


 「何だ?その魔法は?。眩しいな。それだけ眩しくても貴様は見えぬか、己が目指す目的の距離を。何故遠回りした?、何故時間を掛けた?。もう、辿り着いていたかも知れぬのに‥‥暗いか?。私は、貴様の道を正す事できん。だが、手助けは出来る。‥‥


 ——我が代百具(きょうだい)よ。意を成せ。」


 (‥‥一体全体どうゆう事だ。‥‥不味い。不味い。あの靴は‥‥)


 このトロイアス大陸には、大陸兵器『代百具』が存在する。一つ一つの武器には、意味が込められ、その力で国を滅ぼす程の力を持つ兵器達。数は名の通り、実に百個。数多くの兵器達が存在する中で、番号は振り分けられ、その番号は、低くなるにつれて、強大さは増す。


 「人工的に作られた太陽の光では、何も確認できぬであろう?」


 そして、姿形が変わったエピスが履き拵えるブーツには意識があり、元々あった道を見ようともせず、無我夢中で走り抜けようとする人間の前に現れ、正そうとする。実に余計なお世話。


 「さぁ、己が目指す、その果てと今立つ位置の距離を再確認しろ。」 

 

 この靴は、人の道を正す事が目的。但し、相手の主導権は握らない。ほんの些細な手助け。今から進むその道が間違っていると、それらを伝え、正すわけではない。元から道を間違えて歩く人間の元には、この靴も外方を向いている。


 しかし、アニスや、天傘 敦紫の様な、誰かを追いかけ続ける人間の元には、好んで姿を現す。


 他人から見て、己が歩く間違った道など存在しない。


 だが、己が間違っていると気づきながらも歩き方を変えず、足を止めず、無我夢中で走り抜けようとする者に、光を照らし、己から目的地までの距離を見せようとする。


 その先には、自分が信じた答えがあると、思う者。


 途方に暮れる程の長い距離に答えがあると、思う者。


 一直線の想い。それは、美しき感情の結晶。だが時に、それらは、自分自身を盲目にさせてしまう事がある。


 答えは既に学び、得たかもしれない。距離はさほど無く、目的地を当に通り過ぎ、余計な体力を使っているかもしれない。


 そんな者たちを照らし、その道筋の距離を見せようとする。少し変わった靴。照らし方が少々乱暴な、お節介好きの靴。


 根本的な道を正すわけではなく。歩こうとするその考えを‥‥


  ———No.XIII『炬履(きょり)メトルポース』


     ——【襲星(しゅうせい)】——


 その靴を地に一踏み。音などはしなかった。優しく、地に一歩踏み出したエピスの足元には、軽く踏み鳴らした筈のブーツから円を描く砂埃が巻き上がり、エピスの周りのありとあらゆる場所から火花が巻き起こる。そして、その火花は瞬時に空へと上がってゆき


 「なんだ?。‥‥は?うそ‥‥だ。」


 この森を覆い隠すアニスの魔法の空に上、天から雲を突き破り、輝く星が降ってくる。


 一つ、二つ、三つ、四つ、十、二十、三十、四‥‥


 数えればキリが無いほどの無数の隕石が、空からこの森を目掛け降ってくる。丁度、アニスが作り出した豪雨の数と同じ程、そして、アニスの魔法と、エピスが降らす星が空で大衝突する。


 地面が揺れた。星がアニスの魔法を喰らった後、次々と上空で大爆発をする。そんな惨劇が繰り広げられ次第に空は忽ち元通りになり、青さを取り戻す。


 「‥‥。‥‥意味が全く‥‥わからない。」


 生気を失う程の光景を目の当たりにし、アニスは空に浮いたまま脱帽する。この感覚は、二度目。半年前に味わった感覚と同じ。


 (‥‥。‥)


 「これでもか?。ふん。腹正しい。空を支配?色を理解?。笑えん冗談も程々にしろ。半年前貴様は私に言っていたな?」


 全てが終わりを迎えたと、脱力するアニスに休憩は存在しなかった。触れてはいけぬ生き物に触れてしまった。あろう事か、噛みついてしまった。無知で愚かな自分を呪った。


 またもや悪寒が走るアニスは気づいた。先ほどの比ではない。


 「ならば見せてやろう。今持ち合わせている全てのを代百具(きょうだい)を‥‥」


 空中に浮かぶアニスの頬に、擦り何かがまた何処からかやってきた。感じた悪寒は、空を見上げれば分かる事。何がやって来たのか?それは、エピスを見れば分かる事。


 なにが飛んできたのかそれは大きな槍。全体は白銀に輝きそしてその長さは2mはある物、決して人が持てるよう想定された長さなどではない。


 「ああ........あぁ‥‥‥‥あぁ‥‥‥‥なんなんだ」


 そして、上を見上げ彼が見た光景、アニスの上には先ほどの大量の業火ではなく。色や形そして大きさも全て違う武器が宙を浮いていた。


 その矛先はアニス自身に向いており数はなんと三十近くはある。それも全て一つ一つが強大な力を持つ代百具(フェンネル)たち。この一帯の生物の力を吸収し全大な力を手に入れたアニスが空から見下ろせば、小さく見えてしまうほどの力の濃さを、個々に纏っている。


 まさに絶望。


 この森全体を、そして、この空の下にいるアニス含め全ての者達が霞んで見えなくなるほどに、アニスの真下にいる男の手に持つ二つの武器は、溢れんばかりの不思議なオーラを纏う。


 言い換えればこのトロイアス大陸を、二つ、1人の人間が持っていると言っても過言ではなかった。


 正に絶望。


 「‥‥‥。空にはシングルナンバーはない。すまないな。」


 「!?」


 (聞いたことがある。シングルナンバー。代百具の中でも、世を壊す程の力を持っている武器。浮く強大な力を持つこの道具たちがシングルではないとわかれば‥‥‥不味い、このような事態、無計画では勝てるはずもない。)


 この状況に、思考をフル回転させ考えるアニスに変わらず口を開き続けるエピスは、握りしめる白銀の槍を手放す。


 「なんだ?コイツが見えたか?。ならばそうゆう事だ。」


 (だが、この無数の代百具(フェンネル)達の攻撃を避けれながらカミラの元までいけるのだろうか。また、星を降らされては敵わん。そして、奴の持っている槍、あれは知っている。あれだけは‥あれだけは不味い。絶対に‥‥‥ん?)


 アニスは、エピスが持っていた槍を見ようとした。だが確認が出来なかった。彼の手には先ほど持っていた槍などなく少しでも動かせば黒い影の残像を筆の後のように残す刀だけが存在していた。


 「‥‥‥‥‥‥‥‥‥。我が代百具(きょうだい)よ、意を成せ」


 手に持っていたはずの槍の行方はどこへ。アニスは感じ取った。感じ取ってしまった。空を見上げると先ほどいた代百具(フェンネル)たちは自身の上空から避けていく。宛らなにかが降ってくるかの様に大きく離れる。そして空を凝視していると


 「‥おい、‥‥勘弁してくれ‥‥‥。」


 この男の持つ槍、その槍は姿を視認できない。だがある一定の条件を踏めば誰でも視認できてしまう。その槍を見つけたかと思えば瞬き一つで目の前から忽然と姿を消し、また一度視認できた相手の元へとその矛先を向ける。どの様な場所でもどんな状況下でも見えてしまった相手の元へとその力が命を突く。こちら側の対抗手段など、行動に移そうともその槍の姿形を捉えることなどできない。神出鬼没‥‥一度目を合わせて仕舞えば死しか在らず。死んだ真相も明らかにならないまま残酷に‥‥抵抗など無用。まさに‥‥‥


 「ハァ‥‥ハァ‥‥‥‥」


 「まずは降りてこい。」


  ———No.III『神槍(しんそう)レーティ』

   

     ——【無槍(むそう)】——

 


 空からアニス個人に向けられた何かが降ってきた。それはとてつもなく大きな鉄の柱、その他に言い表すなどできない。アニス達が住んでいたであろう半壊した家を飲み込むほどの太さの鉄の柱は、空から一気にアニス目掛けて降って来たのだ。突き刺さった物は天を突き抜けるほどの大きな柱の様にも取れるそんなものが降ってきたのだ。


 「‥‥ようやく降りてきたか‥‥‥。」


 「ハァハァハァハァ‥‥‥つぅ」


 柱が降ってくる瞬間、全神経を羽根に集中させ避けることに成功したアニスではあったが、背中にはいつも感じていた感触が無くなっており右の翼は柱によって喰われてしまった。だが押し潰されなかったことだけは幸いであろう。


 これだけの状況にもアニスは冷静な判断を起こす。


 (駄目だ。勝てるはずがなかったこんな人間に‥‥人間?人間などではなきこんな化け物。どうする‥‥そうだ)


 ——闇属性系統魔法:常闇に潜みし弓矢(まなびえらんだや)


 彼は一度放った技をもう一度残りの体力を売り絞りながらエピスに目掛けて矢を放った。だが分かっていたこと難なくその矢は蹴り飛ばされてしまう。が、その一矢が起点をきかす事になる。


 一瞬ではあるが矢を蹴り上げるエピスはその消えゆく矢に視線を向けてしまう。それをアニスは見過ごさなかった。水の膜に覆われたカミラの方へとアニスは視線を向けず叫ぶ。


 「カミラ!!立て!そしてこっちに来い!お前のリゲイトの使用を許可する!!」


 先の爆発からカミラを守っていた水の膜にその声が聞こえた同時、その膜の中に共に過ごす老人がこもった笑い声をあげ


 「ふぉふぉ、君のお兄さんが呼んでおるよおじゃがワシが解除するまで出る事は出来ん‥‥さてどうする?」


 何ともややこしいもの、自身の命を守っていたものが帰って自由を阻む檻へと姿形をかえる。だがカミラにとってはそんなもの恐るるに足らず


 「なぬ!!」


 カミラの姿はこの水の檻から一瞬にして姿を消す。そして老人は力尽きる寸前のアニスの方へと目を向けると、そこにはカミラが立っており


 「行きますよ!!何処へ?」


 「どこでもいい!!急げ!」


 白髪の男は目の前にいる2人の行動に勘付いたのか、すぐさま身を動かして瞬く間に目の前までやってくると手に戻ってきた神槍レーティを地面に刺し、二人の間合いへ瞬時に移動したのちに二人目掛け回し蹴りをお見舞いする。


 だがアニス達の姿は消えその蹴りは空を切り、その力は暴発したかのように、忽ちこの場所に嵐が吹き荒れる。


 「‥‥‥‥‥逃すわけが無いだろ。」


 エピスは後ろを振り返りもう一度神槍レーティを握りしめて大きく振りかぶりなにも無いところへ今度は投げた。


 

 

  —————————————————————


  


 ここは惑わしの森。木々が生い茂る場所を見下ろす2人の悪魔が肩を組みそして今にも墜落してしまうのでは無いかとそう思ってしまうほどに弱っている。

 

 「くそ!何故こんな所に移動するんだ。これではあいつが追いつくのも時間の問題だ!」


 「すみません。兄様。目を覚ますとあまり力が入らなくて、それと、私はこの森から出た事がありませんから‥‥。」


 アニスを肩で支えるカミラには(瞬間移動)とゆうリゲイトを使える。一度見た場所であればどんなに離れた場所でも一瞬にして移動ができるとゆう物。一見すごく便利かつ最強に近いリゲイトではある。囚われの状況に於いても部類の強さを発揮するが大きな弱点がある。それは距離に応じて体力を消費する。そしてそれが限界に達すると気絶してしまう。それもかなりの時間。眠りに着くように


 (そうか。果たされぬ約束を‥‥。残酷な物だ。)


 「まだ、使えそうか?」


 「はい。なんとか後一回だけなら。‥‥兄様!?翼は‥‥。」


 「お前も見ていただろう?あの天柱に犯されたのだ。‥‥今思い返しても意味がわからない‥‥」


 「天柱??、?」


 片方の翼を失ったアニスは自由に動く事ができず。あまり力の残っていない。カミラが辛うじてその肩を持ち支えて空を飛んでいる。


 (ここで使えばこいつは眠ってしまうかもしれない。一度降りてここで羽休みをしよう。そしてもう一度計画を練り直す。私の計画にあいつの邪魔が入っても太刀打ちできるほどの力を‥‥)


 そしてアニス達は一度身を隠すため降りることを決め、そして地へと向かう途中。


 「あいつは化け物か!?おい!カミラ!私を飛ばせ!!」

 

 「え?何を」


 「急げ!大丈夫だ。奴はお前は狙っていなかった。だから飛ばせ!ここで死んでは元も子もない!」


 (カミラの体を見る限り丁度あの男が使った技の攻撃、鉄柱の範囲には入っていなかったのだろう。あれだけの強大な物をギリギリ運良く当たらなかった訳がない、奴は私だけを攻撃してのことだろう。ならば今飛んでくる化け物もまた同じく私だけを撃つつもり)


 「カミラ!!またお前を迎えにいく。それまでは死に物狂いでも生きろ!!待っていろ苦しくとも。私がお前の選択した事を無駄では無かったと、証明してやる。それまでは死ぬな!、」


 何故そんなに焦っているのかそれは先ほど天から降り注いだ槍がこちらに向かって飛んでくる。それはアニス個人に向けられているのがわかる程に正確な物だ。が、今横には自身を支えるカミラがいる。それでは共倒れになってしまう事を考えての選択なのだろう。


 カミラは言われるがままアニスに触れると


  リゲイト:転送(つばさを)


 触れられた本人はすぐさま煙の様に消え、残ったのはカミラたった一人。そしてアニスがいた位置には大きな槍が目にも止まらぬスピードで通過する。彼自信は槍とも気づかない少しでも遅れれば体を貫いていた。だが丁度カミラが羽ばたかせる片方の羽をも槍は食い散らかし、飛ぶことが不可能になる。そしてカミラは墜落してしまうと。


 「一体何が起きてるのだ‥‥誰か‥‥」


 彼は最後の力を振り絞りリゲイトを使った。それは彼を眠りの中へと誘っていく。そして、その木々が生い茂る場所。況してや、人々が恐れる惑わしの森、そんな誰も助けなど通らぬ場所で目を閉じ気絶してしまう。




 —————————————————————




 槍が帰ってき、それを掴むと槍の先端を見つめては


 「血はついてあるが避けられたか?やはりこの場所ではどうも代百具(きょうだい)達の感が鈍る。」


 彼は手元に戻ってきたその槍を宙に浮かせると、腰に遣わせる長身の刀を抜く。


 「この槍を視認でき二度も生き延びたのはお前だけだ‥‥。だが我が代百具(きょうだい)の前では無力に等しい‥‥分かるとも、私も同じ気持ちだ。だが、残念がる事は無い。‥‥」


 エピスは長身の刀を天に掲げる。その動作の最中、この刀の刃は黒く影のようなものがこの空気に溶け込むようにこの空間をなぞる。


 「太陽の次は‥‥‥」


 「コラァァァァ!!エピス何をしてるだ!!みてみろこの惨劇を!!」


 その怒号と共に老人は猛スピードで近づくとその背中目掛けて飛び蹴りを喰らわす。蹴られた事には気づくも顔色は変わらないエピスは周りを見渡すと、先ほどの自然はなくなりあるのは地割れが起き乾燥した地面。遠くまで続く薙ぎ倒された樹木達。


 いつの間にか、エピスの身体は先ほど、空から降って来た直後の体型に戻っていた。身長は縮み、腹はぷっくりと、艶のある髪が生え、元の姿に戻っている。


 「何遍行ったらわかるんだ!お前は加減をしれ加減を!そしてわしの許可なしに代百具(フェンネル)」を呼びよせるな!それでなくても今は拠点にある代百具(フェンネル)たちは散り散りになってるとゆうのに。全くもうどうするんだ。この惨劇を」


 「‥‥‥青なら直せるのだがな‥‥」


 老人はエピスの後頭部に握り拳をつけ渾身の一撃を放つ。だがその衝撃と振動はこちらに帰ってきてしまうと頭から足までをその衝撃が身体中に周り


 「痛ァァァ。硬いんじゃお主は。まずは謝らんか!ったく。はぁぁぁぁーどうすんじゃこれ。」


 「知らん。」


 「あぁもう。知らないよ。わし。戦鋼番糸の次席であるエピスがこの森を暴れ回りました!!なんて言われた日には言い訳できないんじゃぞ。大陸の法律なんて変な呼び名で言われてるのだからその意味を通さんか!!。幸いここは人が余りよりつかない森じゃ。願うしか無いのう見つからない事を‥‥‥ったく。」


 その立っていた老人は腕を組み座り込んでしまう。


 「なんだ?ケイジュ。行かないのか?」


 「ハァ‥これだから無神経な奴は。詫びじゃ詫び。老耄を歩かせるきか?おんぶせい。おんぶ」


 「‥‥‥なんだ。そんなことか‥‥」


 「‥‥お主、身長低いからわしの足が引きずられてるんだけど?これ、何とかならんのか?、」


 「‥なら、降りたらどうだ?」


 「ふん!!降りるかよ!!引きずってでもわしを持ち帰れ!!」


 エピスは長身の刀を鞘に戻しその小さな老人を背中に乗せると歩き出す。大きな槍は意識を持つ様に宙に浮くとエピスの後をつける。そして上空に浮かぶ武器達はまた何処かへ飛んでいってしまった。


 「お主はどうやってきたんじゃ?エピスなら迷子になるとおもおて何も言わんかったんじゃがこうなるとは誰が予想したか」


 「飛んできただけだ。それと‥‥此処には代百具(きょうだい)は、いたか?」


 「ホッホッホ。つくづく面白い奴じゃのうわしの友は。ホッホッホ。いや。ここにはなかった様じゃ」


 「そうか‥‥帰りも飛んで帰るか?」


 「なに。大丈夫じゃ」


  お主の親友が教えてくれるじゃろう。


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