10”塞、観、固
「あれ、‥‥ここは?どこなんだ?」
敦紫が目を開けた先、そこは満遍に咲く花畑の中に、にポツンと一人だけ立っていた。先ほどまでいた場所ではない。周りにいた魔獣達それに加え、マルクワやリリーの姿など何処にも無い。只々ひとり、その風に髪を靡かせては空を見上げる。
「‥‥ここは天国か?‥死んじゃったんだね、やっぱり真似だけじゃ無理だったみたいだ。‥‥‥それにしてもここは彼が好きな場所だ。彼はいるのかな。」
敦紫は、引き寄せられる様に、徐に足を動かし出す。歩いているが、残念ながら道などは無い。咲き誇る花たちを、気にする事なく掻き分けてゆき、前だけを向いてひたすらに歩いている。すると、
「‥‥あれ?。‥‥‥柵?」
彼がひたすら歩く中、ようやく花とは違った物が出てくる。視界に映り込む物は、柵に囲まれた庭があり中に入ると緑の草原があるだけ外側とはまるで違う。
柵より外、彩りどりに咲く花たち。柵より内は、緑に覆われた草原。誰かの了承を取るわけでもなく、敦紫は柵を跨ぎ緑一択の庭へと足を踏み入れる。
「‥‥‥‥‥‥迷子か?旅人よ」
庭へと足を踏み入れた瞬間。ようやく自分以外の人間の声が聞こえる。
「‥‥‥‥。」
声がした方角へと目を向けると、人の形をしてはいるが靄が掛かり顔などは確認できない。体すらも半透明な者。顔色など分からぬ正体不明な生き物だが、何処となく敦紫の知る親友に似ている気がした。
「この場所に人間が来るとは、‥‥‥‥貴殿は何者だ?」
「‥‥只の人間だよ。あと1つ聞いてもいいかい?ここは何処だろう?天国かな?」
ふふふ、と笑い声の後に宙に浮きその物体は、敦紫の側までやってくる。
「ここを死人の拠り所にしないでほしいものだな。‥驚かないのか?、私は今、宙に浮いていたのだぞ?‥‥まぁ、よい。ここは発芽の庭園。」
「そう。また、僕は違う世界にでも飛ばされたのかな?。中々、死ねない物だ。僕は敦紫、君は?」
「私に名前などない。あるのはここにいると言う事実だけだ。それに貴殿はどうやってこの場所に来た。望んで此方に来ることは不可能だが‥‥」
「ごめんね。分からないんだ。こうやって別の世界に飛ばされるのは二度目なんだけど、やっぱり理解は出来ないよ。」
何者でもない透明な何かはこちらを眺めたまま黙り込んでしまう。静かに風が吹くとこの低い草原が横に揺れる。
「貴殿は、冷静だ‥‥‥いや冷徹だな。見れば分かる。本性は、隠せぬ物だ。」
「そうかもね。」
敦紫の言葉とは裏腹に、顔は澄ました笑顔である。ある言葉を思い出していた。ある一人の青年の声、脳からではなく心から、彼が喋っていた言葉が蘇る。
「貴殿は冷たいと、よく‥言われないか?」
———お前は横できゃっきゃっうるさいんだよ!!俺はまだ眠たいんだ!ほんとお前は騒がしい奴だな。
「よく言われるよ。言われ続けたよ。」
敦紫が返答をすると透明な何かは頭を傾げる。
「?否定しないのか?」
「君がそう思うなら自由にしていいよ。君になんて思われたってどうでもいいから。」
透明な何かは、この庭一体に響き渡るほどの笑い声を上げる。その間風は止み、柵の外で咲いていた花は蕾を閉じてしまうそれも全て。敦紫はその光景に驚いてしまうも、構わず透明な者は喋り出す。
「ふふふ、面白いな貴殿は。だが、よくもその考え方で生きてきたな。息苦しかったであろうに。そしてその身なりこの世界の者ではないであろう?何をしにこの世界にやってきたのだ?」
「分からないさ。ずっと迷子だよ。‥‥それと一人でなんて僕は生きていけないよ。そんなに器用じゃない」
「ふむ‥‥不思議な人間だ。ではどうやって生きてきたのだ貴殿は?」
皆が口を揃えて、僕の事を『天才』だと言った。生まれてからこの短い人生、なんでも出来た。頭で考えている事をそのまま体現出来た。だが、それの何処が天才なのか?
確かに、人よりは飲み込みが早い方だ。だがそれだけ。
何かに取り組む事が大好きだった。結果ではなく、その辿り着くまでの道中が狂おしい程大好きだった。その反面、終わりとゆう物が大嫌いだった。
勉強に、スポーツに、音楽や絵に、一人でその道を歩くのも楽しかったのだが、競い合うのも大好きだった。競い合いに終わりはないのだから。
勝ち負けでの話でないのだ。最初は、皆、僕と競い合ってくれた。でも、途中で諦めてしまう。同じく始めた事でも、対応する速さが人より少し早いだけで、誰かが言った『天才』とゆう言葉で。気づけば、誰も僕の相手をしてくれなくなってしまう。
どうせ負けるだの。挑んでも仕方がないだの。皆、先の勝敗を見据え、独りぼっちになってしまう。
何かに没頭する。楽しくなるとつい競い合っていた者たちを追い抜いてしまう。ならば、相手は僕の事を追い抜いて欲しい。それが競い合い。でも、我に帰り、振り返るとそこにはもう誰もいない。
顔も名前も興味もない他人に言われた事があった。お前には俺らの様な凡人の事なんて理解できない。お前の様な天才には何も分からない‥‥って。
こっちから願い下げだと。自分で決めた低すぎる目標すら途中で諦めてしまう奴らの事など理解もしたくない。
勝ち負けではないと何度も言ったが、誰も相手をしてくれない。
僕は、呪ったんだ。人よりも早く順応するこの身体を。
それは、傲慢だと思うかな?、
僕が好きだった物が出来なくなってしまうだ。好きな物が周りの凝り固まった考えで無くなってしまうのは悲しい物だ。もう、諦めたよ。見えない未来を見定めて諦める連中には飽き飽きした。人を期待する事すら、止めてしまった。
でも僕は、ある人に、可笑しな人間に、出会った。
出会ってから僕の人生は、全てが変わった。競い合いができる彼だから、僕の人生に色がついた。‥‥なんて、そんな馬鹿で単純な話じゃ無い。
「ふふふ、」
「何が面白いのだ?」
「ごめんね。昔の事思い出して。」
この盤上にあるのは草木と透明な何か。そしてその者の前に立つ敦紫の姿。
「僕には親友がいたんだ。とっても大切な。」
「そうか。ならば元いた世界に戻って会いたいのではないのか?残念ながら私は貴殿が生き年生きる星への帰り道などわからないのだ。その方法を探すのならこんな場所で道草を食っている暇などないであろう?‥‥少し待っていろ。この庭からの出口を開いてやる。」
その喋る者は、振り返ると中心にある何もないところまでゆっくりと足を進める際中。
「いいや。死んだんだ。僕の親友は僕なんかを庇って。」
透明な者は足を止める。
「馬鹿でしょ。こんな僕みたいな人間を庇って死ぬなんて。」
「‥‥‥そうか。それは失礼した。だが。一つ質問がある。君は‥どうする?」
「?。」
「例えば、の話だ。偶然にも、偶然にも、
君の親友が生きていたら、君は、どうする?」
その透明な何かはまたこちらに歩み寄ってくると
「ぐぅ!?」
敦紫の頭目掛けて、その透明な者の手がゆっくりと入ってくる。敦紫も最初は驚いたものの、落ち着きを取り戻し彼に言われた事を返答する。
「何を言っているんだい?生きていたらって?死んだんだ。僕は目の前で見たんだ。僕のことを庇って、海に落ちたんだ。」
数分間、自身の頭に手を乗せて無言になっていた透明な者は、また何かを終えると、周囲一体、柵の外に咲き乱れる花たちを眺める。
「ふふふ、そうか。だからか。だから私やこの場所は‥‥。君の記憶を覗かせてもらった‥‥。ふふふふ、もう一度聞くが君の親友は死んだと思うか?」
「‥‥‥死んだよ。変わりわない。僕自身が目の前で見たんだから」
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!、そうか!それは残念であったな。命とは儚い物だ!!速度を上げた鉄の塊に突き飛ばされれば微弱な人間の身体は保たない!海などに落ちれば尚更だぁ!!ハハハハハハハハ!!人は死ぬ、何死ぬ、これが命。これが世の大概!!それを己の目で見たとなれば、そうなってしまうのも仕方がない。」
「‥何が言いたいのかな?」
「ハハハハ‥ハハ‥‥。失礼。私達はたまに発足が起きるのだ。気にしないでくれ。そして、私は貴殿が気に入った!どうだ!
私の器にならないか?」
大声を上げて笑う何かはその手の平からある物を出すと棒立ちの敦紫に投げる。
「‥‥‥‥なんだいこれ?‥‥‥‥種?」
敦紫は投げられた物を綺麗にキャッチすると確認する。
「そうだ。それは皇種とゆう物‥‥『概念』を司る皇種である、私自身だ。私には夢があるのだ。どうも皆小さな器でね。ドイツもコイツも、柔軟な考え方をするつまらぬ者ばかり。どうか君の器を使い、私の夢を叶える手助けをしてほしい。」
「‥‥‥‥。?。」
「何故?、と言う顔をしているな。ならば良い知らせだ。それを飲んだ暁には、君が、『この世界に来て初めて望んだ答え』が、分かるぞ。まぁ、立って話すのも苦であろう。腰を下ろし、話そうではないか。‥‥これは、共通認識だ。此処には、椅子がある。」
その透明な何かはそう口を開けると、木で作られた椅子が瞬く間に姿を現す。
—————————————————————
「———————————————手違いで、彼は僕のクラスに来ちゃったの。本当は違うクラスだったんだよ。キョトンとしたまま先生に担がれて出て行ってさ、その一瞬だけでも騒がしくね。笑っちゃうよ。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥そうかそうか。それは愉快な友人であろう‥‥。君は親友の話になると人が変わった様に無邪気になるのだな。」
「‥ふふ。元々僕はこんな感じだよ?」
「さぁ、それはどうだろうか。」
ただ風が流れるこの空間。それは天国と言っても言い違えない程に。かれこれ敦紫は数時間とその透明な者とその話に花を咲かせている。ただその話題は全て親友のもの、自分自身の物語など語ることなどなく、それでも彼は無邪気な笑顔を溢してる。
「‥‥さて。敦紫殿は、何故このような場所に?なんとなくこの場所に来た『理由』はわかるのだが‥‥私と君が出会う為にも条件があった筈、どの様にして此処に?」
「ん?」
僕は今までのことは理解しやすい様に話した。この世界で、暴走した異世界人を討伐しなければいけない事。それに伴い、必要となる聖剣を探しにヒヨドリの森に入った事、その道中、魔獣と出会い戦いになった事。所詮、彼の真似事、綺麗に敗北して吹き飛ばされた事。その全てを話した。
「ふむ。承知した‥‥それならば尚更、このような場所で呑気に会話している場合ではなかったな。すまないすまない、」
「いいよいいよ。君が謝る事じゃない。それになんだか気持ちが軽くなったよ。」
「ふむ。器の広い人間で感謝する。‥‥では」
座る透明な者は立ち上がると、もう一度敦紫の頭の上に手を乗せる。
「ふふふ、やはり面白いな。敦紫殿の記憶は薄暗い。だか、その中に少しの間だけ、色濃く輝く奇跡の様な時間がある。貴殿にとって友人は大きな存在なのであろう」
「そうだよ‥‥とっても大切で掛け替えのない存在‥‥僕は墓参りの途中なんだ。ちゃんと彼が好きだった花を添えてあげないと‥‥僕には元の世界に戻らないといけない理由がある。」
ならばと透明な者は続ける。
「先ほど渡した種があるだろう。君はこの世界の者ではない。よってこの世界の存在証明であるリゲイトを持たない。先ほど軽く説明したが、その種を飲めばリゲイトに似た能力が使えるはずだ。まぁ貴殿ほどの者は飲まなくとも相当な力はあると思うが、手助けにはなるだろう。」
僕はこの会話の中でずっと気になっていたことがあった。基本の三点以外にも、いくつかあった項目の一つが『皇種』。リゲイトがない僕には助かる事だが‥‥そんな事どうでもいい。それよりもこの透明な人が言っていた「君が今 望んでいる答えがわかるかもしれない」そう言っていた。‥‥‥今僕が望む答え‥‥‥
———元いた世界への帰り方———
「この種を飲めば僕の望む答えが分かるんだよね。」
「‥‥断定する。君が望む答えが分かるはずだ。それを飲めばある場所に立ち入ることができる。普通の人間では跳ね返されてしまう、そんな場所。入り口すら隠され、入り込めても無数の迷路が待ち構える、そんな場所。」
「‥‥それはどこなんだい?」
聞いてみるが、分からないとの事。今喋る透明な彼以外にも、同じ存在が複数居るらしい。そんな彼らは皆、ある場所で生まれた。それが、種を持った者しか入れない祖園。この場所に似た花が咲き誇る花園。彼らはこちら側からその花園を確認できる。ヒントと言えば花がたくさん咲いているたったそれだけだった。
‥‥彼でもいるんじゃないか?ふふふ。僕がこの空間を抜け出せばもう半透明な彼とは話せない。唯一彼と意思疎通ができる場所でもあるのがその花園。彼から渡された種を飲めば花園にいけるかと言うと、僕一人では不可能らしい。
「‥‥案内人を探さなければならない。場所も知らなければ、君には迷路の様になっている入り口。一人で入る事など不可能なのだ。種を飲めば、その祖園に入れる資格を飾るまで。」
「その花園には案内人さん意外は、一人で出入り出来ないのかい?」
「?、いや。ふふふふ‥‥‥もう一人出入りできるものがいたのだ。だが、君に教えるのは面白くない、君の目でしっかりと確認するといい。君の思い出の様に祈るといい。‥‥‥さてそろそろ時間のようだ。」
「え?」
透明な者は宙に浮く。
「その種を飲むか飲まないかは君次第だ。その種の力もある程度の説明をしている。君ならすぐに理解できるだろう。また、気になる事があれば、私たちの祖園を、探すといい。飲まないのならそれでいい捨てても良いぞ、君以外のものには効力など発揮せん。これは共通認識である、私が決めたことだ‥‥‥‥だが」
———飲むなら呑まれるでないぞ。
「!?眩しい!!」
そうそう、と言いながらその眩しい光な飲み込まれる最中、透明な者は振り返り口を開けた
「聖剣を探しに来たと言っていたな敦紫殿は、それなら心配ないであろう。心当たりがある。だがその剣は——
『とんでもなく変わった者』が作った事だけを伝えておく。
また会おう。我が夢を、叶えてくれる者よ。」
—————————————————————
うぅ、頭が痛い。何か鈍器な物で叩かれているほどの痛さだ。それに‥‥ここはどこなんだ。さっきの場所とはまるで違う
彼が目を覚ました場所。それは石で積み上げられた小さな建物。敦紫は辺りを見渡していると風が当たるその方角に目を向ける。その壁は無惨にもボロボロになり風穴が開いている。その穴から外を見れば木々が生い茂る場所。
「汝よ。この場所を見つけるとは、何者だ。」
どこからともなくその小さな空間から反響し声が聞こえてくるので、その古びた石の家を探索することに。「君は誰だい?」そう声をかけてみるものの、先ほどの声は返って来ず、それにこの小ささ、少し歩けば壁にぶつかるほどの小ささ。床や天井を見れど蔦がまとわりつく石しかない、
「気のせい?だったのかな。」
彼は振り返り風穴が空いた場所へと戻る事に、だが、また声が聞こえてくる。
「私が眠るこの場所を無断で破壊し、侵入してきて誤りもなく立ち去ろうとゆうのか‥‥ならば貴様を‥‥って痛い痛い痛い。」
「どこにいるんだい‥‥って‥‥‥‥え?」
何かが足の裏に当たる感触。敦紫は下を向き確認するとそこにはこの何もない空間に一つだけ、古びた剣先に手の部分は苔によって固定された不恰好な剣。敦紫が先ほど使っていた剣となんら変わらない形。
「ん?え?」
「おいおいおい、勘弁してくれよ。痛いからそれ、」
「ん?」
「おいおい!わざとだろ!今お前が踏んでるのが俺様だよ!!ダメダメ!!折れる折れる!」
「あぁ?ごめんね。」
彼の耳に声をかけていたものそれは、今敦紫が踏んでいたこの古びた剣。彼自身では動けないと言い敦紫に起こしてくれと言いつける。
「ごめんね君の家だったんだね。じゃあ失礼するよ。」
「‥‥‥いやいや!ちょっと待てよ!俺、今言ったよね?このコケのせいで身動きが取れないんだよ!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥。」
ただ敦紫は、喋るおかしな剣をただじっと見つめては、止めた足をまた動かす。進む先は、風穴が空いた場所。
「え!?嘘だろ。‥‥‥頼む頼む頼む!!」
「‥‥‥‥‥‥。」
「わかったわかった!!俺の名は大陸兵器‥代百具が一つ!!軌跡ペンドラゴラム!!ここから出してくれた暁には膨大な力をお前に与えよう!!」
その喋る剣は大声を上げるも、敦紫の足は止まらない。その石畳の部屋、その風穴から差し込む光で敦紫の姿を少しづつ消えていく。
「‥‥‥力?‥‥いらないよそんな物。‥‥じゃあねぇ。開けてしまったこの穴は、魔法でなんとかしておくよ。」
(戻ってきたのかな?。結局、あそこは何処だったんだろ?。‥‥あぁ、マルクワ君は無事なのかな。)
この場所はヒヨドリの森だと言う事を、すぐに理解できた。この小さな石の建物から、外を見ればある場所から遠く離れた距離に掛けて、木々が薙ぎ倒されている。
多分戻ってきたんだよね。さてこれからどうするかとゆうより僕は意識を失ってたのかな?あの魔獣飛ばされた勢いでこの場所に突っ込んだんだろう。‥‥二人とも無事だろうか‥‥どれぐらい飛ばされた僕は?問題は山積みだな。とりあえずこの開けてしまった穴をコブシ君が使ってた魔法で直‥‥‥‥‥
「たのむ!!置いていかないでくれ!!俺様は‥‥俺は!!!」
ずっと独りなんだ!!
風穴に向ける手を止める。
「俺は!ずっとこの場所にいるんだ!俺を作った奴はどっかにいっちまうし、何十年‥いや、何百年ここでその帰りを待っていたんだ!だがどれだけ待っても帰ってこねぇ。来る日も来る日もこの小さくて暗い部屋でずっと独りで———。」
「‥‥‥‥。」
似た生き物を僕は知っている。楽しむ事を諦めて、生きることにすら飽き飽きするほど、色のない人生。この子の様に、誰かを待っているわけでは無かったが、僕も無色な空間の中で1人だった。でも、『彼』が色を付けてくれた。
(‥こんな時、君はどうするのか。‥あの時と、同じように)
「頼む‥‥俺を外に連れてってくれ!‥‥‥俺を‥‥って。あれ?」
「ちょっと待ってて。」
敦紫は、その喋る剣にまとわりつく苔や蔦を次々にとっていく。どれだけの長い年月が経てば、これほどまでに太い根っこが絡まりつくのか。敦紫は最も簡単にそれら全てを除去していくと。懇願していた彼が息を吹き返す。
「ふぅぃ~~。これで動けるぜ!!助かったぜ!!‥‥えぇ‥‥名前は?」
「僕かい?僕は敦紫。‥‥君は?」
この小さな部屋を飛び回る剣に驚きなど見せず、敦紫は名前を聞き返す
「ん?俺か?さっき言ったじゃないか」
「ごめんね。興味がなかったから。」
笑顔で返す。
「うっ、棘のある言葉だぜ!まさか代百具に興味が無いとはな!よく聞け!俺様はこのトロイアス大陸にある大陸兵器、軌剣ペンドラゴラム様だ!!一つ一つにその言葉の力を宿し、標的を穿つため‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥。」
敦紫は黙ったまま、
「なんだよ!!その不満そうな顔は!」
僕には親友がいる。彼は昔、学校のクラスの中で、いじめに遭う子に構っていた。間違いなく、1人に対し大勢が指を刺すような行動は間違っている。いじめを肯定するわけではないが、被害者側も一度考えてみるべきだと思うんだ。本当に今の生き方で良いのかと。いじめられていた彼は嘘をつく癖があった。助けてくれた翔に対しても見栄を
—————————————————————
「なぁ。お前名前は?」
「私かい?私はね、絶対絶命の状況でも、起点をきかす事ができる頭脳に、張り手一発でアイツらを吹き飛ばす事が出来る力を持っている。それに加え、私には皆を唖然とさせる特殊能力を持っているのだか‥‥」
「ん?おいおいおい喋りすぎ!お前‥‥」
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「長々と喋っていたから‥‥うるさいなぁと思って。‥‥‥君のすごさなんてどうでもいい‥君の肩書きなんてどうでもいい。」
———頭がいい?本当は力がある?知らん。俺は‥‥
「僕は‥‥」
君の名前が知りたい。
「!?‥‥照れる事言ってくれるぜ!俺様は!いや、俺はペンドラゴラム。‥‥よろしくな敦紫!」
その口調、立ち振る舞いに、少しだけ彼の面影が通り過ぎる
「あの人が言っていたややこしい武器は、君の事だったんだね。ふふ、よろしくねペン!」
「おいおい!俺はペンドラゴラムだ。なんで略すんだよ。」
彼たちはその薄暗く狭い部屋の一角で、人と人が握る道具が会話を広げている。そんな不思議な光景だが、少しの平和な時間をこの地が揺れるほどの振動で途絶えてしまった。
敦紫は思い出したように立ち上がると、自身が開けたであろうその風穴から外に出る。その後を追うようにペンドラゴラムも宙に浮く。
「さて、ここからどうしようかな。」
「だな。」
「‥?君は何故僕の共感を得るんだい?」
「何故って着いていくからに決まってんだろ?」
「?。外の世界を見てみたいじゃないの?。」
「だからだろって!」
まぁ、ついてくるのなら勝手にすれば良いけど。僕はなんとかしてあの子達の元に戻ってあげないといけない。だが今僕が戻ってできる事なんてあるのかな?あの場所に戻ってあの2人を担ぎ全速力で逃げる?それは、無理だ。僕が使える魔法も効かないし‥打撃もダメージはあったものの、修復するときた。オーランに渡された剣も粉々になっちゃうし‥‥魔獣さんとの競い合いも楽しそうだけど、今は違う。他人の命が掛かっている。‥‥何かあの2人の逃げれる‥
「時間を稼げるぐらいの武器があれば‥‥‥」
「なんだなんだ?困ってんのか?じゃあ俺様を頼れ!」
「え?あぁ一様、君は剣だったね。」
「一様ってなんだよ!一様って!」
宙に浮くペンドラゴラムはそう言い放つも、握れと言わんばかりにその刃先を、前に向け柄を敦紫の手に向ける。
「‥‥、、ほんと大丈夫?病み上がりでしょう。」
「大丈夫だって。んぁ?なんだそれ。」
敦紫は、ポケットからある物を取り出し眺め、躊躇なく飲み込んだ。
「これかい?これはね‥‥僕の目的に近づく為の、ほんの一歩さ。」
—————————————————————
「ブォォォォォォォォォォン!!!」
目は血走り、牙をむき出しに、そして雄叫びをあげる魔獣達が、小さき1人の青年と眠る女性を囲んでいる。
「はぁはぁはぁ。」
(くそ!敦紫様は生きてるのか!これだけの魔獣の相手などできない。土の魔法で守りを囲めギリギリ命がある状態だ。この魔法が破壊されれば終わり、時間の問題だ。だからと言ってこの場所に出て戦う事なんて選択して仕舞えば、敦紫様の様になるのが目に見えている。‥だが!)
敦紫が魔獣に飛ばされた後、マルクワは一度戦うことを決心した。それは決して生きることを諦め冷静さを失ったわけでも、自暴自棄になったわけでもない。
あの時、急な風が吹いた後、敦紫は攻撃を止め手を下ろした。魔獣は、攻撃してくるのに。全ての動きを静止させた。目の前で敦紫とゆう人間は、諦めたのだと、その行動を見て思ってしまった。だが、マルクワは見ていた。敦紫の顔をここにくるまで見ていた澄ました顔ではなく。それはまっすぐに真剣な顔。
背中を押された気分になってしまった。抱き抱えるリリーを見つめ、その手には血管が浮き上がる。だがしかし、一対多数の状況。勝機があるわけでもなく。自身が作った魔法の中に入り身を潜めるのが精一杯であった。
周りを囲む魔獣達の攻撃が激しくなるに連れ、マルクワ達を守る壁に亀裂が走る。修復を繰り返すと同時に、彼の体力も底を尽き始める。
「‥‥。君にもらった名前を、僕は形にしたかったのに‥‥」
彼の腕の中には、か弱き女性。漢ならば帯を締めて立ち上がらなければならない。敦紫の真剣な表情を見て、一度は戦う事を決心したのなら尚更である。
それなのに。自身たちを包んでいた土の魔法がガラスの破片となりて空へと消えてゆく中、マルクワは、リリーを抱き抱えたまま、座り込んでいた。
立てなかった。立てるはずなかった。怖かった。あの手で殴られればどれだけ痛いのか。自身の「リゲイト」を使った先に見える未来が怖かった。
己の未熟さを知り、落胆する。この状況、足に少しでも力を入れれば自分だけでも逃げれる。しかし、眠るリリーを抱き下を向き、全てを諦めたのだ。
だがその時、声が聞こえた。
——おーい!マルクワくーん!戻ってきたよ!
「え?。」
マルクワの魔法が魔獣の一撃で粉々になった瞬間。木々を掻き分け、手を降りながら猛スピードで走ってくる敦紫。その手には錆びた剣を握りしめている。
「ブォォーーーン!!」
森を走り抜ける最中、茂みの奥からは、本人を先ほど吹き飛ばした魔獣が1匹顔を出す。マルクワが座り込む場所に走る敦紫の道に通せんぼする様に、立ち塞がり、腕を上げ、走る敦紫と今一度衝突する。
「あぶなーーい!!」
マルクワは、己が置かれている状況を忘れているのか、声を出して敦紫に伝えるが、
「君一体に、使える時間なんてないんだ。退いてくれ。」
その言葉と同時。このヒヨドリの森には爆発音が森全体に広がる。
そして、「え?」と吐くマルクワを囲む魔獣達の足元に、地面を抉りながら何かがやってくる。
「うひょーー。馬鹿力だなこれは。」
「んー?そうかな?結局、解決はしていないよ。」
力を込め過ぎると、突きになって一部を貫いてしまう。だから、僕は力を込めながらも広く強く殴ったんだ。でも、それじゃあ、大きい図体は吹き飛ぶだけ。考える事が多過ぎると、中途半端になってしまう。鋭い、突きの様な拳でも
「‥‥四肢が木っ端微塵になる様な、パンチが打てれば‥‥。」
「怖い言葉が聞こえましたが、聞かなかったことにして‥‥さぁ!敦紫!!俺を存分に使え!!」
見るからにボロボロの剣。本当に大丈夫なのかと思ってしまう。この剣が折れた時は、折れた時だ。でも、どうやって、戦う?1人ずつ相手にするのか、2人の命が掛かっている状況。呑気な事などしてられない。無数にいる魔獣を一掃できる様な‥‥、
「あ。‥‥ねぇ。おもいっきり振るけど大丈夫?。折れたりしない?。柄だけ残らない?」
「何する気だよ‥‥」
この状況を打開する方法が一つある。それは、この世界に来て、間もない頃、一度『それ』を味わいかけた。一度見てからずっと考えていた。頭の中で試行錯誤し続けてきた。‥やっぱりあの2人には感謝だね。
周りの木々を物体として認識出来ぬ速さで、敦紫は颯爽とマルクワの元へと向かう。この道中、ひたすらにうるさかったペンドラゴラムは、少しの間黙ってしまう。
「やっぱり怖いかい?なら‥別の方法を—-」
「何言ってんだよ!!、『あれ』するんだろ?今の俺と、お前なら叶うぜ?」
「何をするのか分かったのかい?。」
「敦紫が、辿ってきた道を俺は振り返る事が出来る。‥にしても、舐めすぎだぜ。舐め過ぎてるよ俺を。さっきも言ったが俺は!!トロイアス大陸、代百—-、」
この瞬間。ペンドラゴラムの声は掻き消えた。ペンの言葉の途中、聞く耳を持たず、敦紫は全力でペンドラゴラムを横に振るった。何もないこの空間を、剣先でなぞる様に振るった。その瞬間。
空間が捩れ、振るった刃先の残像は形を成し、標的目掛け、音速を超えた速度で飛んでゆく。
敦紫は、フーガ”の様に斬撃を飛ばした。
魔獣達は、足元に何がやって来たのかと、下に顔を向け確認すると、そこには同胞が白目を剥き気絶している姿だった。そして、同胞を飛ばした標的をその眼子に写そうと今、走ってくる敦紫に目を向けるも、時、すでに遅し。
「え?。」
頭上では、大きな斬撃が通り過ぎる。マルクワの声と共に、この一帯にある、全ての物が飛んだ。彼の周りを囲む魔獣達の首は一斉に両断され、上がり、周りに生えてある木すら諸共切断する。その斬撃は一度、地にその足をつけ抉りながら、また、少しづつ角度を変え空へと登り、彼方へと姿を消していく。
空彼方に行く斬撃は、空を泳ぐ雲に呑まれ見えなくなってしまった。