幕間
「退院おめでとう」
若い女性の柔らかい声が白髪の少年に向けられる。
今日は少年が退院する日、数年彼の担当だった看護師の女性は病院を去っていく少年のお見送りに来ていたのだ。
少年は、はにかみながら女性の方を向き頭を下げる。
「ありがとうございますっ!いやぁ、シャバの空気は美味しいねぇ〜何かと病室は窮屈だったからさぁ〜」
おどけたように言う少年に若い女性は少しだけ不安そうに少年を見た。
「でも……私は貴方が心配。今日からあのお屋敷に住むのでしょう?」
女性の言葉に少年の視線は病院の出入口の方へと映る。
そこにはカバンや荷物を次々と運んでいく黒服の姿があった。
「そうだね〜、荷物は黒服ちゃん達が持っていっちゃったから施設に戻る必要もないみたいだしぃ」
「退院後すぐに新しい環境なんて、気が休まらないでしょう?」
「まぁ、仕方ないねぇ。ゆっくり慣れていくしかないさぁ」
荷物が全て運び終えたのか、1人の黒服の男性が少年の前に立っていた。
それは、少年に「時間だ」と言わんばかりに。
少年は黒服を見つめると、どこか儚げに微笑んだ。
「あー、僕もう行かなきゃいけないみたい」
少年は黒服に歩み寄ると、出口へと連れられていく。
自動ドアの前には黒光りした車が待ち構えていた。
「元気でね、体調には気をつけるのよ」
「うん、気楽に頑張るよ〜」
女性は車に乗り込んでいく少年に声をかける。
その間もなく、車のエンジン音が響き渡る。
やがて車は病院を離れていき、道路へと向かっていった。
移ろいゆく景色は少年にとっては見慣れないものばかりで、彼の好奇心をくすぐらせた。
車内の椅子に座る少年は、運転席にいる黒服の男性に声をかける。
「ねぇ、黒服ちゃん。新しい家って何処にあるんだっけ?」
少年の言葉に黒服は淡々と答えた。
「魔使市内の住宅街ですね」
「ふーん、財閥の社長も、案外普通の所に住んでるんだね、よかったぁ。一般ピーポーだった僕もなんとか馴染めそ〜」
少年は心の底から安堵をしながら椅子に寄りかかった。
黒い車はのどかな道路を駆け抜けていく。
道路の青い標識には「魔使市」という文字が記されていたのだった。
――第3章 雪月花編に続く。




