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アーティフィシャル・マジカルガール  作者: 桜井つみれ
二章 グリッチの支配者編
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第24話 私のヒーロー

 フェアリーズをやっとの想いで倒して次は脱出?ただでさえ魔力が枯渇して動くのが精一杯というのに……。

 それに……こころちゃんはなぜか動く気配がまったくない。

「まぁ、せいぜい頑張るといいさ。僕は一足早く退散させていただくよ」

 あさひはそう言うと箒を出現させ、早々に飛び帰って行った。

 空間が奥から徐々に崩れていくのがわかる。猶予は残っていないんだ。

 でも、こころちゃんを置いてはいけない。かといって留まっていれば私達も巻き込まれる。

 私の思考は既に八方塞がりだった。

 このまま時だけがすぎていくかと思っていた矢先、それを打開したのはひびき先輩だった。

「なにぼぉっと突っ立ってるのよ、逃げるわよ!」

 半ば強引に私とこころちゃんの腕を引くひびき先輩。

 なお、片手は麻痺に近い状況のため腕を脇に挟む形ではあるが、私達を離さないようがっちりと力を入れられている。

「出口までそう遠くないんだから、急いで行けば間に合うわよ!」

 私達を引っ張りながら脱出を試みるひびき先輩。

 崩れていく地面への焦りと共に近づいていく出口に希望を抱く。

 でも、なんでだろう。このまま進んでいいのだろうか?

 しかし、目の前の出口を見て居ても立っても居られなくなった私はそれに同時に勢い良く飛び込んだ。

 着地の事なんか一切考えていなかった私の身体は地面へと落ちていくが、鈍い痛みを感じることはなく、

 感じたのは柔らかい感触と青い匂いだった。

「はぁ……なんとか出られたぁ……いなばちゃん、大丈夫?」

「は、はいぃ……なんとかぁ」

 疲労困憊の様子で地面に伏せるひびき先輩。私は喉から絞り出した声で答える。

 もう、動けない……疲労感でクタクタだ……。

 そうだ、こころちゃんは出て来られたのかな。

 こころちゃんはあの空間を長期間維持していたのに加えて、戦闘にも参加していたし魔力切れが心配。

 私は出入り口の方に目をやる。

 すると、そこにはあの空間に取り残されているこころちゃんの姿があった。


 ……え、なんで?

 

 こころちゃんの表情はどこか悲しげで、私達の方をじっと見ていた。

 うそだ、だってこころちゃんは、さっき私達とあの場所を出たはずじゃ……。

 私が思考をまわしている間に、ひびき先輩はこころちゃんの様子に気がついたのか

「アンタまだ出てきてなかったの?早く出なさいよ」

 と、吐き出口の方へと足を運んだ。

「まって、ひびきせんぱ……」

 なんだか違和感を感じた私は、咄嗟にひびき先輩を止めようと身を乗り出す。

 しかし、ひびき先輩は私の制止をものともせずこころちゃんの手を引いた。

 その時だった。


 ――バチバチバチッ


「……っ!?」

 大きな火花が散ったと思うような大きな音と共に、

 まるで磁石の反発の様にこころちゃんのみが出口からはじかれた。

「……こころちゃん?」

 私の呟きに対してこころちゃんは私から目を逸らす。

 彼女の表情からは微かに不安の色を感じた。

「っ、これもあの”あさひ”って奴の仕業なの?」

 顔を顰めたひびき先輩の口から冷ややかで圧を感じる声が発せられる。

「違う」

 ひびき先輩の言葉を否定するこころちゃんの声色はやけに落ち着いていた。

 それがまるで、必然であったかと言わんばかりに。

「最初から、こうするつもりだったんだ」

 諦めた様に口角を上げては、乾いた笑い声を漏らしていた。

 そこで私は気づいてしまった。

 私は彼女を救えていなかったことに。

 私は……彼女を知らな過ぎた。うかつだったんだ。

 本来私はこころちゃんに助けられただけの関係。言わば他人のようなもの。

 そんな私が彼女を助けたい、救いたいって気持ちは……。

 ただのエゴだ。

 そう思った瞬間、私はなにをしたらいいか、わからなくなってしまった。

 ただ立ちすくむだけで、何が正しいのかわからない。

 私は、彼女を助けられない。


『弱い者を助けるのはヒーローとして当然だからな!いつでも頼ってくれよな!』

『……ヒーロー?』

 こころちゃんの情報を探ろうと、思考を巡らせているうちに過去の記憶が蘇る。

『そうだ!ヒーローは悪さをする奴らから弱い者を助け、守る使命があるんだ!』

 そう、あの時のこころちゃんは他人であるはずの私を助けてくれたんだ。

 助ける義理なんてなかったはず、なのに彼女は絶望の淵に立たされていた私を救い出してくれた。


 なんだ、今と状況はほとんど変わらないじゃん。

 

 私はそう思った瞬間、気がついたら彼女の方へと進んでいて、手をとっていた。

 

 彼女が私を助けてくれた動機も、きっと彼女自身のエゴなんだと思う。

 そもそも万人を助けるヒーローなんて、みんなエゴの塊でしかない。

 それが、たまたま善に働いているだけ。


「アンタ……なにをして」


 彼女の腕を掴み、私は彼女目をまっすぐ見据える。

 彼女の背後では空間の崩壊が進んでいる。もう時間は残りわずかだ。

 だから……私は、私の思う最善を貫く!


「私は、絶対に貴方を救ってみせます」

 私の言葉にこころちゃんは目を見開く。

「なんで……アタシはアンタに助けなんか求めてない」

「いいえ、違います」

 こころちゃんの震えた声から出された言葉を否定する。

 だって、諦めた様に笑っていた貴方は、悲しげに目を逸らした貴方は……。

「貴方は、間違いなく私達に助けを求めてました」

 私の言葉に対し、こころちゃんは必死に首を横に振った。

「違う……アタシはここで消えるんだよ!何も救えなくてこんなに人を巻き込んで、そんな奴が生きて良いはずがない!」

 絶叫まじりに喚きながら、振りほどこうとするこころちゃんの腕を離さないようにギュッと掴む。

 ここで離してしまったら、きっと後悔するから。

「大体、アンタはアタシを助け出して目に見える利益があるのかよっ!」

「ないよ」

 それを言った瞬間、冷静さを欠いて暴れていた彼女の動きがピタリと止まり、

 理解ができないと言わんばかりの顔で私を見つめていた。

 でも、彼女はきっと人を助けることで得る大切なもののことを知らないはずがない。

 だって、それを私に教えてくれたのはこころちゃんだ。

「弱い者を助けるのはヒーローとして当然だから」

 その言葉を聞いた瞬間にこころちゃんはハッと息を呑む。

 それもそうだ、この言葉はかつて彼女が私に言ってくれた言葉だから。

 だから約束する、もう貴方にこんな想いをさせないと。

 それが、私にできる最大の恩返しだから。

 私は力強く彼女の腕を引く。

 火花が散る様な音がひびき、物凄い引力が私達を引き離そうとする。

 けど、私は手を離さなかった。

「アンタ……な、なにして」

 こころちゃんの困惑したような声が向けられる。

「約束します。私は必ず貴方を見捨てません、1人にしません。貴方をもう孤独に晒すことなど絶対にしないと誓います。だから私は……っ!」

 

「貴方に生きていてほしいのですっ!」


 彼女の身体は少しづつだが、確実に出口から出てきているのがわかる。

 もう少しなのに、私だけじゃ力が足りない……っ!


 そんな時だった。

 

「まったく、こういうときもあーしを頼りなさいよねぇ」

 視線を移すと、そこにはひびき先輩がいて、こころちゃんの腕を引いていた。

 ひびき先輩は今、片腕が不自由なはずなのにも関わらずに、私を助けてくれている。

 本当に、私はみんなに助けられてばっかだ。


 二人でこころちゃんを引っ張っていると、

 出口の反発力が急激に弱まったのを感じた。

「今よ!」

 ひびき先輩の掛け声を合図に、

 私達は思い切りこころちゃんの腕を引っ張る。


 すると、先程まで感じていた重さが一気に軽くなり、勢いのあまり私とひびき先輩は尻もちをついてしまった。

「きゃっ!」

「わぁっ!?」

  小さな悲鳴と共に聞こえた音は、鈍いものではなく、「ポスッ」っと言った軽い音だった。

 そうだった、この地面は芝生だったけ?

 それより、こころちゃんは――。

 そう思い、視線を移すとそこにはうつ伏せで地面に伏したジャージを着た少女の姿があった。

「こ、こころちゃん……だよね?大丈夫!?」

 私は一心不乱にこころちゃんの方へ駆け寄る。

 無理にあの空間から出したんだ、変な後遺症が残っているかもしれない。

 そんな不安のよぎる私の肩にポンッと軽い感触が伝わる。

「大丈夫よ、いなば。多分大丈夫だから」

 落ち着いた声でひびき先輩はそう言う。

 しばらく様子を見ていると、呻き声が微かに聞こえた。

「誰か……仰向けにしてくれ……さっきから砂利が口に入って不快だ……」

 掠れた様な声でそう言う彼女の声に心の底から安堵しながらも彼女の身体を仰向けに倒してあげた。

「はぁ、出すとは言えどもっと方法あっただろ……ガツガツ腕引っ張りやがって……」

「はぁ!?アンタねぇ、出してやったんだから感謝しなさいよ!」

「ひ、ひびき先輩……落ち着いてぇ」

 こころちゃんの憎まれ口に立腹の様子のひびき先輩を宥めながらどうにか場を静まらせる。

 凄く大変だった。

 けど、こうやってみんな無事に出てこられてよかったな……。

「こころちゃん動ける?」

 私が声をかけると、疲労困憊と言った雰囲気のこころちゃんはその言葉にため息をつきながら

「見て分かんねぇのかよ……」

 と、悪態をついた。

 そうだ、戦闘や空間維持であんなに魔力を消費していて満足に動ける人なんてそうそう居ないだろう。

 私だって、気を抜けば余裕で眠りにつくぐらいクタクタだ。

「しょうがないわねぇ、それならこのひびき先輩がアンタを家まで運んでやってもいいわよ!空間が消えたおかげで腕も治ったしね!」

 得意げに胸を叩く手には、もうノイズは走っていなくて万全といった状態であった。


 こころちゃんをひびき先輩が背負い、私達は帰路につく。橙色が私達を照らし、地面には、紺色の影が3つ並んでいる。

 

「2人とも」

 

 突然のこころちゃんの声に私とひびき先輩の注意がこころちゃんに集中する。

「どうしたの?こころちゃん」

 私がこころちゃんの方を向くと、彼女はそっぽを向いて目を逸らしてしまった。

 やっぱり……腕を強引に引っ張ったの……怒ってるかな?

 一筋の不安が過ぎる私に対しての彼女の返答は私の予想とは全く違うものだった。

「その、なんだ」


「……ありがとよ」

 こころちゃんの言葉に私の心は瞬く間に光に満ち溢れた。

 背負っているひびき先輩の顔にも笑みがこぼれているのがわかる。

 私も口角が緩んでしまっていたのかもしれない。

挿絵(By みてみん)

 ひびき先輩の茶化すような言葉に、こころちゃんが反応し煽り返し、私が場を収める。

 それは、私達の新たな日常の合図にも感じた。


 ――第2章「グリッチの支配者編」完

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