第23話 逆転の一手
冷や汗を伝わせるこころちゃん。
このままでは出血多量で私が倒れてしまう。いくら魔法少女とは言えど、人間本来の身体の機能には逆らえない。
何か……必勝法はないのだろうか。
「こうなったら本体を叩くか……?」
こころちゃんは小さく呟く……が、それは現実的でないと判断したのか眉間にシワを寄せ、俯いてしまった。
その時だった、どこからか声が聞こえたのは――。
『内部だっ!内部を攻撃するのだ!』
幼げな少女の声は私の持つクロスボウから響いていた。
それはグリッチ世界に入る前、ステッキから聞こえた声と同じものだった。
この声がどこから発されているのか、声の主は誰なのか、なぜ弱点を知っているのかは分からない。
でも、私は……この一手に賭けるしかなかった。
残り魔力はわずか、私の魔法とバリアがあと1回ずつ使えるかだ。
呼吸を整えろ、集中して、最低限の魔力で魔法を発動させる――!
フェアリーズは私を一目見ると、棘では腕を引き始め私の身体をまた振り回した。
それでも私は、こころちゃんに声をあげた。
「こころちゃんっ!さっきみたいに叩きつけてフェアリーズの動きを鈍らせて!」
宙を舞う身体に逆らうよう、押さえつける重力に舌を噛まないよう気を付けながら声を張り上げる。
こころちゃんは困惑の表情を浮かべながら私を見つめる。
無理もない、今の私はフェアリーズに腕を拘束され、繋がっているのだ。
フェアリーズ本体を叩けば私も巻き添えになる。
少し考えれば誰でも分かることだ。
それでも私達にはもうこれしかない。私はさらに大きく声を張り上げた。
「はやく!」
すると、こころちゃんはハンマーを握りしめ飛び上がる。
地を蹴り上げ、力強く大きなハンマーを振り上げた。
「たく、どうなっても知らねぇからな――っ、」
風を切りながらも振り下ろされたその鈍器はフェアリーズの身体へと命中した。
予想の通り、私はフェアリーズと共に宙を回りながら地面へと落ちていく。
近づいていく地面を横目に、私は魔力を絞り出し球体状のバリアを自身の周りに繰り出した。
バリアは地面に叩きつけられると、いくらかの衝撃を吸収した後、耳をつんざくような鋭い音をたて崩れてしまった。
クリスタルのように輝きを放ったその破片はサイダーの泡のようにしゅわしゅわと消えていく。
バリアが壊れたと同時に尻餅を着いた私は、フェアリーズの方へと視線を向けた。
『I have to hurry……I have to hurry……』
電子のうめき声をあげるフェアリーズは地面に伏し、起き上がろうとジタバタ四肢を動かした。
よく見ると片方の腕が欠損していて、中から部品が零れ落ちている。
今がチャンスだ!
私はフェアリーズの口の中にクロスボウを構えようとするが――。
「っ……!」
片方の腕が棘に引かれる。
最後の悪足搔きだろうか、フェアリーズは口の中の棘を引き私の身体を引き寄せる。
このままじゃ……照準が上手く合わせられない……。
腕を引かれる際の痛みと震えで照準がぶれてしまう。
ここで外してしまったらせっかくのチャンスが――!
ボォッ――。
「へっ……?」
腕に燃え盛る様な灼熱を感じる。
私の腕を縛っていた棘は青い炎に焼け焦がれていたのだ。
私はこの青い炎に既視感があった。だって、私の中で青い炎と言ったら……。
「ゴリ押しすれば動くもんは動くのね……照準も外してないみたいだし……あーしって天才?」
振り向くとそこにはひびき先輩が変身した状態で、左手には火炎放射器が握られていた。
脱力した右手には相変わらずノイズが走っている。
「ひ、ひびき先輩……休んでいてって言ったはずじゃ……」
ひびき先輩は苦い笑みを浮かべ、申し訳なさそうに頬を掻いた。
「あはは……後輩が頑張ってるって思ったらつい体が動いちゃった。それに、あのツルをどうにかするにはあーしの武器がピッタリだと思ったからさぁ」
鮮やかな青色の炎はツルが拘束の役目を果たさなくなった瞬間、小さく縮こまり消えていった。
あの外部からの攻撃に防御力の高かったツルが炎一つで簡単に……。
よくわからないがこれに関してはひびき先輩に感謝だ。おかげで照準が定めやすくなった。
「ありがとうございます。ひびき先輩……」
私が感謝の言葉を口にすると、ひびき先輩は強ばっていた顔を少し緩めた。
しかし、それはそれとして文句は言わせてもらおう。
「ですが、ちゃんと言う事聞いてくれなかったことは怒ってます。でもおかげで助かりましたありがとうございます。許しません」
「えっ!?あーし感謝されてんの?怒られてんの?どっちなの?」
私の恨み言を聞いてか、ひびき先輩は目を丸くしながら騒いでいるのが聞こえた……。気がする。
とにかく、ひびき先輩がくれたチャンス。無駄にはできない!
まだ血が止まらない腕をあげ、クロスボウを構える。
照準がフェアリーのぽっかりと空いた口に定まる。
私は目を凝らすと、その引き金に指をかけた。
クロスボウの桃色の矢が強く光を発し、炎のような揺らめきを見せていた。
私は技のイメージを頭に浮かばせながら放った。
「"エクスプロージョン・オブ・アロー"!」
フェアリーズへと放たれるその一閃はフェアリーズの口内にある歯車を射抜くと同時に大規模な爆発を起こした。
フェアリーズの身体は内部からの衝撃に耐えきれず部品を撒き散らしながら崩れていく。
フェアリーズの身体はやがて星くずの様に輝き、光を放っては瞬く間に消えていった。
普段はひびき先輩が火炎放射器で燃やしちゃうから気づかなかったけど、フェアリーズが消える時ってこんな感じなんだな。
「…………」
こころちゃんは微笑みながらも私を見据えている。
その笑みはどこか儚げで今にも消えてしまいそうな雰囲気を纏っていた。
「こころちゃ……」
「いなばぁぁぁ!!!!」
彼女の名前を呼ぼうとした瞬間、その声はひびき先輩に遮られてしまった。
「ぐ、」
唸り声を漏らし、身体が横からの衝撃によってバランスを崩しかけてしまう。
よく通る中音域の声が響いていた。
「ホント、ヒヤヒヤしたんだから!後輩が頑張っているなか、介入できなかったもどかしさが――」
はいはいと聞きながしながら、引っ付いて離れないひびき先輩を引き剥聞こえる。
「お前ら、仲良いのな」
私を見下ろすこころちゃんはそう言葉を吐き捨てた。
クスクスと幼く小さな笑い声が遠くから聞こえる。
可愛らしさの中に狂気を孕むその声の主はあさひだった。
「流石は僕の英雄様。君たちにかかればあの程度のカラクリなんてどうってことないね。素晴らしい、素晴らしいよ!」
軽快なリズムの拍手をしながら愉快な明るい声色で言うあさひ。
そしてその視線は私の方をまっすぐ見据えていた。
「特に、宇佐美いなば。君は予想以上の才能を秘めた魔法使いだ。魔法少女と言う枠組みに置いてしまったことを惜しむほどに」
「へ?」
あさひの不可解な言葉に私は息を吞んだ。
彼女の発言の意味を理解することに脳が処理に追いついていなかったからだ。
彼女は一体、私になにを……。
ゴゴゴッ――。
地面が大きな轟音を鳴らしながら揺れはじめる。
「ちょ、なんなのよ!次から次へと……またフェアリーズ!?」
ひびき先輩は呆れまじりに言うなか、こころちゃんは妙に落ち着いた様子だった。
その表情には安堵すら窺える。
その口からは答えが発されることはなかった。
それに代わる様にあさひは愉快気に笑いながら言葉を発したのだ。
「いやぁ?これは僕の仕業じゃないさ。単純に空間が崩れているんだろうね」
ケラケラ笑う彼女を横目に私達の空気は混乱の一色で染められていた。




