第22話 演劇の始まり
さぁ、今宵も楽しい演劇の時間。
可愛らしい魔法少女達の英雄譚でございます。
多少の粗相はご愛嬌、寧ろその未熟さ程愛らしい。
儚くも美しい物語の始まり始まり。
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魔女の笑い声が響くと、それが合図かのようにフェアリーズは機械音をあげて動き出す。
それが始めのターゲットにしたのは――英雄だった。
「頭上気をつけろよ」
そう言い英雄が手を前に突き出すと、空間の天と地がぐらりと反転した。
すると私達の足は重力に従い地を離れ、逆転した地面へと落下していく。
「え、ちょ、きゃああああ!?」
ひびき先輩の絶叫が響く。
迫り来る地面に恐怖しながらもなんとか私達は受け身をとることができた。
一方、フェアリーズは受け身をとれなかったのか逆転した地面に鈍い音をたてながら叩きつけられる。
「ちょっと、いきなり魔法使わないでよ!危うくぺしゃんこだったのよ!?」
「別に落ちたぐらいで死なねぇだろ魔法少女は」
「あのねぇ!?」
ひびき先輩と英雄が言い合いをしている中、フェアリーズは金属を軋めかせながら手首を一回転させていた。
「二人とも気を付けてください、まだ動いてます!」
私はクロスボウのリロードをすると、その照準をフェアリーズへと合わせた。
また襲って来た時、いつでも撃てるように。
しかし、フェアリーズはなかなか立ち上がって来ない。もしかして、あの衝撃でどこか負傷したのかもしれない。
ならばとどめを刺すべきだろう、と攻撃の準備をしていたその時――。
『We need to hurry to the tea party or the party will start soon.』
フェアリーズから機械的な音声が聞こえる。
何語を喋っているのかは特定できないが、少なくとも日本語ではないのは確かだ。
次の瞬間、フェアリーズは人体の構造を無視して首の関節を180度捻じ曲げる。
「ひっ……」
背筋がゾゾゾッ……と、下からの上へと冷たさが伝っていった。
頭は背中の方を向いていて、ブリッジのような四つん這いの姿勢をとるフェアリーズは恐怖の的でしかない。
カサカサと動き出すその様は多足類の昆虫を彷彿とさせていた。
「キモ……」
ショッキングを通り越してグロテスクな絵面に顔を歪ませるひびき先輩。
水晶を埋め込まれたいやに潤む瞳はこちらを見て離さない。
関節が球体で作られた四肢は四方へとそれぞれ振り上げられながら、こちらへと接近してきた。
「うわぁ!?来てる、キモい走り方しながらこっちに迫って来てるぅ!」
ひびき先輩はギャーギャー喚きながらも手に持っていたステッキを掲げ変身しようと構える。
しかし、痙攣が止まらずノイズを絶えず走らせている手のひびき先輩では戦うことは困難だろう。
ステッキを持つ手ですら握るのが精一杯なのかぎこちなく、今すぐにでも落としてしまいそうだ。
この状態のひびき先輩を戦わせることはできない、そう考えた私はひびき先輩より前へと出ていく。
「ひびき先輩、今回は私と……えっと、」
英雄を目の前になんと呼べばいいかと思考を巡らせる。
名前で呼ぶのはなんだか馴れ馴れしいだろう、しかし「英雄さん」と呼ぶのも本人的によろしいものだろうか?
「う~ん」と頭を悩ませていると英雄は私の方を向いた。
「こころ、そう呼べ。変に飾られても煩わしいだろ」
彼女はそう言い、薄ら笑みを浮かべる。
「わかった……。ひびき先輩!とりあえず、ここは私とこころちゃんに任せてください!」
私はひびき先輩にそう放つが、ひびき先輩は納得のいってない様子だ。
「任せなさいって……こころはともかく……いなば、アンタは残り魔力少ないんじゃないの?息上がってるじゃない」
ひびき先輩は不安げに眉を下げる。
そう、ひびき先輩の言う通りだ。私は英雄――こころちゃんとの戦いで魔力を大幅に消費している。
今も、立っているのが精一杯だ。身体が重く、倦怠感が押し寄せてきている。
でも……今のひびき先輩を戦わせて、ひびき先輩が危険な目に遭ったら……。
初めてフェアリーズと戦った時の記憶が蘇る。ひびき先輩はあの時、ボロボロになりながら私を守ってくれたんだ。
だから今度は――私がひびき先輩を助ける番。
「これぐらいなんでもありません!ひびき先輩は休んでいてください!」
ひびき先輩の前で、できる限りの笑顔を振りまいた。
ひびき先輩をこれ以上心配させたくなかったから。
「いいね、いいねぇ、感動的!友情ってやつは物語的にもアツい展開だよね」
愉快そうに笑いながら拍手を贈るあさひに合わせるように四肢を振り回しながら舞い踊るフェアリーズ。
こころちゃんはそれを見て眉間にしわを寄せると、ハンマーを一振りした。
すると、ハンマーはみるみると巨大化し彼女よりも何倍もの大きさとなった。
巨大なハンマーは、踊りに気を取られたフェアリーズに横から殴りあげる。
鈍い音をたてながら地面に叩きつけられるフェアリーズの顔は少しだけへこんでいて、中から歯車らしきものや部品がフェアリーズの動作にあわせて動いているのが覗いていた。
「流暢に会話してる場合か?」
こころちゃんは私達の方を向くと、不機嫌そうな声色でそう言い放つ。
「あ、そうだね……。じゃあ、ひびき先輩――行ってきます!」
私はそう言葉を残し、こころちゃんの方へと向かった。
「こころちゃん、フェアリーズの様子は?」
「まだ息があるな、小刻みに動いてやがる」
フェアリーズの方へ視線を移すと、まだフェアリーズはわずかながらもその動きを見せていた。
「とどめを刺しておいた方がいいかな……」
私はそう呟きながらクロスボウのリロードを行う。
が、こころちゃんは突然、声を荒げてこう叫んだ。
「避けろっっっっっっっ!!!!!!!!」
「ぇ?」
次の刹那、私の腕は鋭い痛みを受け取った。
「いっ――」
腕を見てみると、そこには棘のツルが腕にきつく巻き付かれていた。
手を伝っていく赤い雫は私の理性を欠くのには十分なものだった。
「赤い液体ってとても魅力的だよね、物語にも多少の赤色要素は彩りになる。残酷な程美しいんだ、僕の思い描く英雄譚は」
あさひの言葉は上手く耳に入らなかったが、ツルのもとを辿ればそれはフェアリーズのものだということがわかる。
歯車や部品だらけのフェアリーズの口内から繋がる棘は純白の薔薇の花が咲いており、私の方へと近くなるごとに赤くなっている。
悪趣味な赤い薔薇を目の前に、私は魔法の矢を出現させ棘をどうにかそれを叩き切ろうと試みる。
しかし、棘は擦り切れる素振りも見せず私の腕を絞めつけ、私の体ごとツルを振り上げた。
「っ――!!」
めり込む棘の激痛で声にならない声をあげ、溢れ出す血液に理性を崩されていく。
やがて身体は地面に叩きつけられ、鈍い音を響かせた。
「かはっ、」
なんとか直前にバリアをはったことでクッションとなり地面からの衝撃が緩和され悲惨な散り方を免れることができた。
けれど、バリアを挟んだ上でもなお全身が痺れる程の痛みが残る。
身体が上手く動かない。焦りばかりが募っている。
錯乱状態になってしまっては魔法すらまともに発動できない、方法を考えなくては……。
「おりゃぁ!」
こころちゃんは勢い良く私の方へと飛び掛かり、気合い声と共に力強い斧が棘に振り降ろされる。
しかし棘はビクともせずに私の腕を離さなかった。
「んだよこれ……アタシの斧でも斬れねぇって……」




