真のデュエル〜踏み倒し〜
ガチャデッキ。
それはそのカード一枚で、戦況を変えり変えられたりすることのできるロマンと夢のデッキ。
※これはトレーニングカードゲーム デュエル・マスターズ をファンタジー風に書いたニ次創作です。
透き通るほどの白いロングヘアーの頭と、しなやかな手を持つ左肩が、金色に輝く血液を撒き散らしながら宙を舞い、とちゃ、という嘔吐感がそそられる音をならしながら地面に落下する。
頭と左肩全般を失ったヴェルベットだったものは無気力に崩れ、辺りには金色の血の水溜まりを完成させた。
トテントンはもはやこちらを見ていない。
「わお、ウェルヘッドくんをワンパンか。一体どんな手品かな?」
そう思い、確認のために卵の方へと顔を動かす。
「?」
その時、私の視野の上から一本、紫色の羽がふわふわと舞い落ちるのが見えた。
その羽は私の目の前の地面に落ち、瞬間に燃えて灰と化して消えた。
その不思議な羽の出所を確認するべく、私は顔を上げ真正面から卵を見る。
その結果、私はこれまでにない程に目を大きく開いて驚いた。
それもそうだ。なぜならつい先ほどまでそこにはいるはずのなかった、とても大きな存在が突然その場に現れていたのだから。
その存在は、紫の羽に身を包み、暗い金色の鱗がまるで貴族の服のように美しい、高貴な印象の『朱雀』だった。
朱雀は私と目が合うと、本能的に左右の羽を大きく開き咆哮。威嚇の姿勢に入り、鳥特有の甲高い鳴き声を大地に響かせる。
この高貴な禍々しさ。そして朱雀のような見た目の亜人。……否、亜獣と言った方が近しいそんな存在。
私は知識として知っていた。
その存在は、闇王の最初の亜獣。光の龍と対をなす闇の不死鳥。夢月の門を通って文明や次元を超えて、殺しても無限に現れる死の鳥。
名を———
「———『卍 デス・ザーク 卍』」
「……これも、知ってたのか…」
ふとデス・ザークの足元から声が聞こえた。
「おや起きたんだ」
その方向を見てみると、生まれたての子鹿のように震えながら立ちあがろうとしている拉致犯が見られた。
「見たか、これが闇王の力だ…」
「いやお前、そんなこと言ってる場合?その闇王の力にたった今殺されかけてたでしょ?」
「うるせぇ…よ、クソ女……言ったろ。俺は世界の平和のためならなんにでもなるってな……」
「はー馬鹿馬鹿しい。そんなに世界平和を求めることのどこがいいんだか」
「……黙れ。お前…みたいな野蛮人に……平和の良さはわからねぇよ」
「野蛮人とはひどいねー。ま、外れてはいないけど?」
私はペロ、と舌を出してわかりやすく恥ずかしがる。
「そもそも『平和』なんて理想論、一人で叶えられるわけないじゃん。理想論っていうのは周りの共感を集めてからやっとスタートラインに立てるものなんだよ」
「……わかっ…てる。そんなことは最初からわかっててる……。でもその周りが戦争やってんだ。…なら…俺が一人でやるしかないだろ!!」
拉致犯は口々に叫ぶ。
「俺の、俺の家族を失った悲しみは…目の前で仲間が消えていった過去は…俺のこの怒りは……!」
拉致犯は自分の思いを、言葉を、憤怒を、ありとあらゆる内側のものを、声に出して叫ぶ。
「どこにぶつければいいんだよ!!」
泣きながら、みっともなく喚きながら、憤怒に狂う退役軍人は無意味に地面を殴る。
「……だから、だからぁ!!」
狂えば狂うほど、嘆けば嘆けくほど、暗い感情が込み上がる。
言葉を共に、溢れる唾を飲み込むことすら忘れて、狂い他人は闇の不死鳥に命令を下すことのみに全身全霊の力を使う。
「やれデス・ザーク!この世界を零にしろぉ!!」
待っていた。と言わんばかりにデス・ザークは羽を広げ、咆哮する。
デス・ザークの体に刻まれている星座のような形の模様が黒く輝き、紫色の炎を纏い始めた。
その炎の熱に当てられた草木は、命を吸われたかのように瞬間にやせ細り、紫色に燃えて灰となっていく。
世界の終わり。そんなタイトルが相応しい光景が目の前に広がっていく。
その目の前で、私は余裕そうに足元の紫色に燃える雑草を手にとり新しいタバコに火をつけたる。
これはこの手の映画でよく見る諦めから来る行動のようにも受け止められる。が、彼女に限ってそれはないだろう。
「……三流が」
「………あ?」
「最初、『闇王 ゼーロ』の力を使うって言った時はどーしようかと思ったけど…なぁんだ。この程度か」
「……は?」
吹かし、ふわふわと浮かんでいく煙を見ながら私は呆れたように前髪をいじる。
「……強がりなら…もう少しちゃんとしろ」
「えーちゃんとなんてできないよ」
あげた顔をゆっくり下げ、拉致犯と目が合う。
「……だって強がりじゃないもん」
軽蔑。軽視。人を完全に馬鹿にしている顔。
「——————ッ!」
拉致犯の叫びを聞いてなおもこの態度のこの女。
もはや、拉致犯だけではない。友、家族、同胞。これら全てを否定されたように感じ取った拉致犯は、今までとは違う全く別の怒りが湧いてくる。
それも、自分自身を馬鹿にされるものよりも何十倍も大きな憤怒が。
「……この、クソ女!!」
掴みかかろる勢いで拉致犯の右手は瞬間には前に出た。しかし未だ体全体に力が入らない。
ならばと、わかっていたかのようにデス・ザークが私に向けて急降下し始める。
いくらシールドの擬似心臓がまだあるとはいえ、あの巨体に突っ込まれてはただではすまない。
そうわかってるはずなのに、私は再び、動く気配すら見せずに両手を広げて受け入れる姿勢に入る。
「ねぇトテントンちゃん、見てる?」
「………」
病んだ少女はもはや発する言葉を失っていた。
納得だ。たかだか十もいかない年頃の娘が見て良い光景ではなかった。それに加え、私はトテントンへの回答を間違えた。
こんな状況でこの少女が私の話など聞いてくれるわけがない。
「ごめんね、私人と話すの苦手でさ。もっといい言葉がけがあったんだろうけど…」
それでも、私の少女への声かけは続く。
「……ところでトテントンちゃん。運命が動いた瞬間って見たことある?」
「………………………え?」
トテントンの耳が傾いた。
本来傾むけるべきものではない。傾けてはいけない。少女はそうわかっていた。それは嫌なことから逃げるべきという人としての防衛本能からくる拒否反応。子どもなら尚更それが強く出るものだ。
だがそれでも彼女の耳は傾けざるおえなかった。それは私の聞いてほしいという思いが彼女に届いたのか、それとも単に「運命」という、この歳の子があまり聞かない言葉への興味が本能を上回っただけか。
いずれにせよ、目に見えない何かに聞けと言われて耳を傾けたトテントン。
「それはきっと目に見えないもので、もし仮に見えたとしてもそれは実感が湧かない、そんなゆっくりと変わっていくものだと私は思ってるんだよ」
運命自論。
死が迫ってきているというのに私は、そんなものを理解できないであろう少女に淡々と語る。
「……なに言ってるかわかんないよね。だから———」
これまでよりも一層深く、何よりも不気味で、非常にわかりやすく、この上なく純粋に、笑って言う。
「今からその運命を瞬間的に、そして肉眼で確認できるくらいに具体的に変えてあげる!」だから見ててトテントンちゃん!私が『真のデュエル』で一番好きなところなの!」
私は、子どもよりも子どもらしく両手を広げてはしゃいだ。
「トテントンちゃんもこれを見ればきっと、デュエマを好きになれるよ!」
あんなものを、好きに?
ふざけるな。
そんなわけが無いと、既にデュエマに対して後ろ向きな思考の幼女はそれを完全に否定してやるためにそらしていた顔を上げる。
「そんなわけ——————」
そこまで否定して、その言葉文句は喉からかき消された。
そこには先に見た薄緑色の違和感。
それだけならまだ見慣れたものなのだが、その違和感は先程の二倍以上の広さまで辺りに広がっていた。
明らかな異常。
誰でも気づくそれは、誰もが気づいた時にはもう手遅れだった。
「呪文…」
「まさか、またふみ倒し呪文か!?だが問題はない。さっきのように闇王の力で破壊してやるだけだ……!」
それでも拉致犯は勝利の確信を信じた。
しかしそれはこの戦いにおいて、拉致犯の最大の間違いだった。
「……は?」
薄緑色の違和感は、瞬きをするたびに変色していき、最終的には完全に青色の神歌へと変貌を遂げる。
「な、なんだそれは…『ミステリー・キューブ』じゃないのか?」
混乱する拉致犯を置き去りにして私は、絶頂する勢いで破顔一笑し、その疑問を呪文の名称で回答する。
「……『ホーガン・ブラスター』!!」
「な、はぁ!?」
拉致犯はこの予想外の呪文の詠唱に驚愕し、
「……綺麗」
トテントンはその美しさに称賛する。
青い神歌の美声音が響き、それが『ミステリー・キューブ』の違和感同様に広がっていく。
このガチャプレイ特有の、心臓の鼓動が早まる緊張がありつつ、結果を期待して待つこの心弾む独特な感覚。
やっている事はミステリー・キューブとほぼ同類だと言うのに、それとは比べものにならないほどに期待と緊張が膨れ上あがるのはなぜだろう。
「さぁ、来い!こいこいこい!!」
この高揚感の中毒性は、ニコチンやカフェイン、アルコール。薬物すらも追いつかないほど濃厚で深い。
そんな依存性が頂点に達した時、緊張と期待の結果発表の時が来た。
拉致犯と私、そしてトテントンの目の前が青白くなる程に光りだし、運命が決定された。
娯楽です。ども。
前回でしたかね?私の好きなカードは「ホーガン・ブラスター」だと紹介しました。
いやーようやく出すことができましたよ、ホーガン。
みなさんガチャではどんなクリーチャーを出したいですかね?
私はギガン・ディダノスとかジ・ウォッチとかキーナリーとかで早期に盤面制御とか、マニフェストでもう一回遊べるドンとかしたいですかねー。