真のデュエル〜能力〜
闇王ゼーロ
呪文
コストを支払うかわりに、自分の手札から闇のカードを3枚捨て、自分の闇のクリーチャーを3体破壊してこの説文を唱えてもよい。
自分の山札の上から4枚を墓地に置く。その後、闇のクリーチャーを1体、自分の墓地から出す。
※デュエル・マスターズ BD22「闇王ゼーロ」参照
※これはトレーニングカードゲーム デュエル・マスターズ をファンタジー風に書いたニ次創作です。
——————この人は、頭がおかしいんだ。
幼女がこのことに気づいたのはあまりにも遅すぎるタイミングだった。
「これはねー、『S トリガーミステリー・キューブ』!」
私はまだ笑っていた。
こんなにも小さな子どもに嘔吐をさせておいて。なお、笑っていた。
ヴェルベットはバギン16号を潰した反対の手で頭を抱え、深くて重いため息をつく。
「はぁ…愛殿の興奮すると周りが見えなくなる悪癖、いい加減治っていると思ったのに…この子も可哀想に」
ヴェルベットのため息は更に深くなり、トテントンに同情の眼差しを送る。
「………ざけるな」
「?」
「んあ?」
三人の会話に割って入ってきたのは、この場で会話に唯一入っていなかった拉致犯。
その言葉は先の、「来た」の単語のようにとても小さな声で、誰の耳にも届かない程のものだった。
それに対して私は、顔の前で両手をパンッと音を鳴らして合わせ、「あごめーん」という軽い謝罪から入って応える。
「私、昔からデュエマで欲しかった子引けると興奮して周り見えなくなるの。……それで、なんて?」
拉致犯はその質問にの回答をすぐに返さず数秒、体を震わせてから歯軋りと共に口を開く。
「ふざけるなと、そう言ったんだクソ野郎!!」
空気が揺れるほどの怒号。
その声と言葉だけで拉致犯は完全に怒り頂点を超えていると、この場にいる誰もがそう感じ取れた。
興奮で周りが見えていない私にすら伝わるほどの怒り。
「え……?なんで怒ってんの?」
しかし私は怒りの奥にある人の心情を読み取れるほど、情緒は戻っていなかった。
「愛殿、それは流石に…」
「なに?流石にって?」
倫理を疑うほどの友人の回答にヴェルベットは更にため息を深めて呆れる。
その会話を聞いていた拉致犯は一層の殺意と怒りをこめて私たちを睨む。
「……貴様は殺す」
拉致犯の殺意は目つき以外からも解き放たれ、臨戦態勢が再度、形づけられた。
「うほほ、盛り上がってまいりましたぁ!」
目に見える殺意。それに私は更なる興奮を隠せない。
口にに挟んだタバコを吹かし、私は高まる高揚感を脳と肺に実感させながら今後の展開に心を躍らせる。
「……召喚!」
そんな好転的な状況で、先に動いたのは拉致犯の方だった。
「バギン16号の能力発動。マフィ・ギャング、コスト軽減」
呪文のように拉致犯が呟く。
すると、バギン16号はそれに答えるかのように赤紫がかった覇気をあたりに振り撒く。
「ほーう」
私は指を顎に当てながら見守る。
「バギン16号が『一番隊』と呼ばれる理由。それは『一番最初に前線に立ち、召喚する同族のマナコストをさげる亜人隊』だから」
私の独り言の説明を終えると同時に、闇の一番隊の能力が発揮される。
それは説明ほど複雑なものではなく目に見えるほど分かりやすい能力であった。
「いでよ、亜人共!!」
次の瞬間に、バギン16号の覇気は拉致犯の周りに一気に広がり辺りを埋め尽くす。
そうしてその覇気の広がった地面からはどこかで見た両手がノコギリの亜人、シャベルを持った黒い亜人の二体が地面から召喚された。
まるでゾンビ映画の序章のような光景。
だが、
「………なに!?」
新たに召喚された二体の亜人は地面から一向に這い出てこない。
まるで見えない別の力で上から押さえつけられているように、悶え苦しみながら地面に頭を垂れている。
「なにが起こって……」
こうは言ったものの、拉致犯の中で既に原因の検討がついていた。
これがもし、人工的に起こされたとしたのなら容疑者は一人。
「………何をしたクソ女…」
目の前のタバコを吹かしながらニヤニヤ笑っている子供泣かしの外道女しか居ない。
「ん?なんのこと」
「とぼけやがって。どうゆう仕組みだこれは!」
「そうカリカリしないでよ。お肌に悪いよ?ストレスすごいよ?」
あ、君も吸う?と最後にタバコの箱を拉致犯に向けて振る。
「舐めるなクソ女」
「いやぁごめんね。実はそれウェルヘッドの能力なんだよ」
私は軽く笑いながら手品の仕組みを話す。
「ヴェルベットです」
「あーごめんごめん。んで、そのヴェルベットくんの能力、『相手の召喚されたばっかりの亜人をしばらくの間寝かしつける』っていう能力なんだよねぇ」
「寝かしつける…」
「そ、しかもこの子の強いところはねー、その能力が設置効果なところなのよ」
ヴェルベットの腰を後ろからパンパンと叩きながら、まるで自分の子供を近所に自慢する母のように話す。
「設置効果、つまり勝手に発動するってのか」
「そーそうゆうこと。たがら私たちを責めないでね?」
ふわふわとした言葉と右手で軽い謝罪を表す。
「は、上等だ。そうゆうことならこっちもやってやる」
私のやる気のない謝罪や相手を軽視する言動に対して、ここに来て拉致犯は怒ることも呆れることもなく、初めての余裕を見せた。
もはや慣れてしまった、というのもあるだろうが今回のこれはそれ以上のゆとりが見える。
「……ほーう?」
拉致犯の異常なゆとりにも、私の軽い視線や行動は相変わらず。
だがその中にわずかな揺らぎが垣間見えたような気がする。
「これで、お前の亜人諸共零にしてやる」
そう言いながら拉致犯は後ろの卵に全身を向けて続ける。
「さぁ!闇王ゼーロ、一時的だが贄は揃えた。力を貸せ!」
両手を目一杯まで広げ、拉致犯は願う。
刹那、今さっき召喚されたヴェルベットの設置効果によって頭を地面に減り込められた闇の亜人二人と、先ほどからその場に立っているバギン16号が呻き声を上げ明らかに悶え苦しみはじめる。
「儀式、開始!」
その二つの単語が拉致犯の口から放たれた時、
「……?」
先程からあった風の感覚が『零』になる違和感。その『感じられない感覚』が辺り一面、いやそれ以上に、この森どころかこの世界全てに違和感が広がったように感じた。
感じないのに感じる。なんとも矛盾したおかしな感覚である。
私がそのおかしな感覚を完璧に認識する前に、拉致犯の方がさらに動く。
「さぁ、来い闇王…」
拉致犯の背後に浮いていた『白い卵』の表面が、薄白い手の形をした何かがゆらゆらと揺れながら悶え苦しむ三人の闇の亜人に向かって伸びてゆく。
ここまでくると『白の卵』がなにをするのかは予想がつきそうだ。
案の定、卵から出てきた白い手はそのまま三人の亜人の頭部を掴み、瞬き一つの間にまるで麺が啜られるかのようにその存在を吸収して消し去った。
「とっとと来い、闇王!!この世界を零にしろ!!」
拉致犯は叫んだ。
真の心の中からの願いを。
全世界の、平和を願って。
「来い!闇お——————」
しかしその叫びは、突然に卵から伸びてきた四本目の白い腕によって遮られる。
「な、にを……!?」
それから数秒も経たないうちに、拉致犯は突然に先の闇の亜人と同じように苦しみ始める。
「な、なにをする、闇王……!」
「どーやら生贄ちゃんが足りなかったみたいだね?」
私は卵の裏切りを新しいタバコに火をつけて鑑賞する。
「ざま〜」
「……くそ、黙れクソ女。これで世界を救えるなら、俺は贄だろうがなんだろうが、なんにだってなってやるよ」
「わお、すごい覚悟。惚れ惚れするねぇ」
「ぐ、ぐぐぉおおあぁあああぁぁぁ………!!」
呻きながら、悶えながら、苦しみながら、拉致犯は己が覚悟を私に見せつける。
悲痛の叫びと共に表された彼の覚悟は、とても勇敢に見え、そしてわずかの恐怖の感情も垣間見みえた。
「……愚かな」
ヴェルベットが軽蔑の眼差しと言葉を拉致犯に向けて放つ。
「トテントンちゃん、あんな大人になっちゃダメだよ?」
私のアドバイスにも、幼女はもはや反応は返ってこなかった。
この場の誰もが彼は飲み込まれると確信していた。
「——————ぁ」
だが数分間の苦悩の末、拉致犯は他の亜人のように体が消え去ることはなく、その場にまだ存在が残っていた。
「あら?不味かったのかな」
見た限り、外傷は見られない。
だが拉致犯の目は明らかに何かを失った目をしている。
叫び、残っていた体力を全て使い果たしたのか、拉致犯はその場で膝から崩れ落ちる。
「消えなかったね」
「ですね」
私は以外な結末に少し驚き、近寄って様子を確認しようとした刹那、
ドックゥ…ドックゥ…
と、目の前の白い卵が重たい鼓動を打ち始める。
「………まじ?」
「愛殿、下がって!」
私が突然の鼓動に見入った一瞬の時、ヴェルベットの背中が私の視界を覆った。
——————次の刹那に、ヴェルベットの頭と左肩が金色に輝く血液を撒き散らして飛んでいた。
どうもー娯楽さんです。
大変長らくお待たせいたしました。
今まで読んでくれていた方、最新話でましたよー。戻ってきてくださーい。
……戻ってこないと私が泣きます。
スランプと大学の課題の山に追われておりました。
…ほんと、申し訳ないっす。
たまにこうゆう事があるので、その度更新が遅れます。
…ほんと、申し訳ないっす。
あと、新しいデッキが欲しいです。ペテンシーとか。
…ほんと、金がないっす。
まーなにはともあれ、ap.8話投稿完了。何卒、これからもよろしくお願いします。