5話
お待たせ致しました。
短いですが5話でございます。
視点はアーク
ーーーー4日後、やってきたトカイモール。
出撃メンバーは俺様、青龍、ヨミと部下、獣人族のレオン、ジーク、ノワール。そして見学の神咲くん。
ヨミはざっと神咲くんの前に立つとニコニコと胡散臭い笑みを浮かべながら、手を差し出した。
「やぁ、神咲はん、お初ですぅ。おウワサはかねがね。わっちはヨミって言いますわ。普段は別な仕事しとんやけど、今日はトックベツやで〜。部下とモール内に隠形しといたるから、不測の事態が起きてもなんも心配あらへん。大舟に乗ったつもりでおりぃ」
「初めまして、神咲緋也と言います。よろしくお願いします、ヨミさん」
素直に差し出された手を取り握手をする神咲くんに補足がてら声を掛けた。
「ヨミは毎回違う姿をしているから、その姿を覚える必要はないからな」
「せやでー、わっちの姿は変幻自在。ホントの姿はだァれも知らん。今日は3色3つ編みに褐色肌やけど、明日は色白金髪碧眼かもしれんし、真っ黒黒かもしれんよー」
「それと獣人族の3人は神咲くんの護衛だ。白いのがレオン、灰色がジーク、黒いのはノワールだ」
「よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる神咲くんにレオン達もそれぞれ挨拶した。
もうすぐ10時。奴らが時間通りに来るとは思わんが、さっさと隠すものは隠しておかんとな。
「とりあえず神咲くん達は2階で待機。戦闘が派手になるようなら3階へ退避。ヨミは…勝手に動くか。任せよう。青龍は俺様と1階で鳩と相対。以上、散れ」
レオンに担がれた神咲くんは数秒で2階へ着いたよう。通路のような所から此方を覗き込んでいる。レオン達には適宜シールドやカウンター術を使う事を許可しているが、あくまで防御。極力戦うなとは言ってあるし、鳩共の意識が向くような事があってもヨミが注意を逸らしてくれるだろう。
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少し経って入口で爆発音がした。
バキバキバリバリ音を立てながら此方に近付いてくる鳩共…1銭も払わんくせに毎回毎回派手に壊しおって。
今回やりおったのは…桃色と黄色か。後で1発ずつぶん殴ろう。
瓦礫の山と化した入口を踏みつけて現れたのは緑、黄、青、桃…ん?
「…赤いのがおらんな」
「そうですな。いつもなら真っ先にアーク様へと突っ込んでくるピジョンレッドの姿が見当たりませぬ」
青龍も訝しげに周りに視線をやっている。
珍しい事もあるものだ。
「おい、貴様らのリーダーはどうした。今日は欠席か?」
「いや、レッドなら昨夜飲みすぎてたから、多分二日酔いだ。その内来ると思うぜ」
そう肩を竦めて答えたのは青いの。
此奴も赤いのと一緒に俺様に突っ込んでくる事が多いが、今日は本当に珍しいな。どいつもこいつも呑気に歩いて此方に近づいてくるではないか。
「呼び出しておいて遅刻とは、正義側として、いやいい大人としてどうなんだ」
「それについてだけは謝っとくッス。うちのリーダーは子供っぽい所があるッスからね。何百歳も年上の皆様には寛大な心で許して欲しいッス」
にゃはっと笑うのは緑の。
怪人と人間で年齢差を出す無意味さよ。
1ミリでも年長者に対する敬意があるのであればそもそも呼びつけるな。ついでに建物を壊すな、住民を不安にさせるな、と言いたいところだが、そんなもの此奴らに言うだけ無駄だから言わん。
「それより、今日は下級怪人達召喚してないんだな。いつもワッサリ湧いてるのに……って、え………?」
辺りを見回していた青いのが2階通路に視線を止めて目を見開いた--マスクしてるから顔は見えないがなんとなく挙動で察した --まぁ、認識阻害はかけてないのだから、同族であればやはり気付くか。戦闘にならずに神咲くんの存在がバレた場合なんぞ考えとらんかったわ。赤いのが不在なのも想定外だが、さて、青いのはどう出るか。
「おいおい…アーク、お前らどういうつもりだ?わざわざ連れてきたって事は、人質って意味か?俺らに脅しかけようってのか?」
ギロッと音がしそうなくらいに強く睨んできたが、見当違いも甚だしい。
「そんな訳あるか。何故今以上に支出が増える事をわざわざする必要がある」
「じゃあなんで『同胞』がお前らといる!説明しろ!」
胸ぐらでも掴んできそうな勢いだが、まぁ、反応としては想定内。
「うちの新入社員だからだ。今日は戦闘業務の見学に連れてきただけの事」
そう言った瞬間、地面から水が噴き上がり、水の刃となって青いのの周りに次々浮遊した。沸点低過ぎだろう。
「ふざけんなよ…余っ程死にたいらしいな。レッドが来るまでは適当に遊んで待つ予定だったが止めだッ!お前らぶっ殺して『同胞』を連れ帰る!」
「ちょ、ちょっとブルー!勝手な事したらレッドが怒るッスよ!」
「うっせぇ!!」
止める緑のを突き飛ばし、青いのは怒りのままに攻撃をしてきた。
ゴァッッと音を立て水の刃が俺様のそっ首落とさんと向かってくるが、問題無い。俺様が展開したシールドに阻まれ、水は飛び散り霧散した。水の消失に一瞬よろめいた青いのを緑の方に蹴り飛ばしてやった為、少し距離が空いた。黄色と桃色は戸惑っているのかその場でオロオロしているが、青いのは緑のに支えられながらも殺気をガンガン飛ばしてくる…いつも殺意は高いが、今日は輪をかけて殺意が高いな。神咲くんが原因なのはわかるが……神咲くんの『2系統』の情報がもう鳩共に伝わってるとかないよな…?
「…ぅ、…くっ…そ…ッ!」
まだ攻撃しようとしてくる青いのを、緑のが必死に羽交い締めにしている。此奴意外と力あるな。
「うちに貴様らの同胞が居ることがそんなに腹立たしいか?それにしては怒り方が異常としか思えんな。他に理由でもあるのか、青いの」
青いのは低く唸った後、叫んだ。
「…理由だ…?そんなの、てめぇらの方が知ってんじゃねぇのかよ!アーク!てめぇん中に心当たりあんじゃねぇのか!!!あ"ぁ!?」
ギクッとする程間抜けじゃないので、はてと肩を竦めてみせた。
「生憎と心当たりなんぞ欠片も無いが?」
「嘘つけ!!誘拐や人身売買以外で、なんで同胞がてめぇらンとこに居んだよ!!」
あー、なるほど。俺様達が神咲くんを誘拐したか人買から不当に買ったと思ってるわけか。
他所は知らんが、うちは誘拐だの人身売買だのには手を出していない。倫理観とかの問題ではなく、会社に旨味が無いのに人件費とリスクが馬鹿程高いからだ。ただでさえ人手不足なのにそんな無駄な事してられるか。
「はぁ…本人の希望でうちに就職してくれただけだが?ちなみにちゃんと悪の組織だと言う事は入社前に説明した上でだ」
緑のと青いのは顔を見合わせた。さしずめ訳が分からないという感じか。此方も同じだがな。『2系統』の事はどうやら知られていないと判断してよさそうだが、赤いのは不在の上こんなに必死に取り返そうとしてくるとは想定外だ。
「疑うなら本人に聞くか?念の為シールドは張らせてもらうが、余計な事をせんのなら話くらいはさせてやろう」
とりあえずレオンに念話で神咲くんと降りてくるように伝えた。
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「えっと…あの、どういう状況ですか、アーク様?」
滅茶苦茶戸惑っているな、神咲くん……
『色ノ家門』についてある程度説明してあるとはいえ、当初の予定と違って直接対面。うん、すまん。
「あー………此奴らは此処に来る前に話した『協会』の戦闘部隊の連中なんだが、神咲くんに話があるそうでな。とりあえず、安全措置はするから、話を聞いてあげてくれ…」
「はぁ…僕に用事があるなら。かしこまりました」
頭上にハテナマークをたくさん浮かべながらも、神咲くんは頷いてくれた。おっと。青いのが近づく前に神咲くんを囲うようにドーム状のシールドを展開する。
水色の膜を不思議そうに眺めると、神咲くんは青いのの方を見た。
「初めまして。V.C新入社員の神咲緋也と申します。僕に何のご用でしょう……か…?」
青いのと緑のはベタッとシールドに張りついて神咲くんをガン見している。こっわ。神咲くんも若干引いてないかコレ。
散々ギロギロ見たと思ったら、青いのは腕を組んで首を傾げた。
「……くすんだ赤眼。海棠…梅重…?それとも紅梅?いずれにせよ『赤の家門』から行方不明者が出たとは聞いた事がねぇ。なぁ、神咲って言ったよな?それ両親どっちの苗字だ?」
「…父方です。母方は蘇芳ですが、それがどうかしましたか?」
「蘇芳…レッドが来ないとわかんねぇが。お前の母親、誘拐されてきたとか、聞いた事ねぇか?」
「ありません。うちは真っ当な職の家では無いですが、両親は恋愛結婚だと聞いています」
若干ムッとした顔をした神咲くんに、緑のはあわあわと両手をバタつかせ、謝った。
「あ、あのっ、気を悪くしちゃったッスよねっ。ごめんなさいッス!!事情があるッスけど、詳しく言えないから、ボクには謝るしか出来ないんスけど!」
…土下座し始める緑のに神咲くんはいよいよ困惑しているようだ。
「…いえ、いいです。聞きたい事は母の事だけですか?」
「……もう1つ。本当に、自分の意思でアークのとこにいるのか?脅されて力を利用されてる訳じゃないのか…?」
青いのの言葉に、神咲くんの目が細まった。
「…僕は、困っていた所をアーク様に助けて頂きました。その恩返しが出来ればと思ってV.Cに入社したんです。恩人を貶めるような発言はやめてください」
「…すまん。失礼な事を散々聞いた。謝る」
バツが悪そうにする青いのに、神咲くんはヒラヒラと手を振った。
「気にしなくていいですよ。多分ですけど、僕の事心配してくれたんですよね?ありがとうございます」
何故か緑のと青いのは互いを抱いて震えている。
「いい子ッス!めっちゃいい子ッス!!」
「アークには勿体無い!やっぱり連れて帰る!!」
「やらん!!」
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ーパキッ…ザリ……ジャリ…
「ふあぁ………やっと頭痛治まったわ。よっす皆ー。あ、アークは死ねー」
気だるそうに歩いてくる、真っ赤なライダースジャケットのポケットに片手を突っ込んだ、ウルフカットの男。というかこの声……
「貴様が消滅しろーーー赤いの」
ヘラッとした笑みを浮かべているが、真紅に輝く瞳には狂気を孕んだ焔が揺れている。鳩共のリーダー。
「レッド!来んのがおせぇよ!!つか素で来んな!!変身して来い馬鹿!!」
青いのが開口一番怒鳴る。が、赤いのは気にせず此方に近付いてくる。
「レッド〜、この子、例の行方不明者達とは無関係っスけど、レッドんちの家門じゃないっスかー?」
緑のが神咲くんを指差して言うので叩き落とした。
赤いのは神咲くんを見ると興味無さげに言った。
「…蘇芳家の縁者か。見た感じ『血の能力』も感じねぇし『協会』に登録してるわけじゃねぇなら、どうでもいい。雑魚は『協会』も管轄外だ」
「え、じゃあ、こっちで保護とか、しなくていいんスか?アークさんのところに置いとくんスか?」
「そいつがアークんとこにいたからって誰も何も困らねぇし、そもそも『共鳴石』が反応しねぇくらいの雑魚。ほっといたって勝手に死ぬだろ」
ボロカス言うな此奴。でも過剰に警戒し過ぎたのが分かっただけでもよしとしよう。どうやら神咲くんの事は…言葉は悪いが…本気でどうでもよさげだしな。
「そもそもお前らの『血』についても『能力』についても神咲くんには教えておらん。内勤専属で雇ったんでな。戦闘に出さないならいらん情報だろう」
しれっとこの子は何も知りませんよと言っておく。
「はっ!確かに。知ったところで手に入る力なんぞねぇんだ、与えない優しさも大事だねぇ…キシシッ」
「…それで?生身で俺様の前に現れた暴挙の理由は?」
「そんなん変身が面倒だっただけだわ。戦闘するにしたって、お前らなんか生身でもじゅーぶん過ぎるしぃ?」
「挑発してるつもりか?へったくそが」
「あ"?やんのか黒山羊」
「元々やる気で呼び出したのではないのか、アホウドリ」
ーーバチィ…ッ!
互いの力が衝撃波となってぶつかり合う。生身でもまぁまぁな力を放出してきよるな此奴。でも変身しないという事はまだ戯れの範疇、か。まったく面倒な。
言いつつも手甲にシールドを纏わせて赤いのに殴り掛かる。赤いのは炎を纏わせて拳を振るってきた。互いの攻撃の衝撃で吹っ飛ばされそうになるが、堪えて2撃目を放つ。赤いのはバク転して避けたが、掠りはしたのかその頬には血の筋が1つ。
「キキッ!キシシシッ!!シャァハハハァァァ!!」
赤いのは瞳孔かっぴらいて連続で炎の拳を打ち出してくるが、余裕をもって避ける。顔イッてるのだが大丈夫か此奴。周り見えてなさそうだが、青いのと緑のは流石に避難したか。
あ、いかん!すっかり神咲くんの事を忘れていた!
…よし、レオン達が避難させていたな、グッジョブだ。いかんなぁ、俺様も戦闘になると周りを見るのが疎かになるか、他人の事は言えんな。
とか考えながらも拳や衝撃波をヒョイヒョイ避ける。
「オラオラどうしたアークゥ!避けるばっかで攻撃してこなくなったじゃねぇか!ジジイは遊ぶだけでも疲れちまったかァー?キシシシシッ!」
「んー?何か鳥が囀っとるが、流石の俺様でも鳥語はわからんなぁ。ピーチクパーチクよく鳴く鳥だわ」
「…ぶっ殺してサバトの供物にでもしてやろうかクソ山羊がァァァァア"ッ!」
額に青筋を浮かべながら突っ込んでくる赤いの。カウンターでも狙うかと腰を落として構えをとったその時。
ーーーぽひゅん…
ヘロヘロの火球が赤いのの顔面に当たって間抜けな音を立てて消えた。赤いのも俺様も一瞬何が起きたか分からなかったが、火球の出処を目で追って行き着いた先はーーー掌を此方に向けてぽかんとしている神咲くんだった。
………あぁ…また面倒な事になるぞ………
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