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4話

お待たせ致しました。

4話でございます。

視点はアーク







「はぁぁあ!?神咲くんが『Acht(アハト)』クラスと訓練場に行ったぁぁぁ!?」



20分くらい前に神咲くんが退出したと思ったら、受付嬢♂が神咲くんと誰かが地下訓練場に行ったと内線を寄越し、遅れてプレディカドールとネーロが執務室に現れてついさっき総務前で行われたやり取りを報告してくれたのだが…驚きすぎて椅子を蹴倒してしまったわ!



「怪我だけで済めばよいですが、万一の事も考えられますので、お忙しいのは存じておりますがご指示を仰ぎたく…」


申し訳なさそうなプレディカドールに、眉間に皺を寄せたネーロ。いやいやいや。


「即刻止めに向かうぞ!!」


バタバタと執務室を出てエレベーターで1階に降り、心配そうな表情の受付嬢♂を通り過ぎ、そのままエントランス横の階段から地下訓練場へと3人して走る。

いくら実家が極道とはいえ、神咲くんは戦闘経験は無かったような…しかも特徴を聞いた限り1番血の気の多い幹部…


最悪消し炭にされとってもおかしくないーーっ!!


せっかく見つけてきた貴重な人材なのに何してくれとんじゃ!!と叫びたいが足を踏み外さないように急いで駆け下りると何かがぶつかる音やら叫び声やらが聞こえてきた。あぁもう!早速やり合ってるっ!!!


息を吸い込んで、思いっきり怒鳴ろうとして、目に入った光景に間抜けな声が出そうになった。









「オラァどーしたぁ!?ずっと避けるばっかで反撃して来ねぇのかぁあ!?」


真っ赤に燃え上がった髪、剥き出しの牙。

あぁやっぱりコイツかと納得しつつ、神咲くんを信じられない目で見つめた。



…何でただの人間族が幹部の攻撃避けきってるの??



「僕は仕方なく付き合ってるだけなので。僕から攻撃なんてしませんよ」


言いつつもひょいひょいと向かってくる拳も蹴りも避けるか、受け流している…普通…身体がバラバラになっていてもおかしくないんだが……


「へっ、いつまでもそうしていられると思ってんなら大間違いだぜ新人!」


そう叫ぶなり彼奴は大きく距離を取り、青く燃え上がる髪に呼応するように両手から鞭のような形状の青炎を放出しおった。あれは流石にマズイ…!




「『炎縛双鞭』避けられるもんなら避けてみやがれぇぇぇぇ!!」


豪ッと火の粉を撒き散らし神咲くんへうねりながら向かって行く2本の炎の鞭。ネーロを見ると手に氷の結晶をいくつか浮かべ、神咲くんの前に氷の盾を展開する所だった。俺様も念の為にシールドを張る用意をしておく…


が、当たると思った炎の鞭は急に方向転換して地面に激突し、轟音を上げた。一瞬何が起きたかわからず思考が止まるが、慌てて神咲くんの姿を探す。朦々とたちこめる煙の中、すたっと何かが着地する音が聞こえるが、何も見えない。

豪ッと再び音がして、火の粉と共に視界が晴れた。どうやら彼奴が炎の鞭を消したらしい。神咲くんも無事のようだ。


苛立ちを顕に彼奴は吠えた。


「てめぇ…本当に人間族かよ!?俺の炎縛双鞭を殴って止めるとか有り得ねぇだろうが!!」


「「「は?」」」


思わず俺様もネーロもプレディカドールも口を開けた。

…あの炎の鞭を、素手で殴って止めた、だと?


「正真正銘本物の人間族ですよ。確かにちょっと熱かったですけど、うちの兄の拳の方が痛いですね」


何事も無かったかのように手をパンパンと払う神咲くんに、その場に居た者らが無言になるが、いち早く我に返った俺様が2人の間に降り立った。




「その辺にしておけ2人共!…朱雀、何故こんな事をしでかしたか説明せよ」


名を呼ばれた朱雀は唖然とした顔から血色を失くし、ザッと頭を垂れた。


「…その。アーク様がわざわざ人間族を採用したとお聞きしたので、どんな強者かと思い、実力を確認したくなってしまったのですが…社内の噂を辿れば配属は総務だというし、会ってみれば貧弱そうな身体に、その…勝手に、裏切られた気がしてつい…」


どんどん尻すぼみになっていく言葉に、思わず頭を抱えた。俺様を慕ってくれるのは嬉しいが、どうも行き過ぎてる感があるんだよな…優秀な社員なのは間違いないんだが…


「…はぁ……もうよい。そもそも神咲くんは戦闘員として採用した訳では無い。内勤専属だ。朱雀、お前も分かっているとは思うが、うちは書類仕事ができる人材が少ない。神咲くんは書類仕事要員として貴重な人材なのだ。今回の事は不問にする、が、今後彼に危害を加える事は許さない」


「はっ…!寛大な御心に感謝致します!」


土下座でもしそうな勢いに、ヒラヒラと手を振って退出を促した。


「業務に戻れ。お前の部隊は見回りの時間だろう」


「はっ!御前失礼致します!」


朱雀は一礼すると消えるようにその場から去っていった。さて、あとは申し訳なさそうに小さくなっている此方だな。





「神咲くん」


名を呼ぶと勢いよく頭を下げられた。


「アーク様のお手を煩わせて申し訳ありませんでした…!」


「あ、いや、とりあえず無事でなによりだ。怪我だけで済まなかった可能性もあったからな」


くっと口を引き結び、神咲くんは小さく「ありがとうございます」と言った。俺様が口を開く前にカツカツと靴音がして、降りてきたネーロが腕組みをしながらギロリと神咲くんを睨んだので俺様まで僅かに肩が跳ねる。


「何故こんな無謀な事をしたんですの。わざわざこんな所まで付き合う必要は無かったと思いますわ。最初から内線で私なりアーク様を呼べば済む事だったのではありませんの?」


ほんのり冷気を出しながらお怒りのネーロに、神咲くんは困ったような顔で頬を掻きながら答えた。


「はい、それも考えたんですけど、経験上あぁいう手合は1度こちらの実力を見せないとずっと絡まれ続けるので、とりあえずやり合ってみるのがいいかと判断しました。防御なら兄との喧嘩で慣れてましたので、最悪骨折くらいで済むかなぁと…」


ネーロも俺様も思わずぽかんと間抜けな顔を晒してしまった。いやいや今までそうだったかもしれんが、ここにいるのは人間族に近い姿とはいえ人外の力を持つ怪人達だぞ。『アレ』の血筋の可能性が高いとはいえ『能力』も発現しているか不明の状況でいくらなんでも博打が過ぎる。俺様も少し視線が険しくなった。


「なるほど。だがな、神咲くん。戦う力があるとしても、君はどこまでいっても『人』だ。俺様達とは異なる種族だ。…人外じみた家族の中で育って麻痺しているかもしれないが、これからは種族間の力量差を考えて行動して欲しい」


「…はい。自分の力を過信しておりました。今後は気をつけて行動します」


ぺこりと素直に頭を下げる神咲くんに、俺様も視線を和らげ、ネーロも冷気を引っ込めた。


「…にしても。よくあの炎の鞭を殴って止めるなんてマネができましたわね。あれ、私の氷も溶かす炎ですのよ?神咲さんの手が焼け落ちてもおかしくありませんわよ」


神咲くんの手を取り、火傷が無いか確認しながら一応冷気で冷やすネーロ。お怒りは去ったようで、今は疑問が顔中に出ている。

神咲くんは言おうかどうしようか迷った素振りの後、意を決したように俺様とネーロを見た。


「…人間族か疑われそうで黙ってたんですけど、僕、火には耐性があるというか、効かないんです。ずっと前に車に爆弾仕込まれて殺されかけたんですが、服は燃えましたけど、僕の身体は火傷1つしませんでした。煙はダメなようで病院行って抜いてもらう治療はしましたけど」


「…え?」

「は…?」


思わずネーロと被った。

いやいやいやいや!普通人間族って爆発に巻き込まれたら死ぬよな!?服燃えただけ?生身は火傷すらしなかった?煙は有害みたいだが…それを引いてもだいぶ人間離れしている。まぁ『アレ』の血のせいかと思ったら納得できるんだが。


「…そう、なの、だな……まぁ人間族では珍しいとは思うが、うむ。身体強化もしているのか?炎は置いといても生身だと殴った拳が消し飛ぶだろう」


「あ、はい。身体強化なんて立派な能力じゃありませんけど。どちらかというと『瞬間的な身体硬化』ですね。意識した部分だけめちゃくちゃ硬くできるんです」


てへっと効果音がつきそうな顔でそう言う神咲くんに、俺様もネーロもプレディカドールまで頭を抱えた。いやいや待て待て。それじゃあ『あいつ』と同じ『2系統』持ちという事か?ネーロと顔を見合せて、たらりと冷や汗が伝うもそのままに神咲くんの両肩を掴んだ。


「ア、アーク様…?」


「神咲くんのその力は、他言無用だ。火耐性と身体硬化が使えるとバレたら『協会』に狙われる」


「えっと…『協会』って、ヒーローの本部、でしたっけ?」


「そうだ。『協会』の戦闘部隊が、主に俺様達と戦う奴らだ」


「その人達と僕の力と何か関係が…?」


「……ネーロ、話して大丈夫だと思うか?」


「いずれは伝えなくてはいけない事でしょうから。今話しても問題無いと思いますわ」


俺様達を困惑した顔で見上げる神咲くん。

これは襲撃前に話して口止めしておかないと『あいつら』に狙われる。絶対。なんなら次の襲撃で奪おうとしてくるだろうし、会社に突撃してくる。


「…はぁ。とりあえず神咲くんは俺様と小会議室へ行くぞ。ネーロ、プレディカドール、最上階の人払いをしてしばらく電話も取り次がないよう通達を」


「かしこまりました」

「承りました」









小会議室に入り、神咲くんを適当な椅子に座らせると、給湯スペースでコーヒーを淹れてから俺様も向かい側に座った。さてと。


「…はぁ…どこからなにから話したものか。『協会』についてはチラッとは聞いているのだな?」


「はい、受付嬢♂さんとプレディカドールさんに少し」


「なら…戦闘員の話をすればいいか。君に直接関係する部分だしな」


「…何百も戦闘員を排出する家があるとは聞いていますが、それが僕に関係するんですか?」


「あぁ。まず、その家々の人等は人間族だが普通の人間族ではない 『色ノ家門(キアロスクーロ)』と呼ばれる特殊な一族だ。単刀直入に言うと、君はその血を引いている可能性が高い」


俺様の説明に神咲くんの目が大きく見開かれた。

動揺しているところすまないとは思ったが続けた。


「出会った時からほとんど確信はあった。君の目、自分では気付いていないと思うが、虹彩が独特なんだ。『焔形虹彩』と言って文字通り虹彩が焔形をしている。『色ノ家門(キアロスクーロ)』は皆持っている特徴だ。それに母方の苗字が『蘇芳』…これは赤系の家門の1つ。赤系は火を操ったり身体強化したりする事に長けた家らしい。『色ノ家門(キアロスクーロ)』は人の枠を超えた特殊な能力を使えるのも特徴だな。他に水を操るもの、風を操るもの、土を操るもの、身体強化、巨大化、武器生成…家門によって様々な能力があるらしいが、能力は1人1つが基本だと、これまでの調べでわかっている。たまに産まれる能力2つ持ちは『2系統』と言って滅多に出ないとても珍しい存在なんだそうだ」


「火耐性と…身体硬化…だから……」


「あぁ、君の事が『協会』にバレればどんな手を使っても君を手に入れようとするだろう」


「そんな…僕…ッ…僕のせいで、全面戦争にもなり得るって事ですよね…?」


「最悪の場合な」


神咲くんはがたりと立ち上がって窓に向かおうとしたが、予想の範囲内だったので影を伸ばして捕まえた。


「は、離して下さい!御迷惑をかけるくらいなら、飛び降りて死にますッ!!」


「落ち着け。君を雇う前から懸念はしていた。どんな能力を持っているかわからず、今後どう転がるのかもわからず、それでも散々考えて採用したのだ。血の事を抜きにして君は会社の役に立ってくれた。今後も貢献して欲しいと思っているのに、死なれたら困る」


影を引っ込め、笑みを浮かべながらそう言ったが、神咲くんは2,3度瞬きして、俯いてしまった。


「…ハイリスク・ローリターンですよ…僕は高等学校を出ただけの、ヤクザの家の3男で、できる事はきっと多く無いです…あの時殺しておけばよかったと思われるのは、辛いです…」


俯いたままの神咲くんの顔を掴んで強引に上を向かせ、三日月のような弧を浮かべ、悪者らしく笑い飛ばした。


「ハッ!みくびるなよ!俺様達が今まで何十年『協会』と殺り合ってきたと思っている!何度も何度も大規模な戦闘はあったが、我社はこうして健在ぞ。今更厄介事1つ抱えたところで、何ひとつとして揺らぐモノは無い!!」


「アーク様…」


「神咲くんは安心して我社に貢献してくれればいい。社員の身の安全を保証するのは俺様や幹部の役割だ。せっかく来てくれた貴重な人材を『協会』に渡してなるものか!」


「アーク様ぁぁぁ〜………」


「な、何も泣かんでもよかろうが…」


どぱーっと滝のように涙を流しまくっている神咲くんに、ボックスティッシュを箱ごと渡す。


「ぐすっ…僕…いらないとか、死ね、とかは、ひぐっ…言われた事はあっても…ッこんな、嬉じぃ事、言われた事、なぐでぇぇぇ…」


「あぁもう泣くな泣くな。社員を大事にするのは上層部として当たり前の事だ。当たり前の事で感動するな、全く…」


ぽすぽすと頭を撫でてやると気持ち泣き声がおさまってきたような気がする。しかし、どんな環境で育ってきたのだ…家族というものは知識としてあるが、怪人には無いものだからイマイチ理解できん。親は子が1人前になるまで大事に育てるものではないのか?極道は一般の子育てとは違う事をするのだろうか?

(ひま)を見て神咲くんの家の調査をしてみるか。



まだ少しぐずついているが神咲くんも落ち着いてきたようだし、コーヒーに口をつけながら話の続きを脳内でまとめる。


「大丈夫か?」


「はい…取り乱して申し訳ありませんでした…」


「続けていいか?」


「お願いします…」


うむと頷き、話を続ける。


「俺様達と長年戦っている戦闘部隊があるんだが、そこのリーダーが神咲くんと同じ『2系統』だ」


「『アレ』とか『鳩』とか言ってた人ですか?」


「そうだ『鳩鳴戦隊ピジョンファイブ』というふざけた部隊名でな。まぁ『協会』の戦闘部隊は全部こんな感じらしいが。そやつらと戦うのが4日後のトカイモール…正直色々知った後だと、君を連れていくのは中止にしようかとも思っているんだ」


「僕の能力バレですか…」


ぎゅっと両拳を膝の上で握りながら、神咲くんは顔を上げた。


「危ないかもしれませんし、迷惑をかけるかもしれませんが、可能ならその人達を実際に見てみたいです」


コーヒーで口内を湿らせながら、無意識に唸り声が漏れた。


「うーん…護衛もつけるし、シールドも張るし、幹部も同行するし、遠くから見るだけなら恐らく大丈夫だと思うんだが…神咲くんの能力がどこからバレるかわからんのが怖い。俺様達は実際に能力を発現した状態の相手を見ないと分からないが、鳩共や他の戦闘員は違うかもしれない。同族だからわかる可能性もある。望遠鏡と呼ばれている彼処の諜報部隊も何か能力を持っていて全く違う手段で神咲くんの事を知るかもしれない。かといって社内にいる事がバレて俺様不在で戦闘になるのもよろしくない。ふむ…」


…まだ俺様がいる状況の方が、何が起きても対処できる、か?


「お願いしますアーク様。僕を連れてってください」


頭を下げる神咲くんに、俺様はため息を吐きつつ、頷いた。


「…多分1階で戦うと思うから、2階通路か3階通路から見てもらうようになるぞ。それでもいいか?」


「はい!ありがとうございます!!」


ぱあっと顔を輝かせる神咲くんに思わず苦笑した。

そんなにあんな狂戦士共が見たいのかとも思ったが、知らないという事はある意味最強かもしれんな。実際に見てどんな感想をいだくやら。あんまり心配してはいないが、万が一彼処に行きたいと言われたらどうするか……洗脳が使える者に声を掛けておくか。



どっと疲れたが、あと4日、やれる事はやっておこう。







お読みいただきありがとうございます。

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