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3話

お待たせ致しました。

3話でございます。

視点は前半アーク、後半神咲くんです




ー翌日・アークの執務室ー




なんだか精神的な疲れが溜まってるような気もする…が、仕事は溜まる一方。さっさと片さねばな。バキボキと首を鳴らし、机上の未処理の箱から1枚取り目を通す、問題無ければ承認印を捺す、これを何度も繰り返す。ちなみに部屋の両壁側には書類のタワーが3本ずつできていたりする。



…カサッ……ポン…カサッ……ポン…カサッ……



執務室に書類の擦れる音と捺印する音だけが静かに響く。



カサッ……ポン……カサッ……カサッ……



俺様の元に届く前にネーロが確認しているとはいえ、相変わらず量がえぐいな。要望みたいな物は部隊長階級が裁可を出してもいいと思うんだが…これはどうしたものか…いっそ目安箱でも置くか……1日で溢れかえる未来が見える。無しだ無し。









ー2時間後ー



…ポン…カサッ……カサッ……カサッ……


そろそろ休憩でもとるかと立ち上がりかけた時、内線が鳴った。まだ午前中だというのに珍しい。とりあえず繋ぐ。


「アークだ。どうした?」


『総務のプレディカドールです。アーク様、お忙しい中申し訳ありませんが、報告がございまして…』


「聞こう」


『総務で研修中の神咲さんの事なんですが』


…え?早速なんかやらかしたのか?


『 “ふぉーまっと” が無いとか “まくろ” がどうのとか言い出し、何やら新しく書式を作りまして。これが見やすく蜘蛛達に好評で。各課の処理スピードも上がるので正式に組織全体で採用しては如何かと思い報告しました。転送致しますね』


自分の左上の空間を2回タップすると、紙が1枚出てきた。

1番上に名前と所属、直属の上司の承認印1箇所、ネーロの承認印1箇所、俺様の承認印1箇所。この辺は普通だな。その下には『要望』『報告書』『見積依頼』『その他』など四角い箱の隣に項目がある。なるほど、これは見やすい。用途に応じてチェック場所を変えるのか。でもどんな場合でもこれ1枚で済むように形式も工夫してある。



良いではないかっ!!!!!



「うむ。正式採用で問題ない。小会議室に隊長格を集めてくれ、採用後の運用については来月から、細かい事はネーロに説明させる」


『かしこまりました。それともうひとつ確認したいのですが…』


「なんだ?」


『…おそらく総務の大多数が、直属の上司が誰かわかっておりません…』


…思わずずっこけた。


「…昆虫族はプレディカドール、蜘蛛達はアラーニャと通達せよ…」


『かしこまりました。ただちに取り掛かります』


受話器を置き、今度は念話を繋げる。


《ネーロ、今いいか》


〈はい、どうなさいましたか〉


《神咲くんが作った新しい書式を正式採用する。来月からの運用ができるよう隊長格に説明しておいてくれ。小会議室に集まるようには伝えた》


〈かしこまりました〉



念話を終え、ため息を吐く。

分かるだろうと思って組織図を貼り出していなかったが、掲示するか。



ーコーヒーを淹れて、休憩がてら簡単に組織図を描く事にした。都界支部は俺様を頂点に、直下にネーロ、その下に青龍、朱雀、白虎、玄武、ヨミ、プレディカドール、アラーニャ…更に下に副隊長クラス…っと。今はこんなものでいいだろう。あとでネーロにも言ってキチンと描き直そう。


バサバサと広げていた物を片付け、さっきの続きをしようと書類を取った。









2時間は作業しただろうか、時計を見て昼に差し掛かっているのを確認して書類を置いた。ちなみに怪人だろうが異形族だろうが腹は減るし眠気もある。普通に人間族と同じ物を食べるし、眠い時は寝る。何日か寝なくともいい種族もいるが、俺様は3徹が限界だった。仕事で徹夜程しんどいものは無い。主に精神的に。それは置いておいて、昼食をとるために立ち上がる。身体がバキボキ鳴ってるが気にしない。


書類のタワーを避けながら執務室を出てエレベーターで1階に向かう。面倒だから売店で軽食でも買うか。






1階に着くと、総務の前を通ってしばらく歩き、システム開発課の手前の休憩室に入った。寮のとは違い、会社側の売店は無人販売だ。おにぎりやサンドイッチの入った冷蔵棚にランク証をかざし解錠、商品を取り出しカウンター前の電子版付箱に表示された料金分のお金を入れる。お釣りにも対応しているが高額紙幣が使えないのが面倒。

無料で飲めるインスタントコーヒーを紙コップに入れ、適当な椅子に座って買ったおにぎりを食べながら携帯端末を操作する。メールの確認とニュースを流し見しながらさっさと食べ終えコーヒーも飲み干し席を片付ける。休憩が短い?15分も休めば十分だろう。こうして離席している間にも書類は溜まるのだ。さっさと戻るに限る。






休憩室を出てエレベーターまで歩いていると、プレディカドールとアラーニャに会った。


「アーク様、お疲れ様です」


「お疲れ様ですッシャ」


「あぁ、お疲れ」


「つい先程新しい書式の説明を受けました」


「とても画期的でしたッシャ」


どうやら問題無さそうだな。これなら来月から運用しても混乱は少なそうだ。ほとんどネーロに丸投げしたけど大丈夫だろうか…まぁ、後で小言と報告が来るだろうが大人しく聞くしかあるまい。


「そうか。神咲くんは入社早々良い働きをしてくれたようで何よりだ。しばらく総務に預けるから、よろしく頼むぞ」


「「かしこまりました」」


2人分の礼を受けつつ、俺様は再びエレベーターに向かった。








執務室に戻り、さっきの続きから片付ける。ガサガサポンポン部屋中に響かせながら集中する。今日中に終わるかギリギリだな。なるべく緊急性のある物から片付けたいが…部署別に分けているだけでどれが緊急わからんのよなぁ。ネーロには色々頼みすぎているから書類整理とかさせられんし、どっかに手隙の者はおらんものか。


はーーーーーっ…と深くため息を吐きながら作業を続ける。










午後の休憩を取っている時、念話が繋がった。


〈アーク様、お時間よろしいでしょうか〉


《あぁ、なんだ》


〈プレディカドールから、あまりにも神咲さんが効率的に働くので総務での仕事が無くなりそう、と陳情を受けまして。とりあえず私の溜め込んでいる書類を整理してもらったのですが…〉


《…何か問題でも起きたか?》


〈いえ、ただ部署別に日付毎に積み重ねていただけの書類を、部署毎時系列順かつ緊急性が高い順に整理して貰えまして、感動致しましたので報告を〉


《ナイスだ神咲くん!!!!ネーロ、俺様の部屋にも寄越してくれ!!めっちゃ書類整理して欲しい!!》


〈そう仰られると思いまして、もう指示を出してありますわ。程なく其方に向かわれるかと〉


《流石はネーロだ!いつも助かる!》


〈勿体ないお言葉ですわ。それでは〉


念話が切れ、今か今かと扉がノックされるのを待つ。なんなら2回くらい廊下を覗きに行った。





ーーーコンコンッ



待ちに待ったノックの音に声が上擦らないよう気をつけながら、入室の許可を出す。



「失礼します、書類整理に伺いました」


ニコッと微笑む神咲くんが天使に見える。


「おぉ、よく来てくれたな。気をつけて入ってくれ」


神咲くんはジャケットは着ておらず、首元を少し開けたワイシャツを腕まくりして、下はスラックスのようだ。もっとラフでも構わんのだが、まぁ、仕事に支障がなければいいか。


「えっと、ネーロさんから同じように整理するように言われましたが、それでよろしいでしょうか?」


「うむ。部署毎時系列順で緊急性の高い順に頼む。あぁそれと、今日中に決済が必要な物は俺様の机の上に直接置いてくれ」


「わかりました!お任せ下さい!」


新入社員なのに神咲くんが頼もしく見える……っ!







ガサガサ…バサバサ…トントントン…書類を整える音をBGMにしながら今度トカイビルの集会で使う資料を展開したモニターに打ち込んでいく。今年度傘下にした企業数・業績、来年度傘下見込の企業・業績、自社の業績・社員数、等々。とりあえず大幅な黒字では無いが赤字ギリギリでもない、まぁまぁの業績。傘下にする企業を増やすのが1番。復興支援金は『鳩』がいる限り減らないだろうが今まで通り6割補償にして…あとは『協会』対策も幾つか入れて……



ーコトン…



視界に入ったコーヒーカップに一瞬キョトンとした。


「お疲れ様です。書類整理終わりました。今日中に処理が必要なのはこの束で、翌日必要なのは机横の床のひと束、それ以降は部署毎時系列順で張り紙をしておきました。あ、コーヒーは給湯室お借りしました」


「お、おぉぉぉ…見違えるような分かりやすさ。助かったぞ、神咲くん。コーヒーも有難く頂くとしよう」


いやはやこんなに早く終わるとは。素晴らしい人材だ。採用した俺様グッジョブ。あーコーヒーも美味しく感じる。


「実家でやっていた事が役に立って良かったです!」


危うくコーヒーを噴き出すところだった。


「……実家でもこのような書類仕事を?」


「はい。組長である父に回す書類の選別は僕がやっていました。暴れるしかできない兄2人には事務作業とか無理ですから。会合に必要な資料を揃えたり、系列の組との折衝とかも僕と若頭補佐の橘さんでやっていましたね」


…驚く程サポート能力高かったんだな、神咲くん。

極道って完全に書類仕事とは無縁の脳筋族だとばかり思っていたが、考えを改めておこう。あ、そうだ。


「なるほどな。神咲くん、2週間後にトカイビルで集会があるんだが、君も来るか?ネーロと青龍が護衛でつくし、新入社員の顔見せという形でどうだろうか」


「僕が行っても大丈夫でしたら、是非。勉強になりますし」


「そうかそうか、ではネーロ達に伝えておこう」


神咲くんとネーロに補佐を任せて青龍に護衛を任せておけば安心安心。俺様は顔を売ることに専念できる。


おっと、神咲くんの襟元を見て思い出したわ。


「神咲くん、ランク証の説明はされたか?」


「あ、はい、ちゃんとプレディカドールさんに聞きました。肌身離さず持ってないと社内で死ぬと…」


「ははっ。まぁ事実だがな」





◆◆◆



アーク様にコーヒーのご相伴にあずかりながら、朝寮まで迎えに来てくれたプレディカドールさんに説明された事を脳内再生して苦笑した。



「『ランク証』は社員証とか身分証だと考えてもらえればわかりやすいかもしれませんね。V.Cの社員には10段階のランクがありまして、能力・適性・働きに応じて昇格していくシステムとなっています。『Null(ヌル)』『Eins(アインス)』は銅の徽章(きしょう)Zwei(ツヴァイ)』『Drei(ドライ)』『Vier(フィア)』『Funf(フュンフ)』『Sechs(ゼクス)』『Sieben(ズィベン)』は銀の徽章『Acht(アハト)』『Neun(ノイン)』『Zehn(ツェン)』は金の徽章となっています」


プレディカドールさんは白目の無い黒目を細くし、自分の襟元の徽章を指しながら教えてくれた。銀色の徽章には『Sieben(ズィベン)』の頭文字『Si』と彫られていて、新入の僕は『Null(ヌル)』だから銅の徽章に『Nu』と彫られている。


「無くしたり盗られたりしても再交付は基本しませんから、気をつけて下さいね。『ランク証』が無いと給料が受け取れませんし、総務での手続きや荷物の受け取りとかもできません。付け忘れにも気をつけないと、社内のセキュリティシステムに引っかかりますから、最悪防衛装置に殺されてしまいます」


入社初日の僕よく生きてたなぁ。

まぁプレディカドールさんから『ランク証』を付けた社員が同伴してれば大丈夫とは聞いたんだけど、僕が好奇心旺盛な方向音痴だったら初日で死んでたな。

それで適正とか見てるのかな?

入社初日で死んだ人とかいるんだろうか?



コーヒーも飲み終え、そろそろ部屋を辞そうとした所でまた呼ばれたので振り返った。


「そう言えば、君の外出禁止を条件付きで解いたのを伝え忘れていた。誰かと同伴するなら今後自由に外出して構わないぞ」


あと外出許可証を総務で書くように、との事だ。

おぉ、これで服見に行ったりコーヒー飲みに行けたりするぞ。とりあえず次の非番の日にでも行こう…と思ったけど、誰に行ってもらえばいいんだろう?総務の誰かにお願いしてみようかな。









「だぁらっ!神咲緋也って新入社員、ここにいんだろ!?早く出せよ!」



エレベーターを降り、1階に戻ってくると、総務でギャンギャン騒いでいる人が目に入った。聞くつもりは無かったけど、自分の名前が叫ばれたら、行かない訳にはいかないよね…

燃えてるように見える赤と橙に揺らめく髪に、血のように赤い瞳。ランクは…『Acht(アハト)』か。幹部クラスみたいだけど、なんの怪人さんだろう?

っと、考えるのは後でいいか。プレディカドールさんが困ってる。



「今は他の業務に出ているのでいません、とさっきから言ってますよね。いい加減にして下さい!」



「…チッ…燃やされてぇのか虫どもが…!」


ボッと髪の毛が燃え上がった!?

なんかやばい!



「神咲緋也なら僕ですね。何か御用ですか?」


「あ、神咲さん、戻ってきちゃったんですか!?」


慌てるプレディカドールさんににっこり笑むと、僕は騒いでる人に向き合った。


「…ほぉ?お前が神咲緋也か。見れば見るほど弱っちぃ人間族じゃねぇか。アーク様にどう取り入ったか知らねぇが、よくこの会社に入ったもんだ」


ギロッと殺意を隠さない視線に、僕は苦笑で返した。

実家にいた時もままあった事だ。


「取り入っただなんて。僕は助けて貰った恩返しのために入社したんですよ 」


「ふん、どうだか……アーク様の役に立てるような能力を持ってるようには見えねぇし、身体も貧相じゃねぇか」


ジロジロと値踏みするような視線が不愉快だけど、まだ我慢できる範囲だから大丈夫大丈夫。黙って笑顔で返すと、彼はハッと鼻で笑って腕を組み出した。


「ハンッ!言い返す度胸もねぇのか腰抜け。なぁ新人、この俺が直々に戦闘指導してやるよ、泣いて喜びやがれ!」


「お気持ちだけ受け取っておきますね。僕内勤専属ですし、業務時間内に私闘したら処罰対象って誓約書に書いてありましたよ」


正論をぶつけると、彼の髪の毛がメラメラと燃え上がり、色も赤から青く変わった。おぉ、やっぱりあの髪の毛って炎なのかな。


「ごちゃごちゃうっせえ!!いいから黙って付き合えっつってんだよ!!」


豪ッと音でもしそうな彼の剣幕は置いておいて。プレディカドールさんに近付きコソッと言った。


『ちょっとこの人ひいてくれそうにないので、付き合ってきます。すみませんがネーロさんかアーク様に連絡お願いします』


『わかりました…気をつけて下さいね』


「何コソコソしてやがる!!」


「すみません。それで?僕はどこに行けばいいですか?」


「地下訓練場だ。エレベーターは繋がってねえからエントランスから階段で行く。来い」


言うなりスタスタ歩き出すその人を小走りで追いかけ、内心ため息を吐いた。やっぱりどこの業界にもこういうタイプの人いるんだなぁ。







お読みいただきありがとうございます。

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