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2話

お待たせ致しました。

2話でございます。

視点は神咲くんです。




僕の名前は神咲緋也。

ついこの前、倒瀑から都界に出てきた田舎者です。

困っていたところをアーク様に助けてもらって、その恩返しの為にV.Cに入社することになりました。


アーク様の会社は所謂悪の組織。

具体的に何をしてるかはまだ教えて貰ってないけど血生臭いらしい。でも社員の人達は清潔感のある優しい人ばかりで、正直普通の亜人にしか見えない。戦闘を担当する人達は別にいるのかな?

アーク様が戻ってきたら聞いてみようっと。


あ、仕事で思い出した。

アーク様は僕に書類仕事を頼みたいって言ってたっけ。高等学校はちゃんと卒業したものの、人並みの学力しかない僕にもできる作業だといいんだけどな……

必要とあらば泥でも血でも被る覚悟はあるんだけど、なんとなくアーク様は僕にそれを求めてない気がする。実家の事を気にしてるのかな?

僕の実家は極道・ヤクザと呼ばれる家で、倒瀑エリア全てを治めている「倒瀑連」の下部組織、9つの家で構成される「鬼神会」の序列1位「神咲組」…と言っても、カタギさんには分からないよねぇ。えっと、ゲームで例えるなら中ボス位の力をもった家って事。うん。伝わるといいな。

僕は家業の手伝い…尋問とかカチコミとか抗争とか…には参加しなかったけど、家のどこかしらで怒声やら悲鳴やら発砲音やら聞こえてたから、色々慣れたというか、常識はズレてるだろうなぁとは思う。

兄2人は超人的な身体能力を持っていて、車より早く走るしバッタみたいにビョーンと飛び跳ねるし、刃物で傷をつけることは無理だし、銃弾すら弾いていた。父は次代は安泰だと大喜びしてたけど、僕は人間離れしすぎて婿の貰い手があるのか、お嫁さんがきてくれるのか、不安しかない。

ちなみに僕の身体能力は超平凡。特に特技は無し。逃げ足が早い位かな。


………会社に貢献できるよう全力で頑張ります!


とりあえず今は目先の事に集中しないと。

アーク様達は会議に行っちゃったので、ド派手なピンクのスーツを着た受付嬢♂さんと、カマキリの怪人だという綺麗なオフィスレディのプレディカドールさんから色々教わってます。


V.Cは大昔は暗殺ギルドだったけど、今は人材派遣業を装って『世界征服・世界統一』をスローガンに、なるべく一般人に被害を出さないよう『ヒーロー協会』と戦っている、ってところまで聞き終えたな。


「アーク様もそうですが、取締役のクローフィ様が世界を手に入れた後の後の事まで考えておられるのよ」


切れ長の黒目をうっとりと細めながらプレディカドールさんは続ける。


「『民無き国は国にあらず、民無き王は王にあらず』世界を手に入れても、それを支えてくれる人々がいなければ意味が無い。労働力としても必要ですしね」


受付嬢♂さんはうんうん頷いて続けた。


「権力者が権力者でいる為には、そう認めてくれる民が必要になるわねぇん。俺は偉いんだぞって威張るだけじゃ権力者とは言えないものぉ。認めて支持してくれる民がいないとねぇん」


だから悪の組織とはいえ一般人相手に暴力事件を起こしたりとか、殺傷事件を起こしたりしないんだなぁ。そんな事したら将来の労働力が減っちゃうし、恐怖による統治は長続きしない。


「お話を聞いてると正義側があまりにも考え無しのトリガーハッピーに思えてくるので不思議です。例え世界を更地にしようと、国民が誰一人いなくなろうと、悪の組織を壊滅させたら万事解決なんの問題も無いと思ってそうで」


そんな事になったら世界の終わりだと思うんだけどね。なんだろう、創造の前に破壊ありとか思ってるんだろうか。どこの破壊神だ。


「実際似たような考えなんじゃなぁい?どんだけ周りに被害を出そうが悪との戦いには犠牲は付き物とか、素で思ってるわよぉん」


「正義は自分達にあるのだから何をしても許される、とか思ってるでしょうね」


頬杖を付く受付嬢♂さんと、顎に人差し指を当てながら首を傾げるプレディカドールさん。


「昔からこんな感じなんですか?」


僕の質問に、2人は顔を見合わせた。


「……ワタシ現界してそこそこ経つけど、やばさが増したのはここ数年の事じゃないかしらぁん」


「私もそこまで古株ではありませんが、50年前くらいから『協会』の動きが変わった気がしますね」


「そうなんですか…『協会』で何かあったのでしょうか?」


うーんと考え込んでしまった2人。

先に復活したのは受付嬢♂さんだった。


「関係あるかは分からないけど、ちょうどその頃『韓紅(からくれない)家』に久しぶりの『2系統』が産まれたってニュースはあったわねん」


「あぁ……『協会』に最も近い家ですか。ありましたねそんなニュース」


そういえばと思って質問してみた。


「あの、そもそも『協会』ってどんな組織なんでしょうか?極道みたいに会の下に〇〇家とかいくつもある感じですか?」


「あ、神咲さんにはそこから説明しないとわかりませんよね。失念していました」


「ワタシ達もそこまで知ってる訳じゃないけどぉ、1番上は代表理事、グロリアス・サンクルーエル。名前以外は何も分からない謎の人物よん。ミステリアス通り越していっそ不気味よねん。で、その下に『望遠鏡』っていう諜報部隊があって、そいつらがワタシ達と直接戦闘する戦闘部隊に情報を渡したり、理事の指示を伝えたりしてるみたいよん。まぁ戦闘部隊については、アーク様から教えられると思うわん。代々戦闘員を排出してる家はたくさんあるんだけど、正直何百あるか、こっちも有名所以外は把握してないのよねん」


「受付嬢♂さんは戦闘もしますからそこまで知っていますが、私は内勤専門ですから、あまり詳しい情報は降りてこないんですよね」


僕は首を傾げた。


「戦闘する人としない人では情報に差があるんですか?てっきり全員に情報を回すものだと思っていましたが」


「アハ、そりゃあ戦闘部隊と内勤じゃ必要な情報が違うものぉ。内勤に敵の弱点伝えても仕方ないでしょぉ?」


「そうですよ。フフフ。内勤にに必要な情報は、戦闘規模と被害状況。見積書を出さないことには復興支援金も出せませんからね」


なんか僕の知ってる悪の組織と違う。

ヤクザより情報系統しっかりしてるんじゃない?


「すごく、ちゃんとしてるんですね」


「どういう意味よぉ〜」


ケラケラと笑う受付嬢♂さん。


「フフッ。神咲さんはおもしろいですね」


プレディカドールさんも口元に手を当てて上品に笑った。






他にも雑談も含めて色々話を聞いたけど、だいぶ時間が経った頃、アーク様が来たのでお開きとなった。




広い通路をアーク様と歩きながら、はてどこに行くんだろうと内心首を傾げていたらアーク様が口を開いた。


「神咲くん、幹部会で正式に君を採用する事が決まった。これからよろしく頼む。まぁ元々採用するつもりだったが、上に立つ者として一応、な」


「はい!精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」


「期待している。明日は1日自由にして構わないんだが、今日は住居や誓約書などの手続き関係をネーロに従って済ませてくれ。応接室でネーロが準備している」


「わかりました」


「俺様はやる事があるのでこの後同席はしないが、連絡事項を1つだけ。1週間後、君をトカイモールの戦闘に連れて行く。此方の事情の為申し訳ないが、君に拒否権は無い。ただ優秀な戦闘員を数人つけるから危険は無いと思う、安心していい」


僕は思わず瞬きを数回。

戦闘には出さないって言ってたような気がするんだけど、どういう事だろう?


「えっと、戦闘員としてではなく、見学で同行って事でいいですか?」


「そういう事だ。すまないな、内勤専門で雇うのは変わり無いんだが、今社内に君を残していく方が危険なんだ」


……会社の襲撃予告でも来たんだろうか??


「はぁ…決定事項なら、わかりました。当日お邪魔にならないよう気をつけますね」


「うむ」





ちょうど応接室に着いたのでアーク様とは別れ、中で待っていたネーロネーヴェさんに促されて椅子に座った。


「改めての自己紹介は不要かと思いますが、ネーロネーヴェですわ。ネーロと呼んでもらって構いません」


「わかりましたネーロさん、よろしくお願いします」


「ではこちらの誓約書を読んで、名前と血を1滴垂らして下さい」


「はい」


さっと内容を読んでさらさらと名前を書く。冷たいから氷の針かな?を渡されたので躊躇い無く人差し指を刺して血を垂らす。誓約書が光った!わあ、なんか感動……

なんでネーロさんはキョトンとしてるんだろう?


「……もう少し躊躇うかと思いましたわ。血の契約ってそちらでも一般的なものでしたの?」


「血判はありましたけど、僕の実家みたいな職業の上層部が重要な契約に使っていただけで、一般的ではありませんね」


「…そうですか」


うーん。ネーロさんが頭痛を我慢するような顔になってしまった。もう少し躊躇う素振りだけでもするべきだったろうか。


「こほん。では次に住居ですが、神咲さんの安全の為にも社員寮に入ってもらいたいのですわ。内外セキュリティ、防音・防火・防爆・防水・防腐・防刃などなど頑丈さには定評がありますわ」


「防爆に防刃…怪人さんの為の寮だからですか?凄いですね」


「過去に戦闘後の高揚感と興奮のまま暴れる社員がおりましたので、どうせならと技術開発部門に最高水準のものを用意させましたの」


「あはは…あ、でも、怪人さん専用の寮でしょう?僕が住んで大丈夫なんですか?」


「問題ありませんわ。寧ろ安全面を考えて、余程ののっぴきならない事情が無い限りは寮に住むようにとアーク様も仰っていますわ」


…余程ののっぴきならない事情って例えばなんだろう?


「そういう事でしたら特に何もありませんので、入寮手続きをお願いします」


「わかりましたわ。ではここにもお名前と血を1滴垂らして下さい」


「入寮にも血の契約するんですね」


「血で認識するセキュリティもありますので」


そんなのあるんだ…悪の組織の技術力凄いな…

そう考えながらも先程と同じく血を垂らし、契約書が発光するのを見つめた。





他何枚か必要な書類を書いて(血は垂らしてない)僕の入社手続きは終わった。ふぅ、書類を書くだけでも結構疲れるんだな。今まで書いた事無い枚数書いた気がする。


「お疲れ様でした。必要な事は終わったので今から入寮できますわ。総務に寄って寮の鍵と、まだどこに何があるかわからないでしょうから社内マップを受け取って下さい。その後は自由にしてもらって構いませんが、買い出しが必要であれば蟻のフォルミーカに頼んで下さい。神咲さん自身の外出はまだ許可できませんの」


「はぁ…わかりました」


……やっぱり襲撃か何かあるのかな。


「総務は応接室を出てすぐ左にありますわ。それでは、私はこれで。これからよろしくお願いしますわ」


「はい!こちらこそよろしくお願いします!」





そのままネーロさんと別れて、言われた通りに総務に行った。規模がデカくて4つある窓口は役所か銀行かと思った。

蜘蛛の怪人--目が沢山あるし牙もあるけど黒髪の和風美人--アラーニャさんに寮の鍵と社内マップをもらい、マップを見ながら1階渡り廊下で繋がっているらしい社員寮に向かった。




渡り廊下の先はどこの高級マンションだよ!と言いたくなるようなエレガントなエントランスで、管理人らしき鹿の怪人さん--エラポスさんと言うそうだ--に鍵を見せると5階の角部屋だと教えてもらった。

エレベーターに乗って5階で降りると、通路の奥を目指して歩いた。

今日から住む僕の部屋はエレベーターから近すぎず遠すぎず、中々良い場所だった。隣や斜め向いの部屋とも少し距離があるから騒音とか気にしなくてよさそう。あ、そもそも防音か。


カードキーをピッと通して、恐る恐る中に入る。


「お、お邪魔しまぁす…今日から僕の家だけど…」


玄関はちょっと広め。1人暮らしなら十分なサイズのシューズボックスと、少しの収納スペースがある。

ポチポチとスイッチを操作して、廊下とリビングらしき場所の明かりを点けた。


「わぉ。家具付だとは思ってたけど、ちょっと立派すぎないかなコレ…」


素材が何かはわからないけど適度に反発してくるソファーに、木目調の壁面収納付テレビボード、なんかオシャレな観葉植物、モノトーンのカウンターキッチンまであって、何ここモデルルーム??


「えー…リビングダイニングってやつ?他の部屋見るの怖くなってきたな…」


とりあえずたくさん入りそうな収納の脇にあった扉を開けると、小さめのデスクセット。リモートワーク用かな?

廊下に戻って引き戸を開けると、脱衣所と洗濯機があった。その先の扉を開けると浴室で、シャワーと一般家庭サイズの浴槽があった。あれ?トイレは?

ユニットバスだと思ってたからトイレも同じ場所だと思ってたけど、どこだろう?


…玄関の収納スペースの隣がトイレでした。


ちなみにデスクセットがあった部屋の隣が寝室で、大きめのクローゼットとシングルベッドがあるだけのシンプルな部屋はなんか安心した…

なんなら僕この部屋だけで生活できる…


「これ、間取りで言うと何になるのかな?2LDK?寮って言うよりマンションのモデルルームでしょ…皆の部屋こんななのかな…」


ごろりとベッドに転がって独りごちる。

なんか凄い所に就職しちゃったなぁと思いながら、色々疲れていたのもあってそのまま眠ってしまった。








◆◆◆







翌日。ガッツリ眠ったからか身体は軽く、ただ昨日は何も食べていなかったので空腹感が強かった。


「ふぁ。そういえば今日は休みだっけ。でも外出は出来ないってネーロさん言ってたし、ご飯どうしようかな」


とりあえず棚に置いてあった未開封のタオルを開けて置いて、シャワーを浴びるとリュックから適当にTシャツとジーパンを引っ張り出して着た。

財布と携帯端末だけ持って、しっかり部屋の鍵を閉めるとエレベーターに乗った。売店か食堂みたいなのあるといいなぁ。それかコンビニ。よくマンションとか1階テナントに入ってるけど。昨日よく見ないまま部屋に行っちゃったからなぁ。


ポォンと音がしてエレベーターが止まる。1階に着いたようだ。とりあえずエレベーターを降りて、フロントに向かった。よかった、エラポスさんがいる。


「おはようございます、エラポスさん」


「おはようございます、神咲さん。ワタクシに何か御用でしょうか?」


鹿角につけた鈴をリンと鳴らしながら、エラポスさんはニコリと微笑んだ。


「えぇ。僕まだ外出出来ないので、どこか食事をとれる場所はあるか聞きたくて」


「それでしたら、寮に24時間営業の食堂がありますので食券を購入して料理番に注文するか、食堂の隣に売店もありますので軽食が購入できますよ」


エラポスさんは寮の案内図を指しながら丁寧に教えてくれた。


「わかりました、ありがとうございます」


エラポスさんにお礼を言うと、フロントの隣の通路に向かった。直ぐに食堂と売店の案内板が見えたので券売機を探してメニューから適当に選ぶと料理番に注文した。料理番は牛頭のお兄さんだった。




お店で食べるような美味しい食事を終え、携帯端末を見るとまだ午前中で。とりあえず売店で飲み物をいくつかと菓子パンを購入して、一旦部屋に帰る事にした。まだ持ってきた服とかクローゼットにしまってないし、日用品で足りないものをリストアップしないと。今日は身の回りを整える事で終わりそうだなぁ。




部屋に戻って黙々と作業してると、まぁまぁな数の日用品の買い出しが必要だと分かった。えっと、外に買い出しが必要だったら、フォルミーカさんに頼めばいいんだっけ。

…寮から総務に行くだけだったらTシャツとジーパンでも大丈夫かな。

とりあえず服装はそのまま総務に行くことにした。






「ハァイ、承りましター。では今夜にでもお届け出来ると思いまスのでお待ちくださいネー」


買い物リストを渡すと、触角をピコピコしながらフォルミーカさんは請け負ってくれた。

用は済んだから寮に戻ろうとすると、アラーニャさんが声をかけてきた。


「神咲さん、アーク様から言伝を預かってますッシャ。目を通しておいて欲しいッシャ」


そう言って渡された茶封筒を受け取り、今度こそ寮に戻った。





適当にペットボトルのお茶を飲みながら、机に置いた茶封筒に視線をやる。明日の事か、それとも他の事か。


「なんか開けるの怖いなぁ…」


でも見ない訳にいかないし、深呼吸してから茶封筒を開けた。



『明日10時、寮のエントランスにプレディカドールを向かわせるから一緒に出社してくれ。それと彼女に君の『ランク証』を預けるから受け取ったらつけるように』



プレディカドールさんが来てくれるのか。知ってる人が来てくれるならちょっと安心できるな。

それよりも『ランク証』ってなんだろう?名札みたいなものかな。明日説明あるといいんだけど。


とりあえず今日が終わるまでは、ゆっくり過ごそう。







お読みいただきありがとうございます。

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