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140字小説まとめ4

作者: 葵


僕は、零。名前の通り、空っぽだ。一郎くんや健二くん、三太くんに四織ちゃんは存在感があって、すごい。後ろに誰かがいれば、その子を頼りにできるんだけど、誰もいなかったら、僕はいない存在となる。たった一個の点で距離を置かれてしまうんだ。

 

ああ、今日もまた、右斜線で消されてしまう。


『しょうすうの0くん』







「ねぇ、ちょっと」

『ん?』

「約束の時間、とっくに過ぎてんだけど」

『え、だってその日……』

「晴れよ」

『えっ、うっそ! まじ!?』

「はぁ……何ポンコツかましてんのよ」

『ご、ごめんなさ——』

「一年後にゆっくり話し合いしましょ、彦星」

織姫は星送り社の公衆電話を乱暴に切った。


『出会えなかった』







「はぁ……」

「どうしたのですか?」

「娘の織姫と義理息子の彦星に星送り社の公衆電話をあげたのは間違いかと思ってな」

「大丈夫ですよ、短い時間のテレカですし、お二人とも仕事は怠けていませんから」

「そうだな。ここのところ雨続きだったからな」


よし、推しカプの平穏は今日も保たれた。


『従者は今日もひっそり働く』







お母さんの足首に鎖がついていた。小さい頃は分からなかったが、大きくなって父親が母親を監禁していることが分かった。僕は母親を助けることに尽力すると決意した。

「お母さん、僕が助けるよ」

僕は母親に手を伸ばそうとしたが、僕は倒れてしまった。

「邪魔しないで」

 母親に殴られた頬が、熱かった。


『共依存両親』







ある日を境に、私は皆から無視された。原因は分からない。何回呼びかけても、何回話かけても、必ず無視される。この展開、見たことあるような……

すると、坊主頭で袈裟をきたお坊さんらしき人がこちらに歩いてきた。やっぱり私は死んで――

お坊さんは、私を抱きしめた。

「私は一生貴方の味方ですよ」


『ヤンデレ展開』







「ママ見てー! すずき!」

息子がそう言ってススキを指差した。私は思わず吹き出してしまった。正しい名前を教えようとしたら、近所の奥さんが話しかけてきた。

「あら、奥さん……危ないわよ。ここ、先月鈴木さんって人が殺された場所なのよ……」

息子は、笑顔でススキを見つめていた。


『子どもがミエル世界』







私は、とあるVtuberに恋した。お金がないけどいつも投資しているし、新衣装が出たらスクショ祭りだ。時間が合わなくて配信はアーカイブで見ているけれど、幸せだ。

 

さて、そろそろ時間だ。

パソコンの画面前に座り、推しのガワを被った。

可愛いガワと可愛い私で、リスナーを虜にさせるよ!


『ヴァーチャルナルシズム』







俺は転生した。毎日ご飯が食べれて、学校で勉強をして、放課後には友達と遊んで、苦しくてつらいこともたくさん経験して、好きな人ができて、恋愛に試行錯誤して、誰かと結婚して、家族が出来て、老後はのんびりと……


こんな転生したいな……

僕は、お母さんに殴られながら、そう思った。


『幸せな転生』







「ねぇねぇ、Twitterが鳩になったんだよ」

「はぁ? はとぉ?」

「うん! ほら、こうやって上にスクロールすると、鳴き声が……」

「えー……まあ聞こえなくもないけど」

「でしょ! これで、本格的に鳩になったよね!」

友人はTwitterのロゴマークをジッと見つめた。

……鳩じゃねぇよ、それ


『鳥違い』







『この人を探しています』

Twitterに、行方不明者情報が流れてくるようになった。早く見つかりますようにと願いながら、拡散する。すると、俺のDMに写真が送られてきた。

『貴方の探している人、この人ですか?』

あ、俺の恋人だ……。

よかった……これで復讐できる。

この結婚詐欺師めが。


『人探し』







「見てー! 上手に描けたよー!」

「すごいなぁ、上手だ」

「次は『お友達』を描いてあげる!」

「そうか」

「うん! だから、じっとしててね!」

「……ああ」

俺は、白い紙にクレヨンを滑らせる角ばった手を見た。これから、俺はこの子と、暮らす。

車から庇って、脳に重傷を負った、友人と……


『平和な暮らし』







「ただいまー」

「おかえり」

「なぁ、風呂湧いてる? 飯は?」

「どっちも用意してあるわよ」

「ふーん……品揃え良し。じゃ、先に飯食べるわ」

「うん、どうぞ」

「……なぁ、味気に入らないかもしんないから毒味して?」

「え?」

「ほら、食べな……君が毒を入れた料理をさ。見ててあげるから」


『最後の晩餐』







昔は、お見合い結婚だったの。あなたのおじいちゃんとおばあちゃんもね。おばあちゃんは最初、結婚が辛くて、家事育児も一人でしてたの。その内、おばあちゃんはうつ病になって……その後自力で克服して、おじいちゃんや孫大好きで、誰からも愛される素敵な人になりました。あ、元から素敵だったわ。


『幸せなお話』







友人の恋愛相談にのることが多い。大抵惚気話だけどな。相談を持ちかけられる度、友人に早く結婚しろ、とせっついていたが、とうとう結婚することにしたらしい。

「相手の写真、見せてよ」

友人ははにかみながら、スマホを見せた。

枕とのツーショットを。

「可愛いだろ? 純子って言うんだ」


『枕〈奥さん〉』







「もう嫌だ……この世にいたくない……つらい……」

「そっか……でも、もう大丈夫!」

「え?」

「今の君にピッタリのものがあるんだ!」

友人がゴソゴソとバックを漁り始めた。何かの勧誘? 人間不信になりそう……。

 

「見て! 君に合わせた自決を今ならなんと、無料で選んでくれるんだ!」


『死にたがり屋』







友達が村の人身御供に選ばれた。私は、友達の前でボロボロに泣いた。反対に、友達は笑顔だった。

「私たちは一緒になるんだよ! 後ろ見て!」

後ろには、村の男たちがいた。

「『じんしんおとも』だから、もう一人必要だよね!」

私は改めて、思い出した。村は頭が悪い奴らがたくさんいることに。


人身御供(ひとみごくう)







「可愛いわ〜。幾つなの?」

「この間、10歳になったばかりで」

「大分年が若いのねぇ。私のなんてもう20歳なのよ」

「奥様の人間は青年タイプなのかしら?」

「ええ! もう日に日に大きくなって……」

「私の人間は子供タイプですので、少し羨ましいです」

「あら、お世辞がうまいわぁ、ホホホッ」


『人飼い主』







「先輩痩せたんですか?……美人さんだぁ……」

「ふふっ、ありがとう」

「どうやって痩せたんですか? 教えて下さいっ!」

「いいわよ。待ってね、今私が行きつけのジムのHPを……」

 

先輩はニコニコでスマホを正面に掲げた。

だが、段々と先輩の顔が曇っていった。

「……顔認証が、通らない」


『痩せた弊害』







ヤダ! おじいちゃんがいない!」

「徘徊ね」

「どうしよう! また……」

「落ち着いて、大丈夫よ」

「だって……」

「とにかく、私が行くから」

私は家から出ると、しゃがんだ。

「出てきて下さい!」

そう叫ぶと、お義父さんが軒下からニヤリと笑う姿が見えた。

洗濯が、また大変になるわ……


『軒下徘徊癖』







「今日はどうされましたか?」

「お腹が痛くて……」

「……分かりました」

医者が、最新の医療AIを起動する。患者の痛みや苦しみを分析して、医者に伝えるらしい。人型の医療AIは目を開けると、私をじっと見た。

「分析シマシタ」

医療AIは、医者の腹に重いパンチをくらわせた。

「患者ノ痛ミでス」


『脳筋AI』







最近部屋が綺麗すぎる。チリ一つ、この部屋に舞っていない。なんでだろう? 掃除した記憶もないのに……私は気味悪く思って、スマホから見れる防犯カメラを置いた。仕事での昼休みに見てみると、部屋の隅で物音がした。すぐにカメラを操作する。

 

小さなおじさんが、せっせと雑巾がけをしていた。


『掃除好きの小さいおじさん』







「なんでこんな部屋が綺麗なのに、事故物件なんですか?」

「何でも、小さなおじさんが勝手に掃除するらしいんですよ……気持ち悪いですよね?」

「逆に有り難いです! 私、掃除苦手なんで!」


あの言葉が嬉しかったから、僕は今日も君の部屋を綺麗にする。 

君がこの出来事を覚えてなくとも。


『小さいおじさんの恩返し』







午前二時。ほとんどの人は、寝静まった時間だ。この時間こそ、至福の時。夜食をいっぱい食べて、遊んで、めいっぱいゴロゴロする。昼はたくさん人がいるから、あまり元気にならない。そうこうしているうちに、もう明け方だ。やばい、眠気が……

 

「ハムちゃん、寝てばっかりー」

「夜行性だからね」


『ハムスターの時間』







いつも「いいね」をしてくれるフォロワーさんがいる。嬉しいなぁ、認めてくれて。私も「いいね」をしているが、ここまで沢山はしていない。だから、私はお礼をDMで送った。返事は割とすぐに来た。

 

すみません、既読感覚で『いいね』をしてます……

 

私は、そのメッセージにハートを送った。


『価値観人それぞれ』







今日は大嫌いな先生の葬式だった。というか、ほぼ全生徒から嫌われている先生だ。葬式中のヒソヒソ話が悼む言葉ではなく、罵詈雑言の嵐だった。俺もその一味で、隣の奴を陰口に巻き込もうとした。すると、隣の奴は涙声で言った。

 

「僕は、一生懸命生徒を導こうとしてくれた先生が、大好きだったよ」


『四面楚歌でも』








友達とカフェに行ったら、店員がミスを連発した。注文は間違えるわ、水はこぼすわ、パニクるわで散々だった。けれど、友達は気にする事なく、店員に優しく接していた。店員が謝って席から離れた後、俺は友達の対応を褒めた。

 

「あの店員は優しくするほど、申し訳なさと罪悪感が増すタイプだからね」


『わー……』







「席、どうぞ」

「えっ? だ、大丈夫ですよ!」

「いいえ、赤ちゃんをちゃんと労らなきゃダメですよ……妊娠何ヶ月目ですか?」

「あっ……三ヶ月です」

「だったら、尚更ですね。遠慮なさらず」

「えっと……すみません……」

 

真ん前に臨月の妻が吊り革で必死に立ってるのは無視するのね、旦那。


『見えてないんか?』







僕の夢の中に、誰かが立っている。いつもこの時期になると、ある事を確認しに来るんだ。

「忘れてないかい?」

「うん、もちろん!」

「ありがとう」

等々の言葉を交わして、正午ギリギリに目覚める。そして、慌てて軍隊姿の曾祖父の写真を手に取り、礼服を着て、正座をして、目を閉じ……


『黙祷』


『曾祖父との会話』







「見て! パトリシアのお洋服、素敵だと思わない?」

「ほんとだ、可愛いね〜。パトリシアちゃんも喜んでるよ」

「うん……」

「あれ? どうし――」

「人形しか愛さない私を、受け入れたのは、貴女だけよ……だから」

 

貴女も人形になって?


友人は涙目になりながら、青く光る手の平を私に向けた。


『哀しい人形使い』







「ミステリー賞受賞、おめでとう!」

「あんがと」

「どうやったらあんな殺人事件のトリック思いつくんだよ〜、天才か?」

「……実は、あれは僕の願望なんだ」

「え?」

「時々、誰かをこの手で葬りたい衝動に駆られるんだ……。僕にとってミステリーは、その抑止力だよ」

友達は、自嘲気味に笑った。


『理性的な僕の友達』







やばい……明日の試験を合格するには、粘土で指定されたものを制限時間内に作っておかなければならない……。今年は閻魔大王に兎に人間……? とりあえず、イラスト系YouTuberの人が過去問出してるから、見よう!

このままでは、運転免許を取得できない!

 

「っていう、夢見た」

「カオスだなぁ」


『緊張しすぎ』







友達はボロボロだった。今にも崩れ落ちそうなのに、歩を進め続けている。

「なぁ、もう休みなよ」

「嫌だ。俺は要領が悪いから、止まれない。進まなきゃ」

「でも、見てられないよ。逃げようよ」

「……逃げた先にあるのは、そのツケだよ」

僕はハッとして、腕を離した。

友達の姿は、消えてしまった。


『歩みを止めずに……』







監禁されて、何日目だろう? 外部の情報が一切入ってこないので、世間に置いてけぼりだ。僕を閉じ込めた彼女は、今日も僕のために身の回りの世話をする。

「私と貴方は一生、ここで暮らすんだよ……ずっと一緒だよ……」

彼女は歪な笑顔を僕に向けた。

 

ああ、やっと僕なしで生きられなくなったね。


『飼い慣らす』







電車の向かいの席に、年の離れた姉弟が寄り添って寝ていた。お姉さんが先に起きて、私と目が合った。

「よく寝た?」

「ああ、まあ」

「弟さん、可愛いわね」

「……海に行きたかったんですよ」

「そう」

 

「死ぬ前に、見せたかった」

私は、苦しそうに言うお姉さんを見つめた。

……途中下車ね。


『あの世行き電車の一幕』







ひったくりにあった。私は叫び、バイクに乗った犯人をダメ元で追いかけた。その時、突然女の人が現れて、犯人に飛び蹴りをかました。バイクが横転し、私は唖然とした。我に返って女の人にお礼を言おうとしたが、女の人は携帯電話を耳に当てた。

 

「ごめん〜。近くにいたバイクと女がうるさくてさ〜」


『自分の都合』







「お姉ちゃん、私にお化粧して! メイクの仕事に就いたんでしょ? お願い!」

「退院したらね」

「やった!」

 

「……って言ってたなぁ」

私は妹の閉じられた瞼を化粧しながら、思い出を懐かしむ。

「綺麗になったよ」

妹の白い肌を優しく撫でた。

「綺麗!」

大人になった妹は、無邪気に笑った。


『約束の時間』







ついに倒したぞ……! 村の人々を脅かす、この悪党め……! 村中の子供を攫った罪を思い知れ! 後は部屋の隅で震えている子たちを救って……と、手を伸ばしたら、一人の子がナイフを投げた。俺は目を見開いた。

 

その子の目は、ギラギラと燃え盛っていた。

化け物に惑わされたのか……息子よ……


『狂気に染まってしまった子』








化け物、悪党という呼び声が高いやつに、救われた。村の大人たちに教え込まれていた「しつけ」は、ただ僕たちに不満をぶつけられることであったと、その人は教え、あたたかい、無償の愛をたくさんもらった。

 

……それを、父さんはじめ、村の連中が壊した。

だから、みんなで、こいつらをたおす。


『復讐に手を染めた子』







優しい人と意地悪な人がいた。そいつらには、共通の友達がいる。友達はどちらにも平等に接し、仲良くしていた。だがある時、二人は友達と仲がいいのは自分だ、と喧嘩した。それはもう、周りの人がドン引いてしまう程。最終的に、友達に決めてもらうことにした。


「えっ、どっちも友達じゃないよ?」


『居た堪れない』







「お前って、真面目だよなー」

何気ない一言のつもりだったが、笑っていた友人がいきなり真顔になった。

「怒られるのが怖いから仕方なく取り組むこと、できない認定されるのが嫌だから取り組むこと、頑張らなきゃ平均に到達しないから取り組むことを真面目というの?」


友人の目は、死んでいた。


『「苦しい」』


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