第14話:代打、俺!?
ジュウゾウの右腕を見ると、身体の他の部位よりも多くの打撲痕があった。
特に手首辺りが赤く腫れている。
俺たちの作戦は、ジュウゾウから宝刀を奪ってミケがそのスキルを使用し、ヤツの自由を奪うこと。
ミケは右手首を攻撃して宝刀を落とすように仕向けたのだが、重点的に攻め過ぎたから、狙いがジュウゾウに悟られてしまったのだ。
「ミケの狙いが宝刀だとジュウゾウにバレたから、ヤツはあえて宝刀を落としたんだよ」
レミさんが悔しそうな声を上げる。
「とにかくミケを助けないと!」
浮いているJUピー!に視線を向ける。俺の魔術でどうにかしないと。
「下手なことはするな。お前が妖術を使うとこの娘も道連れだ」
少し視線をJUピー!に動かしただけで、ジュウゾウに俺の意図がバレてしまった。
ヤツは吊るし上げたミケを俺たちに見せつけるように前に出す。
これでは擬音を使ったときにミケまで巻き添えを食らってしまうかもしれない。
「レミさん、どうしましょう?」
情けないが俺ではうまい策が思いつかない。
レミさんなら、きっと一発逆転の妙案を閃いてくれるはずだ。
俺が横目でレミさんの動向を伺っていると、レミさんが一歩前に出た。
「ジュウゾウ! ミケを解放しろ! 代わりに私が人質になる!」
予想外の行動に、俺は言葉を失った。ジュウゾウも目を見開いたまま固まっている。
「な、何を言ってるんですか!?」
驚きのあまり、俺の声は裏返る。レミさんは俺のことなんて気にもかけず、まっすぐジュウゾウを見据えていた。
「だ、だめでござる……レミ殿」
ジュウゾウより先に反応したのはミケだった。
髪を掴まれて宙吊りにされながら、どうにか絞り出す声。
痛々しい姿に、俺は恐怖と何も打つ手のない自分への苛立ちを覚える。
苦悶の表情のミケと目が合う。
その瞳には迷いがないように感じられた。
「あ、主殿……あとは任せたでござる……」
ミケは懐から何かを取り出すと、勢いよくそれを俺に投げてよこした。
それを受け取ろうと手を伸ばすがうまく掴めす、腹に直撃する。
グッと息が詰まりかけるが、どうにかミケが投げてよこしたものを手で受け止めた。
それは宝刀の鞘だった。
本来の作戦ではこれを使うのはミケの役だった。それを俺に渡すということは……。
嫌な想像をしそうになり、振り払うように頭を振る。
「勝手な真似をするな!」
ジュウゾウがミケをさらに高く持ち上げた。
苦しそうに顔を歪めるミケ。
「ヤツに何を渡そうと無駄なことだ!」
ジュウゾウが吠える。
確かに宝刀の鞘だけ渡されてもスキルは使えない。
肝心の刀はジュウゾウの足元に落ちたままだ。
あれを拾いに行って、ジュウゾウがすんなり拾わせてくれるとは思えない。
「レミ殿! あとの時間稼ぎは任せるでござる!!」
ミケは胸元に手を入れると、ペンダントに付いた保護具を手にする。
力任せに引っ張るとチェーンが千切れた。
次の瞬間、ミケの身体から閃光が走る。
間近で光を受けたジュウゾウは目を閉じ、ミケの頭髪を掴んでいたはずの指はその感触を失った。
ミケの姿は犬になったのだ。
長い髪は短い体毛になり、着ていた衣服がスルリと地面に落ちる。その衣服の中から小さな犬が現れたかと思ったときには、犬は力強く地面を蹴って跳躍し、宝刀の柄を咥えていた。
そのまま犬のミケは俺の足元に辿り着くと、ヘタリと地面に倒れ込んだ。
ミケの種族はこの世界では保護具なしでは犬の姿に退化して眠りについてしまう。
ミケはその変化の一瞬を利用して、宝刀を俺に届けてくれたのだ。
「ポチくん! 君がミケの代わりに宝刀のスキルを使うんだ!」
状況を理解したレミさんが、ただ状況を観察していた俺に指示を出した。
ミケが力なく口に咥えている宝刀を拾い上げる。
もう一方の手には宝刀の鞘。
まさか、俺が宝刀のスキルでジュウゾウと戦うことになるなんて……。
ジュウゾウはまた閃光で眩んだ目をこすりながら、やみくもに腕を振り、誰も間合いに入らないようにしていた。




