第13話:速くて見えない
「主殿! 後ろにさがるでござる」
俺とレミさんは後退りしてミケとジュウゾウから少し距離をとる。
俺たちが後退したのを気配で悟ったミケは、受け止めていたジュウゾウの刀を自身の刀の角度を変えることで器用に受け流した。
「主殿の妖術が効かないのであれば、拙者の出番でござる!」
「お前のようなか細い娘の剣術などどれほどのものか」
嘲るようなジュウゾウの笑みに、ミケも軽く口角を上げる。
どうやらミケは落ち着いてるようだ。
ここでまた激昂していたら、ジュウゾウの思う壺だったろう。
「では、通用するか試してみるでござるよ」
言い終わった次の瞬間にミケはジュウゾウの背後に回っていた。
俺には瞬間移動のように見えてしまったが、文字通り目にも止まらぬ速さというやつだ。
「なにっ!?」
予想外の動きに驚くジュウゾウ。
だが、ミケの速さに反応できているようでミケの刀を受け止めている。
「想定外の速さではあるが、小娘の力に押し負ける我ではない!」
宝刀を持つ腕に血管が浮き上がると、そのまま片腕だけで鍔迫り合いするミケを力任せに押しのけた。
飛ばされたミケは後方に着地すると、次の瞬間にはジュウゾウの頭上に跳躍していた。
素人の俺にはテレポーターの戦いのように見える。動きが速すぎて移動の過程が捉えられない。
「拙者が非力がどうか試してみるでござる! やぁ!」
ミケが刀を振り下ろす。
頭上からの斬撃を受け止めるジュウゾウ。
すると、ジュウゾウがガクっと体勢を崩し、そのままミケの刀がヤツの肩に食い込む。
「ぐっ」
ジュウゾウが数歩後退した。
攻撃を受けたところに赤い打撲跡が浮かぶ。
「峰打ち? 我を馬鹿にしているのか!」
「馬鹿になどしておらぬ。拙者たちの目的はジュウゾウ、貴様の捕縛だ。ここで命を奪うことはしない。罪は帝自らが下すでござるよ」
そこからはミケの独壇場だった。
素早い動きと重い斬撃。
ジュウゾウは辛うじて攻撃を最小限に受けるのがやっとのように見えた。
「ミケの秘密兵器でジュウゾウを倒せそうですね」
横に立つレミさんを見ると、俺の言葉が届いてないのか、じっとミケを見つめていた。
あれだけ自慢していた秘密兵器が効果を発揮しているのに嬉しくないのだろうか?
レミさんの秘密兵器とは、ミケの両手首と両足首に装着したバンド。
身体機能の速度を5倍にする魔術が施されているらしい。
この世界の魔術には法則で反作用があり、この魔術の反作用は体重の増加と硬質化。だが、秘密兵器はそれも上手く利用している。作用と反作用が「やあ!」という掛け声で切り替わるのだ。上手く扱えれば、素早い立ち回りで相手に近づき、体重を乗せた重い攻撃ができる。
ここまでの話だとチートなアイテムだが、実際に使ってみるとかなり扱いが難しい。
特訓中に試しに使わせてもらったが、瞬時に身体の感覚が切り換わるのでうまく動けず、俺は自滅した。しかも身体への負荷も半端ない。
そんなピーキーなアイテムを器用に使っているミケ。
種族の強靭な肉体と反射神経のおかけもあるが、日々の特訓を怠らずに続けていた執念のようなものがあってこそだろう。
このままジュウゾウを追い詰めて、宝刀を奪還してほしい。
ミケから目が離せず、手に汗を浮かばせながらグッと拳を握り締めた。
俺の目には、ミケのヒットアンドアウェイの連続にジュウゾウの身体に打撲による痣が増えていっているように映る。
もし峰打ちでなければ、すでに勝負は着いているはずだ。
捕縛という縛りプレイがもどかしい。
「やあ!」
ミケがジュウゾウの右手首に一撃を加えると、ジュウゾウの手から宝刀が離れた。
カツンと乾いた音を立て、宝刀が石畳の街道に落ちる。ミケがいる場所からはジュウゾウを挟んで反対側だ。
作戦は上手くいった!
あとはジュウゾウより速く宝刀を拾い上げるだけ。
「やあ!」
ミケが秘密兵器を神速に切り替え、宝刀に向かって飛び込んだ。
あと少し!
宝刀の柄に手がかかった瞬間。
ジュウゾウが素早く振り下ろした左腕がミケの背中に直撃し、その勢いのままミケを地面に叩きつけた。
「おかしな妖術で身体を強化したところまでは良かった。だが、まだまだ未熟者だな。相手に狙いを気取られては意味がない」
ジュウゾウは突っ伏したまま動かないミケの髪の毛を掴むと高く掲げた。
「あぁぁぁ!」
髪を掴まれて宙ぶらりんの状態になったミケは、両手でジュウゾウの手首を掴み、髪だけで自重を支えないようにしている。
「ミケ! レミさん、ミケが!」
「ミケは焦り過ぎた……ヤツに作戦がバレたんだ」
「なんで?」
「ヤツの右腕を見てみなよ」
レミさんに促されて俺はジュウゾウの右腕を見た。




