第12話:嬉しくないサービスショット
「また向かってくるか」
ジュウゾウが眉間に皺を寄せて宝刀を下段に構える。
それを受け、ミケも刀を抜いて正眼に構えた。
ふたりは睨み合ったまま微動だにしない。互いに隙がなく踏み出せないのか、学生時代に剣道をしていたくらいの俺には理解ができなかった。
「ポチくん、今だよ」
ミケたちに視線を向けたまま、レミさんが俺の肩をぽんと叩く。
それはジュウゾウ捕獲作戦スタートの合図だ。
「了解です!」
カッコつけて答えたものの、さらに緊張してしまい、額に嫌な汗が浮かぶ。
駄目だ。ここで怖がっていてはすべてが台無しになってしまう。
意を決してベルトに括り付けていたJUピー!を取り出すと、いつものように前方に放った。
「開帳、64ページ。拡大解釈率、中」
滞空しているJUピー!のページがパラパラとめくられていく。
そして、64ページにたどり着くと開いた状態のまま停止した。
これまでに何度も繰り返してきたので、指定したページがちゃんと開いているかと再確認はしない。コマを見なくても使いたい擬音もわかっている。
俺は大きく息を吸ってから、大きな声で擬音を叫ぶ。
ばぃん
次の瞬間。
ジュウゾウのフード付きマントと衣服が弾け飛んだ。
怨霊に使って以来、久しぶりに使用した『炊き立ての流儀』の擬音。
対象の衣服などを弾けさせる効果がある。漫画だと美女の衣服が弾けるのだが、おっさん相手に使用してしまった。魔術はちゃんと発動したのに、内心ではガッカリ感を覚える……。
「なにが起きた!」
上半身を顕にしたジュウゾウが狼狽えた声を上げた。
だが、構えは崩さない。
これが一流の剣士なのだろう。
顕になった身体は所謂細マッチョというやつで、見た目からも強さを察することができる。
ゴツン。
じっとヤツを観察している俺の頭に軽い衝撃が走った。
レミさんのゲンコツだ。
「ちょっと! なんで下まで弾けさせないのさ!」
彼女の怒鳴り声が夜の静寂に響いた。
「全身の衣服が弾けるイメージしたつもりだったんですけど……男の全裸は無意識下で抵抗があったみたいです」
俺は頭をさすりながら言い訳をした。
擬音の魔術は拡大解釈率で漫画のコマに描かれている描写の威力を多少変更することができる。そして、術の対象や細かい効果の内容については俺のイメージしたものに影響される。
ちなみにイメージが拡大解釈率の威力以上だった場合は指定した威力内での現象になる。逆に威力以下のイメージだと余分な力が予想外の現象を起こす場合があるようだ。
つまり威力とイメージのバランスが重要なのだと、この前の特訓で気がついた。
ナーガスや怨霊との戦いではよく分からずに魔術を使っていたが、運良く狙い通りの効果を発動できていたようだった。
……怨霊はともかく、ナーガスを殺してしまうようなことにならなくて良かった。
話を本題に戻そう。
今回はジュウゾウが全裸になるようにイメージしたつもりだったが、どうやら無意識下でそれを拒否していたようだ。
嫌がっている場合ではないのは重々承知しているが、見たくないものは見たくない。その気持ちが術の効果に現れてしまったのだ。
「バカたれー!」
「そんなことよりヤツは人の形のままですよ」
「きっと下半身に保護具があるんだよ! いいからもう一度魔術をかけて! ヤツをひん剥くんだ!」
俺が「ばぃん」を使った理由。
それはジュウゾウから保護具を剥ぎ取り、犬の姿にするためだ。
うまくいけば、それで作戦は終了。
戦わずして勝てる……はずだった。
「ちょっと待て! 何を下劣な会話をしている!」
慌てたジュウゾウが俺とレミさんに怒鳴り声を上げた。
構えは解かれていたが、ミケも脱力していて、戦うような雰囲気ではない。
ジュウゾウは深く息を吐き、気を取り直して俺たちを見る。
その表情は勝ち誇るような笑みをたたえていた。
「保護具の破壊が目的だったか。姑息だが戦術としては悪くない。だが、残念だったな。保護具はここだ」
ジュウゾウは人差し指を口に入れると、ぐっと右の口角を上げた。
「犬歯が一本だけ赤い?」
夜目が効いているおかげでジュウゾウの歯がかろうじて見える。
白い歯の中に一本だけ異質なものが確認できた。
「差し歯が保護具になっているんだ」
レミさんが悔しそうに握った拳を眼前に上げている。
「さよう。いくら衣服を剥いでも意味はない。再びおかしな術を受ける気もない!」
ジュウゾウは両手で宝刀を握ると、ぬらりと前傾姿勢となった。
俺が視認できたのはそこまでだった。
次にヤツの姿が目に映ったのは1メートルもない至近距離。
死んだと思ったが、どうやら無傷のままだ。
ヤツの顔から少し視線を落とすと、俺の目の前にミケがいる。
どうやらミケが俺たちの間に入り、ヤツの振り下ろした刀を受け止めてくれたようだ。
「レミ殿! 作戦はBコースとやらに変更で構わぬな!?」
ギリギリとジュウゾウの刀を両手で握り締めた刀で食い止めながら、ミケが叫んだ。




