第11話:俺は蚊帳の外?
とある街道。
俺とレミさん、ミケの3人はジュウゾウと対峙していた。
すっかり夜も更け、空には満月が浮かんでいる。
ジュウゾウはマントに付いているフードを目深に被り、右手には宝刀を手にしていた。
街灯がない暗闇の中で俺がジュウゾウの細部まで見えているのは、レミさんの暗視魔術のおかげだ。
真っ暗いはずだが俺には昼間のような視界が広がっている。ちなみにミケは夜目がきくので魔術は不要らしい。さすが、犬系の来訪者。
「貴様らがなぜここにいる?」
ジュウゾウの低音ボイスに恐怖を感じ、ゾワリと鳥肌が立つ。汗ばむ手をグッと握りしめ、小さく深呼吸をした。
「自警団の自己犠牲のおかげです。彼らが囮になってあなたを炙り出してくれました」
緊張のあまり噛むかと思ったけど、まるで動じていないような口調で答えられた。
偉いぞ、自分!
ふと横を見ると、ジュウゾウに魔力を奪われて倒れた自警団の人を救護班のふたりが担架に乗せて足早に後退していく。
彼らのおかげでジュウゾウ捜索がかなりスムーズだった。
ゆっくり休んでください。
ここからは俺たちがどうにかします。
「そんなことを問うてるのではない。あのとき、確かに消し飛んたはず」
俺の返答が気に入らなかったようで、少し声色に苛立ちが混じっている。
「ここにいるポチくんは大魔術師なんだ。あんな攻撃で死ぬような男じゃないんだよ」
レミさんが俺の肩に手を乗せて、自信たっぷりに言ってのけた。
この誇大広告みたいなフレーズは俺が初めて召喚されたときに村長とかナーガスにも言っていたな。そんなに昔のことじゃないのになんか懐かしい。
「ほう……」
ジュウゾウが鋭い目つきで俺に視線を合わせてくる。
暗視できる分、めちゃくちゃ恐い!
「ちょっとレミさん! 焚きつけるような発言はやめてくださいよ」
肩に置かれた手を払いのけて抗議する。
正直に言うと、ジュウゾウから視線をそらすためにわざとオーバーリアクションをした。
だって、鋭い視線とずっと目を合わせ続けるのは心臓に悪い。
レミさんはあっけらかんと「相手の冷静さを欠くのは戦いの定石だよ」と言うが、あんな恐い視線を向けられたら俺も冷静ではいられないんですけど……。
「ジュウゾウ! お前を捕らえる前に聞きたいことがある!」
俺とレミさんのやり取りを無視して、ミケがジュウゾウに向かって叫ぶ。
「ミケ?」
俺が名を呼んだことに気づかないのか、刺すような眼光でジュウゾウを睨みつけている。
ここにも冷静さを欠いた人がいる。
こんな状態で作戦はうまくいくのか?
「なぜ帝を……父を裏切ったでござるか?」
「先の戦いでは何も問わずに向かってきおったのに、今さらそんなことを聞いてどうする?」
「いいから答えろ!」
ミケの問いにまるで興味がないというような口調で返すジュウゾウに、ミケはさらに怒気を強めて叫んだ。
まるで駄々をこねる子どもの相手をするようにジュウゾウが口を開く。
「すべては我が一族の悲願のためだ」
「我が一族?」
「我は先代の帝の血族。当代の帝によって滅ぼされた真の王族。それが帝の座に戻ることは必然なのだ」
つまりジュウゾウは先代の血筋で復讐と復権を望んでいるというわけか。
漫画に出てくる敵でよくある動機だけど、リアルでは初めて目の当たりにした。
「真の王族だと? 先代の帝は武を持ってその地位を奪い取った逆賊ではないか! なぜその一族が帝の側近を務めていた?」
ミケが苛立たしげに食い下がる。
「今の帝は実力ある者なら生まれや育ちは関係なく取り立てる。平和ボケも甚だしい。だが我には好都合だった。側近となり、宝刀を奪う機会を伺っていたのだ。宝刀があれば我ひとりでも国崩しは容易い」
ジュウゾウがニヤリと口角を上げた。
「なるほど。でも宝刀に魔力が宿っていなかったから、この世界に来た……というわけだね。アンタの世界の住人には魔力がないから」
レミさんがふたりの会話に横から意見を挟んだ。
これまでの経緯を頭の中で整理しているようで、手を顎に軽く当てて頷いている。
「その通りだ。側近でいるときに異世界に渡る方法も神官たちから聞き出していたからな」
ジュウゾウが得意げにレミさんに答えた。そんなふたりのやり取りにミケは肩を震わせる。
完全に頭に血が上っているな。
どうにかしないと、まともな戦いができなくてなってしまう。
冷静でないとミケの呪具はうまく機能しないはずだ。
「先代の帝の愚行をお前も知っているであろう! それをまた繰り返すつもりか!」
「確かに先代は愚かだった」
「なら、なぜ……」
「反乱軍を退けることができない愚か者だった! だが、我は違う! この宝刀を使い、すべての民を屈服させて理想郷を作り上げる!」
「そんなことが許されると思うな!」
ミケがこれまでで一番大きな叫び声を上げた。
静かな街道に彼女の声が反響し、また静寂が戻ったところで。
スパァァァン!
破裂したような乾いた音が響いた。
レミさんがどこから出したのか不明なハリセンでミケの頭を叩いたのだ。
俺も何度か叩かれたことがある。
確かに痛いけど、音の割にはそこまで痛くはないんだよな。
どちらかといえば、大きな音に驚く感じだ。
「痛っ! 何をするでござるか、レミ殿」
両手を頭に当てて、ミケがレミさんの方に振り向く。
眉が下がり、困惑した情けない表情でレミさんに非難の声を上げる。
「私のツッコミも避けられないくらい感情的になってる場合じゃないでしょ」
レミさんはハリセンを肩にかけ、深くため息をついた。
「ヤツの言い分はもう十分に聞いた。怒りに飲まれてる場合じゃないだろ」
「……かたじけない。レミ殿の言う通りでござる」
ミケは両手で軽く頬をパチパチと叩くと、キッとジュウゾウを睨みつけた。
厳しい表情ではあるが、先ほどまでのような激しい怒りは感じられなかった。
そんなミケを見て、レミさんも表情が和らぐ。
「それじゃあ、始めますか!」
ビシッとハリセンをジュウゾウに向け、レミさんが宣戦布告した。
あれ?
俺の準備とか、心構えとかは?
俺だけ取り残されてませんか?




