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第9話:それってジャージだ

 宝刀は『怨滅根絶バッサーソード』の玩具が聖異物になったものだと判明した数日後、レミさんに言われて俺とミケは特訓を開始した。


 俺たちが滞在している宿からほど近い場所にある自警団の稽古場で、所属兵士の皆さんを相手に実戦さながらの打ち合いを繰り広げている。


 俺ではなくミケが。


 レミさんの新しい作戦ではミケが接近戦担当で、俺はJUピー!でサポート担当。俺の特訓といえばミケの動きをよく観察しつつ、サポートで魔術を使うくらいだ。兵士の皆さんが負傷しないように、使う擬音の拡大解釈率は最小にしている。


 複数人の兵士に取り囲まれているミケは、彼らの打ち込みを涼しい顔でひらりと交わし、隙を見せた兵士の木剣を打ち払っていく。兵士たちの手から次々と木剣が離れ、乾いた音を立てて床に落ちていった。


 ミケは先の戦いで服がボロボロになってしまったので、ソラちゃんが用意してくれた服に着替えている。

 それは俺の世界でいうところのジャージのような材質とデザインだった。

 ソラちゃんの説明では、この都市にある魔術学校の実戦授業で着用する訓練着らしい。それってやっぱりジャージだ。

 防御力は俺が着ている特製のスーツと同じくらいはあるとのこと。

 異世界人とわかると説明なんかが面倒とレミさんが言うので、白いニット帽を深めに被っている。それとソラちゃんが作った術具のリストバンドとレッグバンドを身につけていた。

 術具は、レミさん曰く秘密兵器らしい。


「やあ、ポチくん。やらしい目でミケを見てるようだね……」


 ぼーっとミケを見ていたら、いつの間にか真横に立っていたレミさんがジト目で俺に語りかけてきた。

 確かにジャージ姿のミケは可愛い。

 外見は18歳だが中身はおっさんの俺にとってミケは娘みたいな感じ。もしくは手のかかる飼い犬のような保護対象にしか見えない。


「そんなわけないじゃないですか。変な言いがかりはやめてください」

「それならいいけど。で、特訓の調子はどうだい?」


 いつの間にかレミさんは打ち合いを再開したミケに視線を移していた。

 レミさんの視線の向こうではミケが俊敏な野生動物のように立ち回っている。

 俺は剣術のことはわからないので、ミケがこの特訓でどれくらい強くなったのか判断できなかった。

 そもそもこんな訓練を続けて、ジュウゾウに勝てるのかという不安がある。

 

「うーん。どうでしょう?」


 逆に尋ねるような中途半端な返事をしてしまった。

 

「なんだい、その微妙な返事は」

「自警団の兵士の方々に特訓相手になってもらってますが、ジュウゾウの実力はもっと上ですからね。ミケは楽しそうに模擬戦してますけど、実戦で役立つのか不安なんです」

「それは仕方ないよ。この都市には宮廷騎士は常駐していないから、ミケ以上の実力者はいないだろうね」


 レミさんがフンと鼻息を漏らして腕を組む。

 俺の不安を払拭するようなことは言ってくれないんだな。

 まあレミさんらしいけど。

 

「特訓を見に来るなんて珍しいですね」

「たまにはね。それだけじゃないよ。ジュウゾウ絡みのニュースを知らせようと思って」

「ジュウゾウの?」

「良いニュースと悪いニュースがあるんだけど、どっちから聞きたい?」


 俺は嫌なことは先にすませたいタイプだ。会話の終わりが嫌な雰囲気で終わるのも好きではない。

 

「じゃあ、悪いニュースから」

「意外だな。ポチくんは良いニュースからかと思ってたよ。それじゃあ悪いニュースから。ジュウゾウが通り魔を再開したよ。昨晩、久しぶりに被害者が出たんだ」

「この20日くらい大人しかったのに、なぜ今ごろになって?」

「たぶんポチくんにやられた傷を癒してたんじゃないかな。それが回復したからまた魔力を集め始めたんだと思う」

「魔力を溜められたら厄介ですね。あの攻撃を警戒しながらだとレミさんの作戦が思うようにできなくなる……」


 俺を瞬殺したあの抜刀術をまた喰らったら、俺以外はみんな死んでしまう。

 ただでさえ勝てるかわからない相手なのに、余計なことに注意を払っていては勝率が下がるだろう。


「だから、作戦実行を少し早めようと思う。とは言え、ミケとポチくんの特訓の進捗次第だけどね」


 俺の表情が暗くなっていたのを察したレミさんが笑顔を向けてくれた。

 こういうときのレミさんにはちょっとドキッとしてしまう。


「俺は擬音を唱えるだけですから、いつでも大丈夫です。あとはミケの判断かと」

「そうか。あとでミケにも聞いてみるよ。じゃあ次は良いニュースを。宝刀の分析がかなり進んだよ。私が睨んだ通りポチくんが言う必殺技も使えるみたいだ。しかも、対象を自由に選ぶことができる」


 レミさんが持つメガネの聖異物は、興味のある物を見たときにその物の特性などを知ることができる。

 いつもは短時間で分析ができるのだが、宝刀は一筋縄では行かなかった。

 それは宝刀自体がそもそも玩具で、光や音、キャラクターボイスなどのギミックを内蔵していたのが原因だった。分析をするとギミックの情報が多数見えて、肝心のスキルの情報がその中に埋もれてしまっているらしい。しかもレミさんは特撮ヒーローの玩具については無知。情報の取捨選択に時間がかかる。

 さらに本来の刀はジュウゾウの手にあり、鞘から刀の情報を得るのもひと苦労とのことだった。

 

「そうですか。じゃあ、レミさんの作戦は実行できるということですね。うまくいくかはミケと俺の頑張り次第ですが」

「大丈夫! 今回は実戦前提の作戦だから、ミケにも秘密兵器を持たせてるじゃん。この特訓で使いこなせるようになれば勝機はあるよ」


 いつもの根拠のない自信に満ちた笑顔のレミさん。その自信を少しで良いから分けてほしい。

 いや、今はそんなことより宝刀の話に集中しないと。

 

「宝刀の分析が進んだってことは俺の魔術が効いたり、効かなかったりした原因もわかりました?」

「もちのろんだよ。それも分析済みさ。刀のスキルが原因だね」

「刀のスキル?」

「そう。ジュウゾウが通り魔をして魔力を奪っていたように、あの刀には魔力を吸収するスキルがあるんだよ。それは斬りつけたものだけではなく、刀の所有者に向けられた魔術も対象らしい」


 レミさんがメモ帳を見ながら解説をした。

 チラリとメモ帳を見るが、走り書きの文字がびっしりとページを埋めていて何が書いてあるのか判断がつかない。

 

「つまり、俺がジュウゾウに使った魔術は刀に魔力を吸収されて、術が消えてしまったということですか?」

「その通り! ただし、刀が魔術から魔力を吸収するまで多少のタイムラグがあるから、『ゴゴゴ』みたいな継続的に効果を発揮する魔術は途中から術が消えたんだよ。逆に『ズコ』みたいな瞬間的な効果の魔術は魔力を吸収する前に術が完結するから普通に使えたんだね」

「なるほど、確かに作品の中でも同じような描写がありました。魔力ではなく妖力でしたけど」


 確か『神剣討撃ウルファイター』の劇中で、敵の妖術を刀で受け止めて妖力を吸収して自分の力にする描写があった。

 聖異物になったことで存在しない妖力ではなく魔力を吸収するスキルとして刀に付与されたのか。

 

「魔力吸収の仕掛けがわかったのはかなりの利点だよ。作戦で使う擬音の選定に役立つからね」


 レミさんがメモ帳をめくる。

 そこには俺が今まで使ったJUピー!の擬音がリストにまとめられていた。

 いつの間に、こんなものを作っていたんだ?

 

「ジュウゾウとの戦いなんですけど、試してみたい擬音があるんです」

 

 レミさんをじっと見て俺は口を開いた。

 短時間で効果が完結し、ジュウゾウから刀を奪える可能性がある擬音。

 それを俺はこの特訓ですでに見つけていたのだ。

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