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第8話:早口解説を喜んで聞く美人さん

「なんだこれ!」


 俺は広げられた布の真ん中に置かれているものを見て、思わず声をあげた。

 

「なんだも何もないよ。宝刀だよ。ミケが言うには刀身は違うらしいけど」


 先ほどまでの動揺から一転、開き直った口ぶりでレミさんが答えた。

 その態度に軽く憤りを覚えるが、彼女らしいと納得している自分もいる。


「俺が言ってるのは鞘のことです!」


 俺はレミさんがちゃんと宝刀を見るように、大げさに手で鞘を指し示す。

 鞘はほとんどの宝石がくり抜かれ、何かの動物の革で巻かれた本体があらわになっていた。デコったギャルのガラケーから革の風合いが渋いミニマルなスマホケースに様変わりしたように見える。

 鞘の周囲にはたくさんの灰色の石が転がっていた。色はみすぼらしいが形は綺麗に整えられているので、たぶん宝石の成れの果てだろう。修復の魔術の媒体にされた代償だ。


「ミケさん、ごめんなさい。保護具の修復に予想以上に宝石が必要になって」


 俺とレミさんがいつものように不毛な問答を続けている横で、ソラちゃんがミケに深々と頭を下げる。


「ほら、お姉ちゃんも一緒に謝って!」

「そうですよ!」

「なんでポチくんは上から目線で言うんだい。謝るならポチくんも一緒だよ!」

「俺は関係ないでしょ」

「関係あるよ! ポチくんは私たちの家族のようなものだから。運命共同体だよ!」

「都合の良いときだけ親近感を出さないでください。ってソラちゃんまで頷いてる!?」


 3人がそれぞれ喚いていると、ミケの顔がみるみる赤くなっていく。

 怒鳴られる覚悟をした瞬間。

 ミケは堪えきれずに吹き出して大笑いした。

 なぜだ?

 

「失敬した。3人のやり取りが滑稽に見えてしまって。問題ないでござるよ。鞘の宝石はただの飾り。帝が鞘の真の価値を隠すために後から施したものでござる。鞘の力は失われておらぬ」


 しばらく大笑いしていたミケは、目に浮かんだ涙を拭いながら笑っていた理由を語った。

 

「「「早く言ってよ!」」」


 ミケが笑っていた理由がわからず、恐る恐る彼女を観察していた俺たちは思わずツッコミを入れた。

 

「とは言え宝石は高価な物に変わりはないでござる。帝から宝刀奪還の任務で路銀が足りなくなったときには宝石を使うようにと言われていたのだ。拙者を助けるために使ったのであれば、帝も許してくださるはず」


 宝石は聖異物に後付けされたカモフラージュみたいなものだったのか。

 

「結果オーライってことだね!」


 レミさんが自信たっぷりな笑みを浮かべている。

 

「そうですかね……?」


 ミケも納得しているようだし、宝石の無断使用は問題ないと考えて良いのかな?

 

「ポチさん、お姉ちゃんの言うことに流されないでください!


 頬を膨らませて俺を見るソラちゃん。

 怒っているのだろうけど、反則的に可愛い。大人になったら、レミさん以上の美人さんになるんだろうな。

 

「ミケさん。この任務が終わって報酬をもらったら、全額とはいかないかもしれませんけど弁償しますからね」 

「えー! ミケが大丈夫って言ってるじゃん」 

「お姉ちゃん!」

「はいはい。報酬の半分をミケに渡せばいいんでしょ」


 ソラちゃんの提案に不服そうなレミさんだが、妹には逆らえないようで渋々ながら受け入れてた。

 ふと宝刀に視線を向けると、鞘に巻かれている革の一部が剥がれているのが見えた。

 革も鞘の本来の装飾ではなく、宝石を定着させやすくするために後付けされたものなのだろう。だとすると、鞘の本来の姿はどんな形なんだ?

 聖異物だから異世界産なのは間違いない。すごく興味が湧いてきたぞ。

 

「ミケ。鞘の本体はどんな形をしてるか見せてもらえるかな?」


 国宝と言える刀なので中身を暴くのは禁忌とされている可能性もある。

 俺は遠慮がちにミケに尋ねた。

 

「主殿の頼みとあらば」


 ミケは宝刀を掴むと包帯のように巻かれた帯状の革をスルスルと外していった。

 これが宝刀の本来の姿か。

 あれ? このデザイン、どこかで見た覚えがあるような……。

 思い出した。アレだ! 間違いない!

 

「どれどれ。なんかミケの世界の様式とはかけ離れたデザインだね」


 俺の横でレミさんとソラちゃんが興味深そうに鞘を見ている。

 ふたりはそれぞれ宝刀がどこの世界の由来かを考察し始めたが、まさかこんなところでこの刀に出会えたことに驚いている俺は何も言えずにいた。


「ん、どうしたポチくん?」


 感情が顔に出ていたのだろう。

 レミさんが俺の顔を覗き込みながら質問してきた。

 

「俺、このデザインを見たことあるんです」

「本当かい? いつ? どこで?」

「それは……」


 宝刀の本来の姿は『神剣討撃ウルファイター』に出てきた主人公が持つ神剣にそっくりだった。

 ちなみに『神剣討撃ウルファイター』とは俺が元の世界で観ていたマイナーな特撮作品のことだ。

 主人公は冒頭の1話とテコ入れの24話で古代神から神剣を授かる。

 目の前にあるのは24話で授かった神剣のデザインと同じだ。確か、『怨滅根絶バッサーソード』という名前だったと思う。

 こんなところで俺の住む世界でもマイナーな特撮の刀と出会うとは。いや、造形やサイズ感から、劇中で使用したものではなく、玩具としてた売られたものだろう。

 子ども向け商品だから、作中設定では普通の刀なのに、ミケやジュウゾウが手にすると脇差サイズになっていたのか。


 俺はまずテレビや特撮作品というものをレミさんたちに説明し、そこから『神剣討撃ウルファイター』に出てきた『怨滅根絶バッサーソード』の能力について話をした。

 ミケとソラちゃんは途中からついてこられない様子だったが、レミさんは目を輝かせて俺の話に聞き入っていた。

 年頃の美女にこんな話をして喜んでもらえるなんて、元の世界では経験がない。

 

「なるほど。テレビとかトクサツとかチョウゴウキンっていうのはよくわからないけど、ポチくんが言う宝刀の能力を使えばジュウゾウの捕獲ができそうだね」


 レミさんがニヤリと笑う。


「えっ? 俺の説明でそんな結論になりますか?」

「なるなる! よし、明日から新しい作戦を練るとしよう」

 

 レミさんの作戦がうまくいった覚えはないので、俺は苦笑いすることしかできなかった。

 とりあえず、明日、具体的な話を聞くとしよう。

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