第7話:長い会話もそろそろ終わり
「ミケの目的はわかった。次は宝刀のことを教えてよ。あれは聖異物なのかい?」
じっと俯いたままのミケにレミさんが笑みを向ける。
話しづらいことから話題を反らしたので、ミケの厳しかった表情が少し和らいだように見えた。
「レミ殿らの言う、セイイブツというものは拙者にはよくわからぬ。宝刀は拙者の住む世界が危機に陥ったときに異世界より来た剣士が手にしていたものでござる」
ゆっくりとミケが話し始めた。
そういえば、ミケには聖異物について誰も詳しい説明をしてなかったかもしれない。
「世界の危機?」
レミさんがさらに会話を促す。
「先代の帝は暴君であったと話をしたのは覚えているであろうか?」
「もちろん。それを討ち取ったのが今の帝なんでしょ」
すみません。
俺は完全に忘れてました。
ただ、そんな素振りは見せないように、力強く頷いて誤魔化したけど。
「先代の帝が当代の帝が率いる反乱軍を抑えるために異世界から魔物を呼び寄せたのだ。そのせいで反乱軍は壊滅の危機に陥った。だが、危機に陥ったのは先代の帝の軍勢も同じ。制御できなくなった魔物が国中で暴れ始めたのでござる」
「もしかして、私たちの世界との貿易が途絶えたのは、その国の混乱のせい?」
「それが発端だと言われているでござる」
「国が混乱して次元間の交信をする余裕がなくなったのか。こちらの世界ではミケたちの世界に良くないことが起こったと考えて、以降の交信はしなかったのかもしれないね」
「今の帝は貿易を再開したいと考えておられるようでござるが、異世界の魔物の恐怖を知る世代も多いゆえ、異世界というだけで拒否反応もあってなかなか難しいようでござるよ」
「ジュウゾウの件が片付いたら、報告書に書いておくよ」
レミさんが何やら思案しているようで、顎に手を当てたまま動かなくなった。
「レミさん、話が脱線してますよ。宝刀の話を進めないと」
沈黙が意外と長かったので、俺はレミさんに声をかけた。
レミさんに会話の主導権があると、自分の興味があることに寄り道しがちだから。
「ごめん、ごめん。ただ、今までのミケの説明でだいたいわかったよ。宝刀を持って現れた剣士はこの世界の住人だね。そして宝刀は聖異物に間違いないよ」
俺の忠告でレミさんは話を軌道修正してくれた。
「まあ、そう考えますよね」
それに俺も答える。
吸収した魔力を使って超常の力を発動させる。その仕組みは俺の知る聖異物の特徴だ。
暗がりでジュウゾウの持つ刀のデザインをはっきりとは見ていないが、どことなくメカニカルな印象だった。
もしかすると高度な異世界からこの世界にもたらされた物なのかもしれない。
もとからすごい武器がさらに聖異物としてチートな能力を付与されたのなら、ミケの言う脅威の存在になるだろう。
「ちなみに剣士は魔物を倒した後はどうなったんだい?」
「剣士は再び魔物が現れたときのために宝刀を帝に託し、元の世界に帰っていったとも、新たな世界を求めて旅立ったとも言われておる」
所有者の詳細は不明か。
でも、そんなチートな刀を帝にあげてしまうということは、それに頼らずとも強い力を持っているということか。
今回の事件もその人に解決してほしかったなぁ。
「今日のところはここまでかな。ミケは犬から人に戻ったことで身体に負荷がかかっているだろうし、私とソラは保護具の修復で疲れているからね。気になるところはおいおい聞くと思うけど」
レミさんが大きく伸びをした。
あの……俺は?
俺も再召喚されて身体に負荷がかかっていると思うんですけど。
「大事な確認を忘れてた。ミケと約束した共闘については続行ということで良いんだよね?」
「レミ殿らに偽りを語っていた拙者を許してくれるなら」
「じゃあ、共闘は続行で。これからもよろしくね!」
レミさんとミケが話をまとめに入ったところに申し訳ないのだが、俺は疑問に思っていることを切り出した。
「ミケはどうして真の目的を話す気になったんだ?」
「最初は宝刀の存在を知られることを恐れたから黙っていたでござる。邪な者の手に渡れば、国崩しもできる力を持つ刀ゆえ。今はポチ殿は拙者の主でござるし、レミ殿とソラ殿は命の恩人。真の目的を話しても問題ないと判断したのでござる」
ミケが真剣な面持ちで、じっと俺を見る。それに答えるように、俺は笑顔で頷いた。
「お姉ちゃん?」
俺とミケの主従関係を再確認している横で、ソラちゃんが訝しげな顔でレミさんを見ている。
レミさんは何やら考え込んでいるようで、顎に手をあてたままじっと動かない。
「いやぁ、鞘のない宝刀だけでも魔術師を見下す騎士団に嫌がらせできるなと思って……あはは!」
ソラちゃんの視線に気づいたレミさんが作り笑いをして答える。
なんてこと言うんだこの人は!
今、悪用しないという信頼を得たって流れだったのに。
「……信頼して良かったでござるか?」
困惑して不自然な笑みを浮かべるミケ。
上がった口角が小刻みに震えている。
「大丈夫! レミさんのは邪ではなく小賢しさだから!」
「そうですよ! お姉ちゃんが変なことをしようとしたら、私とポチさんが全力で止めます。ほら、お姉ちゃん、今の発言は冗談だって言って!」
「あ~冗談、冗談だって」
レミさんは「真面目に受け取らないでよ、イヤだなあ」といつもより大きな笑い声をあげている。
ミケは納得したようで、つられて一緒に笑っているが、俺とソラちゃんは違う。
絶対に冗談だと思っていない!
ソラちゃんのしかめっ面が俺と同意見であることを物語っていた。
「ところで、拙者の宝刀はどこに?」
言葉にしない共通認識でたぶん共同戦線も結ばれた俺とソラちゃんを余所に、ミケがはたと気づいたようにレミさんに尋ねた。
すると、レミさんの肩が大きく上下に揺れた。いや、レミさんだけじゃない。ソラちゃんもだ。
レミさんとソラちゃんは無音で口をパクパクと動かしている。たぶん、姉妹だからこそ意思が通じているのだろう。
ただ、そんなふたりに「仲良し姉妹だなぁ」なんてほっこりした印象は持てなかった。
レミさんが何かやらかしたんだろうな、という不安な気持ちしか湧き上がらない!
少しの間、口パクの応酬があったかと思ったら、諦めたような顔をしたソラちゃんがすくっと席を立った。
部屋の壁際に備えつけられたチェストの前まで進むと、その上に置かれていた包みを手にする。
ソラちゃんは、白い風呂敷のような布に包まれたものを割れ物を扱うような慎重さでテーブルに置いた。
「そのことなんですけど……」
消えそうな声で切り出すソラちゃん。
だが、それ以上の言葉が続かない。
「こんなになっちゃった!」
沈黙を破るようにレミさんは声をあげると包みの布を広げた。




