第6話:本当のことは言いづらい
「ふぅ。ごちそうさまでした」
肉汁やソースでべとべとになった両手を合わせ、ミケは軽く頭を下げる。
テーブルに置かれたトレーの上には骨やフライドポテトなどの付け合せの残骸が散乱している。マナーなど彼女には存在しない。
ミケの食欲はいつも以上に旺盛で、ソラちゃんが最初にテイクアウトした分では足らず、俺も食堂に3度も足を運んだ。
ミケによると犬の姿になっていたときに食事ができなかった分を補っていたとか。
つまり保護具を直せなかったら、あのまま餓死していたということだ。
ただしレミさんによると、単なるミケの言い訳だろうとのこと。真実はどうなのか俺にはわからない。
「はい、はい。ミケさん、手を拭きましょうね。口元も汚れてますよ」
ソラちゃんがおしぼりでミケの手や口元を丁寧に拭っていく。
ミケは「かたじけない」と申し訳なさそうに呟くと、ソラちゃんに身を委ねる。
年下の子に身だしなみを整えられることに抵抗はないのだろうか?
いや、犬が先祖の人種だと知ってからこのやり取りを見ると違和感がないようにも思えてしまう。
「よし! 食事も終わったし、そろそろ本題に戻ろうか」
ミケの前に置かれたトレーをレミさんが俺の前に押しのける。
ミケが話しやすいようにという配慮だろうけど、俺への気遣いはないんだな。
「まずは命を救ってくださった礼を。ポチ殿、レミ殿、ソラ殿。感謝するでござる」
すっかり身ぎれいになったミケはテーブルに両手をついて、額がテーブルにつきそうなほど深々とお辞儀をした。
急に改まった丁寧な仕草をされて、俺とソラちゃんはあたふたしてしまう。
互いにアイコンタクトで助けを求め合うほどに。
「そんなにかしこまらなくていいから。それよりミケがこの世界に来た本当の目的を教えてよ」
レミさんはテーブルに肩肘をつき、手に顎を乗せ、横に座るミケに語りかけた。ミケの感謝には完全スルーだ。
ミケはレミさんの言葉を受け取ると、下げていた頭を上げて、ゆっくりと俺たちひとりひとりに視線を向けた。
だが、そこでミケの行動は止まってしまった。何をどう話せば良いか考えあぐねているように見える。
「レミさんは先ほども言ってましたが、本当の目的ってどういうことですか?」
ミケがなかなか話をしないので、沈黙を恐れた俺はレミさんの言葉に横槍を入れた。
「だって私たちに素性を隠していたってことは、出会ったときには言えなかったことがあるってことでしょ」
「素性を隠すことと目的を偽るのは違うんじゃないですか?」
俺としてはミケを信じたい。
疑わしきは罰せずともいうではないか。
「……いや、レミ殿の言う通りでござる。ジュウゾウの捕獲というのは偽り。本来、帝から承った任務はヤツが帝から奪った宝刀の奪還でござる」
ミケは申し訳無さそうにゆっくりと答えた。
意気消沈しているためか、頭のケモ耳もペタリと前に倒れている。
その仕草、可愛いじゃないか!
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
俺の雑念を余所に、レミさんが口を開く。
「宝刀はミケが持っている刀でしょ?」
「レミ殿、拙者が持っている刀は名刀ではあるが、宝刀ではござらん。ただし、鞘は宝刀用に作られたもの。刀と鞘、ふたつが揃ってこそ、真の力を使用することができるのでござる」
妖刀も宝刀も俺には「なんかすごい能力がある」くらいの認識だ。
ただ、鞘とニコイチで力を発揮するというのは漫画やアニメではあるあるなので、ちょっとワクワクしてしまう。
「あの……ふたつが揃って真の力を発揮するなら、なぜ鞘をこの世界に持って来たんですか? ジュウゾウに奪われる可能性があるのに」
ミケの身だしなみを整えた後に俺の隣に座ったソラちゃんがミケに尋ねた。
「それは問題ないでござる。宝刀の真の力は帝と拙者しか知らぬこと。拙者もこの世界に飛ばされる直前に帝から口伝で知ったのでござる」
「そうなんですね。でも、刀の真の力を使う必要はないのに、なぜこの世界に鞘を持って来たんですか?」
「それは……」
ソラちゃんのさらなる質問に、ミケは言い淀む。
まるで尋問しているようで、俺は少し胃が痛くってきた。
仕事でミスをしたときに上司に報告して、根掘り葉掘り質問された場面がフラッシュバックしたからだ。
「ジュウゾウの討伐も任務に含まれているからじゃない?」
レミさんの言葉を聞いたミケの身体がビクっと揺れた。
「えっ。まさか……?」
レミさんの言葉、それに動揺するミケ、その両方に驚いた俺は思わず声を上げた。
「……レミ殿の言う通りでござる。ただし、ジュウゾウがこの世界で脅威となるような行動を続けた場合に限ってのこと。拙者としてはジュウゾウを捕らえて帝直々に裁きを下していただくのが良いと考えているでござる。ただ、父の仇でもあるので理性と感情が一致していないことは否定せぬが……」
テーブルに置かれたミケのこぶしが固く握られている。仇討ちをしたい気持ちが抑えられないのだろう。
そこでまたミケは押し黙ってしまった。




