第2話:どうやってが多くてすみません
転倒した夢を見たときのガクッと身体が痙攣するような落下感。
はっとして目を大きく開く。
周囲の景色を見た俺は、自宅ではなく見慣れた木造の部屋にいることを自覚する。
レミさんとソラちゃんが滞在している宿の部屋だ。
「やっほー。ポチくん、お帰り〜。死に戻りは痛かったかい?」
俺は召喚直前のあぐらをかいた体勢のままで部屋の床に座っていた。
レミさんは腰に手をあてて前かがみになり、そんな俺を見下ろしている。
「レミさん! 無事だったんですね!」
いつもの不敵な笑みを見せる彼女を見て、安堵と喜びが胸一杯に溢れる。
感情が高ぶった勢いで、思わずレミさんの足に抱きついてしまった。
「ちょ! 何してるんだい!」
レミさんがまとわりつく俺を振り払うように勢いよく右足を蹴り上げた。
「ぐはっ!」
俺はカエルが潰されたような情けない声を上げて床に仰向けに倒れる。
いきなり生足に抱きつくのは良くないことだが、あの窮地からの生還……いや、俺は死んでるけど、無事に戻れた感動をお互いにもう少し表現しても良いと思う……。
レミさんを見上げると、顔が真っ赤になっている。それほどまでに怒り心頭なのか……。今後は迂闊な行動はしないように気をつけよう。
「ポチさん。もう少しタイミングとか考えないとダメですよ?」
テーブルで何か作業をしているソラちゃんが苦笑いしている。「タイミング」ってどういう意味だ?
「ソラ、変なこと言わないの! そんなことより死に戻りで何か不備はなかったかい?」
「特に違和感はなかったです」
「なら良かった」
「なんでそんなことを聞くんですか?」
「いや……死に戻りの召喚契約って初めてだったから、うまくいくか少し不安だったんだよね」
「ちょっと! 怖いことをさらっと言わないでください!」
「うまくいったんだからいいじゃん」
「……まぁ、いいですけど」
怖いことをさらりと告げる。
レミさんらしいと言えば、レミさんらしいが、被験者の身にもなってほしい。
いや、今はそんなことより聞きたいことが山積みだ。
「俺が死に戻りしてからどれくらい経ったんですか?」
「3日かな」
3日?
俺が元の世界に戻ってから1日くらいしか経っていないはず。
もしかして、俺の世界とこの世界とでは時間の流れが違うのだろうか。
いや、今はそこを深掘りしている場合ではない。
「なんでもっと早く召喚してくれなかったんです?」
「もう我儘だなー。こっちもいろいろと大変だったんだよ」
「ですよね……。そうだ。レミさんとミケはどうやって助かったんですか?」
「ポチくんが突き飛ばしてくれたおかげだよ。あれでジュウゾウの攻撃を避けらたんだ」
良かった。とっさの行動だったけど、うまくいったようだ。死んだのも無駄じゃなかった。
「でも、次の攻撃はどうやって避けたんですか? あと、どうやってジュウゾウから逃げられたんですか?」
「『どうやって』が多いなぁ」
「だって気になりますよ」
「面倒くさいから簡単に説明するけど……」
「面倒くさがらないでください」
「はいはい。まず、ポチくんに突き飛ばされて倒れた場所が背の低い街路樹の茂みだったんだ。そこにうまくはまって、私とミケは姿を隠すことができたんだよ」
「俺の咄嗟の判断が功を奏したんですね!」
「まぁ偶然だとは思うけどね」
そこは偶然じゃなくて、俺のおかげで良いのではないだろうか?
「でも、茂みに身を隠せたくらいでジュウゾウが見逃してくれたんですか?」
「それはジュウゾウの攻撃の跡を見たら納得するよ。街道の道端の半分を深くえぐる亀裂ができたんだ。あれを見たら、ポチくんだけじゃなく、私やミケも跡形なく消滅したと思うだろうね」
想像するだけで恐ろしい。
そんなことができる相手を捕獲しようとしていたのか。
ただ、その威力に過信したジュウゾウのおかげで、レミさんとミケが命拾いしたわけだ。
次に戦うときはその過信をうまく突けば勝機があるかもしれない。俺の魔術でサポートしつつ、ミケが攻撃をすれば……。
ん?
そういえば、ミケは?
「レミさん、ミケの容態は?」
「ソラの魔力譲渡のおかげで傷は完全に回復したよ。ただ、ずっと寝てるけど」
「良かった! 今は自分の部屋で休んでいるんですね」
ここはレミさんとソラちゃんが宿泊している部屋だ。
俺とミケはそれぞれ別の部屋に寝泊まりしていた。
ミケは俺を主と崇め始めてから警護のために俺と同室を望んだけれど、レミさんの顔が怖くなったので即座に却下した。
「ミケなら私のベッドで寝てるよ」
レミさんが顎でベッドの方を指し示すので、それに合わせて俺も視線をベッドに向ける。
だが、そこには人が寝ているほどの毛布の膨らみがない。
「どこですか?」
俺はキョロキョロと視線を泳がせるが、ミケの姿は見当たらない。
「そこだよ、そこ」
レミさんがわかりやすく指を差す。
「えぇ! これがミケなんですか⁉」
毛布の隅で丸くなっている物体を見て、俺は大きな声を上げてしまった。




