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第1話:戻されてボロアパート

 完全な闇。

 そして、静寂。

 正確には五感のすべてが機能していないのかもしれない。

 目を閉じているのか、開いているのかもわからない。

 これが死ぬということなのか?

 死んでいるのなら自問しているこの思考は何なんだ?

 その疑問に答えを出す前に目の前が明るくなっていく……。


 急に五感が戻り、目に映ったのは俺が住むアパートの部屋。


「うわあ!」

 

 急な場面転換に驚いてなんとも情けない声をあげてしまった。

 さらに立ち上がろうとして、ちゃぶ台に思い切り膝を強打する始末。

 あまりの痛さに床の上でゴロゴロと転がってしまう。

 しばらくして痛みが治まり、ちゃぶ台に手を置いて起き上がった。

 台の上にはリモコンとコーラが入ったグラス、開封したビッグサイズのポテトチップスが並んでいる。

 そうだ。俺は連休に古い特撮モノのイッキ見するつもりだったのだ。

 いざ見始めようとしたとき、レミさんの召喚魔術で異世界に転移して……。

 

「レミさんとミケは⁉」

 

 いきなり元の世界に戻されたことで混乱した記憶が鮮明になっていく。

 俺はジュウゾウの斬撃波を受けて即死したのだろう。

 レミさんとソラちゃんとの召喚契約では、死ぬと強制的に元の世界に戻されることになっている。

 俺は死に戻りができるけど、レミさんとミケは違う。ふたりは無事なのか?

 とっさに突き飛ばしたから攻撃は回避できたと思うけど、追撃があったら彼女たちに回避する術はないはずだ。

 嫌な想像が次々と頭の中に浮かぶ。

 不安にかられた俺はちゃぶ台の周りをぐるぐると歩きながら、レミさんやミケ、ソラちゃんの名前を繰り返し呼び続けた。

 

 それが無駄な行為だと冷静さを取り戻すのに数分かかった。

 俺には異世界に移動する術はない。JUピー!があれば擬音の拡大解釈率を上げて事象をこじつけて転移することができるかもしれないが、ここには聖異物となったJUピー!はない。

 俺にできるのは、再びレミさんとソラちゃんに召喚してもらえることを信じて待つことだけだ。

 なんと無力はことか……。

 

 俺はちゃぶ台の前に腰を下ろしてコーラを飲むと、リモコンに手を伸ばす。

 前回の召喚はまさにこの動作をした瞬間だったので、今回も召喚されるのではないかと淡い期待を抱いていたが、何事もなくリモコンを掴んだ。

 何もしないで次の召喚を待つのはネガティブな発想をしてしまうので辛い。とりあえず連休の予定にしていた古い特撮モノを観ることにしよう。

 

『神剣討撃ウルファイター』。

 俺が幼稚園児の頃に放送していたマイナーな特撮モノ。

 突如、地球に飛来した宇宙妖怪軍団ウラメイラー。彼らは人のネガティブな心に「怨根」を植え付けて妖怪化して世界征服を目論んでいた。

 それを阻止するため、日本の古代神が冒険家の主人公、大我美剣也に神剣を授けてウルファイターとして戦うことを懇願する。

 剣也は神剣でウルファイターに変身してウラメイラーとの戦いに身を投じていく……という物語だ。

 メジャーな戦隊ヒーローのような合体ロボは登場しないのでトドメを刺すのもウルファイター自身による剣術だ。

 見た目の派手さが戦隊ヒーローに劣るのが、さほどヒットしなかった要因なのかもしれない。



 連休2日目。

 未だに召喚されていない。

 俺は『神剣討撃ウルファイター』を観続けていた。

 余計なことを考えないように、それはもう意図的に集中して観ていた。

 23話まで観て感じたのは、ストーリーが重くて後味が悪いこと。

 テーマも公害による病気や自然破壊、ゴミ問題など、社会問題を扱うことが多く、問題提起するけど特に希望が見える締めはない。

 これでは子供は喜んで観ないだろう。

 制作陣は高尚なクリエイティブ魂を持って作っているのだろうが、彼らにも現実的な答えは出せないから、いつもウルファイターが妖怪化した人間を斬り捨てて「決着!」と叫んで終わる。

 何が決着なのかわからない、曖昧な締めになっていると思う。

 だが、そんな展開が24話で一変する。

 それまで妖怪化した人間をバッサバッサと斬り殺しても「決着!」と勝ち誇った顔をしていた主人公が、いきなり人を斬ってきたことに苦悩する。

 そんなとき、古代神から新たな神剣を授かり、妖怪化した人間の体内にある「怨根」だけを切り裂く居合い切りの必殺技『怨滅バッサギリ!』を会得。

 重いテーマもなくなり、善人が無作為に妖怪化されて暴れるのを救う展開になった。


 テコ入れだ。

 視聴率が振るわなかったのだろう。

 神剣は当初の日本刀タイプからよくある特撮モノらしい未来的なデザインに変更され、必殺技の名を叫ぶようになった。

 23話までのノリに慣れてしまった俺には違和感しかない。

 路線変更の理由を調べようと、ちゃぶ台に置いたスマホを取ろうとした瞬間、

 俺の視界は真っ暗になって胸がざわつく浮遊感に襲われた。

 

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