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第15話:時間稼ぎと言われても

「そんな網で我を捕らえようなど笑止千万!」


 ジュウゾウが振り下ろした刀を構え直す。

 柄のメカニカルな模様がぼんやりと紫色に発光しているのが見えた。斬撃を飛ばすスキルがまだ発動中なのかもしれない。

 俺の魔術はでたらめな効力があるが、いちいちJUピー!のページ指定をしないといけない。

 ジュウゾウは俺を妖術使いだと警戒しているはずなので、ミケの護衛がない状況でJUピー!のページを動かしたら速攻で斬撃を喰らうだろう。

 生き残るビジョンが浮かばず、焦りからくる激しい動悸で吐きそうになるのを堪えながらジュウゾウを見る。

 奴は構えたまま動かない。

 もしかしたら、俺が別の魔術を使うことを警戒しているのか? ページの移動くらいならいけるのか?

 この状況を打開する策はないのか……。


「合図をしたら、目を閉じて両手で顔を守れ」


 打開策が浮かばずジュウゾウと見つめ合うしかない俺の背後からレミさんの囁き声が聞こえた。

 いつもの飄々とした口調ではない。

 ただ、指示の内容が全く意味不明だったので、思わず「えっ?」と上ずった声を上げてしまった。

 ジュウゾウに勘ぐられないように、俺は咳払いをして誤魔化した。

 ……たぶん、誤魔化せたはず。

 

「言う通りにして」


 反論は受け付けないという意識を感じるレミさんの吐き捨てるようなひと言。

 

「わ、わかりました」


 レミさんだけに聞こえる程度に声を抑えて了承した。

 この窮地をどうにかする小ずるい策を考えたのだろう。

 俺はジュウゾウを睨みつけて精一杯の虚勢を張りつつ、背後のレミさんからの合図を待った。

 ジュウゾウがしびれを切らす前に、早く動いてくださいよ、レミさん!

 

「ポチくん、今だ!」


 待ち望んでいた合図は意外と早かった。

 俺は言われた通りに目を閉じて両手で顔を覆う。もし、作戦が失敗していたら、何をされたかわからないまま、死んでしまうのだろうか。いや、召喚されている身なので死ぬことはないんだけど。

 

『閃光よ闇を穿て!』


 レミさんが呪文らしきものを叫ぶ。

 それから少し遅れてジュウゾウの苦しそうな叫び声が轟いた。

 目を閉じているから何が起こっているのかわからないが、きっと成功したのだろう。

 

「もう目を開けていいよ」


 レミさんの声に従って目を開けると、ジュウゾウが右手で顔を押さえながら、片手で闇雲に刀を振るっている。

 隙だらけに見えるが、激しく刀を振るっているので、俺のような接近戦が不得意な魔術師が近づくのは自殺行為だ。

 

「何をしたんですか? ジュウゾウがもがいてますけど?」

「魔術で閃光を奴の目の前に発生させた。夜目に慣れていた分もあって、しばらくは目が見えないはずだよ」

 

 カメラのフラッシュを目の前で焚いたようなものか。

 不安でジュウゾウから視線を逸らせない俺は体勢を変えずに、背後のレミさんにさらに質問を続ける。


「魔術って……ソラちゃんがいないのに使えるんですか?」

「宿を出る前にソラから『魔力譲渡』で魔力を分けてもらってたんだ。ただし、私が蓄積できる量は少ないからあの程度の魔術で魔力は使いきったけどね」

「それでミケは? まさか死んだとか言わないですよね……」

「ネガティブだなポチくんは。まだ生きてる。でもすぐに治癒しないと確実に死んじゃうよ」

「ど、どうするんですか。ソラちゃんがいないのに」

「止血と傷口を小さくするくらいなら私だけでできる」

「どうやって? 魔力はないんですよね」

「いちいちうるさいな。そこに落ちてる投網の残骸を取って。網に練り込まれた魔力とソラが徹夜で編んだ想いを触媒に使って治癒魔術を使うから」


 俺の右斜め前方に真っ二つに切られた投網の半分が落ちていた。

 ミケが持っていた紐が付いていた部分なので、彼女が飛ばされたときに一緒に後方に引っ張られたようだ。

 俺はその投網の方に飛び込み、それを掴んて手足をバタつかせてレミさんのもとまで這いずっていく。

 なんとも情けない動きだが、ジュウゾウが視覚を取り戻して攻撃してくる恐怖でまともな動きができなかったのだからしょうがない。


「よし、これならいけそうだ。ただ……」


 手早くメガネで投網を鑑定したレミさんが困惑している。


「何か問題でも?」

「ソラの込めた想いが想像より重い……」


 苦笑いで治癒魔術の準備を始めるレミさん。

 テキパキと動く様を見ながら、俺はソラちゃんのことを思い出していた。


「ソラちゃんは早くジュウゾウを捕まえてミケの無念を晴らしてあげたい。これ以上の被害者を出したくないと願っていましたからね」


「そんなポジティブな想いじゃないよ。怨念に近い感情だね、これは」


 ミケの傷口に投網を乗せ、レミさんはそこに右手を添える。

 俺にギリギリ聞こえるくらいの声で、何やら呪文を唱えると、網が優しい光を放ち始めた。


「怨念ね……」


 ソラちゃんが毎日夜遅くまで魔力を込めながら網を編んでいる姿を想像する。

 不眠不休の作業で披露と不満が募っていたんだろうな……。

 もし投網があっさり斬られたと知ったら、どんな顔をするのだろうか?

 

「ミケの応急処置に十数分はかかる。ポチくんはジュウゾウの足止めをしてくれ」

「足止めって言われても、『ゴゴゴゴ』が急に効かなくなったんですよ。俺の魔術じゃ無理ですよ」


 魔術が発動しないように「ゴ」の数を減らして答える。

 ジュウゾウが何をしたのかわからないが、JUピー!の擬音が途中から効かなくなった。

 魔術自体に何か不具合があるのか、ジュウゾウに耐性のようなものがあるのか。

 原因がわからないのに足止めしてと言われてもどうしたらいいんだ?

 

「ほかの擬音を試してみるんだ。何もしないとジュウゾウの視覚が戻った途端に殺されるよ!」


 渋る俺にイラッとしたレミさんがまくし立ててくる。


「……わかりました。失敗しても恨まないでくださいね」

 

 治癒魔術で手一杯のレミさんに足止めまで頼むのは難しいのは理解できる。

 俺しかやれる人はいない。

 ジュウゾウに効果が期待できる擬音は何なのか?

 すがるようにJUピー!を見つめた。

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