第14話:ネタバレのその先は?
「我を捕獲するだと? ガッハッハ。片腹痛いわ!」
レミさんの「捕獲作戦」という言葉を聞いたジュウゾウは豪快に笑った。
肉食動物の咆哮のような笑い声はまるでこちらが草食動物になったような畏怖を感じる。
ただ、今はそれよりも笑いの原因となったレミさんの失態に対する羞恥心が勝っているけど。
「ほら、奴に聞こえちゃってるじゃないですか!」
「手の内を明かしてどうするでござるか、レミ殿!」
俺とミケが同じタイミングでレミさんに食って掛かる。
先ほどまで闘争心をむき出しにしていたミケがツッコミに回るとは予想外だった。
これから俺たちがどんな行動をするのかバラしたら作戦が台無しになる。
レミさんらしい行動だけど、さすがに今回は「らしい」で済まない。
「大丈夫だって。作戦の内容まではわかってないし、わかったところで避けることはできないんだから」
レミさんは俺たちの指摘に全く動じず、ケラケラと笑って反論した。
レミさんは基本的に策士だ。
もしかしたら、この言動にも何か意味があるのかもしれない。現に俺の緊張は解かれ、ミケも冷静さを取り戻している。レミさんはこれを狙っていたのか。
「笑っていられるのも今のうちにだよ!」
ビシッとジュウゾウを指差すレミさん。
まさかの挑発の上乗せ!
「ちょっと! なんとなくレミさんを見直す方向で気持ちを納得させた俺を裏切らないでください!」
「え? なんのこと?」
俺たちの不毛なやり取りに置いてかれたジュウゾウは咳払いをして自分に注目を集める。
コイツはすごく真面目な性格なんだろうな。レミさんのペースに困惑しているようだ。
「ほざくのも大概にしろ。我の動きについて来られるのはそこの小娘だけではないか。しかし、その小娘も我が膂力には到底及ばぬ。そんな挑発で我が動揺するとでも思ったか?」
「動揺なんて狙ってないよ。それじゃあ試させてもらうとしようか」
「好きにするがいい。お手並み拝見だ」
レミさんは不敵な笑みを浮かべて言い返す。
動揺を誘っているつもりは彼女にはないんだろうけど、しっかり相手の冷静さは失わせている。
それが効果的なのかは俺にはよくわからないけど。
「ポチくん、ミケ、やるよ」
先ほどまでとは明らかに違う真剣なトーンでレミさんが号令をする。
俺とミケはレミさんの前に立つ。
左胸辺りに滞空しているJUピー!をチラリと確認した。
特に何も変更をしていないので、開いているページも指定通り。そんなことはわかっているのだが、なんとなく確認せずにはいられない。
心配性だから。
「ミケ?」
「こちらは準備万端でござる!」
俺が肩幅に足を広げて少し腰を落とすの見たジュウゾウは右手で持っていた刀を両手で握り直して構えをとる。
こちらの攻撃を受けとめ、反撃する算段なのだろう。
これは願ってもない展開だ。
もし奴から仕掛けて来てもミケが守ってくれることになっているが、本気の攻撃が来たらミケもヤバい。ここはジュウゾウの気が変わる前に作戦を始めないと。
俺は深く息を吸うと呪文を唱えた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
これまで何度もお世話になっている擬音。
ドラゴンの威圧で相手を萎縮させて動きを止める魔術だ。
前の作戦は「ピタッ」で動きを封じたが、あれはいつ効果が解除されるのかわかりにくい。この擬音は唱え続ける限り効果が続くので、今回の作戦ではこちらに変更したのだ。
擬音の効果が現れた瞬間、ジュウゾウは数メートル後方に飛び退いた。異変を感じだったのだろう。
ただし、その程度離れても擬音による漫画のコマの再現は発動される。
文字通り、無駄な抵抗だ。
「な、なんだ、これは……」
恐怖に顔を歪め、片膝をつくジュウゾウ。
俺から発するプレッシャー、そしてそれに萎縮してしまう自分に混乱しているようだ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
呪文を唱え続ける俺を凝視するジュウゾウ。顔は恐怖に歪んでいるが、ギラリと光る眼には怒りの色が見える。
捕獲を成功させないと絶対に俺が最初に殺される!
失敗しないでくれよ、ミケ……。
「ミケ! 今だよ!」
レミさんが叫ぶ。
ミケはいつの間にか右手に用意していた投網をブンブンと回して勢いをつける。
「ジュウゾウ、覚悟! お縄につくでござる!」
勢いをつけた投網をジュウゾウに向けて投げた。
投網はバッと広がり、奴に向かって飛んでいく。
これで作戦はほぼ成功だ。あとは奴に網がかかったところで魔術を発動させる紐を引くだけだ。
その紐は投げた投網から伸びてミケの手に収まっている。
俺は成功を確信してレミさんの方を振り返った。もちろん、呪文は言い続けている。
レミさんもニヤリとこちらに笑顔で答えた。
「妖術か。小賢しい真似を!」
予想外の声が聞こえた。
慌てて前を向き直すと、ジュウゾウが立ち上がり刀を振り上げている。
どうして動けるんだ?
不安になってJUピー!を見るが魔術は発動中で雑誌は発光している。拡大解釈率も大にしてある。ミケだって試合のときに動けなかったのに……。
俺が混乱しているのを奴は待ってはくれない。
振り下ろした刀の軌道が光って三日月型の斬撃が飛ぶ。
それが投網を斬り裂き、さらにミケの胸に届いた。
次の瞬間。
ミケの胸から血が飛び散り、彼女は後方に飛ばされていく。
「ミケ!」
レミさんはミケを受け止めるが支えきれずに尻もちをついた。
ミケはレミさんに寄りかかったまま微動だにしない。もしかして、死んでしまったのか? 嫌な想像が頭をよぎる。
「な、なんで擬音が効かない?」
俺は衣服が血で染まっていくミケを見下ろしたまま、立ち尽くすことしかできなかった。




