第12話:ウェイ系には馴染みがない
作戦決行日の夜。
俺たちは学園通りと呼ばれる街道にいた。
通り魔の被害は俺たちがミケと出会ってからも続いていて、この都市の行政が夜の店舗営業や出歩きの自粛を推奨している。
そのせいで都市の大部分では夜間営業の店はなくなり、出歩く者のほとんどいなくなった。
ただし、この学園通りを除いて。
この通りでは度胸試しや通り魔の捕獲を試みる無謀な学生が夜な夜な出歩いていて、ジュウゾウの餌食になっているらしい。
ウェイ系の若者ってどの世界にもいるんだな。俺とは学生時代から無縁なタイプだ。
しかもウェイ系の学生は貴族や商家の次男などの子息なので、親の顔色を伺う行政は彼らを補導することができないそうだ。とりあえず忠告だけして、自分たちは最善を尽くしたという既成事実だけを作っているとか。
ジュウゾウの被害者は魔力を奪われるだけで命までは取られないから、こんな緩い対応ですんでいるのだろう。
「これからどうするんですか?」
通りの街路樹にレミさんとミケと一緒に身を隠しながら、俺はレミさんに疑問をぶつけた。
自粛で街灯の消えた暗い通りにいる俺たちが身を隠す必要があるのか疑問ではあるのだが、それはとりあえず口に出さないでおいた。
「ここを歩いている学生を尾行しようと思う」
「なるほど。ジュウゾウをおびき寄せるわけか。さすがレミ殿、策士でござる」
「策士って……。一般人を囮にするってことですか? それって人道的にいかがなものでしょうか」
俺はあからさまに嫌な顔をしてレミさんを見るが、彼女はいつものようにそれを無視して話を続ける。
まぁわかっていたことだけど、一応抗議はしておかないとダメな気がするので、俺はこれからも無駄な努力を続けるだろう。
「無理矢理に囮をさせているわけじゃないし、ジュウゾウが出たら真っ先に避難させるから。調子に乗ってる学生がひとりで歩いているよりは安心安全だよ」
「そういうの詭弁って言うんですよ」
「なら、ポチくんはもっと良い案があるのかい?」
「そう言われると反論できないですけど……」
無策な自分が恨めしい。
ここでスマートに別案が出せて、レミさんを言い負かしてみたい!
ぐっと拳を握り、密かな決意を胸に灯している俺の肩をレミさんが突付いた。
「ほら、ちょうどいいところに学生がやって来たよ」
レミさんの指差す方を見る。
ちょうど俺たちが身を隠しているところの反対側からこちらに向かってひとりの男子学生が歩いて来た。
若い姿になった俺と体格は同じくらい。白いローブを纏い、身長ほどの長い杖を手にしている。
度胸試しではなく、通り魔を捕まえるつもりなのだろう。
学生は俺たちに気づかずにそのまま通りを進んで行った。
俺たちの存在を察知できない時点で、ジュウゾウを捕まえることはあの学生には無理だろうな。
「それじゃあ、彼を尾行して、ジュウゾウを誘き出してもらうとしよう」
学生と10メートルくらいの距離ができたところでレミさんが俺とミケに指示を出した。
「では、拙者は通りの反対側から尾行するでござる!」
ミケは尋常じゃない素早さで瞬時に通りの反対側にある街路樹の影に身を滑り込ませた。
「ちょっと、レミさん、ミケ」
俺の同意とか心の準備とか関係なく、ふたりは学生の尾行を開始する。
ここまでことが進んだら、俺ではもうレミさんは俺止められない。
あぁ、ここにソラちゃんがいてくれたらな……。
俺たちが尾行を始めて1時間は経過しただろうか。
比較的に長い街道を往復して、さらに折り返そうとしている。
その間、学生は俺たちに気づかない。
卒業したら魔術師になるのだろうが、実戦とは無縁の部署で働いた方が良いと思う。それか親の金で十分な護衛を付けるべきだ。
余計なお世話な想像を働かせていると、学生がふと立ち止まった。
一瞬、俺たちに気づいたのかと思ったが、そうではないようだ。
手にしている杖を高く掲げると「出てこい! 通り魔! 俺が捕まえてやる!」と空を仰いで叫び出す。
「すごく陳腐な挑発だね」
俺の横にいるレミさんが小声で俺は話しかけてきた。笑いを堪えできるようで、その声は少し震えている。
「ですね。あれでジュウゾウが出てくると思っているんですかね?」
「イキった若者だからね。陳腐なセリフしか出てこないんじゃない?」
暗い街道で本来は彼女の姿がはっきりとは見えないが、ニヤニヤしているのは簡単に想像できる。
「こんな呼びかけで出てきたら、前の作戦で苦労していた俺たちが馬鹿みたいですよ」
俺がそう言い終えたところで、これまでとは違う方向から声が聞こえてきた。
「お主も我が糧となりに来たか」
学生より先の道に人影が見える。
暗い上にだいぶ離れているので、ミケと同じようなフード付きのマントを身に着けていることくらいしか目視では確認できなかった。
ただしその物言いから、ジュウゾウで確定だろう。
「で、出た!」
学生は驚いて、なんとも情けない声を上げた。
いや、自分で呼んだんだろう……。
「ミケ! あの学生の援護を」
「承知した!」
成り行きを傍観していた俺の横で、レミさんがミケに指示をしながら通りに飛び出した。
ミケの姿はすでに街路樹の影にはない。
ジュウゾウと対面することになるのかと思うと、急に動悸が激しくなった。
前の作戦では知らなかったジュウゾウの人間離れした身体能力に今さら恐怖を自覚する。
だが、ミケが、レミさんが、学生のもとに向かっている。
俺は震えている足を軽く叩いて一歩を踏み出すと、レミさんの後を追った。




