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第11話:正解な作戦名はもう覚えない

 ソラちゃんが作りかけの投網の魔具を見せてくれてから4日後の夜。

 俺とミケはレミさんに呼ばれて彼女とソラちゃんが宿泊している部屋を訪れた。

 レミさんはテーブルの椅子に座り、ソラちゃんはベッドで寝ている。

 ソラちゃんは作戦会議に参加しなくていいのだろうか?

 

「では、ジュウゾウ捕獲の作戦内容を発表するね」

 

 俺が椅子に座るやいなや、レミさんが話を始める。

 いつもながらのマイペース。こっちの心構えなんて気にもしていない。そこに不満を感じなくなった俺はある意味成長しているのだろうか。いや、諦めの境地と言えるかもしれない。

 

「それで、どんな作戦なんですか?」


 俺は隣にミケが着席したのを確認してレミさんに質問する。


「基本的には『ピタっと作戦』と同じだよ。ジュウゾウと遭遇したら、ポチくんが魔術で奴の動きを止める。そこにすかさずミケが投網の魔具を投げて相手を捕縛する。ほら簡単でしょ」

「簡単って、そんなシンプルな内容でいいんですか? もっと綿密な内容を考えた方がいいのでは?」


 前の作戦名が『ピタっと作戦』だったのか、俺はあまり覚えてなかった。正確には違うのかもしれない。レミさんも適当に付けただろうから、彼女も適当に言ってる可能性はある。今の問題はそこではないが。

 

「いいかいポチくん。手順が多くなるほど、複雑になるほど、成功率は下がるものなんだよ。それにたくさん練習しないといけなくるしね。これだけシンプルならそんなに練習も必要ないよ」


 レミさんが諭すように俺の疑問に反論する。

 確かにナーガスとの試合も手数を絞ったおかげで混乱することはなかった。

 でも、今回の相手はナーガス以上の強さだ。本当にそれで良いのだろうか?


「それと、今回の作戦にはソラは同行させないことにしたから」


 ベッドで寝ているソラちゃんを見ながら、レミさんが真面目なトーンで言った。

 いい加減なレミさんだが、妹のことになるといつも真面目になる。


「魔具作りで魔力が減っているんですか?」

「いや、ソラの魔力は規格外だからね。それくらいじゃ半分も消費しないよ。連日の長時間の魔力注入作業で疲れてるんだよ。体力は普通の女子だからね」


 確かに数日前のソラちゃんは身だしなみに気が回らないくらい疲労していた。中学生くらいの子にそこまでの作業をさせてたのか。

 まるでブラック企業勤務みたいだな。


「そんなになるまで長時間の作業じゃなくて、日数を増やせば良かったのでは?」

「私もそう言ったんだけど、『ミケさんのためにも早くジュウゾウを捕まえないと』って言い張るからさ」


 その発言、ソラちゃんなら言いそうだ。

 こちらに背を向けて寝ているソラちゃんを見て、俺は彼女の期待に応えないわけにはいかないと強く思った。

 俺が密かに決意を新たにしていると、隣のミケがすっと手を上げて発言の許可を求める。


「なんだい、ミケ?」 

「ポチ殿の魔術は確かにすごいでござるが、魔術を使う前にジュウゾウが仕掛けてこないとも限らないのでは?」

「そこはミケの出番だよ。ポチくんの魔術がうまくかけられるまで君が護衛するんだ」

「なるほど、主殿を護衛するのは家臣の勤め! 帝より賜ったコレの出番でござるな」

 

 勇ましい口調で答えたミケは、懐から何かを取り出すとテーブルの上に置いた。

 それは大小様々な宝石がびっしりと飾られた鞘が印象的な短刀だった。

 その派手な装飾は、一昔前に流行ったデコったガラケーみたいだと思った。その発想は俺がおっさんだからか……?

 

「なんかすごい装飾だね。宝刀っていうからには聖異物かもしれない。ミケ、これを私のメガネで調べてみてもいいかい?」

「メガネ? 調べる? よくわからぬがレミ殿は信用しているので問題ござらん」

 

 ミケ、レミさんは信用できないんだよ。悪意はないけどやることが適当だから……。

 助言しようかと思ったけど、メガネの聖異物で分析するのは特に害はないので黙っていることにした。

 それに俺もこのデコられた宝刀にどんなスキルがあるのか興味がある。

 

「どれどれ……」

 

  レミさんがくいとメガネを動かして宝刀をメガネ越しに見つめる。

 

「情報がごちゃごちゃしてわかりにくいなぁ。こんなにまとまりのない分析結果は初めてだよ」

「何が見えたんですか?」

「宝石のひとつひとつに魔除けの術が施されてるね。低級の魔物は近づけないだろうけど、ジュウゾウには効果はなさそうかな。刀身はすごく斬れ味は良いみたいだけど、これと言ったスキルはないようだね」

 

 レミさんはメガネをくいと動かして分析を終わらせた。

 レミさんは目をぎゅっと閉じてしかめ面をしている。よほど分析の情報が多かったのだろう。

 

「ミケの身体能力でこの宝刀を使えば、かなりの戦力になるのは間違いないね」

「そうでござるか! スキルや魔除けは拙者にはよくわからぬが、この宝刀でジュウゾウと渡り合えることは理解した」


 ミケが宝刀を強く握り、ニヤリと笑う。その表情は少女の可愛い笑顔というより、戦いを待ち望む者のそれだった。

 ロロリア村での試合でナーガスが見せた笑顔に雰囲気が近い。

 もちろん、ミケの方が何倍も可愛いけれど。


「いいかい、ミケ。君の役目はポチくんの護衛。くれぐれもジュウゾウを自分で倒そうなんて考えないようにね。私たちの目的は捕獲だよ」

「……わかっているでござる」

「ならいいけど。じゃあ、今日は解散。明日は軽く段取りを予習して明後日の夜に作戦を決行しよう!」


 俺とミケはそれぞれ自室に戻った。

 明後日には作戦決行か……。

 急に緊張してきた。

 本当にあんな作戦でジュウゾウが捕まえられるのだろうか?

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