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第10話:寝不足だと塩対応になりがちだよね

「お姉ちゃん……自分だけ朝ご飯食べてズルい!」

 

 俺たちがいるテーブルの横にいつの間にかソラちゃんが立っていた。

 髪はボサボサでシャツのボタンはかけ違えている。いつも身だしなみが完璧な彼女とは思えない姿に俺は内心驚いていた。

 それを口にしたらソラちゃんが傷つくだろうことは、女性との会話経験が少ない俺にでもわかる。ここは黙っているのが正解だ、たぶん。

 

「ごめん、ごめん。起こそうかと思ったんだけど、疲れてるだろうから寝かせてあげようと思って。ソラも朝ご飯食べる?」

「食べる」

 

 まだ少しふて腐れているソラちゃんが俺とレミさんの間の席に座る。

 レミさんは店員を呼ぶと朝食を妹の分の注文をした。メニューはいつもの朝食セット。まあこの店は朝はあまりメニューのレパートリーがないんだけど。


「ソラちゃん。最近、すごく疲れてるみたいだね」


 先に持って来られた果実のジュースを飲んでいるソラちゃんに話しかける。

 ソラちゃんはジュースを半分ほど飲んでから、こちらを向いた、よほど喉が乾いていたのだろう。


「これを作っていたんです」


 そう言って、ソラちゃんがテーブルの上に何かを置いた。

 なんだろう? 細い荒縄が折り畳まれたように見えるけど。


「これはジュウゾウを捕獲するための魔具だよ」


 レミさんが得意気な顔で鼻を鳴らす。

 なんだろう。レミさんが言うと、一気に胡散臭く見えるぞ。


「俺にはただの荒縄にしか見えないんですけど。これをどうやって使うんですか?」

「これは投網になっています」


 ソラちゃんが荒縄をテーブルに広げると、確かに大判の四角い網になっていた。

 でもこんな細い荒縄で、あのジュウゾウを捕縛できるとは到底思えない。

 魔具と言っていたから、何か効果があるのだろう。


「ポチくん。こんな細い荒縄はすぐに千切られるって思ったでしょ?」

「まあ、そうですね。でも、ソラちゃんが魔具と言っていたので何か仕掛けがあるんですよね?」

「よくぞ聞いてくれた! これにはポチくんのジャケットと同類の魔術を施している最中なんだ」

「同類の魔術?」


 俺のジャケットに施されているのは、確か衝撃を和らげる魔術だ。その副作用で重量が少し増すんだっけ。

 レミさんが荒縄を掴むと、荒縄に一本だけ赤い紐が不自然に付いてるのが見えた。


「なんです? この赤い紐は」

「もうポチくんは目ざといなぁ。これがこの投網のポイントだよ」

「この投網に施しているのは、衝撃を完全に無効化する魔術です。その副作用として、ものすごい重量になるんです」


 ソラちゃんがレミさんの言葉を継いで説明してくれた。

 自分が言いたかったらしく、レミさんはかなり不服そうな顔をしている。

 ただ、ここでそれを指摘すると話が脱線しそうなので、俺はあえて触れないでおいた。


「それで、そのポイントって言ってた紐はなんですか?」

「投網を相手に絡めたところで、この紐を引き抜くと魔術が発動するんだよ。ずっと効果が発動していたら、網を握っただけでかなりの重さになるからね」

「なるほど。よく考えられてますね」

「ソラの発案だよ」

「なるほど。そこも納得です」


 ソラちゃんは置かれた朝食を食べ始めていて、レミさんが褒めているのに無反応だった。

 いつものソラちゃんじゃ考えられない。そこまで疲労しているのか。


「それで、この投網は完成したんですか?」

「まだだよ。あと数日は術式と魔力を入れていく必要があるね」

「あと数日ですか……」


 俺は少し落胆した。


「なんだい、ポチくん? がっかりしちゃって。そんなに早くジュウゾウを捕まえたいのかい?」

「いえ。そうじゃなくて。あと数日はミケの朝のジョギングに付き合うことになるのかと思って……」

「いいじゃん。私がさっき言った身体能力を存分に使う感覚を掴めた方が、捕縛の成功率は上がるはずだよ」


 さっき言った精神論かぁ。

 自分が強いというイメージがなかなか湧かない。意識を改革すればいいって言うのは簡単だけど、すぐにできることじゃない。

 とはいえ、捕縛の成功率に関わるなら、最大限の努力はしないといけない。

 待てよ。

 俺の身体能力が必要って、どんな作戦なんだ?


「あの、レミさん?」

「なんだい?」

「ジュウゾウ捕縛の作戦ってどんな感じなんですか?」

「ああ、それはまだ詰めきれてないよ」

「じゃあなんで投網を作ってるんです?」

「それはミケの身体能力を見たからかな。それまではポチくんの魔術で動きを止めたらロープでぐるぐる巻にすればいいと思ってたんだよね。でも、ジュウゾウがミケ以上に強いのなら、そんなロープは簡単に引きちぎられるでしょ」

「確かに」

「だから、引きちぎられないほど頑丈かつ動きを抑制するものが必要だと思ったんだよ」

「俺とミケがジュウゾウを倒すという選択はないんですね」


 別に戦いたいわけではない。むしろその逆だ。

 戦うのは痛いからイヤだ。


「うーん。戦闘は極力避けたいかな。もちろん足止めは必要だけど、全て戦闘で済ませるのはリスクがあるからね」

「リスク?」

「ポチくんは死んでも元の世界に戻るだけだけど、ミケは死んだらそれまでだから」

「……レミさん」

「なんだい?」

「レミさんがそこまでしっかり考えていたことに驚いてます」

「ほほう。言うようになったね、ポチくん」


 レミさんが俺の頭をガシガシと手荒に撫でる。


「痛いですって」

「褒めてあげてるんだから、素直に受け取りなよ」

「お姉ちゃん。食べ終わったから、魔具の調整を始めようよ」


 歳上のふたりがふざけていて、すみません……。

 ソラちゃんは投網を綺麗に畳むと、先に部屋へと戻っていった。

 なんか塩対応な気がするのは気のせいなのか?


「ソラは疲れているから、いつもの余裕がないんだよ」

「そんなに大変なんですか?」

「作業自体は簡単。ただ時間がかかる作業なんだ。だから毎日遅くまで続けてるんだよ」

「それなら、1日の作業を減らせばいいのでは?」

「私もそう言ったんだけど、どうしても早くしたいって聞かなくて」

「なんで?」

「ミケの話を聞いて、彼女のためにも早くジュウゾウを捕まえてあげたいんだって」

「なるほど。ソラちゃんらしいですね」 

「ま、そういうことだから、ポチくんもジョギングと魔術の練習をしていてよ」


 レミさんはそう言うと速足で部屋へと戻っていった。

 俺も作戦決行日まで、できる限りのことをしよう!

 テーブルに両手を着いて立ち上がろうとしたら、まだ脚が疲労でガクガクしていて立ち上がれなかった。

 こんなんで本当に大丈夫なのか、俺は……。 

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