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第7話:胸に一輪の花を

「ポチ君! ミケ! こっち、こっち!」


 レミさんが俺たちを見つけて、大きく手を振っている。


 ミケと夕食を食べた翌日の昼。

 俺とミケはソラちゃんの案内で勝負を行う場所へと向かった。

 ここのところ、ジュウゾウを追って夜中に活動していたので、真昼間でも少し眠い。


 レミさんがいる場所は、この都市にある公園。

 そこにあるテニスのような球技をするコートだった。

 レミさんのいるコートの横にあるコートでは学生らしいカップルが球技を楽しんでいる。

 ここには魔術師の専門学校があるらしいので、学生が多いようだ。

 俺はここに召喚されてからずっと昼夜逆転の生活を送っていたので、こんなに学生が多いとは思わなかった。

 しかも、育ちの良さような若者が多い。

 ソラちゃんの説明によると、貴族や商家の次男や息女が国家魔術師になるためにこの都市の学校に通っているらしい。

 ちなみに家督を継ぐような身分の子どもはもっと名門の学校へ行くそうだ。

 なので、この都市にいる学生はどこかのんびりとしている。


「レミさん。勝負ってこの球技でするんですか?」


 レミさんのもとに着いた俺は最初に沸いた疑問をぶつけた。


「まさか、そんなわけないじゃん。ふたりには模擬戦をしてもらおうと思ってるよ」

「模擬戦?」


 ナーガスのときのような痛い思いをするのは嫌だな……。


「大怪我することはないだろうから安心していいよ」


 俺の嫌そうな表情を見て、レミさんが付け加えた。

 そして、俺とミケに菊のような花を手渡す。


「ふたりとも、これを胸に付けて」


 言われたように俺は胸のポケットに一輪の花をさした。

 ミケの服にはポケットがないので、ソラちゃんがピンで花を固定する。


「ではルールを発表するね! このコート内で相手の花を奪った方の勝ち。勝負は先に2勝した方が勝者だよ。もし、同点になった場合は延長戦。先に花を奪った方が勝ちだからね」


 なるほど。騎馬戦の鉢巻き取りみたいなものか。

 確かにこれだと大怪我するようなことはないだろう。

 ただ、身体能力的に俺の方が圧倒的に不利だけど。


「ちなみに武器や魔術の使用もOK。ただし、相手を大怪我させるような行為は反則で即負けになるから。ここまでで質問は?」

「俺は特にないです」

「問題ないでござる。ただ、拙者は武器は使わない。花を奪うだけなら必要ないでござる」


 よかった!

 ミケに武器を使われたら即死、 いや、殺すのはルール違反だから即敗北だ。


「ポチ君はもちろん魔術書を使うよね?」


 レミさんが「使え!」という意思を込めた視線で俺に語りかけてきたので、俺は無言で首を縦に振った。


「では、ふたりともコートの端にそれぞれ移動して」


 レミさんがコートの両端を指でそれぞれ指さす。

 ミケは一方の端へと進んで行ったので、俺はその反対端へと向かう。

 すると、なぜかレミさんも俺について歩き始めた。


 コートの大きさは、俺の世界にあるテニスコートくらいの広さだ。

 とはいえ、俺は学生時代にテニスをしたのは体育の授業くらいなので、本当に同じくらいのサイズなのかと言われると自信はないが、たぶん同じくらいだろう。


「ねえ! ミケ! 私とソラもポチ君の仲間だから、ポチ君にちょっとだけ助言をしても良いかな?」


 レミさんが離れたミケに呼びかけた。

 ミケは少し思案して、

「別に構わぬ。拙者とポチ殿の勝負なら、それくらいの利点を与えるのが丁度良いでござる」

と答えた。その表情は完全に俺を見下している。

 確かに身体的にはミケに敵わないので反論できない。


 レミさんが「ありがと!」とミケに微笑みかけたと思ったら、ずいっと俺に歩み寄って耳打ちを始めた。


「この勝負。私の見立てだと一回戦はミケが勝つ。ポチ君はそんなことは気にしないで、とにかく魔術を使うことだけを考えるんだ。肝心なのは二回戦だ」

「一回戦は捨てろっていうんですか?」

「捨てるんじゃない。勝てないんだよ。ポチ君の身体能力だとね。この勝負を2本先取にしたのはそのためだよ」


 レミさんが悪そうに口角を上げる。

 レミさんが勝負を提案してルールまで決めているということは、普通に考えてこちらに有利になる形で進めるはずだ。

 ただ、明らかにこちらに有利に見えないように。


「魔術って何を使えばいいんですか?」

「あのナーガスの動きを止めた『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』ってやつだよ」

「『ピタッ』じゃないんですか?」

「あれは使ってみて思ったけど、動きを止めていられる時間が短いし、昨晩みたいに動き回られると動きを止めても距離ができてしまうリスクがあるからね」

「わかりました」

「じゃあ、頑張って!」


 ミレさんはコートのセンターラインにいるソラちゃんのもとへと走っていった。

 俺をそれを見届けながら、腰に吊り下げていたJUピー!を傍らに浮遊させる。


「それじゃあ、ソラが『開始』と合図をスタートだよ!」

「はい」

「わかったでござる」


 ソラちゃんが俺とミケ、それぞれに視線を送くる。

 そして、右手を上げると「開始!」と言いながら手を勢いよく振り下ろした。


「開帳! 120ページ! 拡大解釈率、中!」


 俺はJUピー!に目を向け、できるだけ早口でを魔術の発動準備をした。

 そして、対象のミケに視線を移す。

 だが、ミケが立っていたコートの端にはすでに姿がなかった。


「勝負あったでござる!」


 俺の後方から声が聞こえる。

 振り返ると俺の胸ポケットにあったはずの花を手にしたミケが立っていた。

 しかも、すごいしたり顔。


「しょ、勝負あり! 一回戦はミケの勝ち!」


 困惑しながらソラちゃんが宣言した。


 予想以上の展開に俺は立ち尽くすしかなかった。

 助けを求めるようにレミさんを見る。

 俺の視線に気が付いたレミさんは、ふいっと視線を逸らした。


 ちょっと!

 本当にレミさんの見立て通りに進むんですか、これ!?

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