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第6話:小賢しい提案

「拙者の故郷は帝が治める平和な国でござった。父とジュウゾウは帝を守るケントウ士という軍の長として国の守護を務めていたのでござる」


 少し落ち着きを取り戻したミケは、「失礼した」と椅子を起こしてテーブルに着きなおすとぽつぽつと事情を語り始めた。


「ある夜、ジュウゾウは帝が眠ている城に襲撃をかけたのでござる。急ぎ駆けつけた父は激しい攻防の末にどうにかジュウゾウを撃退した。ジュウゾウは『大いなる力を手に入れ、次こそは帝の座を奪い取る』と宣言してその場から逃げたらしい」

「なんでジュウゾウは謀反を起こしたの?」

「レミ殿の疑問は拙者にも分からぬ。ただ、拙者が生まれる前、国は大いに荒れていたらしい。当時の帝はかなりの暴君でそれを打倒したのが、今の帝の父君、先代の帝であったそうだ」

「ということは、ジュウゾウはその暴君の一派だったということかもしれないね」

「あの、ミケの父親はジュウゾウを返り討ちにしたのに、なんでさっきは殺されたと言ったの?」


 俺はふと疑問に思ったことを口にした。


「確かに父はジュウゾウを打ち負かしたが、父も無傷ではなかったのだ。それから3日後にジュウゾウから受けた傷がもとで亡くなったのだ……」


 ミケは俯いて弱々しく答えた。


「ちょっとポチ君。デリカシーのない質問はやめなよ」

「え、あ、すみません」

「大丈夫でござる。事の顛末を話すには避けては通れることでござるから。父は亡くなる前、拙者に『ジュウゾウの野望を必ずや阻止せよ』と命じたのだ。拙者は帝に父の遺言を伝え、自ら父の仇をとるために国を出た。それがおよそ一年前のこと。そして、ついにジュウゾウが潜伏するこの地にたどり着いたのでござる」


 説明を終えたミケは、ソラちゃんが注文してくれていたホットミルクをひと口飲んで気を落ち着かせた。


「なるほど。事情はわかった。だったら、私たちと手を組まない? 私たちはこの国で無実の人を襲うジュウゾウを捕まえる依頼を受けた魔術師なんだよ。目的が一緒なら共闘した方が成功率も上がると思うんだよね」


 レミさんの提案に、ミケは考え込むように眉間に皺を寄せて黙り込んだ。


「ちょっとレミさん。こんな女の子を巻き込んでいいんですか?」


 俺は小声でレミさんに耳打ちした。


「女の子は私とソラも一緒ですけど。それにミケのあの跳躍力。あれはかなりの身体能力と見たね。身体的に私たちはジュウゾウにはかなり劣っているから、ミケの協力があった方が良いと思うんだよ」

「……本心はそれだけですか?」


 レミさんの本心は言葉にした内容の半分くらいのことが多い。

 それは彼女が隠そうとしていることもあるが、そうではない場合は説明が面倒くさいと思っている節がある。

 なので、俺は食い下がってみた。


「……もしジュウゾウが使っている聖異物がヌール所有の物じゃなかった場合、ノールが賞金や経費を払うのを渋るかもしれないじゃん。ミケに協力しておけば、ミケの国の帝から報酬がもらえるかもしれない。うまくいけば報酬の二重取りだって夢じゃないよ」

「うわぁ。小賢しい……」

「なに言ってるんだい。ミケが食べたステーキの代金を回収するんだよ。共闘しなくてもミケの国に請求してやりたいくらいなんだからね」


 ミケに奢ってやると言ったのはレミさんだと思うんだけど、それを言ってもどうせ彼女には響かないと思ったので、俺は苦笑してこの話題を終わらせた。


「レミ殿、申し出は大変ありがたいが、お断りいたす」


 真っすぐにレミさんを見つめて、ミケが意を決したように強い口調で結論を述べた。

 予想とは違う答えに一瞬呆けたような表情をするレミさん。


「え、なんで? 君にとって悪い話じゃないと思うんだけど!」

「拙者はそうは思わない。先ほど拙者を追っていたレミ殿とソラ殿の走り。あの程度の身体能力ではジュウゾウと戦うことは無理でござる。ポチ殿に至っては、拙者の動きを目で捉えることもできていなかった。拙者が空腹で跳躍に失敗していなければ、捕らえることも難しかったであろう」


 ミケは半眼でじーっと俺を見つめている。

 そこにはちょっと見下しているような色が感じられた。

 レミさんはミケの言葉に「ふ」っと短く息を吐いた。

 俺はミケからレミさんに視線を移す。

 レミさんはほほ笑んでいる。

 俺は知っている。このほほ笑みは何か小賢しいことを考えているときの笑顔だ。

 小賢しいというより、小ズルいと言った方が正しいかもしれない。


「ミケはポチ君を甘く見ているようだね。彼は私やソラよりもすごい魔術師だよ」

「まことか? ありえないでござる」

「だったら、ちょっとポチ君と勝負してみない?」

「勝負とな?」

「そう。もしポチ君が勝ったら、ミケは私たちと共闘すること」

「拙者が勝ったら?」

「そうだね……ミケがこの国に入る間の食費を私たちが払うっていうのはどうだい?」

「ほほう。それはこちらにもいい条件でござるな。わかった。その勝負、乗った」


 レミさんとミケがお互いに不敵な笑みで笑い合っている。

 俺はふと目が合ったソラちゃんに苦笑した。

 ソラちゃんは「ポチさん、頑張って!」と小声で言っている。


 なんとなくレミさんとミケの会話を横で聞いていたけど、ミケと勝負するのはこの俺か。

 俺は横に座るレミさんを非難するように視線を送るが、レミさんはいつものようにあっけらかんとしていた。

 どうしよう。この侍ガールみたいな子と勝負って何をさせられるんだ?

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