第4話:発音するって結構難しいんだね
「目撃者というか被害者の証言ですが……」
ソラちゃんが喉を潤すように紅茶を飲んで話を始めた。
「切り裂き魔はフードの付いた黒いマントで身を隠していて、身体的な特徴はわからないそうです」
「逆に言えば、フード付きの黒いマント姿の人物ってことですね」
「そうですね。あと、特長的なのが身のこなしです。全身が見えるくらい離れていたはずなのに次の瞬間には攻撃を受けたと被害者全員が証言しています」
「つまり、姿を見たら最後。逃げる間もなく切り裂かれてしまうということですね」
「正確には殴打だけどねー」
レミさんが補足を入れてくる。
会話に入れないのが寂しいのだろうか。
「あれ? 切り裂き魔の事件はノールたちがいるサウサスで起こっていたのに、なんでラリアって都市にいるんですか?」
俺は土地勘がないので、ラリアとサウサス、2つの都市がどういう位置関係なのか、それぞれのどんな特徴があるのか、全くもってわかっていない。
「切り裂き魔が移動したんですよ」
「なぜですか?」
「推測ですが、理由は2つです。サウサスの被害者が増えて夜に出歩く人が減ったこと。そして、切り裂き魔がより魔力の多い人を求めていること」
「魔力?」
「はい。サウサスで最後に被害に遭った人の証言なのですが、切り裂き魔に攻撃をされる前に『より魔力の多い人間が住む街はどこか?』と聞かれたそうです。ラリアはサウサスの南東にある都市で、小さいけど魔術師の学校があるんです」
なるほど。
つまり切り裂き魔の犯行理由は人を攻撃することではなく、魔力を集めることなのか。
「ねー。もう事件の情報はそのくらいでいいんじゃない? 要は切り裂き魔を捕まえれば、犯行理由もわかるってことでしょ」
痺れを切らしたレミさんが口をとがらせて不満を漏らした。
「だいたいの状況はわかりました。それでどうやって切り裂き魔を捕まえるんですか?」
怨霊退治のときは召喚されて事前情報がない中で振り回されたから、今回は最低限の情報は知っておきたかった。
状況を知っているかどうかで、心構えも違ってくるというものだ。
「良い作戦があるんだよ! 聞きたい?」
「もったいぶらないで教えてください」
「えー私は話をしちゃダメなんじゃないの?」
結構根に持つタイプだな、レミさんは。
「……はいはい。失礼しました。レミさん、教えてください」
「しょうがないなぁ」
レミさんはそう言うとテーブルにJUピー!を置いた。
「それって俺のJUピー!じゃないですか。元の世界に戻ったときに手元になかったと思ったら、この世界に残ってたんですね」
「聖異物になったからね。契約事項で元の世界には戻らないようにしたんだよ」
「もしかして、聖異物の能力って元の世界でも使えるんですか?」
「そうだよ。そんな物をポチ君の世界に戻したら大変なことになっちゃうでしょ」
確かにJUピー!のバトル漫画の擬音を使えば兵器にもなるからな。
「そんなことより、作戦の説明してもいい?」
「どうそ」
「この擬音を使おうと思うんだ」
レミさんがしおりを挟んだページを開くと、あるコマを指さした。
そのページは『龍巣の掃除番』だった。
俺がナーガスの動きをけん制するときに使った『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』があった作品だ。
レミさんが使いたいと言った擬音が書かれたコマは、『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』の1ページ前。主人公たち掃除番が龍の気配に気づいて、『ピタッ』と動きを止めるシーンだった。
「確かにこのシーンなら、切り裂き魔の動きを止められるかもしれないですね。あれ? レミさん、いつの間に日本語……俺の世界の文字が読めるようになったんですか?」
「文字の解析に時間かけたけど、ほとんどわかってないよ。でも、絵を見たらなんとなく状況はわかるから」
確かに文字が読めなくてもなんとなく内容がわかるのも漫画の良いところだ。
俺もアメコミを読んだことがあるけど、英語はわからなくてもそのコマで何をしているかはなんとなくわかる。
日常系の会話シーンは無理だけど。
「もし私が文字の意味を解読できたとしても、私にはポチ君が使った擬音以外は使えないけどね」
「どういう意味ですか?」
「だって、その文字をどう発音すればいいのかまでは文字の解読だけでは無理だもん」
「確かに。でも、俺がもっと擬音を使っていけば、その文字の発音もわかるようになるのでは?」
そうなったら、俺がいなくてもJUピー!が使えるようになる。
つまり、俺が召喚されることもなくなり、危険な目に遭わなくなるってことだ。
「えーいちいち覚えるのは面倒。ポチ君を召喚した方が早いよ」
「……ですよねー」
そううまくはいかないか。
とにかく切り裂き魔を捕らえる方法が決まり、俺たちは夜のラリアの裏道で切り裂き魔の捜索を始めた。
作戦と言っても、使う擬音を決めただけで闇雲に路地を歩き回るだけだったけれど。




