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第3話:ヌールって誰だっけ?

「とりあえず紅茶を頼んだけど。ポチ君、お腹が空いてるなら何か頼もうか?」

「いえ、今はいいです」


 俺たちは階下にある食堂の隅にあるテーブルに陣取っている。

 20席くらいある、ある程度の広さがる食堂だ。

 この建物は3階建てで、1階は食堂や従業員スペース、倉庫。2、3階は宿泊施設になっているそうだ。

 レミさんの話だと今は昼過ぎらしいので、俺たち以外にはほとんど客がいなかった。


 召喚された場所はロロリア村だと思っていた。

 俺が異世界に来たとき、レミさんたちに意識が向いていたので部屋の内装まで注目していなかった。ソラちゃんに「食堂」と言われて、改めて部屋を見渡したら確かにレミさんたちの部屋ではなかった。

 何が召喚に備えたイメージトレーニングだ。

 全く危機管理というか状況把握ができていなかった。

 達観した心持ちでいた自分が恥ずかしい。


「ポチさん。そろそろ依頼のことをお話してもいいですか?」


 紅茶をひと口飲んでカップをテーブルに置いたソラちゃんがこちらを見ている。


「はい。お願いします」

「今、この都市で起こっているのは『切り裂き魔』と呼ばれる者による無差別傷害事件です。夜になると大通りでも裏路地でも関係なく人が襲われています」

「……物騒な話ですね。あれ? 死傷ではなく傷害なんですか?」

「良いところに気が付いたじゃん! そうなんだよ」

「レミさん。俺はソラちゃんから説明してもらいたいって言いましたよね?」

「むうう」


 レミさんが恨めしそうに俺を睨んでいる。

 でも、ここでレミさんに話の主導権を握らせると、どうせ適当な説明しかしてくれないことは明白だ。

 ここは強気でいかないとダメだ。


「切り裂き魔と呼ばれていますけど、被害者の傷はどれも打撲なんです」とソラちゃんが話を進める。


「打撲?」

「胸やお腹に木刀のようなもので撃たれた痕があって、切り裂かれた痕はありませんでした。それと全員が魔力を吸われて衰弱状態になっていたんです」

「魔力が吸われている……まさか聖異物?」

「国家魔術師協会も凶器は聖異物であると推測しています」


 国家魔術師協会?

 たぶん、ソラちゃんたち国家魔術師が所属している組織のことだろう。


「つまり、その組織からの依頼で犯人と聖異物の確保をすることになったと。それを俺に手伝ってほしいということですね?」

「お手伝いしてほしい内容はその通りですが、依頼主は協会ではないです。死亡者が出ていないので、協会はまだ本腰を入れて事件解決に乗り出していません。現状は大通りの警備強化くらいです」

「じゃあ、誰の依頼なんですか? まさかレミさんが実績を作るために依頼されてもないのに勇んで犯人確保をしようとしているんじゃ……」

「人聞きの悪いことを言うんじゃないよ、ポチ君!」

「すみません。でもレミさんならやりかねないと思って」

「むうう……反論できないけど、今回は違うから」

「ポチさんはヌールさんという男性を覚えていますか?」


 いきなり出てきたヌールという名前。

 俺は前回の召喚で出会った男たちの名前を思い出す。

 ムキムキしたナーガスとムキムキした村長しか思い出せない。

 想像上のナーガスもかなり暑苦しい。

 俺は想像の産物を消すように頭上を手で払った。


「すみません。誰でしたっけ?」

「怨霊の笛にとりつかれていた貿易商のボンボンだよ。収集家で親の金で聖異物をこっそり買ってた小太りくん」


 レミさんは会話に入ってきたが、今回は助け舟だったので注意をするのはやめておこう。


「ああ、思い出しました。もしかして今回の聖異物も彼の所有物だったんですか?」

「そこまではわかっていません。ただ、ポチさんと同じことを考えたのが、ヌールさんのお父さんで貿易商の社長でもあるノールさんです。実は切り裂き魔が最初に現れたのが、ノールさんたちがいる貿易都市サウサスでした」

「なるほど。それは疑っちゃいますよね、息子が持っていた聖異物のせいかもって」

「そこでノールさんは協会に犯人と凶器の確保を依頼したんです。しかも、お姉ちゃんと私を指名して」

「なんでふたりを指名したんですか?」

「子供の恥をあまり広めたくないからじゃない? 依頼の前金に事件に関する口止め料が含まれていたからね。私とソラはすでにあの小太りちゃんのお騒がせ具合は知ってるから」

「そんな依頼をしたら、協会から『なんで貿易商が傷害事件に口出してくるんだ?』って思われないですか?」


 貿易商の社長だと政界にも顔が効きそうだが、傷害事件に口を出すのはあまりに不自然な気がする。


「そこは問題ないよ。彼の言い分は『貿易都市の治安が乱れると商売に悪影響が出る』だったからね。それに協会も民間企業が資金を出してくれて、さらに事件も解決するならそれに越したことはないって考えただろうからね」


 ノールも小ズルいけど、協会も健全じゃないな。


「依頼についてはわかりました。それで犯人ってどんなやつなんですか? 目撃情報とかないんですか?」


 これ以上、依頼の経緯を聞いても俺にはあまり関係ないと思ったので話題を切り替えた。

 どうせ事件を解決しても、その時点で俺は元の世界に戻るだけ。

 特に褒美がもらえるわけじゃない。

 RPGの召喚獣みたいなものだ。

 ゲームで召喚される偉い神様や強い聖獣ってどんな気持ちで戦闘に参加してるんだろうか?

 ちょっと気の毒に思えてきた。

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