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第17話:あいつのことばかり考えてる

 手に取ったJUピー!を開くと急いでページをめくっていく。

 目当ての作品は決まっている。

 青春ラブストーリー『失われた夏の日』だ。


『失われた夏の日』。

 高校生の翔大と、マンションの左隣に住む幼馴染の咲、右隣に越してきた一学年上の美樹との三角関係を描くラブストーリー。

 ちなみに俺は美樹推しだ。


 俺が探しているコマは、天文学部の翔太がマンションの踊り場に望遠鏡を設置して星を見ているところに咲がやって来た場面。

 「私にも見せてよ」という咲に、天文オタクの翔太は解説を始める。夢中になり過ぎた翔太は咲の顔の真横に自分の顔を寄せ、その距離に心を揺さぶられる咲。

 夜空を見上げる翔太の横顔を見つめて胸に秘めた想いに苦しむ咲のコマに、俺が探していた擬音が描かれていた。


「これだ! ページ数は……」


 幸いにもこのページにはきちんとナンバリングがされていた。

 週刊少年漫画雑誌はページの端までコマが描かれていることが多いので、ページ数が毎ページに描かれていることはないので、これは運が良かった。


「ワタさん。準備ができました」

「では、早めに決着を付けてください」


 俺は頷くと魔術の準備に入った。

 血のツタを隔てて、怨レミにギリギリまで近づく。

 ホラーな表情のレミさんに近づくのは怖いけど、ワタさんの結界を信じよう。


「開帳160ページ、拡大解釈、中!」


 いつものようにJUピー!が自動でページをめくってく。

 指定したページに達したようだ。

 俺は怨レミの顔に近づいて、呪文である擬音を唱える。


トゥンク


 怨レミは肩をビクッとさせると、掴んでいた血のツタから手を放した。


「な、なにをしてた?」


 戸惑った表情で俺を見ている。

 どうやら効果はあったようだ。

 でも、まだ足りていない。


トゥンク


 怨レミが胸に手を添えて、一歩さがった。


トゥンク


「男は敵なのに……なんで……」


トゥンク


「ああ、ダメ……」


 悶える怨レミ。

 体はレミさんなので、すごい罪悪感があるな。

 ……でも、ちょっとかわいくも見える。


トゥンク


「ああ、私……あいつのことばかり考えてる……」


 少女漫画のお約束ゼリフが出た!

 これはもうひと押しか?


「あの……ポチさん。今はどういう状況なんですか? 怨霊の魂の色が黒からどんどんピンク色に近づいていってます。その『トゥンク』っていうのが惚れさせる魔術なのでしょうか?」


 ワタさんが驚いた表情で俺に語り掛けてきた。


「惚れさせるというか、恋のときめきみたいなものを自発させるというか」

「すごい魔術ですね! でも、それは人間相手には使わないでくださいね。もし、人に使ったら、末代まで呪う魔術を使いますから~」


 ワタさんはほほ笑んでいるが、彼女を取り巻く負のオーラというか、すご味が怖い。

 怨レミに「トゥンク」が効いた瞬間に邪な考えが浮かんだが、この魔術は人に使用するのはやめておこう。


「もう! 他の女の子と仲良くしないでよ!」


 俺とワタさんが話しているところを見て、怨レミが叫んだ。

 嫉妬しているようだ。

 俺に夢中になっている証拠だな。

 なんかチョロいな。

 では、最後の畳みかけだ!


トゥンク


「ああん!」


トゥンク


「好き!」


トゥンク


「好き、好き」


トゥンク


「好き、好き、大好き!」


トゥンク


「ああ、私が溢れちゃうー」


 怨レミは体を仰け反らせて叫んだ。

 すると、胸の辺りからピンク色の靄のようなものがぶわっと飛び出た。

 怨霊が抜けたレミさんはそのままべたんと地面に倒れる。


「ワタさん、これって?」

「憎悪が消えた怨霊です。負の感情から正の感情に変えてほしかっただけだったのに、まさか憑依を解くところまでできるなんて。ポチさん、お手柄です。さあ、浄化の魔術を!」


 レミさんの上でふよふよと浮いている怨霊。

 いや、今はもう怨霊ではないのか?

 どちらにせよ、浄化をしないといけないのだが。

 でも、この女の子は別に悪くはない。どちらかというと被害者だ。


「何をしてるんですか、ポチさん。早く浄化を」

「でも、もう怨霊じゃないんですよね。なんか可愛そうな気がして」

「霊への最大の温情は浄化です。この世に留めて置くことは基本的には不自然なことなんですよ」

「それはわかってますけど」


 俺が躊躇していると、怨霊が動き始めた。


「ほら、また何か危険なことを始めるかもしれません! ポチさん早く!」

「でも……」

「ちょっと待ってください。怨霊の様子が」


 俺たちの会話にソラちゃんが割って入って来た。

 怨霊は、レミさんが倒れたときに手から離れたリコーダーに近づいていく。

 そして、リコーダーの中へと戻っていった。


「……リコーダーに戻ったみたいですね」

「そのようですね。怨霊の気配も消えました」

「ということは?」

「ええ。聖異物の暴走が止まったようです」

「これで任務完了ってことでしょうか?」

「……そのようです。ぎりぎりでしたけど」

「ぎりぎり?」


 俺が聞き返したところで、血の結界が形を失いドロドロと溶けていった。


「どうやら貧血のようですー」


 ワタさんがダクダクと血が流れている手を俺に見せ、青ざめた笑顔のまま昏倒する。


「わー! ワタさん! ソラちゃん、どうしよう!」

「私では回復できないので、早くお姉ちゃんを起こしましょう!」


 俺とソラちゃんはレミさんのもとへ急いだ。


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