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第12話:空き巣で生計を立てられると言われても

「屋敷と言うにはこじんまりしてますね」

「そうですね。まあ、知能の低い人工怨霊の言うことですから。あの子たちにはこれでも立派なお屋敷に見えたのかもしれないですしー」


 俺たちの前に建つ建物は、質素な木造の2階建て。

 ロロリア村によくある建物となんら変わりもなかった。

 ただ、うっそうとした森の一画を切り開いて、ぽつんと一軒だけあるのは異様といえば異様だ。


「入口はその正面だけみたいだね」


 レミさんが建物の角から姿を現した。

 建物の様子を探るため、ぐるっと外周を確認してきたのだ。


「窓も小さくて、中の様子はわからなかったよ。これは正面突破しかないね」


 俺の横に戻って来たレミさんは、軽く髪を掻きながら面倒くさそうに言った。


「では。いきましょうかー」

「え、何の準備もなく?」

「はい? 浄化はポチさんができてますし、霊絡みの事象なら私が調査します。他に何か必要ですか?」

「そう言われると……」


 俺はまだ心の準備はできていない。

 建物に侵入した途端、怨霊の大群に襲われたり、部屋の探索中に一人ずつ姿を消したり……ホラーな展開になるかもしれないのに。


「とりあえず、ドアに鍵がかかってるか確認してみてよ、ポチ君」

「俺ですか?」

「君以外の誰がいるのさ」

「……わかりました」


 恐る恐る前に進むと、ドアノブに手をのばす。

 びりっと感電したりしないよな。

 人差し指でちょんと触れてみたが、特に何も起こらない。


「ポチ君。そんなことしてたら日が暮れて、怨霊が活発になるよ」


 それはまずい。

 今でさえ、いっぱいいっぱいなのに、元気いっぱいな怨霊と戦うのは避けたい。

 俺は意を決して、ぐっとドアノブを握って回そうと手をひねる。

 予想通り、ドアには鍵がかかっていた。


「やっぱり鍵がかかってますね」

「まあ、そうなるだろうね」

「どうします?」


 俺はドアノブを握ったまま、彼女たちの方を振り返った。


「ポチさん。最初に魔術書の訓練をしたときに使った、ドアをあける魔術を使ってみてはどうですか?」


 ソラちゃんが俺にそう提案した。

 訓練で使った魔法というのは、ドアが開く「ガチャ」という擬音のことだ。

 瓶を倒す魔術の次に試したものだった。


「わかりました。では試してみます」


 俺はJUピー!の用意した。


「開帳、150ページ。拡大解釈率、大」


ガチャ


 俺が呪文を唱えると、鍵が開けられ、ドアノブが勝手に回ってドアが開いた。


「ポチさんの魔術を初めて拝見しました。地味ですが、すごい魔術ですねー」


 ワタさんがほほほと笑っている。

 ちなみに、「ガチャ」は、JUピー!では珍しい青春ラブストーリー『失われた夏の日』のコマに描かれた擬音だ。

 主人公の翔大が自室のドアを開けるという、特に見せ場ではない日常シーンに描かれている。


「地味というか、何でもありだよね。この魔術だけでも空き巣としてもやっていけそうだね!」


 レミさんが親指を立ててウインクしている。

 それ、褒め言葉じゃないから。


「それじゃあ、入ってみようか!」


 レミさんはずかずかとドアのところまで来ると、俺の肩に腕を回した。

 そして、俺を強引に連れ立って、そのまま建物の中に進んでいく。

 ちょっと! まだ心の準備が!

 そういう軽率な行動は死亡フラグだから!


 

 建物の中は、広いワンフロアだった。

 外見は2階建ての普通の建物だったが、2階はなくて天井が異様に高い。


「変わった内部構造ですねー」


 遅れて入って来たワタさんはキョロキョロと辺りを観察している。

 その後ろにはソラちゃんがいて、入り口に俺たちの荷物をまとめて置いていた。

 

「ちょっと暗いね。ソラ、お願い」


 レミさんの言葉に「はーい」と返事をして、ソラちゃんがレミさんのもとへ駆け寄っていく。

 レミさんはソラちゃんの頭に手を乗せると、もう一方の手を掲げた。

 すると、部屋がゆっくりと明るくなっていく。

 電球や松明のように光源があるわけではなく、部屋全体の明度が上がった。


「空間の明るさを上げる魔術だよ。これでよく見えるでしょ?」


 明るくなった部屋を見渡すと、玄関以外の三方の壁にびっしりと棚が並んでいるのがわかった。

 そして、部屋の中央には重厚な机と革張りの椅子がある。

 それ以外の物はない。

 いや、棚には綺麗に陳列された物がある。


「日用品ですかね?」


 俺は誰にともなく、疑問を口にした。

 棚に並んでいるのは、鍋や人形、グラス、ランプなど。

 特に美術品というわけではなさそう。

 言い方は悪いがガラクタのように見える。


「大事そうに並べているところを見ると、これは聖異物でしょうねー」


 ワタさんが興味深そうに棚の品を見ている。


「たぶんそうだろうね。これだけの聖異物を集めるなんて。やっぱりここはテロリストのアジトってことだよ!」


 レミさんが興奮気味に答えた。

 彼女にしてみたら、相手の組織が大きければ大きいほど、出世のチャンスなのだろう。


「誰もいないようだから、もうちょっと奥に入って調べてみよう!」


 レミさんがそう言うと、ワタさんとソラちゃんが玄関から部屋の奥へと進んで行く。

 玄関に一人取り残された俺は、不安になって彼女たちに続いた。

 だって、敵が帰ってきたら、玄関にいる俺が最初に相手をしないといけない。

 情けないけど、それは避けたい。

 

 俺はワタさんの横に立つと、棚をなんとなく調べ始めた。

 ただ、聖異物なんてどう調べたらいいのかわからないので、見ているだけだが。

 聖異物らしい品の中には馴染みのある物がいくつかあった。

 例えば、某有名ブランドのサッカーシューズや、某人気キャラクターのぬいぐるみ、世代遅れの携帯ゲーム機など。

 ただの漫画雑誌のJUピー!でもでたらめな能力を持っているのだから、ここにあるものも見た目からは想像できない能力があるのだろう。

 

「お姉ちゃん! これ!」


 急にソラちゃんが叫んだ。

 驚いて声の方を見ると、ソラちゃんは部屋の中央にある椅子の横に立っている。

 少し離れた場所で棚を見ていたレミさんはソラちゃんのもとへ駆け寄り、ソラちゃんの肩に手を乗せた。


「ワタ! こっち来て」


 椅子と机の間に視線を落としたまま、レミさんがワタさんを呼ぶ。

 ワタさんは、彼女としては速足でふたりのもとへ進んだ。

 レミさんのただならぬ声色が気になり、俺も後を追った。


「あら、まあ」


 レミさんの視線の先にある何かを見たワタさんが驚きの声をあげた。

 少し遅れて俺も視線の先にあるものを見る。


 それはうつ伏せに倒れた男だった。

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