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第10話:のほほんから艶やかに

「場所のほかに、人工怨霊から有益な情報を聞けたのかい?」


 レミさんがワタさんににじり寄る。

 俺がワタさんと話し続けても埒が明かないと判断したのだろうか。

 役不足と思われるのは悲しいが、ワタさんの相手をしてくれるなら、その評価を甘んじて受けよう。


「そうですねー。人のような、道具のような、何かから生まれて。生き物にとりついて人間のオスを攻撃するように命令されたそうです」

「何かって?」

「そこまではちょっとー。あの子たちは幼児くらいの知性しかないようで、難しいことはわからないようでした。一生懸命お話してくれたんですけどねー」


 「もう困ってしまいますー」と笑うワタさんは、ダメな子ほどかわいいと言う愛犬家のようだった。


「あと、人間のオスを攻撃しろっていうのは、どういうことなんでしょうか?」

「……ポチ君、これは壮大な計画の準備なのかもしれないよ」

「ど、どういうことですか?」

「例えば、戦場で敵軍に怨霊を憑依させたとしよう。とりつかれた兵士は味方を攻撃するようになる。ほかにも都市に怨霊をばらまけば男性は殺し合いを始める。つまり、軍事やテロの兵器として人工怨霊を開発している……ということだ」


 レミさんが人差し指を立てて、名推理を語る様に自慢気に語った。

 確かに、そういった使い方をすれば危険だ。

 田舎の村の困り事だったはずなのに、いつの間にか国規模の事件にスケールアップしてないか。

 ビギナー召喚者の俺には荷が重いぞ。


「そこまで大きい事件なら、国の機関に相談した方が……」

「何を言ってるんだポチ君。これはチャンスだよ! 大事件を解決したとなったら、私とソラは確実に国家魔術師になれる。うまくいけば、上級魔術師のライセンスがもらえるかもしれないよ」


 目をキラキラさせるレミさん。

 手柄は俺たちで独占したいというわけですね。


「…俺たちだけで大丈夫ですか?」

「大丈夫! ポチ君には怨霊を浄化する魔術があるから」

「浄化というか昇天ですけどね」

「どっちでもいいよ」


 乗り気になっているレミさんに何を言っても無駄だろう。

 初実戦の火熊との戦いもそうだった。



 俺たちは簡単な食事をして、身支度を整えた。

 ちなみに遺骨の山はそのまま放置。

 本当は器に戻したかったのだが、ワタさんにかけた浮遊落下の反作用で遺骨の重さが増していて、掃除するのは困難だった。

 レミさんは「反作用はあと数時間で消えると思うから、次に納骨に来た人に掃除してもらおう!」とあっけらかんとしていた。

 次に来る人、すみません。


「ワタ。その屋敷はどこにあるんだい?」

「さあ、この近くということと、ここ数か月のうちに建てられたということくらいしかわからないですー」

「ここ数か月か。だから、ロロリア村の地図には載ってなかったんだね」


 ワタさんでも正確な位置はわからないってことは、無作為に探すことになるのか。

 まだ始まってもないのに、一気にやる気が下がってきた。

 思わず、がくりと肩が下がる。


「ご心配なく。私では探せませんが、適任の方がおりますのでー」


 ワタさんはそう言うと、カバンから黒い石を取り出した。

 大きさと形は鶏のタマゴのようだ。

 表面には何かの文字がびっしりと刻まれている。


「なるほど! 霊に協力させるってわけだ」


 レミさんとソラちゃんは納得しているようだが、俺には何が何やらさっぱりだ。

 疑問の意思を込めてレミさんを見る。


「死霊使いは使役する霊を持ち歩いているものなんだよ。その霊を働かせたり、自分に憑依させたりして使うんだ」

「よくご存知で。この霊は他の霊の匂いを嗅ぎ分けることができるんです。では始めますねー」


 ワタさんは手の中にある石に小声で話しかけた。

 その内容はわからなかったが、ワタさんの声に応えるように石から白い靄のようなものが出てくると、ワタさんの中に入っていった。


「何か入っていきましたけど、大丈夫なんですか?」

「心配性だな、ポチ君は。あれは使役した霊を自分に憑依させたんだよ」


 恐山のイタコさんみたいなものか?

 ワタさんを見ると、すぐに異変が起こった。

 ブロンドの髪が下から風を受けたようにぶわっと上になびくと、髪の色がシルバーへと変化していく。


「……ワ、ワタさん?」


 恐る恐る彼女に話しかけてみた。

 ワタさんの閉じていたまぶたが開く。

 瞳の色が深い緑色から明るい紫色へと変わっていた。


「ふう。久しぶりの生身の体はいいわねぇ。ワタはアタシが言いつけたとおり、黒い衣装にしてくれているようね。スタイルの維持もバッチリだわ」


 ワタさん?は、ワンピースの裾を摘まんだり、両手で全身を触ったりしている。

 ひと通り確認が終わったのか、俺たちの存在にたった今気が付いたように目を向ける。


「ワタじゃないわよ。アタシはコト。この娘に協力している先祖の霊ってところかしら」


 口調と声色がワタさんとは全く違う。

 甘ったるいのは変わらないが、大人びているというか艶っぽいというか。


「コトは霊の匂いがわかるって本当なの?」


 全く動じていないレミさんが、コトさんに話しかける。


「……あなたはレミね」

「そうだよ。どうやらワタの記憶は引き継いでいるみたいだね」

「記憶を引き継いでるわけじゃないわ。この体の中にいるワタが教えてくれたの。表に出ているのはアタシだけど、ワタの意識もちゃんと起きているからアタシとは話ができるのよ」

「人工怨霊の出所は探れそう?」

「おやすい御用よ」


 憑依とか、別人格が体にいるとか、現実離れした状況にうまく適応できない俺を取り残して、レミさんは話を進める。

 レミさんらしいといえばレミさんらしいけど、ちょっとは気を使ってほしい。


 コトさんはくいっと顎を上げ、すんすんと鼻を動かして匂いを嗅ぎ始めた。

 俺が何か言おうとすると、コトさんは手を上げて俺に沈黙を促す。

 沈黙の時間がしばらく続いたあと、コトさんがある方向を指さした。


「あっちの方向だね」

「本当に人工怨霊の匂いなの?」

「あら、疑うの?」

「だって、人工怨霊の匂いなんて嗅いだことないじゃん」


 レミさんの指摘に、コトさんはフンと鼻を鳴らした。


「用心深いわね。ワタはさっきまで人工怨霊に纏わりつかれていたでしょ。ワタの体には人工怨霊の残り香がしているのよ。それと同じ匂いを辿ったわけ」

「そんなので分かるんだ」

「信用できないなら、あなたは別行動でもいいけど」

「信用してないわけじゃないよ。他に手立てもないし」


 経験豊富な女上司と空気を読まない新人社員の言い合いのようだ。

 そんな場面に居合わせたことがないので、当人たちの気持ちとは関係なく、俺は早くこの場から逃げたいと思った。

コトは急に思いついて出してみましたがいかがでしたでしょうか?

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